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結論から言うと、被害者となった2人の女子高校生というのは、私をいじめているグループの実質No1とNo2。
ずっと憎んでいた相手なのに、その事を聞いて初めての感情は、「嬉しい」ではなく、「可哀想」だった。涙は出なかったけど……彼女たちのために流す涙はない。
※※※
時計の短針が9に差し掛かった瞬間、昼間のカラス人間が挨拶もせず、私の部屋に入ってくる。窓ガラスをすり抜けて入って来るという荒技を簡単にやってのける。
「あれ、浮かない顔していますね? 願いは叶ったというのに」
そういう男の方は、私とは対照的に、総大将を討ち取った平武士のような表情をしている。
「ね、願い?」
「作業の完了報告に伺いました。おまじないは受理され、見事願いは叶えられました」
「ちょっと待って……やっぱりあれってあなたが原因?」
「ええ、もちろんでございますよ。とはいえ、私も今回そんなに手は加えていないのですが……」
「通り魔は私がご用意したものではございません。たまたまいた通り魔の怒りの矛先を彼女たちに変えただけですので、今回の私の仕事量は6割くらいですかね」
「……」
「私はいじめをやめて欲しいと言いましたが、その子たちを殺して欲しいとは願っていません」
「はい、そうお聞きしましたが……」
「殺すなんて、聞いてない」
「え~しかしながら、私もいじめをやめて欲しいとしか聞いておらず、方法の指示はありませんでしたので」
「そ、そんな……」
「逮捕された通り魔はこう答えています」
「『……誰でもよかった』」
「誰でもいいのであれば、世の中に害のある人間を殺していただきたい」
「家族のために毎日汗水垂らして仕事を頑張る会社員や、人々に勇気や希望を与えるアイドルと、仲間はずれや無視という行為により貴方を傷付けていた彼女たち……どちらの命が必要と言えますか?」
「……それは」
声には出さなかったが、前者だと思ってしまった私がいる。命の価値は実は平等ではない。金のあるもの容姿が端麗なもの人脈が広い人、そういう人の方が何かあった時に助けてもらいやすい。
「願いは叶ったのですよ、もっと喜ばなければ……」
「でも、私の願い、おまじないのせいで彼女たちが死んだと思うと……」
「何を言ってるんですか?」
「そもそも、人の願いや幸せというものは何をするにしたって誰かの不幸せの元に存在します」
「勝負事にに勝ちたいなんて願いも、その人が勝つためには敗者を作る必要がありますし、誰々と付き合いたいなんて願いも、その願いによって、叶わぬ恋をする者を生まないとは限らない」
「ですから別に、あなたが罪悪感にかられる必要はありませんよ。それに、先に手を出してきたのはあっちだ。やり返して何が悪いのです」
「いじめが原因で自殺する人間は少なくありません。彼女たち自身が人殺しになっていた可能性だってあります」
「彼女たちの行動はそれ程 罪なことなのですよ」
言ってることは間違っているはずなのに、男が教育者のように見えたのは、私が男の呪いにかかっているという証拠なのだろうか。
「死んでしまったものを生き返らせる能力はわれわれにはありません。どうあがいても彼女たちが助かることはありません」
「では、最後に1つだけ、聞きたいことがございます。亡くなった彼女たち2人を天国に送るか地獄に送るか、それをあなたに決めてもらいます」
「天国というものは文字通り天に登ったような、優雅で楽しい生活を送れます。対して地獄は、自分の犯した罪をじっくりとじっくりと理解させ、それ相応の罰を受けてもらいます」
「どちらにしますか?」
「選択肢はあなたの自由です。私たちは関与しませんので、あなたが決めて下さい」
「彼女たちを許せるのなら、天国を、許せぬなら、地獄にすればいいだけ、簡単なことです。どちらを選んだとしても、あなたの人生が大きく変わることはありませんので心配なさらず」
カラス人間のその質問に、私は迷うことなく、
「地獄」と答えた。