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6 まさかの現地解散


 は?


 何これ?


 なんで、聖女って言われていたのに、突然一人ぼっちにされたわけ?


 私が突然の展開に呆然として跪いたまま、地面と睨めっこをしていると、男物のブーツが視界に入った。


「……大丈夫だろうか」


 低い声にびっくりして顔をあげる。

 声をかけたのは紺色の騎士服の男性だった。その人は、こっちがギョッとするくらいの無表情を浮かべていた。


 何も表情が見えない能面のような顔をしている上に、スクエア型の銀縁の眼鏡をかけているため、クールを超えて、冷酷さすら感じる冷ややかさだ。声をかけてもらったのは嬉しいけれど、めちゃくちゃ怖いよ……。


 男は紺色の髪と、使い込んだ真鍮のような、鈍い色をした瞳をもっていた。結構、顔は悪くない。むしろ、いい方だと思う。

 こんな出会い方じゃくて、友人の紹介とかで出会っていたら、ときめきを感じたかもしれない。


 でも、残念ながらここは異世界なのだ……。


 腰に剣らしきものをさしているから、きっと騎士なんだろう。屈強な体つきで、何か余分なことを言ったら、消されそうな雰囲気がぷんぷんしている。


 はっ! も、もしかして……。ここに、騎士の男が一人残されたと言うことは!


 私、ここで殺されるんじゃない⁉︎


 今まで読んだ小説転生系小説でも、こんなに初っ端で殺されるなんてことなかったんだけど⁉︎


 そう思って、怯え上がって背中を粟立たせていると、男はそのままこちらに近づいてくる。


「ぎゃー! 殺さないで! お願い! ぎゃー!」


 私は頭を守るポーズを見せ、必死に叫ぶ。


「……君を殺すなんてことはしない。と、いうか、なぜそんな物騒な考えが浮かんだんだ? 君という存在自体がこの国にとって恩寵であるのに」


 男の顔は相変わらず無表情だった。でも、その口調からは確実な呆れを感じる。


「だって……。ここの人たちの思考が理解できなくて……。いきなり呼び出した体で、祈りを捧げろと言われて。その後置き去りにしたじゃないですか……」


 さっきまでここにいたみなさんの退避の早さったら、本当に、冗談じゃなく、瞬く間でしたけど。


「ああ。すまない。これがこの儀式の……聖女に対する扱いだと、聖女保護法で決まっているのだ」


 聖女保護法⁉︎

 なんだそりゃ⁉︎


 私は目を見開くことしかできない。

 今のところ私、全然保護されてないんですけど、どういうことなんですかね⁉︎

 私はこの国の法の理解不能具合にげんなりとしてしまう。


 そんな私を取り残すように、無表情男は話を進めていく。


「……自己紹介がまだだったな。私は、この国で王の近侍騎士を務めているフリッツ・アンダーソンだ。普段は王専属の騎士を務めているが、聖女様をこの後、街へご案内し、街の仕組みをお伝えする役を承っている」


 ふーん。この人は王様の部下なのね。

 そう言われて見れば、フリッツさんが着ている深い海のような色合いの青い軍服の胸元には、彼の階級の高さを知らしめるようにジャラジャラした黄金色の勲章がたくさんついている。

 私と同じくらいの歳に見えるのに、結構偉い人なのかな……。


 ん? て言うかこの人。今私を街に案内するって言った?

 彼の説明のおかしい部分に気がついた私は、首を傾げる。


「え、じゃあ私、いきなりよくわからない任務を任されて、その挙句放流されるんですか? このまま王族が面倒みてくれたりとかはしないんですか?」

「残念ながらそういったことはないな……」


 平然と語るフリッツさんの言葉に私は愕然とした。


 うそ……。よくわからないけれど、私、一応、瘴気ってやつを祓ったんだよね?

 なのに、それ、無償なの? 王族のために力を使うこと自体が、名誉なことだから、無償労働は当たり前ってこと?


