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幕間 〜約束の子供〜

「それにしても、まさかこんなところで見つかるとは」


 バランが少女を連れて出て行った扉を見つめたまま、マイルズは呟いた。


「まさか、魔力測定を免れている者がいたとは思いませんでした」

「王立とはいえ各院に経営を任せすぎたせいだな。あの様子では、まともに食事も当たっていまい」

「早急に調査します」


 教会付きの孤児院以外はすべて王立だ。教会付きは能力の高そうな子供を引き取って養うのが主眼なため、それ以外の子供は全て王立に回される。

 王立にいたということは、教会が見出した子以外ということ。

 五歳の魔力測定で能力があれば然るべき場所に振り分けられる。

 だというのに、クロエは十二歳だ。七年も、見過ごしてきたのだ。

 ()()()()()()()。最初から見出して教育しておけば、バランなどに掻っ攫われずに済んだだろうに。

 教会も教会だ。勝手に魔力測定を有料としていなければ、クロエの力は七年前に見出されていた。何のために無料としてきたのか、教会上層部は忘れてしまったのか。


「全ての孤児院に潜入捜査をかけろ。問題があれば些末事でも構わん、全て私のところに上げろ。あるべき姿に是正する」

「はっ」

「それと、管理官と院長の選定に入れ。各院の会計は管理官に行わせる。問題のあった院は院長をすげ替えろ」

「承知しました」

「貧民街への立ち入り調査もせねばな。子供たちに食事と住処を」

「壁外の簡易宿泊所を提供しますか?」

「いや、大人と一緒にすると萎縮するだろう。年嵩の子供向けの宿を作れ。すでに職についているなら金銭で、働いていなければ労働で支払ってもらう」

「教会の方はいかが致しますか?」

「魔力測定の即時無料化を指示しておけ。何のための教会、何のための王立か、忘れているなら思い出させろ。金を取っていた教会もリストアップしておけ。次回の寄進はなしだ。王立の孤児たちは魔力測定を受けさせろ」

「承知いたしました」

「私は研究室に戻る」


 マイルズはゾルトを置いて部屋を出ると、上階の自分の部屋へと向かう。

 約束の子供。

 赤毛赤目のクロエという少女。

 そう神託で告げられて、十二年。

 探しに探し続けてきた相手とこんな形で出会うなど、予想だにしなかった。

 黒目黒髪に偽装していては、街中に配った手配書程度では見つかるはずもない。


 しかも――あの魔法陣。

 過去の文献でも見たことのない、配列の呪文。

 凍結された状態で保存されているから、動かして効果を見ることもできない。かと言って結界を外せば瞬く間に動作終了して消えてしまう。

 目の前で再現してもらうつもりで呼んだのは、黒目黒髪のクロエで。魔術を幾重にも巻き付けているのが気になった。

 失神したのをいいことに、バランを説き伏せて魔術を解除した。まさか、髪色を偽っているとは思いもせずに。

 現れたのは、見えていたものより小さい少女の体。年齢なりの身長、標準的な街の子供より少し痩せて見えたのは、すべて偽りだったのだ。

 姿変えの魔術はマイルズも知っている。街に降りるときやこうやって研究室に赴くときには欠かせない。今では息を吸うように扱える。

 だが、十二の娘が四六時中かけ続けられるものでは普通ない。しかも意識を失った状態でさえ解除されない魔法は、姿変えだけではなかった。少なくとも、解除した感覚では、体表面の温度調節と簡易な防御も組み込んであっただろう。

 解除された魔術に攻撃的なものがなかったことで、ゾルトは態度を改めたが、バランは終始不機嫌だった。

 いや。――バランはとてつもなく不機嫌だった。赤毛を見た時の反応から、この姿を見たこともなかったのだろう。見た瞬間、悔やんだ顔をしていた。そして、あの痩せ細った姿も。


 目覚めた彼女の目が赤かったことで、彼女が約束された子供だと確定した。今すぐにでも我が手に収めたかった。が、バランが手放そうとしない。何より、彼女自身がこの手を取らなかったのだ。

 神託には、約束の子供が現れることしか綴られていない。その子供が何をするのか、何の使命を帯びているのか。一切が不明だ。十二年の間、ずっと研究は続けられてきた。が、女神の意図を汲み取れる神託(もの)はあれ以来一度ももたらされていない。

 だが、『()()()()()()()』そのままの姿の彼女だ。

 ()()()()()()()であろうというのが今の結論であった。


 この世界の理に罅が入ろうとしていることを知るものはまだ多くない。だが、このままであれば――魔鉱石の鉱脈は間もなく尽きる。

 その時、この快適な生活を手放せる人間がどれほどいるのか。

 その答えが彼女であるのなら。


「手放しはせぬよ、偉大なる魔道具修理屋(グランドメンテナー)


 マイルズは脳裏に浮かぶ赤毛赤目のクロエの怯えた顔を苦々しく思いながら、これからの手を考えるのであった。

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