表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/33

その13 怪しい二人組

 ◇◇◇


「ここがアスタリアの王都……」


 アスタリアは小さな国とは聞いていたが、ドラードに比べると想像以上に小さい国だった。街道沿いに石造りの小さな家が並び、道には白い石畳が敷き詰められている。店の前には見慣れない甘い芳香を放つフルーツが並び、鮮やかな布を身に纏った女たちが行き交う異国情緒溢れる街。けれども、どこか活気がなく、道行く人の表情も暗い。


 どこかで話を聞きたいと思ったが、その悩みはすぐに解決した。立ち寄った宿屋や定食屋、そこかしこで、王女の話題が囁かれているからだ。


「ねえ聞いた?アイリス王女様のこと。海に身を投げたって」


「シッ!滅多なこと言うんじゃないよ!事故だよ事故!」


「いずれにしてもドラード国からの支援はどうなるんだ」


「まさか戦争なんてことになるんじゃ……」


 しかも、街のあちこちでドラード国の兵士達が我が物顔で闊歩しているありさまだ。


(しまった。もうお父様の手の者がこんなに……)


 ミイナは焦った。いち早く動いたつもりだったが、ドラード国の誇る早船には及ばなかったらしい。けれども、王都の至る所に貼られたアイリス王女の消息を尋ねる絵姿を見る限り、まだ何の手掛かりもつかめていないようだった。


(焦っちゃダメ。確かな情報を掴まなきゃ)


 ミイナは小さな宿屋に宿を取ると、すぐさま漂着物や目撃者のいそうな海岸沿いや、猟師小屋などを重点的に調べることにした。


 けれども、アイリス王女の行方は依然としてつかめなかった。王女がこの国に戻ってきた形跡はどこにも見当たらない。


(ここまできて無駄足だったなんて。できれば王城に行って情報を集めたいけど、どうやって忍び込もう……)


「ん~?ミロじゃねえか。もう姉さんには会えたのか?なんでこんなところに一人でいるんだ?」


 定食屋で遅い食事を取っていると、港で別れた船員たちに出くわした。


(まずい……)


「ね、姉さんちは赤ん坊が生まれたばかりで、余分な部屋もないから別に宿をとってるんだ。何日も世話になると肩身が狭いからさ」


「お前はガキのくせに姉ちゃんにも気を遣うんだなあ。それなら俺たちと一緒に船に戻るか?宿代もかからないぞ。王城に荷物を届けたら俺たちの仕事もひと段落だからな。あとは王都で売れそうなものを見繕ってからドラードに戻る予定だ」


「いいの?じゃあ、王城に荷物を運ぶの、俺も手伝うよ」


「おうそりゃ助かるな。じゃあ、宿屋を引き払ったら船に来いよ」


「分かった!」


(助かったわ。まさか王城に荷物を運ぶ予定があったなんて。最初からあの人たちと別れない方が良かったかも)


 ミイナはいそいそと宿に戻ると、荷物をまとめた。といってもわずかな着替えと金銭だけで、大した荷物ではない。


 しかし、宿を出たところで、うっかりドラード国の兵士たちとぶつかってしまった。


「あ、申し訳ありません!」


 とっさに被ったマントで顔を隠し、逃げようとするミイナ。王女として顔を知られていないとはいえ、ミイナの赤髪は変に目立ってしまう。


「おいおい、人にぶつかったら目を見て謝罪するのが礼儀だろう?これだから田舎者はいやなんだ」


 小走りで兵士たちの間をすり抜けようとしたところ、一人の兵士に腕を掴まれてしまった。


「ご、ごめんなさい。急いでるので」


(どうしよう。真珠やお金を渡して見逃してもらう?でももうあまり余裕もないし……)


「いいからほら。顔見せろ。ん~?お前、女みたいな顔してるな……なかなか可愛いじゃないか。ほら。こっちこいよ。可愛がってやるから」


 酔っているのか、乱暴に腕を引っ張られる。


「お前はほんっとガキが好きだな」


「うるせえよ」


 下卑た声に青くなるミイナ。少年の恰好をしていればこうしたトラブルに巻き込まれることはないと思っていたのに。


「や、やめて!離してください!」


 力いっぱい振り払ったところで、兵士の顔色が変わった。


「おいおい、俺たちに逆らう気か?生意気な……」


(怖いっ……)


