その40 悲しみの覚醒
◇◇◇
(熱い……)
足元からチリチリと燃えていく服。
(ああ、せっかくロイさんが買ってくれたのに)
フィリクスから貰ったドレスや靴とは別に、船に乗るのに楽だろうと買ってくれたセーラー服。短い髪にも良く似合うと褒めてくれた。
(なんだったんだろう、私。何のために、ここまで頑張ってきたんだろう……)
家族だと思っていた人には、あっさりと見捨てられた。知っていたはずだった。ラナードにとって、ミイナのことなど、どうでもいい存在なんだと。それでも、信じてみたかった。
(もう、何も考えたくない……)
そのときちらりとアレンの顔が目に入った。顔色一つ変えずに炎に包まれるミイナを見ている。唇がゆっくりと動く。
───死ね
そして、アレンは面白くて堪らないといった風に唇を歪めた。
その瞬間、ミイナの感情が弾けた。
「うあああああああああ!!!!!」
耳をつんざく叫び。
気の毒な少女の声断末魔に、誰もが目をそらした。
だが、炎は渦となって天に燃え盛る。
「お、おい、おかしくないか?」
「なんだってあんな火柱が……」
「見ろ!竜だっ!炎の中から竜が!」
処刑台をなぎ倒し、深紅の竜が姿を現した。燃え盛る炎の中心で、その存在はあまりにも美しかった。
宝石のように輝く鱗。天を覆うほどに広がる翼。
その一振り一振りが、世界を灼き、壊していく。
竜が一歩踏み出すだけで、地面は赤く溶け、石畳は音もなく崩れ落ちる。
攻撃する意思などない。ただ、そこに在るだけで、すべてが破壊されていく。
「に、逃げろ……!」
悲鳴と怒号が交錯し、人々は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑った。兵士たちは武器を構えることすらできず、立ち尽くす。
その中で、竜はふと動きを止めた。深紅の瞳が、一点を捉える。
人混みの向こう、呆然と立ち尽くす青年――ロイ。
炎が揺らいだ。
竜の喉から漏れ出る咆哮が、わずかに掠れ、弱まる。
――……。
誰にも聞こえない、言葉にならない何かが、確かにそこにあった。竜の巨体が、ほんの一瞬、ためらうように静止する。
だが。
「……化け物め」
背後から、低く吐き捨てるような声がした。その一言が、すべてを断ち切った。
深紅の竜が、ゆっくりと首をもたげる。炎が再び激しく燃え上がり、空気が震えた。
――許さない。
――もう、何もかも。
竜は大きく息を吸い込んだ。
「ミイナ――ッ!」
ロイの叫びと同時に、灼熱のブレスが放たれる。
逃げる間もない。
咆哮とともに解き放たれた炎は、一直線にアレンへと迫った。
その瞬間、ロイは考えるよりも先に駆け出していた。守りたいのは、アレンじゃない。赦す気もない。
それでも――
「ミイナに、人を殺させたくない……!」
次の瞬間、ロイの姿は炎に包まれた。白い閃光と熱風。焼け付く空気の中で、ロイの輪郭が揺らぐ。
深紅の竜が、大きく目を見開いた。咆哮が、悲鳴のように歪む。炎が乱れ、制御を失ったように荒れ狂う。
その炎の奥で、誰にも見えない場所で――
少女の叫びが、確かに重なっていた。
















