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高校からの帰り道、私は1人だ。
一緒に帰る友人はいない。そもそも友人なんて私はいないし、学校には私の居場所なんて存在しない。
そもそもこの世界に私の居場所なんてあるのだろうか。誰も、私のことなんて興味のないだろう。
私が、誰かの人生に影響を与えることなんてないだろう。
なんてことを考えながら1人歩いていると、
「ちょっと、君……」
「君だよ、君」
全身を黒で統一した男が私に声を掛けてくる。
「かなり、お困りのようですから、あなたの願いを1つだけ、叶えてあげましょう」
「何でもかまいません、君が望むなら地球を破壊したっていい」
普通ならこんなこと言われたら不審者か新手の勧誘だと思って距離を取るか大声を上げてこの状況を誰かに伝えるのだろうけれど、
私という人間に対して声を掛けてくれる、手を差し伸べてくれる人間が存在したことが嬉しくて仕方がなかった。
「へぇ~驚きました」
「私を見て驚かない人間は初めてです。私のようなカラス人間は、人々には驚かれ、気味悪がられ生きてきたのですが……人間の味方だというのにヒドイ話です」
言われてみれば、男の体臭は集められた生ゴミのような匂いがした。だけど、それ以外はカラスの要素は見当たらない。
「あなたの願いとは何でしょう? 1つだけですよ、1つだけ」
1つだけ……
普通なら
大金持ちになりたいや、イケメン俳優と付き合いたいって願い事のような非現実的なことをお願いするんだけど、私の場合は違う。
「願いは、いじめをやめてもらいたい!」
まずは、平和な現実を取り戻さなければならないのだ。
そう、私はいじめられている、現在進行形で。暴力を受けたり面と向かってからかわれるような「動」のいじめではなく、無視や仲間はずれにされたり、陰口をたたかれるような「静」のいじめを受けている。
後者は特に、いじめとして認定されづらい。自分からSOSを出さないと、いじめとして気付いてもらいにくい。
なんで私がいじめられているのか、理由は分からない。嫉妬されるほどの美貌でもなければ、彼女たちの気に触ることをした覚えもない。気付いたらいじめの標的にされ、いじめられていた。それまでは仲良くしていた子たちも、いじめが始まって以降、私に近付くことすらなくなった。
「いじめをなくしてほしいですね。かしこまりました」
「あの~私はお代を支払うべきですか?」
「代償とか?」
「お代……? 代償……?」
「それに関しては心配ございません。私はあくまで、私の正義を貫くために慈善としてやらせていただいておりますので、いただくことはございません。それに、悪を滅ぼすための願いであればこちらは大歓迎でございます」
それはよかったと思いつつも、男の笑い方が人を危める人間のような笑い方だったことだけは心に引っ掛かった。
慈善とかいって、本当は、寿命を引き換えに願いを叶えていたりして。代償ではありません。交換条件ですとかなんだ屁理屈言われて。
どのみちいいんだけどさ、長生きしたって、面白い人生を歩めるかは分からない。
生きた時間と幸せは比例しないから。
「では、最後におまじないを教えておきますね。このおまじないを唱えることであなたの願いは叶います」
おまじないについて事細かく説明を受ける。唱える言葉や仕草は1つたりとも間違えてはいけないという。
言葉は覚えづらいし、両手を使って行う仕草も1回で覚えられるようなものではなかった。
男がいうには、おまじないが難しい理由は、それほどの覚悟と決意が必要だがら。
「誰にも見られない場所で行ってくださいね」
「できればトイレやキッチンといった共有スペースよりは、自室のような、おまじないを唱える人自身を表すような場所の方がよいのですが……」
「部屋ならあります。中から掛けられる鍵もついてます」
「ではそこでお願いします。作業完了の報告のため、その場所に、本日21時以降に伺わせていただきます」