7話 日常といないもの
更新します!
研究所で錬金術の実験をして帰ってきた翌日。
ボクは夏休み最後の敵である宿題を部屋でひたすらに片付けていた。
「たつ姉、そこ違う」
「え、どこ?」
「ここ」
傍らでボクの勉強を見てくれているのは現中学2年生の妹である水月である。
なぜ高校生のボクが中学生の妹に宿題を手伝ってもらっているのかと言えば、ボクが勉強ができないことと水月が頭が良すぎるから。
別に壊滅的なほどできないわけじゃないけれど水月に見てもらっていた方が進むスピードが圧倒的なのだ。
水月は頭の出来が本当に良くて、すでに高校卒業程度の知識や学力は持っているのだ。だからボクのやっている高校の宿題程度なら教えることもできる。
「……」
「朝陽、しっかりする」
「……もう、無理」
逆に勉強が壊滅的なのが、隣で机に突っ伏しているボクのもう一人の妹、朝陽だ。
「……もういいでしょ!?宿題は明日からやるからさ!今日はもうこんなにやったんだぞ!?」
そう言って学校から出されている宿題のテキストの今日やったページを摘まんで見せつけてくる。あの薄さだと多分2,3ぺージぐらいしかやっていないと思うけど。
「むしろ、あれだけ時間をかけて、これだけとか……これだから脳筋はっ」
「あっ!?いま鼻で笑っただろ!?たつ姉、水月がいじめる!?」
朝陽は本当に勉強が苦手だ。逆にスポーツとか運動は得意なんだけどね。さらに言うと水月は運動が壊滅的というか絶望的というか。
この姉妹は本当に運動か勉強かで両極端に振り切れているのだ。
ボクはその中間をとった感じかな?勉強も運動もそこそこで突出してできるわけではないって感じ。
「朝陽は真面目にやらないと本当に終わらなくなるよ?真面目にやんなさい。水月もいちいち朝陽を煽らないの」
「「はーい」」
基本的には素直でまじめな子たちなので、言えばちゃんと聞いてくれるし、本当にやらないとまずいって言うのも分かってる。
まあ、息抜きの軽いじゃれあいみたいなものでこの時期、というか長期休みの終盤になってくるといつも見受けられる光景だ。
「水月は宿題終わってるのに付き合わせてごめんね」
「ん、頼られるのは嬉しいから、問題なし」
そう言ってブイサインを作って見せてくる。
わが妹ながらほんとにいい子になってくれてお姉ちゃんも嬉しいよ。
「そういえば朝陽、またどっかの部活の助っ人頼まれたの?」
「おう!この間はソフトボール部だろ?その前はテニス部でその前がバスケ部だな!」
「そんななことばっかりしてるから、宿題が終わらない」
「う~確かにそうなんだけどさぁ。座っているよりも動いている方が好きなんだよなあ。それに頼まれたら断りづらくて」
うん。昔から運動ばっかりしていたけど、いつの間にやら様々な運動部に助っ人に行っては活躍しまくるような存在になってしまったらしい。
錬金術の検証に研究所のお邪魔してから数日が経過していた。
あと一週間もすれば夏休みも終わり新学期が始まる。ダンジョンの出現のため学校がどうなるか分からなかったが、どうやらボクの高校も妹たちの中学校も予定通りに再会することとなった。
そんな訳で、今は最後の追い込みをかけているわけだ。
「……よし。これで終わりかな?」
「何!?たつ姉終わったのか!?」
「うん。もともとそんなに残ってなかったしね。むしろ一週間前でそんなに残ってる朝陽の方がびっくりだよ」
「ぐふぅ……」
再びぐったりとした朝陽をしり目に喉を潤そうとコップに手を伸ばすが、中身は空っぽ。そういえばさっき飲み切ったんだっけ。
「ちょっと飲み物もってくるね」
「あ、お茶さっき作ったばかりだから、まだできてないと思う」
「あれ、そうだっけ?じゃあ水でいいか。氷入れれば冷たくなるし」
「氷もさっきので最後」
「……コンビニ行ってくるけど何か買ってくる?」
「「ハーゲ●ダッツ」」
「了解。ちょっと行ってくるね」
うちの妹たちはその能力こそ正反対だが、根本的は性格は意外とそっくりなのだ。例えば好物とか、さっきのアイスもそうだ。
という訳で近くのコンビニに行くために部屋を出る。
うちはボクが一人部屋で、朝陽と水月で1つ部屋を使っている。中学生だしそろそろ1人部屋にしようなんて話も、両親がしてみたこともあったけど特に今の部屋で不満はないそうなので、そのままになっている感じ。
さっきまで一緒に勉強していた部屋は2人の部屋だ。ボクの部屋だと3人入るにはちょっと狭いからね。
廊下に出ると熱気が全身を包んでくる。
8月も終わりに近づいてきたとは言え、やっぱりまだまだ暑い。そのまま下に降りていきリビングに入ると、ふわっと風が吹いてくる。
クーラーはつけていないが、窓が開いているので廊下よりかは断然涼しい。
リビングにいるのはローズだけ。お母さんは今日は仕事で会社に顔を出さなくちゃいけないとかで、朝から家を空けている。
ローズは台所で何かを作っているみたいだ。地上に出てきてここ数日で色々な料理を知った結果、料理にドはまり中なのだ。
「二人ともちょっと買い物行ってくるけど、何か買ってくものある?」
「あ、龍希さん~。勉強は終わったんですか~?」
「うん。朝陽はまだやってるけど、ボクの方は終わったよ。それで冷たい飲み物でも買って来ようと思って、ちょうど氷も切らしてるみたいだし」
それにしてもよくこんな暑い中、クーラーもつけずに料理なんてしていたものだ。ただでさえ暑いのにキッチンの近くはさらに熱気が来る。
「お願いします~。あと、特に買ってきて欲しいものはありません~」
「了解~。それじゃあ行ってくるね」
結局聞かなかったけど、何作ってたんだろう?
