その20 帰ってきた男
◇◇◇
「ここがアルファンド王国!すごい、なんて大きな港……」
大小様々な商船が立ち並ぶ港では、至る所で市が立ち、売り子たちの活気ある声が響き渡る。特徴的な耳やしっぽのある獣人に、耳の長いエルフ。小さくとも屈強な体躯のドワーフたち。本でしか見たことのないような、様々な種族の人々が行き交う。
ドラード国も海洋王国の覇者と呼ばれているが、こうして大陸の覇者たるアルファンド王国を前にすると、しょせんちっぽけな島国に過ぎないのだと思い知る。
ソワソワと落ち着かない様子のミイナの後ろで、見かねたロイが声を掛けた。
「ミロ、ぼうっと突っ立てると迷子になるぞ。行きたいところがあるなら後で一緒に行ってやるからあまり動くなよ」
「あ、はい。船長、ありがとうございます。ちょっと港の様子を見てきますね」
(どうしよう。どこから探そう。まずは誰かに竜について聞かないと……竜というとやっぱり竜人族と関係があるのかしら。でも、竜人族なんてそう簡単に出会えるわけ無いし……)
話を聞いてくれそうな相手を探してうろうろしていると、不意に後ろから声が掛かった。
「やあお嬢さん、また会いましたね」
「ひっ!」
振り返るとリュカとキールがにこにこしながら立っていた。それだけでなく、さらにもう一人、銀髪に金の目を持つ怜悧な美貌の男が一緒だ。
(アスタリアで会った怪しい男たち!こんな所で会うなんて。もしかして、後をつけられてた?どうしよう。思い切り走れば船まで逃げられる?それとも、今ここで大声を出して誰かに助けを呼ぶ?)
逃げ道を探して、ジリジリと後ろに下がるミイナ。その様子を注意深く観察していた銀髪の男が声を上げた。
「なるほど……確かに竜人族で間違いないようだな」
男はまじまじとミイナを見ると、にこっと微笑み、すっと手を伸ばす。
「俺の名はダイアン。竜人族だ。銀竜の一族の長で、この国の宰相を務めている。君の名を聞いても?」
(竜人?この人が?)
竜人というからには、どこかに竜の特徴があるのでは?肌が鱗で覆われているとか、お尻から蜥蜴みたいなしっぽが生えているとか。けれど、目の前の男は驚くほど美しいことを除けば、人族とまるで変わらない見た目をしている。
(怪しい。この男たち、田舎娘を騙して売り払う奴隷商人かもしれない)
全く警戒を解こうとしないミイナを前にして、ダイアンは眉根を寄せた。
「おい、物凄く警戒されてるようだが、お前らこの子に何かしたのか?」
「やだなぁ。俺たちが何かするわけないじゃん」
「そうそう。竜の逆鱗に触れるのはごめんです。まだ命は惜しいですからね。ほら、もう来た」
ダイアンはリュカの指差す先に視線を向けると、くすりと微笑んだ。二人の目線の先に、ミイナに向かって一直線に走ってくる男の姿を捉えたからだ。
「取り敢えずここじゃなんだから、落ち着ける場所で話をしないか?そこの迷子と一緒にな」
「迷子?」
怪訝な顔で振り向こうとしたところ、いきなり後ろから腰をグイッと引き寄せられる。
「わっ、とっ、船長?」
「コイツに何の用だ?」
三人を怖い顔で睨みつけるロイ。
「落ち着け。何もしないから。それよりも、久し振りに会ったっていうのに挨拶もなしか?ずいぶん薄情だな、ロイ」
「お前……ダイアンか。なんでこんなとこに……」
「俺達を無視するなんて酷いなぁ、隊長!」
「お久しぶりですロイ隊長。お元気そうで安心しました」
「お前たちは、リュカにキールか?デカくなったな……」
ロイはびっくりしたように二人を見つめると、懐かしさに目を細めた。
「あの、この人たち、船長の知り合いですか?」
「……まぁな」
ミイナをチラリと見たあと、観念したようにため息をつくロイ。
「急に消えて悪かった。久し振りだな」
















