その22 特別になれない
◇◇◇
ミイナが震えながら公開羞恥プレイに耐え、ようやく辿り着いた先はダイアンの執務室だった。
「客をもてなすにはいささか地味な場所ではあるが、ここなら余計な邪魔は入らないからな」
ニヤリと笑ったダイアンの悪そうな顔に思わずゴクリと唾を飲むミイナ。いまさらだが、招待されたとはいえ他国の王宮になんの準備もなくついてくるのは無謀だっただろうか。ここからの対応は慎重にしなければいけない。緊張するミイナをよそに、ダイアンはそれぞれに椅子を勧めるとさっさと本題に入った。
「さてお嬢さん。まずは招待に応じてくれて感謝する。何も取って食おうって訳じゃないから気楽にしてくれ。ちょっと確認したいことがあるだけだ。ロイ、お前もな」
ミイナは当たり前のように隣に座ったロイをちらりと見た後、思い切って自分から切り出すことにした。
「私が竜人族である、というお話ですね」
希少種として保護すべき竜人族。いきなり王宮にまで連れてこられたのは、それ以外考えられない。ロイにそのことが伝わっているか、この件にどのくらい関わっているかは分からないが、ロイもこの国の中枢に関わっていることは間違いないだろう。そう思った通り、ロイはミイナの言葉に驚いた様子もなかった。
「話が早くて助かる。さて、君は紛れもなく竜人の血を引いているようだが、何か心当たりはあるか?」
今はダイアンの後に控えている二人にも聞かれたが、ミイナには心当たりなど何もない。
「何も。私の両親は人族として生きていましたし、私自身も人族だと思って今まで生きてきました」
一国の王女として生まれながら、無力で無価値な人間として生きてきた。いきなりお前は希少な竜人族だと言われても、首をひねるばかりだ。
「なるほど。両親から特に竜人族について聞いたことはないということだな?」
「ありません」
「そうか。となると、そうとう古い竜の血筋かもしれないな」
ふむっと頷くダイアン。竜の因子が遺伝子に受け継がれていても、眠ったまま一生を終えるものも少なくない。けれども、ある日突然竜人として能力が覚醒することもある。
竜人族か人族かを見分ける方法は、そのあふれ出る生命力でわかる。他者を凌駕する最強種としての圧倒的な生命力。畏怖さえ感じるほどに。その種としての強さを獣人や竜人は本能的に見分けることができるが、人族には難しいようだ。
ミイナにも人族ではありえない生命力の強さを感じる。けれども、純粋な竜人族であるダイアンと比べると確かに弱い。竜としての能力が低いと言うよりは、本格的に本能が覚醒する前の幼体、といった感じか。ダイアンは素早く判断を下す。
「君はこれから竜人としての本能に目覚めると思う。まるで人の皮を脱ぎ捨てるように。その際、必ず私たちのサポートが必要になってくるだろう。同胞を守るのは年長者の務めだ。そこで君をこの国で保護したいと思っている。どうかな?」
「保護……ですか」
後ろで控えている二人も、竜人族は見つけ次第手厚く保護をすると言っていたが、ミイナはその言葉の意味を図りかねていた。
(手厚く保護、というと聞こえはいいけど、逃がさないために監禁されたり拘束されたりするんじゃないのかしら)
「具体的にはこの国の永住権と特権を得ることができる。まぁ、他国で言う貴族みたいなものだな。竜の血を引く一族の中でも、竜人として生まれてくるものは少ない。君は私が知る限り最も若い竜人だ。ミイナ、私達は君を歓迎するよ。私達は家族みたいなものだと思ってくれて構わない。ちなみに二番目に若いのがそこにいるロイだな」
ダイアンの言葉に思わず目を見張るミイナ。
「そうか、私が竜人だと分かったから、親切にしてくれたんですね。なんだ、そうだったんだ……」
危うく勘違いするところだった。この人にとって、特別な存在かもしれないなんて。馬鹿だ。優しくされるとすぐに心を許してしまうのは、少しでも愛されたいと願う浅ましさのせい。誰からも愛されなかったから。
ちくりと感じる胸の痛みに、ミイナはギュッと胸を押さえた。
















