表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/15

二百年の間に廃れていました

「新入り! 手ぇ止めるんじゃねえぞ!」

「はーい」


 ここは王都の町外れにあるゴミ処理場。

 その中でも、取り扱いが難しい魔道具だけを処理する『魔道具処理室』の前に集められたゴミ――使い捨てられた魔道具を分別するのがわたし――クロエの仕事。


 昔は魔道具と言えば高価なもので、王侯貴族でないと手が出なかった。それが、二百年ほど前に消費魔力の少ない魔法が発明されて、安価な錬成魔石が使えるようになって、一気に庶民に広がった。


 どれくらい違うかっていうと、そうね……お城一つ買えるくらいから、わたしの一ヶ月の食費くらいまで下がった感じかな。もちろん品物によってはもっと安いものもある。

 ともかく、そんなふうに安くなったから、壊れたり魔石の魔力が切れても修理せずに買い替えるのが普通になった。

 で、捨てられた魔道具の行き着く先がここで、わたしが何をやっているかというと、魔石の抜き出し作業。


 昔の魔道具は魔石を取り出して魔力を再充填できたけど、今の使い捨て魔道具は、魔石が外せないようになってる。素人が触ったら危ないから、らしい。実際、安い魔道具が出始めた頃には再充填しようとして死者が出たとかって話だし。

 でも、魔石をそのままにしておくと、残存魔力で誤作動を起こすことがあるんだとか。以前どこだかのゴミ処理場が吹っ飛んだんだってボスが言ってた。

 なので、魔道具から魔石を抜き出すのがわたしの仕事。お給料はそこそこいいけど地味で地道な仕事で、やりたがる人は少ない。魔力があれば誰でもできる仕事だから、孤児で未成年のわたしでも採用されたわけなんだけど。


 目の前で箱型魔道具に四苦八苦しているのは、ここのボス――バランさん。

 頭もお髭もモジャモジャで、青い目と口と鼻がかろうじてわかるくらい。体格はがっしりしてて、胸板も分厚い。こんなところでゴミ相手にするより剣と盾が似合いそうな感じのナイスミドルだ。手もゴツくて――こういう繊細な作業には向いてない。なんでここで働いてるんだろ。


「あ、バランさん。それやります」

「――おう、頼む」


 膝の上に引き取った箱を弄りながら魔力を流すと、奥の方に魔石があるのがわかる。もう少し多めに魔力を込めると、吸い込まれる感覚があった。

 ()()()()()()()()のだ。


「バランさん」


 声をかけると、胡乱な顔のバランさんは顔をしかめた。


「……バレないようにしろよ」

「はいっ!」


 足元の鞄にこっそり箱を収める。マジックバッグだから、どれだけ詰め込もうと重くないしかさばらない。

 最初にこれをゴミの中から見つけた時は本当にびっくりした。まさかマジックバッグまで使い捨てにしてるなんて。保冷機能が壊れてるだけだから普通使いには問題ないのに。なのでありがたく使わせてもらってる。    

 結構あるのよね、お貴族様がデザイン気に入らなくて捨てた未使用品とか。そういうのは好きにしてよいってお墨付きをお役所から貰ってるらしい。まあ、それくらいの旨味がないと誰もやらないわよね、この仕事。

 見つけた可動品はボスに報告して、ここのスタッフ全員に知らせることになっている。もちろん優先権は発見者。誰も欲しがらなかったものは市の日にマーケットで売却して、売上の半分はここの備品購入に、残りは発見者の懐に入るシステム。 

 ちなみに貴族の家から出たゴミは、市政に出回ってる量産品じゃなくて特注品が多いから結構人気が高い。なのでそっちはマーケットじゃなくて好事家の集まるオークションに出すんだとか。


 でも、わたしが回収したのは違う。――天然魔石を使った、昔の魔道具だ。


 昔の魔道具が高かったのは、天然魔石――つまり、魔獣から回収できる再充填可能な魔石を使っているからだ。しかも、当時の魔法は効率が悪かったから、大容量の魔石でないと動かない。魔獣の強さと魔石の大きさは比例しているから、冒険者ギルドへの依頼もどんどん高騰していって、魔道具は王侯貴族でないと買えない金額になってしまった。

 だけど使い捨て魔道具が普通になって、昔の魔道具も修理されずに捨てられるようになった。

 というのも、もう修理できる人がいないのだとか。

 二百年の間に、骨董品の魔道具を修理するより使い捨てを買う方が当たり前になって、修理技師が食べていけなくなって、修理の技術自体が絶えてしまったのだという。

 ――たった二百年の間に。


 それを聞いた時、わたしがどうしてこの時代に再び強制転生させられ(呼ばれた)のか、分かった気がした。

 前回(二百年前)その前(五百年前)も、女神に呼ばれたのは世界に散らばる魔道遺構の修理のためだった。技術者(仲間)を集め、弟子を取り、技術と知識を継承して来たのは、わたしに頼らなくてもなんとかなるようにするためだったのに。

 ……結局三度目の強制転生。しかも今回は女神の説明なし。明確なゴールの指定がないプロジェクトって、それだけで不安しかないんだけど。

 って愚痴る相手も今の所居ない。まあ、まだ十二歳だし、仲間どころか孤児院出されて住む家もないんだけどね……ほんと、涙が出るわ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