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星祭りの夜でした

「クロエ?」

「ふぇっ!」


 名前を呼ばれて我に帰ると、いきなり持ち上げられた。両脇に手を突っ込まれてて、足が宙ぶらりんになる。


「んー、まだまだ軽いな」


 それから柱の近くに下ろされる。身長を記録するらしい。

 夕食後に体重と身長を測るのが最近の習慣だ。最初はいきなり触られてびっくりして、つい魔術で抵抗しそうになったけど、流石にもう慣れた。

 でもね、ボス。


「いきなり抱き上げるのはダメって言ったじゃないですかっ!」

「何言ってんだ。ちゃんと声かけたし、お前も返事してたろ?」

「え」

「考え事でもしてたか?」


 笑いながら頭を撫でられる。適当に相槌打ってたから聞いてなかった……。

 うー、なんかボスには全部お見通しみたいで面白くないっ!


「じゃあ行くか」

「……へ?」

「……お前、本当に何も聞いてなかったな? 今日は星祭りだと言ったろ?」

「星祭り……」


 その言葉には覚えがあった。


「孤児院では祝わなかったか? 星祭りの夜、流れる星に願いをかければ叶うんだ。街では市が立って賑わってたぞ」


 そうだった。星祭りの時は孤児院でも市に店を出してた。稼ぎ時だからってめちゃくちゃ忙しかった。星を見た記憶はあんまりない。

 けど、昔の記憶はある。

 遠い昔、みんなと一緒に満天の星を見上げたっけな。

 あれは一度目のグランドツアーの時だった。砂漠の真ん中で焚き火を囲みながらみんな寝転んで空を見上げてたな。

 何もかも手探りで、でも一つ一つ解決していく工程はとても楽しかった。

 錬金術師のバート、土魔法使い(クレイマスター)のバルト。聖魔術使い(セイントマスター)のマリーリャ、剣聖アレス。

 星祭りでは一つだけ、願い事が叶うと言われている。

 あの時、何を願ったんだっけな……。


「じゃあ行くか。上着着て来い」

「お外っ?」


 十日ぶりに外に出られる!

 本があるから暇はなくなった。けど、少しは外に出たいじゃない? お散歩すらダメって、つらすぎるのよっ。

 しかし、バランさんは首を振る。


「ここな、屋根裏から屋根に出られるんだ」


 ちぇーっ。お外じゃないのか。まあでも、久しぶりに風を感じられそうだな。


 外套を羽織ってバランさんについて屋根裏に潜り込む。思ったより屋根裏は広いな。もしかしてここ、屋根裏部屋? 埃がすごいけど、掃除したら使えそう。

 バランさんが窓を塞ぐ木を取り除いて開けると、夜気が流れ込んできた。

 次いで、街の喧騒。夜なのに、こんなに賑やかなんだ。きっとみんな星祭りで街に繰り出してるんだろうな。


「ほら、ここだ」


 引っ張り上げられて窓から出ると、ふわりと赤髪がなびいた。


「うわ……」


 眼下には街の灯り。空には――降るほどの星。

 砂漠の空もすごかったけど、街の空もすごい。ああ、なんでこんなに語彙力がないんだろう。

 言いたいことの百分の一も言えやしない。


「寝転んでみろ。空がよく見える」


 バランさんのおすすめに従って屋根に横になる。寝転ぶのが前提なのか、ちゃんと落ちないように足場がある。

 そして。


「うわぁ……」


 横になると、視界全てが空になる。ここを作った人、絶対このために足場作ったんだな……。


「ちゃんと願いをかけろよー?」


 のんびりした声が隣から聞こえる。

 ちらっとバランさんを見れば、髭ですっかり覆われてるからどんな顔をしてるのかはわからなかったけど、優しい目で空を見上げている。

 なんか、力の抜けた無防備な顔だ。仕事中のボスとはまるで違う。

 なーんか可愛いなあ、と思ってしまうのは、昔の記憶があるからだろうなぁ。


「こっち見てると見逃すぞ?」


 そう言ってちらっと見るバランさんと目があった。……そんな優しい目で見ないでよね。外見は小娘だけど中身は大人なんだから。

 ……って、知るわけないもんね。空に目を向けながら、今さらながら、『年頃の男女が同居ってどうなのよ』とか考えてしまった夜だった。


 願い事?


 ――とりあえず、早く大人になりたい、かな。

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