2話 剣をつかうのも結構ありかも
連日投稿だぁぁ!!
久しぶりの感覚に身を包んで道場に向かう。
千夏の家は道場の裏手にあり、渡り廊下で繋がっている。それからも分かる通りこの家は結構大きい。武家屋敷、とまではいかないけど小さい頃はよくかくれんぼとかをしていた。
渡り廊下の辺りまで来ると向こうから気合いの入った掛け声が聞こえてくる。
放課後の学校で武道場の近くを通りかかるとよく聞こえてくる言語化不可能な叫び声とは違って『はっ!』とか『せいっ!』とかの動きと共に出た声というかそんな感じ。
「……なんだか懐かしい感じがする」
「そりゃあ小学生の頃以来だからね。あたしもこっちに戻ってきたときこの声聞いてなんか安心したもん」
「それにしても結構たくさん来てるんだね。昔通ってた時はそんなに大人数じゃなかった記憶がるんだけど」
「ああ、この間まではそれぐらいだったんだけどね。ほらダンジョンが出現してから急に増えたんだよ。自分の身は自分で守りたいって人とか、いざって時に役に立ちそうだからとかそんな感じの人が多い感じかな。まあ中には剣に関するスキルを手に入れて強くなったと勘違いした人が来ることもあってけどね」
「……ちなみにその人たちはどうしたの?」
「ボコボコにしてお帰り願った!」
「おおう……」
道場の入り口は開け放たれているので外からも中の様子が見ることができる。
中にいるのは大体20人ぐらいで、その人たちが一斉に竹刀を振るっている。その度にブオンブオンと空気を切るような音が聞こえてくる。
その人たちの先頭で直立不動で腕を組んで立っている人が一人。
白髪をオールバックにした目つきの鋭い男性が視線は真っすぐに、だけど全体を見ているような感じでその場を見ていた。
ふいとその人の視線がこちらを向く。
「千夏と、龍希ちゃんかのう?そんなところで何をやっておる?」
これまた渋いわりによく通る声で少し離れた位置にいるボク達のもとまで声が聞こえてくる。
「龍希が来てるのよく分かったね。ちょっと体動かしたいからそこの隅の方使わしてもらっていい?」
「構わんぞ。獲物はそこにあるものを好きに使うといい……注意を逸らすでないっ!剣に集中しろ!」
ああ、ボク達が急に道場に来たからそれでこっちに注意がそれたのか。
すみません。
千夏のお祖父ちゃんの鏡大次郎さん。
ここの道場で教えている……何だっけ?何とか流の武術の師範さんで、その界隈の人達の中でも結構な有名人、らしい。
昔あった時とほとんど変わっていないような気がするけど、やっぱり体を鍛えてるからなのかな?
「じゃあ準備運動したら始めようか。龍希は剣でいいよね?」
「うん。というかそれしか使ったことないしね」
道場は結構広くて、すでに20人以上の人がいるにも拘わらずまだ余裕がある。学校の体育館ほどではないけれど、それの半分ぐらいかな?
うん。やっぱり広いと思う。
ボク達がいる隅っこの壁には大次郎さんが言っていた獲物、武器が置いてあり木製の刀や薙刀、槍っぽいの、さらには刀も長いのから短いのまで色々おいてある。
ボクがここに通っていた頃は主に竹刀と木刀しか使っていなかったから他のものは使えないしね。
軽く体を解してお互いに構える。
千夏が使っているのもボクのと同じような木刀。多分長さも一緒かな?
