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第10話 姫、攫われる

「君と……生きるだと!?」


「そうだ! 願ってもないチャンスであろう? この天空の化身に仕えられるのだから!」


「僕、ルピスが大事だから無理です! ごめんなさい!」


「アアアアアアアア!!?」


 ライドとフロウティフォンの間に亀裂が走る。ルピスは安堵で胸を撫で下ろし、シュガリスはひたすら死んだ目で事の成り行きを見守っていた。

 この様相はさながら、告白に失敗した男女の間柄。その陳腐な返答に、フロウティフォンはブチ切れた。


「貴様ァァァ!!! この天空の化身に向かって何たる不遜!!! ルピス!? どこのタンパク質の名前だ!?」


「私です!」


 勇ましくもルピスが一歩前に出た。

 その直後、天空より一本の槍が高速で落下する!


「……ほう」


 どこからともなく現れたトラックが槍を弾き、シュガリスがいつの間にかフロウティフォンの背後に移動し、首筋に双剣を突きつけていた。

 無言のコンビネーション。シュガリスとライドは一瞬でフロウティフォンを追い詰めていた。


「何者かは存じ上げませんが、ルピス様に手を出したからには死んでもらいます。事情はあとで創作しましょう」


 言うのと同時、シュガリスはフロウティフォンの首に双剣を走らせた。急所を確実に狙った鋭い斬撃。

 一般人ならば、この時点で即死。一般人、ならば――。


「おおおん? 何だ? 近頃の人間はマッサージが趣味なのか? おかげで首の凝りが取れたわい」


(太い血管を切り裂いた。手応えはあった。私が斬り慣れた場所です。外したなんて、ありえない)


 シュガリスの無言こそ、最大の驚愕であった。殺人術に精通した彼女に失敗はありえない。

 ならば、これは腕前の問題ではない。


「そら。我の礼だ。受け取れ」


 一振り。

 フロウティフォンが軽くシュガリスへ腕を振るっただけで、シュガリスは五百メートルほど吹き飛ばされた。


「シュガリス!」


 ルピスの叫びが届いているのかいないのか、分からない。ただシュガリスは何度も地面をバウンドし、すぐに起き上がれなかった。僅かに身じろぎしているので、死んではいないことが不幸中の幸いだろう。

 その数秒後、シュガリスがよろよろと立ち上がった。


「ルピス様……私は、大丈夫、です」


「ほう。死んでいないとな。天晴(あっぱれ)。貴様も我の元で働いてみる気はないか?」


「ご冗……談を。私はルピス様以外に仕える気は毛頭……ござい、ません」


「その心意気もまた天晴。そうなれば――」


 フロウティフォンがルピスを見る。

 するとフロウティフォンは小さく呟いた。


「――純粋に興味が湧いた。絶対的な力を持つ我と、この矮小な存在、どちらがより重視されるのかをな」


 刹那秒でフロウティフォンはルピスの前に移動した。ルピスは逃げる間もなく腕を掴まれた。

 掴まれる寸前、ライドはトラック魔法を放とうとしたが、そこはフロウティフォンの狡猾さが一枚上手だった。フロウティフォンはルピスを盾にし、自分に被害が及ばないようにしていた。


「誇りは無いのかフロウティフォォォォォォォン!!!」


「誇りッ!?!? 何だそれは!? どこの商人から買える貴重品なのだ!? 合理的な選択は貴様らのようなタンパク質人形が最も得意とする悪戯じゃなかろうかァァァ!」


 フロウティフォンとルピスは天空へと舞い上がったッ!


「ルピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーィス!!!!!!!!!!!!」


「ハハハハハハハハハハハハハハハ!!! なら来てみせよ! ユキフィリの王城まで!! そこで真の決着をつけようではないか!!」


 刹那秒でフロウティフォンはルピスを連れて、姿を消した。

 攫われてしまったというこの事実が、ライドに重くのしかかる。彼は地面に跪いていた。


「僕は……なんて、弱い……ッ! ルピスが、ルピスをみすみす敵の手に渡すなんて……!」


「ライドルフ様、立ってください。私たちは行かなくてはなりません」


「何がトラック魔法だ……! これじゃあ僕が強くなろうとしていたのは何だったんだ――」


「失礼しますライドルフ様」


 ライドの頬にシュガリスの拳が突き刺さる! ライドはゴロゴロと地面を転がった。じんじんと痛む頬を押さえ、彼はシュガリスに抗議の視線を送った。

 彼女は一切の迷いがない歩みで、ライドへ近づき、そして襟首を掴み上げる。


「ライドルフ様がそうしている時間はありません。はっきり言って時間の無駄です。私とライドルフ様の共通点は、共にルピス様を大切に想っていることでございます。私は今、一つのことしか頭にありません。それならば、ライドルフ様もきっと同じことを考えているはずですが」


 シュガリスに奮い立たされたライドは無言で立ち上がる。その目は先程の腑抜けた雰囲気はなく、戦う者の目となっていた。


「何が天空の化身だ! 何かを勘違いした奴に、僕たちは負けられない!」


「ようやくやる気が出てきたようですね。それならば――」


「あぁ! 向かおう! 天使が待つ、ユキフィリ城へ!!」


 ライドはすぐにトラックを呼び出し、ユキフィリ城へと急ぐのであった。


(天空の化身、僕は君を絶対に許さない。僕は君を、貴様を――異世界転生させてやる!!!)




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