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寝転がっているベッドの横から男の低い声が聞こえる。
「こんばんは。私はカラス人間のペチルと申します」
その声の聞こえる方に体を向けると、上半身がカラス下半身。カラス人間という自己紹介が納得できる姿の生き物が立っていた。
「えっ? カラス人 ペニス?」
「違います。ペチルです」
「ペチルですか……」
夢だと分かっているからか、化け物みたいな姿をしているが所詮カラスだと思ったからか、理由は分からないが、声に出して驚きはしなかった。予想外すぎる姿の登場に心も体も追いついていないのかもしれない。
「あの~ ところで、僕に何か用ですか?」
「アハハハッ、アッハッハッハッ……」
「可笑しな話ですね……僕に用ですかって……あなたが私のことを求めたから私はここに来たのですよ」
「いや、求めてません。呼んだ覚えもありません。カラス……あんまり好きじゃないし」
「何を言ってるんですか~ 願ってたじゃないですか~ 死なせてください、死なせてくださいって……」
確かに、誰かに届くように「死なせて下さい」と願ったのは事実だ。だけど、こんなケンタウロスのカラス版みたいなヤツが来るとは思ってもいなかった。
「あなたが僕の願いを叶えてくれるって言うんですか?」
「……ええ、まあ……」
「じゃあ、やはり死神か」
____死神の横にカラスっているイメージ確かにある。ただこんなカラスが死神ってわけはないだろう。ネットで見た感じではもう少しカッコよかった気がする。
「言っておきますが、私は死神ではございません。私はカラス人間ですから」
「今日は、命の取り替えの相談にきました。
あなたの願いにぴったりだと思いまして」
「命の取り替え?」
「命の取り替えは難しいことでありません。私のようなカラス人間と、命を取り替える2人の人間が存在すれば必要な書類も必要な知識も必要な道具もありません」
「強いて言えば……お二人の同意? といったところでしょうか~」
「そういえば、あなたは、川城陽菜さんという人間をご存じですか?」
____川城陽菜……?
勿論、知っている。今大人気の注目の若手女優だ。演技だけではなく、モデル業に歌手業、オリジナルグッズの販売まで手掛けている凄い才能の持ち主だ。僕と同じ22歳で器用なこと。同じ歳で同じ人間とは思えないほど完璧すぎて時々、嫉妬することがある。
「知ってるよ、大人気の女優だし。今、知らないっていう人の方が珍しいと思うけど」
「へぇ~そうですか。ならよかった。話が早い……」
「その川城陽菜さんとあなたの命を取り替えて欲しいのです」
「よろしいですか……よろしいですよね? だって死にたいって言ってましたもんね?」
「ん?命を取り替える? 」
さっきはスルーしたが、何を言ってるのかよく分からなかった。彼女と命を入れ替えることが、僕の願いを叶えることと何が関係するというのか。
「川城陽菜さん、彼女はあと1日の命なのです。このままでは明日8時には彼女は死んでしまいます。死因は教えられませんけど、確実に死にます。いくら有名な女優さんだろうと、死は避けられないのです」
「しかし、彼女は、あなたの言ったように今や大人気の女優でファンも多いです。彼女が死ぬことによって悲しむ人たちはたくさんいるでしょう」
「彼女はこの日本において必要な存在です」
____川城陽菜が死ぬ……?
いや、死なないでしょ? 根拠はないけど、あれだけ有名になって、誰もが羨むような人生を送っている。そんな彼女が死ぬ?
あり得ないよ、あり得ない……でしょ。
「だから、変わって欲しいんですよあなたに……」
「変わる? どういうこと?」
僕が理解力がないからか、まだ、ペチルの言うことを理解できなかった。
「ですから、あなたと川城陽菜さんの命を入れ替えるのです。そうすれば、明日の8時に死ぬのは川城陽菜さんではなく、あなたになります。川城陽菜さんは、あなたが生きるはずだった期間を生きることができます」
「……つまり、僕が死ぬことで川城陽菜は生きることができるってこと?」
「はい……そういうことになります」
そう言ってペチルは微笑んだ。