「そうだ。その眼鏡、視力とかに関係ないんなら外した方がいいよ。視界が狭くなるし」
「ああ、そうなんだけどね……?」
眼鏡、つまりアインにはボクのスキルである<食の加護>の制御をしてもらっている。ただでさえうまく扱えていなかったのにこの間のダンジョンでレベルが上がってしまったせいでさらに難しくなってしまった。
寝ているときとかは大丈夫なんだけど力んだり、力を入れようと意識したりするとふかしすぎてしまうことがあるのだ。
これがダンジョンの魔物とかならいいんだけど、さすがに人間相手にはまずい。
「やっぱりこのままでいいや」
「?龍希がそれでいいならいいんだけど……それじゃあ始めよっか」
お互いに正眼に構える。
合図は特に無しで、お互いが静止したら後はいつでもどうぞな感じだ。
「ふっ!」
最初に仕掛けたのは千夏。
一気に距離を詰めて袈裟切りに木刀を振りおろす。その軌道にそって木刀を置くことで流すことで躱す。
そのまま振り下ろそうとするが、素早く木刀を引き戻して防がれる。
「ちょっと千夏早すぎない!?」
「龍希こそ初手で終わると思ったのにっ。防がれるとは思わなかったよ」
つばぜり合いの中で言葉を交わす。
お互いにいったん離れて距離を取り仕切り直し。
今度はこっちから切り込んでいく。一回一回振るごとに昔の感覚を取り戻していくような感覚と、記憶にある自分よりももっと動けているような感覚がある。
どうしたらもっと早く、効率よく相手よりも早く出せるかとか足運びとかが不思議と分かってくる。その感覚の通りに動きを変えていく。
気が付くと全身汗びっしょりで千夏の頭上で木刀を寸止めしたところで止まっていた。しかし、ボクの首の辺りには千夏の木刀が置かれている。
「引き分け、かな?」
「そうだね」
それを合図にお互いに力を抜き木刀を下ろす。
見れば千夏も汗びっしょりで後ろにあった時計を見ると5分も経過していなかった。お互いにどれだけ集中して打ち合っていたかが分かる。
「それにしても全然なまってないじゃん。それどころか前よりも動きいいよ!」
「運動は欠かしていなかったからね。千夏も凄かったよ。途中から受けるので精いっぱいだったし、後半だって引き分けに持って行けたのも偶然で」
「そりゃまあ毎日練習してるからね。これでもあたしこの道場ではお祖父ちゃんの次ぐらいに強いんだけどね……そんなあたしの打ち合える龍樹の方が凄いっていうかどうなってんのって感じだけど!?」
「直感、かな?」
「そんなどや顔で言われてもねぇ。まあ確かに龍希は昔から勘がよかったけどさ?」
1試合しかやっていないのにも関わらず体にはかなりの疲労が溜まっている。一方で頭の中は妙にすっきりしているのが不思議だ。
なんと言ったらいいのか……あれだ、シャトルランをした後みたいな感じに近いような気がするようなしないような?
とにかく疲れてきたので壁にもたれかかって座る。
同じように千夏もボクの隣に座り込む。
「それにしても龍希の反応おかしかったなー」
「ん?それって?」
「何というか妙に絶対に反応できないと思ったところで凄い速度で反応してきたり、続ければ続けるほど動きが最適化されていくというか……凄い速度で成長していた、みたいな?」
「そういえば……?」
確かに千夏と打ち合っていて体をどう動かせばいいのかとかが分かってくるような感覚があったような気がするけど。
そういえばどうしてなんだろう?
アインは何か分かる?
『恐らくスキルのせいですね』
スキルってまた<食の加護>のせいってこと?
『いいえ、そちらではなく<超直感>が原因ですね。このスキルは周囲の物事だけでなく自身にも向けられます。なんとなくこう動かせば上手くいきそうというのが分かったりと、まあ便利なスキルなわけです』
ふむ……
「多分スキルのおかげなのかな?なんか勘がよくなるみたいなスキルなんだよね」
「うーんそれだけだと説明できないようなきもするんだけど……まあいいや。どうする?もう一試合ぐらいしとく?」
「う~ん。そうだなぁ、ちょっと楽しくなってきたところだからもう少しやろうかな?」
「よし来たっ!それじゃあやろうか!」
よっこらと立ち上がりさっき立ち会った場所まで歩いて行きお互いに向かう。
そしてどちらかともなく踏み込み木刀を打ち合わせた。
結局その後1試合どころではなく5試合もしてしまい、もうへとへとになった。
ボクも千夏も疲労のあまり道場の床に突っ伏してしまっている。
最終的な結果はボクが3勝で千夏が2勝でなんとかボクが勝ち越した。後半は完全に集中力が切れてしまい続けざまに負けてしまったのだが、逆に千夏はやればやるほど集中力が上がっていき後半なんて、もう本当にすごかった。
「……もう立てない」
「……あたしもぉ。さすがに調子に乗りすぎたかもしれない」
「……」
「龍希ぃ寝るなよぉ~そろそろお昼時だからシャワー浴びたらお昼ご飯にしよう」
「……ごはん、食べる」
「おおう、食欲が勝ちますか。さすがですわ」
という訳で軽くシャワーを済ませて、鏡家の面々と一緒にお昼ご飯を頂くことにする。
ちょっと図々しいかとも思ったけれど食欲には勝てなかったよ……
座敷用の長いテーブルが和室の一室に置かれており、それを囲むように座るのがボクと千夏、それから大次郎さんと、春子さん、和沙おばさんの5人だ。
春子さんが大次郎さんの奥さん、千夏のお祖母ちゃんで和沙おばさんが千夏のお母さん。ちなみにここは千夏の母方の祖父母の家なので和沙おばさんの実家でもある。
