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同居することになったみたいです

「やはり君は我々の保護下に入るべきだ。こんな姿の君をこき使う男の元になど、返せるはずがない」


 お申し出はありがたいですが、マイルズ様。それは、ありがた迷惑というものです。それにこき使われた記憶はないですよ? 魔道具処理場を希望したのはわたしだし、せっせと仕事してたのも、目的のためだもの。


「マイルズ様!」


 秘書官が口を挟んでくる。

 そうだ、もっとやれ。あなたの主人さまの気まぐれを諌めて翻意してもらうのが仕事のはず。こんな孤児の小娘に拘っている場合じゃないってちゃんとわかってもらって。

 ほら、不機嫌で周囲の気温下げてる場合じゃないでしょう? というか震えそうなほど寒いんですが、他の方々は寒くないんですか。

 ――あー、魔術で体表面の温度調節してるんだわ。そっか、わたしが寒いのは、偏にマイルズ様がわたしの魔術を解いたせいか。……ほんといい加減にしてほしい。


「お前が何を言っても聞かんぞ、ゾルト」

「……不本意ながら、同意いたします」


 へえ、この秘書官さん、ゾルトって名前なのか。初めて知った。

 って、今何言った、ゾルトさんとやら!

 なんでマイルズ様のうわごとに同意してるの!

 そこはダメって言うところでしょうがっ!


「不本意ながら、ですが。少なくとも、この体躯で魔術を使うなど、魔術師として見過ごせることではございません。この者を雇い入れたゴミ処理場の責任者は責を負うべきかと」


 そう言いながらバランさんを睨みつけるゾルトさん。いやいや、バランさんは現場監督なだけで、責任者は他にいるでしょ?

 確かサインした雇用契約書には別の名前があった気がするし。

 それに、簡単に見破られるほどちゃちな魔術かけてないもの。バランさんが見破れなかったとしても、彼のせいじゃない。


「……わかった。責任を取る」

「バランさんっ?」


 いや、ですから現場監督がどうして責任取らなきゃならないんですか!

 マジマジと見つめてたら、振り向いたバランさんと目があった。真っ直ぐな青い目が眩しい。


「責任を取ってうちで引き取る。体力が戻るまで仕事は休ませる」

「えっ」


 引き取るって何。休ませるって何。

 いや、そもそもなんでそんな話に?


「それでは根本的解決にならんではないか」

「だとしてもだ。あんたたちには頼らない。まずはうちに引き取って飯を食わせて、健康な状態にする。それから本人が望むなら神殿での魔力判定も受けさせるし訓練もする。それで問題はないだろう?」


 バランさんがさりげなく前に立ってマイルズ様からの視線を遮ってくれる。


「それで責任を取っているといえるのか? 彼女の未来をも考えていると?」


 マイルズ様の言葉に、バランさんはこちらを向くと頭を下げた。


「君がその姿である責任は確かに俺にある。……住処のことといい、食事のことといい、気が付かなくてすまなかった。君さえ良ければ、我が家に来てほしい。君の将来もちゃんと考える」


 きっちりと腰を折るバランさんはまるで騎士のようで。

 しかもその声が真剣で、聞く人が聞けば勘違いしそうなセリフで。

 危うくわたしも勘違いしてしまいそうで。

 跳ね上がった心拍数を必死で抑え込みながら口を開こうとしたけれど。


「それなら我が家で体を癒せば良い。我が家なら最高の環境を用意できる」


 なんてマイルズ様が口を挟んできた途端、ボスから殺気じみた剣呑な気配が立ち上った。

 何フザケタこと言い出してくれんのよっ! 冗談じゃない。どう考えても高位貴族の家でしょ? そんな居心地悪そうな場所、世話になりたいわけないでしょうが!

 それに、わたしはもうボスの家に部屋をもらってるの。そらゃお貴族様の屋敷に比べりゃはるかに小ぢんまりかもしれないけど、あの部屋がいい。


「わ、わたしはボスの家がいいです!」


 二人の気配がぶわりと膨らんだところで慌てて声を上げた。放っといたら魔術戦始めそうなんだもの。

 振り返ったボスの顔が――まあ、髭でほとんど隠れてるんだけど――目を見開いて、それから目尻を下げた。これ、微笑んでくれた……?

 その向こう側で、顎が落ちたマイルズ様の顔が見える。自分の申し出が断られるなんて、思ってもいなかったんだね……。


「そういうことだから、帰らせてもらうぞ」

「ちょっと待てっ! まだ何も」


 後ろでマイルズ様が何か言ってるけど、バランさんはさっさとわたしを毛布で包むと抱き上げた。……って? ちょっと待ってっ! なんで抱っこっ?

 せめて体表面温度の魔術はかけさせてよっ。

 でも、毛布でぐるっと巻かれてるせいで手も動かせない。もぞもぞ身動ぎすると、なぜか拘束が強くなった。意味わかんないんですけどっ!


「少しの間、我慢してくれ」

「我慢しますからっ、魔術かけさせてくださいっ」

「ダメだ。少なくとももっとしっかり肉がつくまでは」

「寒いんですっ!」


 毛布はあったかいよ? こんなもふもふの毛布なんて、触ったのは今世では初めてだし、昨日使わせてもらった毛布よりはるかに上等なのはわかる。

 でも、それでも寒さは染み込んでくる。……いや、正直に言おう。とてつもなく寒い。これは、マイルズ様の冷気がどんどん強くなるせい? それとも、体力のなさが響いたのかな。

 すると、バランさんの目が細くなった。と同時に、温かい空気に包まれたのがわかる。――バランさんも無詠唱ですか。いや、でもこれくらい普通なんだろうなぁ。魔力量多そうだし。


「これでいいな。ああそうだ」


 わたしの顔を確認した後、くるりとマイルズ様の方に向き直った。毛布で視界が遮られているから、わたしには天井しか見えないけど。


「これ以上の介入は無用だ。――手鏡(ソレ)についても協力は惜しまないつもりだったが気が変わった。自分たちでなんとかするんだな」

「バランっ」

「畏れ多くも王宮魔術師の皆様に我々木端役人の助力など不要だろう?」


 うわあ、マイルズ様の気配が剣呑になる。ゾルトさんの方も射殺さんばかりだ。


「どのみち、体力が回復するまでは魔術は使わせないと約束したからな。協力させるわけにはいかん。まあ、その時点でもまだ解析不能のままなら手伝わんでもないがな」

「我々を侮辱するか!」

「いいや。心配しているだけだ。では、がんばってくれ」


 そう言い置いて部屋を出ていく。――わたしを抱っこしたまま。いや、恥ずかしいんですけど。ものすごく。それにこの毛布、もらってきてよかったのかな。返せとか言われない?



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