 ミイナが思わず目を瞑ると、上から低い声が響いた。


「やれやれ。どこにでも屑はいるんだな」


「全くですね」


「うっ、貴様、離せ!」


 恐る恐る目を開けると、マントを目深に被った二人組が、兵士の腕を掴んでいた。


「子どもを虐めるなんて最低だな。まったくこれだから人族は」


「キール、言葉を慎みなさい。あなたの人族嫌いは知っていますが、人族がすべてクズというわけではありませんよ」


「わあ~ってるよ。ほら、離してやるよっ」


「うわあ!」


 キールと呼ばれた男が手を軽く振り払うと、兵士はそのまま壁に打ち付けられる。


「くっ!俺たちを誰だと思っている!ドラード国の兵士だぞ!貴様ら、ドラード国を敵に回したいのか!」


「ドラード?ああ。最近でかくなった国だよな。なんでもくそじじいが強引な手段で女を集めて侍らしてるとか。ハーレムを作るのが本能の獅子獣人かなんかなのか?それとも雄の魅力もない癖に、人族が獣人の真似事でもしようってのか。それにしても国王が屑だと兵士も屑になるのか。納得したぜ」


「キール。口が悪いですよ。まあ、屑だと言うのは否定しませんが」


「貴様ら。いい加減にしろよ……痛い目にあいたいのか」


 二人の言葉にますます憤る兵士たち。


「ふ~ん面白い。お前らごとき雑魚が束になって掛かってきても、この俺様の相手が務まるとは思えないが」


 キースの目がギラリと金色に光る。


「ひっ……こいつ、今、目が、光ったぞ……ま、魔物!?」


「くくく、魔物かどうか、試してみるか?」


「に、逃げろ!」


「ま、待ってくれ!」


 慌てて逃げ出していく兵士たち。


「ふん。口ほどにもねえな」


「ここで問題を起こしてどうするんですか。全くあなたって人は」


「そう言いつつリュカだって止めなかっただろ?」


「まあ、退屈していましたからね」


「いい性格してるぜ」


 けらけらと笑う二人にあっけにとられるミイナ。怪しい二人だが、助けてもらったことに変わりはない。慌てて礼を言う。


「あ、あの、危ないところをありがとうございました!」


「ああ、お嬢さん。女の子が夜に出歩くと危ないぜ?」


 キースの言葉にハッと身を固くするミイナ。


「ほら、お嬢さんがびっくりしてるじゃないですか。せっかく可愛らしい少年の変装をしてるのに」


「え?そうなのか?女だってバレバレだぜ?」


「~~~~~~~~!?」


「ああ、大丈夫。私たちはちょっと特別なので。騙されてくれる人もいますよ。多分」


「特別……?」


 首を傾げるミイナに二人はマントを取って見せる。


「ああ、これは失礼。私は狐獣人のリュカ。こっちは狼獣人のキール。私たちは獣人の中でも人一倍鼻が利くもので」


 ぴょこんと頭の上に飛び出すふさふさの耳に目を奪われる。


「初めまして。竜のお嬢さん」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋する辺境伯シリーズ
落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~
俺の婚約者が可愛くない
話題の新作
亡くなった夫の不義の子だと言われた子どもを引き取ったら亡くなった婚約者の子どもでした~この子は私が育てます。私は貴方を愛してるわ~
悪役令嬢リリスの華麗な転身~婚約破棄ですね。わたくしは別に構いませんけど、王になるのはわたくしです~
無実の罪で投獄され殺された公爵令嬢は私です。今から復讐するから覚悟してくださいね。
しましまにゃんこさん累計ポイントランキング
総合評価:29,248 pt
ジャンル:異世界 〔恋愛〕
短編(全1話) 9,089文字
あらすじ等
わがまま姫と評判の公爵令嬢が選んだ結婚相手は貧乏伯爵家の三男坊!? 激高する王子に突きつけた婚約破棄の真相とはっ!? 婚約破棄からはじまる正統派ラブストーリー! 作品はすべて、カクヨム、アルファポリス、エブリスタ、ノベルアップ+さんでも掲載中、または掲載予定です。
キーワード: 身分差 ヒストリカル ラブコメ 貴族 騎士 わがまま令嬢 溺愛 ハッピーエンド 婚約破棄 ざまあ キルタイム異世界大賞 貴族学園 アイリスIF3大賞
投稿日:2021年4月12日
最終更新日:2021年4月12日
総合評価:26,324 pt
ジャンル:異世界 〔恋愛〕
短編(全1話) 1,683文字
あらすじ等
