その10 竜王さまの愛の巣
◇◇◇
「竜王さま。番様のお支度が整いました」
愛する番の身支度が整うのを執務室でそわそわしながら待っていたフィリクスは、マリーから準備が終わったことを告げられるといそいそと自室に向かった。そう、ランチを一緒にとるために。
部屋に入り、ベッドに近寄ると、美しく身支度を整えられたアイリスがベッドに横たわっていた。自分のベッドに番が寝ている。その事実に胸がジーンと熱くなる。ちなみに竜人族の男に夫婦別室などという概念は微塵もない。番ができると当然のように自分の部屋で番と暮らす。いつ番が現れてもいいように、部屋は無駄に広く、ベッドは大きく、二人でゆったり暮らせる環境が整っているのだ。
番と一緒に暮らすためにせっせと整えた部屋で、ず~~~~っと一人で過ごしてきたフィリクスは、番が部屋にいるという事実だけで、眩暈がしそうなほどの幸福感をひしひしと感じていた。
「気分はどうだ?まだ、あちこち痛むだろうか……」
アイリスの枕元にかがみこみ、顎を軽く上げてキスをしたあと、心配そうに瞳をのぞき込むフィリクス。次に髪をさらりと撫で、ひと房取って口づけると、その細い指先に手を絡める。幸いアイリスの頬には赤みがさしており、冷え切っていた指先も暖かさを取り戻していた。
「ああ、よかった。風呂に入れたんだな。きつくはなかったか?」
じっと瞳をのぞき込んで返事を待つフィリクス。
一方アイリスは流れるようなセクハラの数々に、軽くパニックに陥っていた。
(いま、キスされた!?ど、どうして……)
今にもぐるぐる目を回しそうなアイリスだったが、頭がお花畑になっているフィリクスはただただ蕩けるような甘い目で愛しい番に微笑みかける。
「先ほどはスープだけだったから、昼は少し量を増やしてみよう。少しずつ色んなものが食べられるようになるはずだ」
そういうとベッドからひょいっとアイリスを抱え、膝にしっかり抱えてしまう。
(ま、また膝の上に!!!)
顔を真っ赤にするアイリスだったが、フィリクスは深刻な顔でアイリスのウエストをそっと撫でる。
(ひっ!!!)
「君は、すごく痩せているな……腰なんてあまりに細くて折れてしまいそうだ……こんな風に細いと、壊してしまいそうで怖いな……」
真剣な顔でウエストをなぞるフィリクスにますますパニックに陥るアイリス。
だが、そこでマリーの静かな声が響いた。
「陛下。番様が戸惑っておられますよ。まずはお食事をされてはいかがですか?」
「ああ、そうだな、すまない。じゃあ、食事にしようか」
にっこり笑ってスプーンを手に取るフィリクス。一瞬目を見張ったアイリスだったが、死んだ魚のような目をして口を開けるのだった。
傍で控えていたメイドの三人は思わずため息をついた。竜人の番に対する甘さは、他の獣人の比ではない。まして番さまは番の概念のない人族。表情からして盛大に戸惑っているのに、ちっともそのことに気付いていないのだ。
(この先が思いやられるわね……)
















