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解読……?

「もう一つの方はどうだ?」


 ごまかしのつもりか、咳払いをひとつしてバランさんが聞いてくる。

 三冊目も絵本だった。――一ページに挿絵といくつかの文字しかないから絵本、と言っていいと思うのだけど。

 言語が他の二つとまるで違う。強いて言えば漢字に似ている。

 こちらも同じく辞書を引きながら読むしかないけど、辞書というよりは単語帳みたい。索引もなければ並びも順番になってなくて、単語一つ探すのでさえすごく時間がかかる。


 バランさんがあの本の一節を口ずさんだ。聞き覚えがあったのは、あの本を渡された時、最初のページに載っていた文章を読み上げてくれたからだ。


「この文、お前にはどう聞こえる?」

「……呪文みたいです」


 最初のページに並ぶ文字たちを思い出してつい顔をしかめる。

 単語は辞書からなんとか見つけ出せた。

 でも、それはどう考えてもひとまとまりの文章とは思えなかったんだよね。


「辞書からどこまで拾えた?」

「ええと……木の声 魚の言葉 風の踊り 星の渦 暁の窓 冬の要 羅針盤の涙」


 順番は少し違ってるかもしれないけど、変な言葉ばかり並んでいて、全く意味がわからない。

 翻訳するのはできたとしても、これが何を意味しているのか、さっぱりわからない。こっちも翻訳と感想文書かなきゃいけないのかな。言われてないけど、もしそうならかなり辛い。

 正直、魔術書を読むのに比べるととても辛い。わからなすぎて、眠くなる。まさか、そのために読めとか言ったわけじゃないよね?

 しかし、バランさんはうんうんと頷いている。……えっと、これが正解なわけ?


「やはり並べられた単語には意味がないのか。……続けて解読を頼む。辞書にない単語が出てきたら、別の紙にまとめて書き出しておいてくれないか」


 え……? 解読?


「バランさん、これ、なんかの研究ですか?」

「まあ、そう言えなくもないかな。あれは、とある遺跡で発見された古代語の絵本の複製だ。挿絵と全く関係のない言葉の羅列らしくて、意味があるのかどうかもわかっていない。もしかしたら失われた魔術の呪文かもしれないというので預かっているのだが」


 そこまで語ってバランさんは深くため息をついた。

 まさか古代語とは思わなかった。以前ならどんな古語でも読めたのになあ。

 女神の恩恵、今からでも手に入らないかな。頑張るって決めたけど、古代語は担当外だよぉ。

 しかも。


「古代語の魔術……」


 そういえば、一回目の時も聞いた気がする。大昔に滅んだ魔術国家があって、そこでは独自の発展を遂げた魔法が使われていたと。

 五百年前ですでに太古って言ってたところからしても、相当昔の遺跡の遺物ってことよね。

 でも、気になるのはそこじゃない。

 遺跡から発見された本の複製ってとこ。

 ……二回目の時に回った魔道遺構の中には古代の大図書館もあった。もしそこがまだ生きていれば、この本を解き明かす手がかりが掴めるかもしれない。


「その遺跡ってどんなところにあるの?」

「お、興味が出たか? ならもう少し資料を取り寄せておくが」

「うん、お願い!」

「お、妙に乗り気だな。そうか、わかった。確か他にも本が出てたはずだから、そっちの複製も頼んでおくよ」


 つい気になって食いついてしまったけど、バランさんは特に気にしてないみたい。

 もしその場所が、わたしの記憶と一致すれば――二百年の間にあの図書館が崩壊したってことになる。二百年持たなかったのは残念だけど、きっとたくさんの本が回収されてるはず。

 そうでないなら――まず最初に回るのは大図書館ね。


 そんなことを考えながら夕飯を食べ終えた。食後の片付けはバランさんの担当。汚れたお皿を魔術であっという間に片付けるのをぼーっと見つめる。

 バランさんの魔術は綺麗だ。無詠唱だから話しながらでも行使できる。というかこのくらいの生活魔法だと無意識で使えるのかもしれない。

 そのくらい普通に使っている。いくつもの属性魔法の組み合わせだけど、バランさんってほんと、あっさり使うよね。

 でも、これを魔力を使わずにやろうとすると、途端に大変になる。水は汲みに行かないといけないし、お湯は水を火にかけてあっためなきゃいけない。洗い上がったお皿は乾燥するまで待つか、布巾で拭いて片付けなきゃならない。

 ……うん、魔術でやっちゃう自分の姿が想像できるわ。

 だから、調理だけなんだよね。

 早く大きくなりたいなあ。



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