「それにしても龍希ちゃんも一緒にご飯を食べるなんて本当に久しぶりね。昔は稽古終わりはよく食べてたものね」
「そうねぇ。いつも凄い食べっぷりだから張り切って作っちゃったものね」
「お母さんもお祖母ちゃんもダメだよ。食べてる最中の龍希に話しかけても食べることに集中して聞いてないから。それに早く食べないと全部食べられちゃうよ?」
メニューはそうめんと山盛りになっているかき揚げたちだ。
さっき汗をたくさんかいたからか、無性に味の濃いものが欲しくなる。濃い目に割った麺つゆにかき揚げを浸して食べるとこれまたうまうま。
さらにそうめんをすすっていく。
もぐもぐ……もぐもぐ……
さくさく……さくさく……
「相変わらず凄まじい食欲ねぇ。あれだけあったそうめんもかき揚げもあっという間になくなちゃったわぁ」
「ほんとにこんだけ食べてるのになんで大きくならないんだかね。その栄養はいったいどこに行ってるんだ?」
「……ごくんっ……失礼な。ボクだってちょっとは大きくなってるよ!千夏だって身長はそこまで変わってないじゃん」
「いやいやあたしは成長が早い方だったでしょう?今でも平均よりもちょっと大きいぐらいだし」
確かに千夏は小学生の頃から背が高くて背の順で並ぶといつも後ろの方で、今ではそこまで際立つほど大きいとは感じないけどバランスというかスタイルはいい。
……栄養は足りているはずなのにこの差は何なのか。
「そいえば龍希ちゃん、ダンジョンっていうのに巻き込まれたんでしょう?大丈夫だったの?」
和沙おばさんがこちらを気遣うような表情で聞いてくる。
一般にはダンジョンについてそこまで多くの情報は流されていないはずだけれど、魔物という怪物がいることと危険だから近づくなということだけは知らされている。
「うん、何とか大丈夫だったよ。特にケガとかもしなかったしすぐに助けも来てくれたし」
「そうなの?……うん。確かに怪我とかはなさそうね。良かったわ。でも怖くなかった?怪物がたくさんいたんでしょう?」
「うーん、特にそんな感じはなかったかな?何か美味しいものもあってそっちの方が記憶に残ってるかも?」
「えっ……?龍希ダンジョンにあったもの食べたの?聞いてないんだけど?」
「あれ?言ってなかったっけ?うん、リンゴっぽいのとかマシュマロっぽいのとか色々と」
最初に食べたホーンラビットの角が見た目に反してマシュマロみたいに柔らかくなって美味しかったし、魔物のお肉とか葉っぱとかリンゴとかどれもこれも美味しかった。
アイン持ち込みの非常食もそこそこ美味しかったけど、ダンジョン産の食べ物に比べれば全然だった。
「だって龍希食べられるものなんて見分けられないでしょう?よく食べようなんて思ったね……」
「だって美味しそうだったからつい……」
鏡家に面々の呆れたよう視線が痛いよ。
さすがにボクも何も分からないものは食べるつもりはなかったけど、アインが調べてくれて食べられるって分かったものだったから!
でもそれをいう訳にも……!
「まあ、龍希なら酷いことにはならないだろうけどね。前に山菜狩りに山に行ったときに本能的に食べられる野草とキノコを拾ってきたしね。うん、そこに関しては信用できるんだよね~」
ああ確かにそんなこともあったようななかったような……やっぱり覚えてないかも。
「それにしても物騒な世の中になったもんだのう。ご近所にダンジョンが出来たかと思えば、半年後にはそこから魔物も出てくるそうじゃないか。全くやらかした輩の顔が見てみたいわい」
「そうねぇ。お国さんも詳しい方針がまだ立っていないみたいだし、半年後にはどうなっちゃうのかしらねぇ」
「まあ今はできることをやるまでだな。危機意識の高い者は自分も戦えるようになりたいとこの道場に通うよう者も出始めた。儂らもいざという時が来てしまったときのために鍛えておかんとな」
そういえばあと半年もすればダンジョンから魔物が出てくるはずだ。星の意思の声が嘘を言っているのならその限りではないけれど、その可能性はほとんどないと思うしね。
でもちょっと情報が少なすぎる気もするんだよね。
実際にボクもダンジョンは攻略したけどそれでダンジョンから魔物が出てこなくなったのかも分からないし、出てきたとしてどれぐらいの規模でどらぐらいの強さの魔物が出てくるのかも分からない。
もしかしたら日高さんや坂井さんな知っているかもしれないし聞いてみよう。
ちょうど午後に緑光ダンジョンの研究所に行く用事もあるからね。
「それじゃあボクもしばらくここに通おうかな」
「うむ。それも良しであろうな。先程の千夏との試合を見たところ龍希ちゃんは剣よりも体の動かし方を学んだ方がいいと感じたのでな。直感的に瞬間における体の動かし方は素晴らしいの一言だが、次の行動に繋げる効率がよくない。そこら辺を学んでいくのがよいだろう」
「ありがとう大次郎さん。じゃあ千夏もしばらくは付き合ってね」
「任せて!あたしもちょうど相手が欲しかったところだしね。お祖父ちゃんは強すぎるし、門下生だと微妙に弱いから龍希が相手になってくれるのはむしろこちらからお願いしたいぐらいだよ!」
千夏のところの道場に通うことになった。
今後もダンジョンに潜る予定ではあるし、少しでも強くなっておきたいからね。
いかがでしたでしょうか?
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