ローズの上達っぷりはかなりの速度で、たった数日のことなのに我が家でずっと料理をしてきたお母さんに迫るものがある。
取り合えず買うものはジュースとアイスだけでいいかな。
そういえばボールペンのインクも切れてたっけ?あのメーカーの詰め替え用のインクって打ってたかな?
コンビニは本当に近所にあるので歩いて5分程度で到着する。
アイスとジュースをとって、ささっと会計を済ませる。ハーゲンダッ●の味はストロベリーとグリーンティーの2つ。ストロベリーが朝陽で、グリーンティーが水月だ。
ついでにボクもチョコレートを買っていく。
あ、インクもあったからついでに買っていく。
帰り道はちょっとだけ遠回りして帰る。研究所に行って以来勉強に追われて外出していなかったので、あの公園がどうなっているのかずっと気になっているのだ。
家とは反対方向になってしまうけど、そんなに距離があるわけではないのでちょっと見に行くことにする。
近くに来ると、物々しい感じの迷彩柄の車とかパトカーとかが公園の周囲に複数台止まっている。
中が見れない様にブルーシートみたいなので公園をぐるっと囲んであって、等間隔に人が配置されていて、まさに蟻一匹通さないって感じの態勢だ。
これなら間違っても近所の子どもとかが入ったりするようなことはないと思う。
こんなことをボクが心配するのも偉そうというか変なのかもしれないけど、ダンジョンの危険とか怖さを知っているからどうしても気になってしまうの。
ひとまずこれなら大丈夫そうだなと思い、アイスも溶けるからそろそろ帰ろうと思っていると幕の向こうから誰か出てきた。
その顔を見て、どこかで見たことあるような顔な気がすると思っていると、向うのこっちに気が付いたのか視線が合う。
するとその人は驚いたような表情をしたあと、こっちに近づいて来た。
まずい。多分向うはボクのことを知っているんだと思う。でもボクの方はいまいち思い出せない……!
そんな気まずい空気を感じていると、相手の人が目の前にやってきてしまった。
近くで見ると、凄い大きい人で身長なんてボクの倍ぐらいありそうな感じもするし、来ている服がピッチピチになるぐらいムキムキな体をしている。
……なんかこのムキムキ見覚えがあるような?
「お久しぶりです、柊龍希さん。今日はどうしてこんな所へ?」
「ええと……」
ボクが言葉に詰まっていると、筋肉さんは何かを察したのかははっと笑い出す。
「覚えていませんかな?緑光ダンジョン研究所で柊さんのスキルの試運転にお付き合いしたものです」
「……あっ、遠藤さん!」
思い出した!前にスキルの出力調整に失敗してぶっ飛ばしちゃった人だ!
そう言えばこの間、サブダンジョンから戻ってきたときにも会っていたはずなのに、すっかり忘れてた……
何度もお世話になっている人なのに忘れていたなんて。
ちょっと自己嫌悪に陥っていると筋肉さん、もとい遠藤さんが気にするなと笑ってくれた。
「それだけ最近の出来事が柊さんにとって濃密だったのでしょう」
「あの……本当にすみません」
「気になさらないでください。ところでお買い物の帰りですかな?」
「あ、はい。その帰りにここのダンジョンが出現したって聞いて。それで気になってきてみたんです」
「なるほど。確か柊さんのお住いは近くでしたな。見ての通り、まだ攻略には至ってはいませんが今も我が部隊が攻略を続けています。私も先程まで潜ってしましてな。ついさっき戻ってきたところです」
「そうだったんですね。お疲れの所すみません」
「なんの。見知った顔があったものですから挨拶にと。とりあえずここに関しては我々でも攻略はできそうです。出てくる魔物もそこまで強くないですので。近いうちに終わると思いますよ」
ボクの入ったユニークダンジョンは通常よりも魔物が強かったけど、逆に弱いパターンもあるのかな?
