その38 裏切り
◇◇◇
群衆の間を駆け抜け、貴賓席の前で衛兵に捕らえられるミイナ。
「貴様!何者だっ!」
「陛下にお目通り願います!お望みのものをお持ちしました!ダイヤの首飾りです!」
ミイナは必死に叫ぶ。
「首飾り……」
無表情だった老王がピクリと手を動かした。
「貴様!下がれ!無礼だぞ!」
地面に転がされ、衛兵に押さえつけられるミイナ。
「お願いします!どうか、どうか!」
「黙れ!!!王の御前で騒ぎ立てるとは、死にたいのか!!!」
ミイナを黙らせるため、衛兵は持っていた槍の柄でミーナを殴りつけた。口の中が切れ、鉄の味が広がる。
「ゴホッ……これ、を、陛下に……お探しの品です……」
必死で胸元から首飾りを取り出すミイナ。
衛兵がさらにミイナを痛めつけようとしたそのとき、老王が立ち上がった。
老王は衛兵に対し、静かに右手を上げる。
「……下がれ。その首飾りを持ってこい」
「はっ!」
衛兵はミイナから首飾りを奪い取ると、近くにいた近衛兵に手渡す。近衛兵は首飾りを一見すると、うやうやしく老王に差し出した。
「おお、これは……」
ぷるぷると震える老王。
「……ああ、間違いない。わしの宝じゃ……」
(良かった……間に合った……)
ほうっと息を吐くミイナ。だが、近衛兵の合図で、次の瞬間再び拘束される。
「なっ!離してください!!!」
老王の近くに控える近衛兵が、ミイナに冷たい視線を向ける。
「貴様、これをどこで手に入れた?これが、どんな品か分かっているのか?」
「……国王陛下が、お探しの品です。見つけ出した者には、望みの物を与えるとっ!」
「ふん。まさかこうも簡単に引っかかるとはな」
近衛兵の言葉にミイナは嫌な予感がして背筋が冷える。
「陛下。あの者がアイリス王女を害した犯人です。ご覧ください。首飾りには引きちぎられた跡も、海に浸かった形跡もありません。おそらく、アイリス王女を害した後、宝石を盗み、海に落ちたと見せかけて手を下したと考えられます。この首飾りが何よりの証拠……」
(謀られたっ!!!)
ミイナは必死で声を上げる。首飾りを持ってきた者に褒美を与えるというのは、犯人を炙り出すための罠に過ぎなかった。けれど、実際ミイナは、その船に乗ってすらいないのだ。
「違います!私はアイリス王女を害してなどおりません!それに、私がアイリス王女を害したと言うのなら、乗船記録があるはずです。当時船に乗っていた者の記録を見れば分かるはずっ!」
「……お前、女か?」
「っ……私の名前はミイナ・ドラード!この国の王女だっ!無礼者!その手を離せ!」
「王女……」「王女だって?」「なんだって王女様が平民の子どものフリなんて……」
ざわざわと騒ぎ出す民衆。
「……あの者は王女なのか?」
「……はっ!ミイナ王女は、陛下の3番目の御息女であらせられます」
「知らんな……」
老王の言葉に目を伏せるミイナ。母はミイナを産んですぐ亡くなったらしい。父王は母の死を嘆き悲しむあまり、生まれた娘を顧みることはなかった。むしろ、母を死に追いやった存在として、憎んでいるのかもしれない。一度も会ったことなど無いのだ。ミイナの髪の色も目の色も知らない。知らなくて当然だろう。
しかし、ミイナが王女の身分を明かしたことで、衛兵たちに戸惑いが生まれた。このまま拘束して良いものか、とんでもない不敬を働いたのではないかと、息を呑む。
「ラナードに聞いてみてはいかがですか?あの者について、何か知っているかもしれませんよ」
そのとき、国王の隣に腰掛けていた第一王子のアレンがにっこりと微笑んだ。しかし、ミイナに向けるその目は冷たく光っている。
母を亡くした幼いミイナから何もかも奪い取って、離宮から追い出した王妃の息子。父王の寵愛を一身に受けていた母を憎み、死してなお、その娘であるミイナを最も憎んでいる人間の1人。
側室の子でありながら、老王に気に入られていたラナードのことも、面白く思っていなかったはず。
アイリス王女を害し、その罪をラナードに着せて、一番得をする人物は……
そこまで思い至って、ミイナは息を呑んだ。
最初から、ラナードを排除するための罠だったんだと。そのために、アイリス王女の命をいとも簡単に犠牲にしようとしたのだと。
(この男が全ての黒幕っ……)
アレンをギリッと睨みつけるミイナ。しかし、アレンは、ミイナを気にすることなく、ラナードに話し掛ける。
「なぁラナード。もしかしてこの女が事件の首謀者じゃないのか?この女の手の者が宝石を奪ってアイリス王女を害し、ひそかにこの女に首飾りを渡した。お前は利用されただけで、何も知らなかった。そうだな?」
「なっ!でたらめを!ラナード兄様!本当の黒幕はこの男です!」
だが、ラナードは暗い目でミイナを見つめると、乾いた唇で呟いた。
「そうだ。その女が全ての黒幕だ。俺は何もしていない。何も知らなかったんだ!処刑するならその女のほうだ!俺は無実だ!!!」
ラナードのその言葉にミイナは凍りつく。
(どうして……)
「ほら、ラナードもこう言ってます。王女とは言え、陛下の大切な方を害したのです。罰を与えなければならないでしょう。……その女を処刑台に運べ!」
「私は無実です!父上!!!」
ミイナは声を張り上げる。しかし、老王の耳には届かない。もう他のことには関心がないとばかりに、首飾りを見つめ、愛おしそうに目を細めている。
ラナードの拘束が解かれ、かわりにミイナが処刑台の上に乗る。
「ラナード兄様……」
ミイナの目から涙が零れる。
「ミイナ!良くやった!ハハッ助かった!いやあ、本当に死ぬかと思ったぞ。お前が間に合ってよかった」
「たす、けて……」
「俺のために死んでくれ」
そのとき、ミイナの心が壊れた。
















