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秘密を暴かれました!

「――ロエ、クロエ!」


 ぺちぺちとほっぺたを叩かれて覚醒する。……うん、記憶飛んでない。直前のことまで覚えてる。

 ――ちょっと恥ずかしいことまで思い出して、ガバッと起き上がれば。


「ぐはっ」


 ガツンと何かが頭にぶつかって、目を開けるともじゃもじゃ頭を抱えてのけぞるバランさんが見えた。うわあ、すみません。


「起きたか」


 声の方向に目をやれば、バランさんの後ろにマイルズ様の不機嫌そうな顔があって。秘書官だかの姿もある。場所も変わってないみたい。

 えーと。


「悪いと思ったが、君が自身にかけていた魔法は解除させてもらったよ」

「え!」


 慌てて毛布を引っ張り上げて頭からかぶる。

 やばい。やばい。バレた。

 なんか頭が軽い気がしてたの、気のせいじゃなかったんだ。

 ……寝ても解けないレベルの魔法をかけているせいか、いつも頭がもやっとしてた。それは仕方ないことと割り切っていたし、魔力量がそれなりにあるからたいした負担じゃないんだけど。

 というか起きた時に気がつけ自分!

 視界を隠すように垂れ下がる髪が黒じゃない時点で気付くべきだった!


「真っ赤な髪に真っ赤な瞳だとはね。……しかも名前がクロエとは」


 そう。

 今の――本来の自分の姿は、赤目赤髪の小娘。

 なんでかなぁ? 前回はちゃんと赤以外の色だったのに。

 この色は最初のわたし(クロエ)の色。あの世界から転生してきた、最初の()()()()()自分の色。

 まさか三回目の今回、同じ色で生まれるとは思わなかった。前回あれだけ散々色変えてくれって女神に頼み込んだのに、今回の転生ではそれが反映されてない。

 だから、自前の魔法で色変えをしていた。あの偉大なる(グレート)魔道具修理技師(メンテナー)と同じ姿で同じ名前なんて、絶対どこかでバレると思ったから。

 まあ、今の世界では魔道具修理屋自体が存在してないとは思わなかったけどさ。

 それでももはや習い性になってるから、魔法をずっとかけてきた。それが解除されたのは、裸にされてるような気すらする。


 さらに。

 ――ボスにガリガリに痩せた姿までさらしてしまった。

 あの仕事はなり手がなくてすぐ採用された。お給料はいいし、ボスも強面だけどいい人だ。

 今回だって、ぶっ倒れたわたしを住所がわからないからと自宅に連れ帰るような人だ。

 最初からこの姿を見せていたら、きっとバランさんはわたしを採用しなかっただろう。

 それは困るから、こうやって誤魔化してきたというのに。


 ただでさえ、魔力を使えば体力を消耗するのだ。十分に食べて回復できなければ、命をも削ることがある。

 わかっているけど、これ以外に生きていく道をわたしは知らないのだもの。


「クロエ」


 静かな、それでいて怒りを含んだボスの声に肩を震わせる。これで解雇だなんて言われたら、どこに行けばいいだろう。

 マイルズ様の言葉に従うことはできない。それは多分、今のわたしの終焉を意味することになるだろうから。

 毛布を被ったまま、ベッドに起き上がる。三方からの気配が今は手に取るようにわかる。身に纏わせていた魔法は、思っていたよりもわたしの感覚を鈍らせていたらしい。

 こんなにも気配――感情を乗せた魔力の流れを肌で感じるのは、生まれて初めて、いや、過去生合わせても初めてのことだ。

 バランさんはわかる。とてもわかりやすい。怒りと苛立ちと――心配。ほんとにいい人だ。きっと、あのもじゃもじゃ頭ももじゃひげも、理由があるのだろう。

 あの真っ青な瞳を見れば、どこまでも真面目だってわかるもの。真面目でお人好しで。

 それから、鋭い氷みたいな気配はマイルズ様。なによりも好奇心まるだしなのは王宮魔術師、いや貴族としてどうなの。家名は聞いてないけど、身形とか所作とか、どう見ても貴族。

 気を失う前の話を総合すれば、わたしが孤児のふりをして潜入したどこだかのスパイで、あの手鏡でどこかと通信しようとしたと主張していた一人。ならば隣に立ってる秘書官みたいに警戒するのが筋であって、決して好奇心を寄せている場合じゃないはず。

 ……研究バカ、と言うキーワードが落ちてきた。ああ、もしかして、あの手鏡に展開した魔法陣に興味があるだけなのかしら。だから、魔術師として同じ舞台に引っ張り上げようとした?

 あの傍迷惑な提案は、ただそのためだけのものだったり……まさかね。

 それは、隣の秘書官が許さないだろう。

 マイルズ様よりももっと剣呑で物騒な気配。首元に短剣を突きつけるが如き刺々しい気配は、間違いなく彼のものだ。マイルズ様がわたしに余計な時間を費やしているのがいらだつのかもしれない。それ、わたしじゃなくマイルズ様に言ってもらえませんかね。

 ……まあ、彼もお貴族様なのだろう。平民――しかも身寄りのない孤児ならば、どうなろうと気にもとめない、典型的なお貴族様。


 さて、どうしたものか。

 この三つの気配をどう丸め込めばここから無事出られるだろう。今まで回収した魔道具はマジックバッグの中にある。でも、まだ使えるものはない。

 ひとまず姿変えの魔法をかけて、いつも通りのわたしとして対峙しよう。話はそれからだ。


「クロエ」


 魔力を練り始めたところで、さらに苛立ちの乗った声が聞こえた。と思ったら、被っていた毛布が引っ張られた。

 視界が一気に広がる。余波で流れた自分の赤髪が視界を横切った、と思うと腕を掴まれた。ガリガリの腕を、バランさんの大きな手が掴み――離れていく。

 バランさんはと見れば、これでもかと目を見開き、自分の手を見つめて眉尻を下げ、拳を握った。

 毛布をもう一度引っ張って、身に纏う。頭もすっぽり隠して顔だけを出すように毛布に埋もれると、マイルズ様はじっと視線をこちらに向けたまま、ひとつ頷いた。


「強引な真似をしてすまなかった。姿変えはスパイの常套手段だし、自爆魔法を纏いつかせるのもよくあるのでな。だが、君がそうではないのはよくわかった。――よくこの形であれだけの魔法を展開できたな」


 聞く人によってはカチンとくる物言いだが、それよりお貴族様が自分の非を認めて頭を下げるだなんて、初めて見た。この方も、やっぱり変わっているのだろう。

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