こんな時にアインがいればすぐに聞くこともできたんだけどな。
「あれ、でも遠藤さんたちって隣街のダンジョンを攻略しているんじゃなかったでしたっけ?なんでこっちに出現したダンジョンを攻略してるんですか?」
「おや、ご存知ありませんでしたかな?現在ここら一帯を担当している緑光ダンジョンを攻略しているチームが別のダンジョンに派遣されたので私たちがこちらに来たのですが」
ああ、そういえばそうだった。
確か県外にある今まで見つかっていなかったダンジョンで、攻略がひと段落している緑光ダンジョンのチームが派遣されたんだっけ。
「日高さんたちから聞いています。それで遠藤さんたちが来てくれたんですね」
「そうです。私どもが担当しているダンジョンはまだまだ深そうで、住宅街に出現したこちらのダンジョンの方が優先度が高いという判断ですな――っと!申し訳ありません。そろそろ戻らねばいけない時間です」
「あ、お話ありがとうございました!」
「いえいえ、こちらもいい気分転換になりましたから。それでは」
「はい。ダンジョン攻略頑張ってくださいね!」
遠藤さんは一礼すると公園の方に戻って行った。
「…アイス溶けちゃうし早く帰らないと」
触ってみると半溶けぐらいな感じだったので急いで帰った。
やろうと思えば屋根とか塀の上を走ったりする超人的な機動もできたりするんだけど、見られたりしたらまずいのと、それをすると踏み込んだ場所が陥没するのでやらない。
それを防ぐような魔法をも無属性魔法にはあるらしいんだけど、まだまだ練習不足なので魔法自体ほとんど使えないし。
可能な限り急いで帰ってくると、玄関を潜った瞬間からなにやら甘い匂いが漂ってくる。
多分ローズが作っていたのが完成したのかな?
「ただいまー」
「おかえりなさい龍希さん~。ちょうどいいところに帰ってきましたね~。たったいま完成したところです~」
「ただいま。完成ってさっき作ってた料理のこと?すっごくいい匂いがするんだけど何作ってたの?」
ジュースはどうせすぐ飲むのでテーブルに置き、アイスだけが入った袋をもってキッチンに行く。
近づくだけで甘い匂いが強くなっていくが、くどい甘さという訳ではなくほどよくいい感じ。
「これです~。プリンを作っていました~」
「へぇ、どれどれ……でかっ!?」
プリンというからよくある小さめの瓶ぐらいのサイズかと思って覗いてみると、大皿の上にドカンッとかなり大きめのはずのお皿いっぱいのプリンが乗っかっていた。
一昔前に話題になったバケツプリンみたいな感じ。
「え、これ食べていいの?全部食べていいの?」
「いいですよ~?ちょうど勉強で疲れているであろう3人のおやつにと作ったものなので~」
「やった!そろそろ休憩するだろうし2人呼んでくるね!」
すぐに2人を呼んできておやつタイムにする。
下に降りてきたときは瀕死の状態にようだった朝陽はプリンを食べたとたんに元気を取り戻し、すでにお代わりもして山を崩しにかかっている。
水月は表情には出にくいけど、目じりが緩んでいるのでかなり喜んでいるのが分かる。
「そういえば、アインとルビーは大丈夫なのか?」
「大丈夫だと思うよ。ルビーは強いし、アインは頭良いし」
「そうですね~。ルビーさんだけでもこの間の進化でかなり強くなっているの上に、アインさんも一緒に行ったとあれば過剰戦力にもほどがあるってかんじですかね~」
「そういうもの、なの?」
「水月も朝陽もボク達が戦っている姿なんて見たことないもんね。二人とも頼りになるんだから!」
朝陽が不意にプリンから顔を上げるとそんなことを言う。
今日、家にはアインとルビーはいない。正確には今日からではなく、数日前、ちょうど錬金術の実験から帰ってきた翌日。
突然日高さんや斎藤さんたち自衛隊の人が家を訪ねてきたのはその日だった。
いかがでしたでしょうか?
面白いと思ってくださったらブックマーク登録お願いします!
私のモチベーションが上がります!




