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言語チートがないんです

「今日はどこまで進んだ?」


 晩御飯を食べながらバランさんが聞いてくる。

 そう、暇だーって騒いだら、本を渡されたのだった。それも三冊。

 一冊は絵本。ドラゴンとお姫様のお話、らしい。

 ……らしい、というのは、文字が読めなかったのだ。挿絵がなければなんの本だったかわからなかった。

 これには愕然とした。だって、五百年前も二百年前も、文字や言葉で苦労した記憶、ないんだよ?

 多分女神様がなんかしてくれてたんだろうとは思うけど。

 今回はその恩恵がない。呼ばれた時に女神と顔合わせしなかったのが原因なのかな、やっぱり。それでも、能力値やらスキルやらは前回を引き継いでいるわけで。言語能力だけオミットされてるのが解せない。

 雇用契約書は読めたのに、なんでこの絵本が読めないんだろう。どこの言葉で書かれているんだろう。そう告げたら、バランさんが辞書をくれた。

 絵本に使われている言葉と、大陸公用語の辞書だった。これで単語を引きながら言葉を覚えろということらしい。自分では読み書きできていると思っていたのは、大陸公用語だったのだ。

 びっくりして、他の――五百年前と二百年前に住んでいた地域の言葉を書いてみようとして、凍った。

 どちらの言葉も浮かんでこなかった。

 言語で苦労を知らなかったのは、女神の恩恵(チート)で自動翻訳されていただけで、わたし自身はどこの言葉とも知れない言葉を喋っていたのかもしれない。

 あ、でも文字を習ったわけではないのに公用語が読めるのは、女神の恩恵、なのかな。……わかんなくなってきた。

 街中に溢れている文字は読めたと言えば、それもここが王都だからこそだ、とバランさんに言われた。あちこちから人が集まる場所だからこそ、大陸公用語が主に使われているのだと。

 バランさんからは、辞書を繰りながら絵本を読んで、その言語で感想文を書くように言われている。それと大陸公用語への翻訳と。正直かなりのスパルタだ。普通の十二歳なら放り出してしまいそうなほどに。

 だが、暇を持て余しているわたしにとってはちょうどいい暇つぶしだ。どこの言葉かわからないけれど、バランさんが文字を教えてくれた時に聞いた発音が不思議な音韻で、慣れ親しんだ魔術の呪文ともよく似ている気がした。

 辞書を繰りながらだから進みは悪いけど、どうやら可愛らしいお話のようで、ちょっと楽しみである。


 二冊目は――魔術書。しかも初級の。

 これは逆に面食らった。

 今のわたしには苦もなくできることばかりなんだけど、基礎部分の説明が書かれていた。

 わたしが使っている魔術が一般的な魔術の系統と違うからなのかどうかわからない。

 でも多分、訓練所に行くことを見越してのことだろう。

 この世界での理を学ぶのにはちょうどいいかもしれない。

 ――ただね。

 ……こういうの、見たらやりたくなるに決まってるじゃないですか。

 魔術が禁止されてるのがもどかしい。ちゃんと読み終えて、体が回復してきたら、リハビリを兼ねて訓練つけてくれるとは言ってくれるけど。

 正直生殺しだ。


「魔術書は一通り目を通しましたよ」

「十日でそれか。さすがだな」

「……早く試したいです」

「我慢しろ。ちょうどいい、お前の魔力の使い方は雑だから、繊細な制御ができるようにイメージトレーニングしておけ」

「雑……」

「無駄に魔力を撒き散らしている。魔力量が多いから気にしてないのだろうが」


 確かに気にしたことはなかった。それにこの体では魔力を使い切るより体力が切れる方が早いから、限界まで使ったことがない。


「回復したらこき使うからな」


 覚悟しておけ、としかめ面で言いながら、ボスの目はなんだか楽しそうだ。ええと、お手柔らかにお願いします?


「絵本の方はどうだ?」

「絵本の方が難しいです」

「そうか。どこが難しい?」

「単語は辞書から拾えるけど、つながりが分かりづらくて」


 文字の音はわかるし、単語の意味も拾えるようになってきた。けどちゃんとした文章にするには単語ごとのつながりがわからないと難しい。そういうのは辞書には載ってないし。


「文法か。確かにわかりづらいな。後で説明してやる」

「はい」

「あれはこの国の言葉だ。地方に行けば公用語が通じなかったりするからな。覚えていて損はない」


 なるほど、と思いつつも疑問が浮かぶ。地方に行くことなんてあるのだろうか、と。

 いやまあ、いずれはグランドツアーに出なきゃならないわけで、世界を股にかけるのだから必要にはなるだろう。

 でもそれはわたしの都合であって、普通の孤児がそんなことを考えるはずもない。

 この世界のほとんどの人が、生まれた土地から離れずに一生を終える。王都の孤児なら王都か、その近辺で職を得て生涯を過ごすのが一般的。公用語が読み書きできれば十分では?

 なのに地方の話?

 首を傾げてバランさんを見れば、はっと目を見開いたのち、気まずげに視線を逸らした。


「王宮魔術師となれば依頼を受けて地方に赴くことも普通にあるからな」


 ああ、なるほど。マイルズ様の案に乗れば有りうる未来ってことですね。今のところそのルートは考えてないんだけど。

 でもまあ、読める言語は多い方がいい。女神の恩恵が期待できないのなら、ちゃんと学ぶしかないよね。

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