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第3話 魔に堕ちた勇者

 ヴァレヘイム・ヘルゼンバーンド。

 シンクレティア王国に匹敵する国家であるガラリガリア帝国で誕生した絶対的存在。

 最近の武勲で言えば、人外の凶悪さを持つ魔族を数千匹討伐したとされる華々しい活躍を遂げたことだ。

 そんな彼に関する最近の噂。それは――。


「知ってるライド? ガラリガリア帝国で生まれた勇者様が、あまりの強さに自惚れてしまったって話」


「隣の国か、聞いたことがなかったけど、そんな奴がいるのか?」


「いるよー? だって私、一時期その人と婚約させられそうになったし」


「何だって?」


 ライドは思わず立ち上がっていた。初めて聞いた情報とは言え、それは決して感化できないものだった。


「まー結局、お父様が結局思いとどまって、破棄してくれたんだけどね~」


「そう……か」


「あれ? もしかしてライド、嫉妬? 嫉妬感じちゃった~? きゃ~! もぉ~ライドってば、かーわい!」


「帰れ」


「ごめんってば! ごめんってば~! からかいすぎたよ~!」


 泣き虫なルピスはすぐ泣く。特にやらかしたときには必ず泣く。

 ライドもそこまで気にしていなかったので、適当になだめ、話を戻すことにした。


「それで? そいつがどうしたんだ? まさか、このシンクレティア王国に攻め込もうとしているとか?」


「多分そうかも。私も直接会ったことがないから、どうして攻め込もうとしているのかは分からないけどね」


「危険だな」


「うん、危険。だって相手は数千匹の魔族を斬り殺して、ガラリガリア帝国の総本山である帝都ガラリアを死守したとされる英雄だからね」


 一旗あげようと、色々と画策する者はいるが、ここまで直接的に攻めようとする者はいない。

 そこまで、考えて、ライドはふと気づいた。


「でも、それで魔に堕ちた勇者? よく分からないな」


「本題はここからだよ。彼が魔に堕ちたっていうことのね」


 ルピスは焼き菓子をひょいひょいと口に運びながら、非常に美味しそうな表情を浮かべている。


「彼って、その魔族の王である魔王と接触したみたいなんだよね」


「魔王……聞いたことがある。地の底にあるとされる闇の世界、そこに君臨する唯一王。それが、魔王だったね」


「そうそう。それでその勇者様、魔王と取引しちゃったみたいなんだよね」


「取引……? 人間がそんな奴と交渉できるのか?」


「それを聞いた私もびっくりしたなー。でも、本当みたい」


 最後の焼き菓子を口へ放り込み、咀嚼した後、ルピスは言った。


「魔王と契約して力をもらったんだよ。それで大陸の全てを制圧出来たら、その褒美に契約を破棄して、自由の身にしてやるって条件でさ」


「それで魔に堕ちた勇者、か」


「すごいよねー。私だったら、怪しすぎて絶対断る」


「……そもそも、誰から聞いたんだこの話は? そんな細かいことまでよく分かっているな」


「え? 簡単な話だよ。最近、その勇者様からそういうことが書かれた手紙を送りつけられたからね」


 ある意味正々堂々としている。

 そこまで堕ちに堕ちているなら、いっそ闇討ちでもした方が良かったのではないか。そこまで喉元まで上がってきたが、それを口にしたら、自分もその勇者の仲間入りになると悟り、飲み込んだ。

 ルピスはいつの間にか空だったティーカップにおかわりを注いだ後、また一気に飲み干した。普通なら、下の者であるライドがおかわりを注ぐところだが、二人の間で、そういうのは無しとしていた。


「ぷはー。やっぱりライドのところのお茶はおいしーねぇ。さて、と」


「帰るのか?」


「ううん。その勇者様のところに行く」


「は!?」


 思わずライドは立ち上がっていた。

 しかし、ルピスは冗談を言っているつもりはないようで、いそいそと帰り支度を始めていた。


「待て待て待て! 君、たった今行くのか!?」


「王国の情報部隊からの情報だと、勇者様は国境の付近にいるらしいの。だから、そこへ行って、話をしてくる」


「相手はただのチンピラじゃないんだぞ。勇者だ! 圧倒的存在だ! それを一国の王女が行くなんて正気の沙汰じゃない!」


 ルピスは目を丸くした。


「え?」


「は?」


 二人の間に沈黙が流れる。二人の瞬きが増える。それはまるで一種のアイコンタクトのようだった。


「え、ライドは一緒に来てくれないの?」


 その言葉を聞いたライドは肩の力が抜けてしまった。

 そもそも一人で行く、という選択肢はなく、当たり前のように、ライドがついていくと思っていたようだ。

 ルピスは途端、慌てだす。


「それは厳しいよ~! お願いライド~! ついてきて~! あわよくば、その勇者様追い払って~!」


「僕かよ! 結局僕が戦うことになるのかよ! あれ!? 君が何か話をするんじゃないのか!?」


「話通じるわけないじゃない! おかしいよライド!」


「おかしいのは君だよ第一王女!」


 売り言葉に買い言葉。ひたすら言葉で殴り合いを繰り返していた、二人はやがて肩で息をする。


「ほんとに……来てくれないの?」


 ライドは不安げにするルピスから、一瞬目をそらしてしまった。おもむろに右手を見る。

 この手には魔法がある。無力だった昔と違い、今は彼女が望むことを望むように叶えてやれる。

 その初診を思い出してしまったライドに、拒否権はなかった。


「はぁ……君には負けたよ。じゃあ早速行こうか!」


「うん!」


 玄関から外に飛び出したライドは、魔力をもって世界へ干渉する。

 どこからともなく音がした!

 それは腹に響くような駆動音。鈍色に光る物体がライド達へ向かってくる!


「トラック魔法! 僕とルピスを運ぶ鋼鉄の猛牛よ! 発進しろォォォー!!」


 ライドはルピスをお姫様抱っこし、トラックの上へと飛び乗った。この前のものよりサイズが小さいので、容易く飛び乗ることが出来た。

 そのまま、トラックは走り出す!

 爆音を轟かせ、勇者の元へと二人を運ぶッ!

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