 ショックのあまり焼け炭のように頭からプスプス煙を出している私を見て何か不穏なものを感じたのか、フォローするようにフリッツさんが声をかける。


「もちろん、この後謝礼金は出すぞ! そのあたりの手当支給は決まっているからな」

「当たり前でしょ!」


 流石にただ召喚して、そのまま放置して、どうにか食い扶持は自分で稼いでね? ていう対応は、流石にないわ! 引くわ! ドン引きだわ!


 対価を払え、対価を!


 生まれてからずっと商売人として生きていた私。何かしたのに代金を貰えないのが、一番腹が立つのだ。


「と言うか、どうしてこの国の法は救世主であるはずの聖女に優しくないんですか⁉︎ 普通、世界を救ってくれた人には優しくするもんじゃないですかね……」

「実はだな……。これは前例の聖女様に基づいた制度なんだ。前回の聖女様は王城で保護しようとしたら、怒り狂って、城を飛び出してしまったんだ」

「えっ⁉︎」


 驚きすぎてひっくり返ったような声が出てしまった。

 聞くと、聖女様ってやつは、この世界の人間がもっていないような、膨大な力を持ち、王城も町もその気になれば破壊できるだけのパワーがあるんだって。


 前回この世界に召喚された聖女様は、気性の荒い野生動物のような人で、召喚後、王族の手厚いもてなし——という名の囲い込みに酷く反発し、王城の彼方此方を壊して回って、最終的には市井へと逃走したらしい。


 その経験から、異世界から来た聖女という生き物は総じて気性が荒く、自由を愛する生き物であるため、囲い込むことは難しいという認識が国中に広がったそうだ。


 ちなみにその聖女様は、溢れるその闘志から狩りを好むようになり、最終的に冒険者まがいのことをしていたらしい。


 前の聖女様! ちょっと! 何やってんの⁉︎

 テンプレ聖女のイメージ通り、大人しくしていてくれよ!


 ちなみにフリッツさんがいうには、隣国で召喚された前の前の聖女様も大変凶悪な人だったそうで、歴史書には『あの者は紛れもなく魔王であった』という一文が残っているらしい……。


 よりにもよってその気質の人間が、二人連続して召喚されてしまうって……。聖女って一体、なんなのさ!


 そんな戦闘狂達と一緒のくくりにされてしまっているのであれば、先ほど周りにいた人達の私を見る目が、どこか恐ろしいものを見るような戦々恐々としたものであったことも説明がつく。


 なるほど。だからさっき儀式会場にいた人たちは、困っているから助けてもらいたい気持ちはあるけれど、自分たちを攻撃されたら困るから、触らぬ神に祟りなし状態で足早に私の元を去ったんだな?

 だけど、ああもあからさまだと、こっちも嫌われてるのかと思うし傷つくんだけど……。


「それで、今後は聖女をお迎えする際にはその場で解散をさせたほうがいいのではないか……ということになり、皆、君の機嫌を損なわぬようさっさと王城へ帰っていったのだ」

「誰もが、戦闘狂だと思うなよ……」


 私は力なく呟く。


 ちゃんと最低限の説明くらいはみんながいる前でやってほしかった。もしかしたら、ここに一人残されたフリッツさんは聖女が怒り狂った際に、一人で場を収めるための捨て駒としてここにいるんじゃないか?


 だとしたら、かわいそすぎる……。


 そういえば、花屋の常連さんで、仕事の前任者がとんでもないシステムを組んで、転職しちゃったからそのシステムを引き継ぐのに苦労している……。なんて愚痴を聞いたことがあった。その時の私は「大変ですね〜」なんて言って聞き流していたけど、ほんと、大変ですね!


 ……今なら、心のそこから、同情できます。



今日は三時ごろ、五時ごろ、九時ごろ……と連続投稿をしていく予定です。

お付き合いいただけると幸いです。

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