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39 つむぐは混乱している!


 あの王女様に出会って、私は気が付きたくないことに気がついてしまった。今までも予感はあったのに、目を瞑ってしまっていたこと。


 私のお母さんが……昔この世界に来ていたんじゃないかって。


 例えば、お母さんも同じように事故にあったり、死にかけたりした過去があれば、こちらにきていたっておかしくない。


 初めはそんなことができるわけないって思っていたけど、よく考えてみれば私がこの世界に来る前にあった、女神様は一年経ったら、私を元の世界に返すことができるって言っていたのだ。


 女神様が確実にできる、と言ったということは、実例があるのではないだろうか。


 冷静に考えてみれば、箱庭や私たちが住んでいる花屋兼住居をはじめとした私たちの環境があんなに整っていること自体がおかしい。


 でも、もしお母さんが以前にこの世界に来ていて、ここに住んでいたなら。ああ、お母さんがこの環境を整えたんだなって、納得できることも多い。


 そういえば、私が小学生のころ、おじいちゃんに聞いたことがあったんだよね。


『お前の母ちゃんは昔グレてて、二十歳の時に家出をした。お前はその時にどっかの男との間にできた子供だ』って。


 おじいちゃんは、自分が関与しないところでお母さんがよそで知らない男と作った子供である私のこと、ぶっちゃけあんまり好きじゃなかったから、結構意地悪なこと言う人だった。

 でも、私はその冷たい視線に素直にやられるなんて優しいことはせずに、『はいはい。私のことがお嫌いなんですね』くらいに思って、聞き流していた。


 おじいちゃん私が中学に上がった頃に、ぽっくり死んじゃったからその話について深堀りする機会もなかったし。


 だけど、あれは本当の話だったのかもしれない。


 だって、お母さんの家出期間はこの花屋が以前開店していた期間と一致するんだもん。


 お隣のリンドエーデンのマダムは花屋に住んでいたのは『せーちゃん』というあだ名の女性だったと言っていた。


 お母さんの名前は千世子。


 大体の人はお母さんのことをちーちゃんと呼んでいたけど、中にはたまーに『せーちゃん』と呼ぶ人もいた。

 マダムは数少ない、せーちゃん派だったのかもしれない。


 となると……。私が考えていた可能性が、現実味を帯びてきてしまう。


 いろんな人の話から考えるに、私の父親って、この国の王様だよね……。


 父親だと仮定した上で、今までの王様の言動を思い返してみる。


 厳しい態度をとってみたり、かと思ったら家兼店になるような住居を使用する許可をくれたり。


 ——なんていうか、その感じ、長期単身赴任をしていた同級生の家のお父さんの様子にそっくりなんだよね。


 威厳は保ちたいけど、離れていた分甘やかしたいところもあって、そっけない態度をとっちゃうところとか……。


 もしそうだと仮定すると、王様はお母さんと別れてから、きちんとした結婚をして、お妃さまを迎え入れたんだから、先日お会いした王女様は……私の腹違いの妹ってことだよね。


 チャチャと暮らしていて、妹いたらこんな感じかなあ、と思いながら暮らしていたけれど、私にはリアルに妹がいたってわけか……。

 あんなに立派な大人である妹が。


 王女様って私が自分の姉だってこと知ってるのかな……。

 知っていたとしたら、あの教会で対面した日。

 彼女は何を思ったのだろう。


 ぐるぐるぐるぐる。

 考えていると頭が痛くなってきた。

 オエ……なんか気分も悪くなってきた。


 こんなこと考えても仕方ないよね……。


 ——よし、もうこのことを考えるのやめよう!

 私ごときが悩んでも答えが出ないことだもん!


 そうして私は、気持ちを切り替えるために、難しいことは記憶の底に沈めることにした。


 ようやく心が落ち着き始めたのは、教会に足を運んでから一週間がたった時だった。



 王女様に会う、なんてイレギュラーなことが起こっても花屋スノードロップの日常は続く。


 お店を開けて一時間ほど経った頃。カランとドアベルが鳴る。私は入り口に視線を向けた。


「いらっしゃいませ〜! ……って、あ! フリッツさん」

「つむぐ殿。前に顔を出してから少し日が経ってしまったが変わりないか?」

「ええ。お店の方も相変わらずです。……というか後ろの方はどなたでしょうか?」


 今日のフリッツさんにはお連れ様がいた。


 お連れ様は、細身のパンツスーツを着たため、男性かと思っていたが、よくよく確認すると、女性であることがわかる。

 女性はフリッツさんと似た色合いの紺色の長い髪を編み込むようにして、まとめていた。


 私はお連れ様の女性を見て、びっくりした。この女性は一際輝く容姿を持っていたのだ。


 一番視線を引くのは目だ。

 爛々と輝く、という表現がしっくりくる、輝きとパワーを感じさせる赤い目を持っていた。


 美しい人だ。

 ……すごく。私、こんな人と一緒にいたら、霞んで消し飛ぶ。


 フリッツさん、この女の人、誰ですか?


 何故だか分からないけれど、フリッツさんが知らない女性を引き連れているというシチュエーションを見ていると……私はどうしてか分からないけれど、呼吸がしづらくなった。



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