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なんか呼び出されました

 いい匂いに釣られて目を覚ますと、ふわふわの毛布に包まれていた。一瞬どこにいるのかわからなくて血の気が引いたけど、誰かの調子っぱずれの鼻歌に、肩の力を抜く。

 ……そうだった、バランさんのお家だ。こんなに気持ちよく眠れたのっていつぶりだろう。体力も戻ってるし体調もすこぶる良い。

 体を起こすと、バランさんが振り向いた。片手にフライパン。


「おー、起きたか。顔洗え。メシだ」


 バサッと投げられたのはタオル。ちょっと濡れてるのはバランさんも使ったからかな。洗った顔を拭いつつ部屋の中をあらためて見回す。

 バランさんの部屋は一人暮らしにしては広くて二部屋と台所兼居間付きだった。いわゆる2LDK。トイレと風呂は共同らしい。というか多分これ、寮ですね。家族用かと思ったけど、役付きはこれが普通だそうな。そっか、バランさんは魔道具処理室のボスだったっけ。

 ちなみに男一人暮らしあるあるのゴミ屋敷状態にはなってなかった。食事はほぼ外食、トイレと風呂が外で洗濯は寮母さんならぬ管理人に頼めるとあれば、室内が汚れる理由がないらしい。調理器具が揃ってるのは今日みたいに当直の時に使うから、だとか。普段は本当に使ってないんだろうな、この台所。ピカピカだし。

 全く使われてなかった玄関寄りの小部屋がわたしの部屋になった。とはいえ何にもないのでマジックバッグを枕にごろ寝しようとしたら、盛大に怒られた。

 バランさんのベッドと居間のソファどっちか、と言われてソファを選んだらベッドを使えとごねられたけど、流石に家主をベッドから追い出すわけにはいかないと固辞した。

 ソファでもう一悶着あった。だって昨日まで貧民街でごろ寝してた服だよ? さっきも地べたで寝てたし。汚したくない、と主張したら浄化魔法かけられた。……バランさん、何気に優秀じゃね? なんでゴミ溜めのボスやってんだろ。


「メシ食ったら出かけるぞ」


 そういえば窓から差し込む日がいつもより高い気がして血の気が引いた。もしかして、遅刻じゃないっ?

 カバンを握って立ち上がったところで腕を引っ張られて、有無を言わさずすとんと椅子に戻される。


「メシ食ってからだ」

「はいっ!」


 バランさんの低い声に思わず仕事モードの返事を返す。バランさん、わかっててやってます? 腹から出したバランさんの声、心臓に悪いんです。ついでにその威圧も仕舞ってもらえると、はい。ちゃんとご飯食べますから。


「ボス、でも仕事」

「メシ」


 ホカホカのベーコンエッグはめちゃくちゃ美味しかったです、はい。

 食べてるうちにいくつか説明してくれた。

 わたしが寝てる間にしかるべき部署とやらから連絡が来たらしい。曰く出頭せよ、と。もちろん発見者のわたしと、報告者のバランさん両方。

 即時と言われたらしいんだけど、わたしが熟睡してたから翌朝に伸ばしてもらったとか。仕事の方はそんなこんなで戻ってからでいいらしい。

 というか、然るべき部署ですか……。嫌な予感大当たりかも。まあ、こっちの事情を話す必要はないし、話したところで頭おかしいと思われるだけだしね。

 年齢相応な受け答えしときゃいいか。……って十二歳の年齢相当ってどんな反応すりゃいいんだっけ。そんなのはるか昔の経験しかないよ。孤児院ではだんまりで通したけど、そういうわけにはいかないんだろうなあ。というか、あれ見られてるんじゃ、誤魔化しても無駄かなあ。……話のわかる人ならいいんだけど。


 バランさんに連れられて坂を登っていく。内壁を越えるのは初めてだ。商業エリアを抜けたところから貴族街。王城に近いあたりは役所だの研究所だのがあって、その外側に貴族たちの屋敷が爵位順で並んでるらしい。

 貴族街の入り口で迎えの馬車が待っていた。白地に紺で染め抜いた一角獣の紋。なんかすごい立派だけど窓のない馬車って、嫌な予感しかしない。囚人護送車じゃないわよね……。

 バランさんは無言を通すし。色々聞きたかったんだけど、全身で『聞くな』って言われるとね……。

 馬車が止まり、バランさんの後について降りる。周りには槍を持った鎧姿の兵士が立っていて、威圧感が半端ない。なんかやらかしたら串刺しにされそう。


「新入り!」

「はいっ!」


 気がつけば何歩も先にバランさんがいて、慌てて追いかける。


「ビクつくんじゃねえよ。胸張って堂々としとけ。あとキョロキョロすんな」


 仕方がないので言われた通りにする。ところでここ、城の中……な訳ないか。少しは情報くださいよ、バランさん。

 どこだかの扉をくぐったら、鋭い視線を感じた。部屋には白いローブ姿の人が二人、広いテーブルを挟んで向こう側に立っている。真ん中には凍結状態の手鏡。あー……展開途中の魔法陣、丸見えじゃないの。


「お待たせしました。バラン・ル・クールエと、クロエです」


 頭を下げるバランさんに倣ってわたしも頭を下げる。



「王宮魔術師のマイルズだ。この魔法陣は君が書いたと聞いたが」


 長いアッシュブロンドに碧眼の男性が口を開いた。


「どこでこの魔法陣を学んだ?」

「マイルズ様、その前にスパイ疑惑の方を」


 後ろに控えていた焦茶の髪と目の男性が口を挟む。秘書官か何かだろうか。というかスパイ? あー、わたしがあれをわざと起動させたって思われてるのか。


「あれを見てどうしてその疑問が湧く?」

「バランの結界で通信が遮断されなければ、どこかと連絡を取っていたはずです」

「だとしても送られた情報は場所と偽の情報だ。危険を冒して自爆を回避しておいて偽の情報を送る? そんなスパイがいるものか」


 そう、あのまま偽情報を送れば、送信先が掴めたかもしれないのだ。ゴミ処理場で誤作動したと誤認させておけば、回収部隊が来たかもしれない。ま、『かもしれない』ばかりだけど。



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