冤罪で王子から婚約破棄され、屈強な男でも三日と持たないと言われるほど過酷な炭鉱送りになった悪役令嬢のリリアナ。 ───三ヶ月後、彼女は最愛の父に近況を書いた手紙をしたためる。その驚きの中身とは? チートな爆炎魔法を使える悪役令嬢が、過酷な環境もなんのその、ちゃっかり幸せを掴むお話です。手紙形式になっています。 シリーズ化しました! 「リリアナちゃんとゆかいな仲間たち」 作品はすべて、カクヨム、アルファポリス、エブリスタ、ノベルアップ+さんでも掲載中、または掲載予定です。
キーワード: 異類婚姻譚 身分差 ヒストリカル 悪役令嬢 日常 ラブコメ 女主人公 溺愛 獣人 ハッピーエンド 婚約破棄 追放 ほのぼの キルタイム異世界大賞 リリアナちゃん アイリスIF3大賞
投稿日:2022年5月2日
最終更新日:2022年5月2日
総合評価:14,060 pt
ジャンル:異世界 〔恋愛〕
短編(全1話) 2,631文字
あらすじ等
貴族学園の入学を祝うパーティーの席で、いきなり婚約者である第三王子に突き付けられた婚約破棄! 「お前のような野暮ったい女と結婚するくらいなら、生涯独身のほうがまだマシだっ!」 「承知しましたわ。今日からは、自由の身です!」 学園生活が始まる前に婚約破棄されちゃった公爵令嬢が、したたかにミラクルチェンジしてハートをズッキュンするお話です。 作品はすべて、カクヨム、アルファポリス、エブリスタ、ノベルアップ+さんでも掲載中、または掲載予定です。
キーワード: ヒストリカル スクールラブ ラブコメ 婚約破棄 地味令嬢 華麗に変身 美少女 ほのぼの ハッピーエンド 学園 ギャップ萌え 女主人公 ネトコン11感想 異世界恋愛 【短編】
投稿日:2022年4月4日
最終更新日:2022年4月4日
総合評価:13,832 pt
ジャンル:異世界 〔恋愛〕
短編(全1話) 4,632文字
あらすじ等
ダイナー公爵令嬢シルフィーは、聖女ユリアナを殺そうとしたという無実の罪を着せられ、投獄の上一族そろって処刑されてしまう。死の間際、シルフィーは自分と家族を殺した者たちに復讐を誓い、もし生まれ変われるなら、復讐を果たす力が欲しいと神に願う。 だがシルフィーは、虐げられる薄汚い孤児として転生していた。前世の記憶を取り戻し、力のない現状を嘆くシルフィー。しかし、そのとき彼女の胸に、聖女の紋章が浮かび上がる。 「ふふ、あはははははは!」 力を得た彼女の復讐が、今ここに幕を開けるのだった。 作品はすべて、カクヨム、アルファポリス、エブリスタ、ノベルアップ+さんでも掲載中、または掲載予定です。 ...
キーワード: 身分差 悲恋 ヒストリカル 悪役令嬢 ネトコン11感想 冤罪/処刑 聖女/復讐 婚約破棄 ざまぁ ハッピーエンド
投稿日:2023年7月22日
最終更新日:2023年7月22日
総合評価:13,712 pt
ジャンル:異世界 〔恋愛〕
完結済(全8話) 10,193文字
あらすじ等
賑やかなパーティー会場から離れ、一人バルコニーに佇むエリーゼ。 公爵令嬢である彼女は、今日も浮気な婚約者に悩まされていた。 エリーゼに見せつけるように、他の令嬢と戯れるアルバート。 本来勝気なエリーゼは、自分よりも身分の低い婚約者に対して黙っているようなタイプではなかった。しかし、エリーゼは不実な態度を取り続ける婚約者に対して強気な態度をとれないでいた。 なぜなら、うっかり聞いてしまった友人たちとの本音トークに、自分自身の足りなさを知ってしまったから。 胸元にそっと手を置き嘆くエリーゼ。 「いいわね、見せつけるものがある人は……」 女の価値は胸の大きさにあると豪語する婚約者の言葉に、すっか...
キーワード: 貴族令嬢 婚約破棄 浮気 コンプレックス 溺愛 ざまぁ ハッピーエンド イケメン王子 女主人公 真実の愛 ネトコン11感想 貴族学園
投稿日:2022年10月20日
最終更新日:2022年10月20日
おすすめの新作
無実の罪で投獄され殺された公爵令嬢は私です。今から復讐するから覚悟してくださいね。
公爵閣下!私の愛人になって下さい!〜没落令嬢の期間限定恋人契約〜
公爵閣下の溺愛花嫁~好色な王の側室になりたくないので国で一番強い公爵閣下に求婚したら、秒で溺愛生活がスタートしました~
王太子殿下に優しくしてたら公爵令嬢と婚約破棄をすると言い出したのでちょっと待ってほしい
初夜に「別にあなたに愛されたいなんて思っていない」と告げたところ、夫が豹変して怖い
裏切られ捨てられた竜騎士は天使な美少女に恋をする〜ねぇ、これって運命の恋だと思わない?〜
意地悪な大聖女の姉と美しいだけで役立たずの妹~本物の聖女は隣国で王太子殿下に溺愛されているというのは内緒~
ヘッダ
新着順① 総合評価②順 エッセイ③ 詩④ 異世界⑤ 貴族学園⑥ リリアナちゃん⑦ つよつよ短編⑧
フッダ


ヘッダ
わがまま

わがままはお好き?
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