その30 その愛に名前をつけるなら
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一人で考える時間が欲しいというミイナ。ミイナに付き従うようにそばを離れないロイ。二人のためにダイアンは二間続きの部屋を用意した。そこは、生前ミイナの母であるジェニファーと、養い子でありその護衛騎士であったロイが使っていた部屋だ。
ロイは元々はぐれ竜だった。獣人の両親から生まれたのか人族の両親から生まれたのか分からないが、幼いころに森の中で一人さまよっていたところをジェニファーに保護された。それ以来ジェニファーはロイを自分の息子のように可愛がってきたのだ。赤竜であるジェニファーと同じ赤い髪はロイの自慢だった。純血種であるフィリクスやダイアンのように完全竜体になれないまでも、赤竜として体力と腕力に優れた力を発揮したロイはめきめきと力をつけ、王宮の護衛隊長を任されるまでに成長した。
ジェニファーが王位を退き一人で旅に出ると決めたとき、ロイは自分もまた国を出て、最後までジェニファーに付き従うことを望んだ。しかし、ジェニファーはそれを許さなかった。自分亡き後赤竜の長としてフィリクスやダイアンを支えることを望んだのだ。
ロイは一度はジェニファーの言葉を受け入れた。ジェニファーの期待に応えるべく、今まで以上に鍛錬を重ね、王宮や一族での地位を確かなものにしていくことに専念していた。そんなロイを、フィリクスとダイアンも兄のように見守っていた。自らの地位を築き落ち着きを取り戻したかのように思われたロイ。しかし、ある日忽然と王宮から姿を消してしまった。おそらく、ジェニファーの身に何かあったことを察したのだろう。同じ赤竜の血がそうさせるのか、ロイとジェニファーの間には目に見えない絆が確かに存在した。
フィリクスとダイアンにとってもジェニファーは師であり母のような存在だったが、ロイにとっては、それ以上になくてはならない存在であった。彼にとってジェニファーは唯一無二の王であり、母であり、その想いは崇拝に近いものがあったのかもしれない。そうしたロイの想いを誰よりも知っていたフェリクスとダイアンは、ロイが自らアルファンド王国に戻ってくるまで待つことにしたのだ。
ミイナに対するロイの態度を見たとき、ダイアンはミイナがロイの番であると確信した。竜はただ一人の番を決して離さない。若くして番を見つけることができたロイを心から祝福しようと思った。しかし、ミイナがジェニファーの娘と知ってからは、ロイのミイナに対する想いが本当に番に対する気持ちなのかを決めかねていた。ロイにとって最愛の人が生んだ娘。その感情は、果たして恋なのか親愛なのか。
ジェニファーに対する想いが深ければ深いほど、ミイナに対する執着も深くなる。ジェニファーの忘れ形見として守りたいのか、妹のように思っているのか、ただ一人の番として愛したいのか。
「ま、こればっかりはロイの本能が告げるまで分からないか。もしくは、ミイナの本能だな」
竜人族同士なら、ミイナが成竜となったそのときにはっきり答えが出るだろう。だが万が一ミイナの相手がロイじゃなかった場合、すでにミイナにあれほど執着しているロイを引き離すのは厄介だなと思うダイアンだった。
















