その11 ミイナの決意
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「そんな、絶対ここに流れ着いていると思ったのに……」
ミイナはアスタリアとドラード国の間にある無人島の海岸で、一人途方に暮れていた。誰からも顧みられない王女であるミイナは、海に潜るのが得意だった。幼いころから馬鹿にされ、嫌がらせを受け、ろくな食事を与えられていなかったため、海に出て魚や貝、海藻を獲って飢えを凌いできたのだ。
今まで培ってきた技術でラナード兄様の役に立つことができる!そう思い、勇んでやってきたと言うのに、肝心の王女の遺体は影も形もない。ただ、アイリス王女が乗っていたと思われる小舟の残骸は流れ着いているのだ。潮の流れからいって、この海岸に流れ着くのは間違いなかった。
「でも、船があるということは、王女が船から投げ出されていたとしても、ここに打ち上げられているはず……もしかして、王女は生きているの。だとしたら一体どこに」
アイリス王女が生きている可能性を感じ、ぎゅっとこぶしを握り締めるミイナ。死んでいるのなら話は早かった。遺体とともにダイヤの首飾りを王に差し出せば済むことだ。だが、もし生きているなら……。あの狂った王はなんとしてでもアイリス王女を見つけ出し、取り戻そうとするだろう。もし王女が誰かの手引きによって逃げ出していたとすれば、きっと、無事では済まない。万が一アスタリアがアイリス王女をかくまっているのだとしたら、戦争が起こるかもしれない。
自分のこれからの行動が、アイリス王女の命とアスタリアの存亡にかかわるとしたら……。
ミイナは天を見上げる。アイリス王女はどのような人だろうか。世に二つとないダイヤを贈られ、贅を尽くしたドレスを身に纏い、海に消えた異国の女。ミイナと同い年の、美しい王女。一目見て、王の心を虜にしたという。醜さゆえに誰からも愛されなかった自分とアイリス王女とのなんという違いか。
ミイナには分かっていた。ラナードにとってミイナなど取るに足らない存在であることを。気まぐれに情けをかけるのは、野良猫に餌をやるようなもの。惨めなミイナを見ることで、恵まれた我が身の幸せをより噛み締めることができるのだ。
それでも。あの冷たい王宮で、ただひとり、ミイナに声をかけてくれたのだ。気まぐれでも嬉しかった。役に立ちたいと思った。愛されていなくても構わない。ラナードの命を、救いたい。
ミイナは決心した。
アイリス王女を探そう。ミイナがこのまま国を出ても誰も気にも留めないだろう。アイリス王女に逢ったら、事情を話して首飾りだけ貰ってくればいい。遺体は損傷が激しく、とても持ち帰ることがことができなかったと言えばいい。そうだ、髪をひと房もらえば証拠となるだろう。アイリス王女もそのぐらいなら、聞き入れてくれるはずだ。
「ラナード兄様、必ず帰ります……」
日が落ちてすっかり暗くなった海岸に、ミイナの決意に満ちた声が静かに響いた。
















