9話 見た目的にセーフでも内心はアウトです
ひとまずの問題が解決したところで、話し合いは続く。
「スライムさん、先程おっしゃっていた制御のための訓練とはどのようなことをする予定なんですか?」
「……(それなら、私の能力を使って実戦で覚えてもらう予定よ)」
「能力?実戦?」
「……(実際に見てもらった方が早いわね。ちょっと見てなさい)」
坂井さんの疑問に対し、スライムちゃんがお母さんの膝の上から答える。
すると、スライムちゃんがもぞもぞと動き始めたかと思うと、なんと二つに分裂し始めたのだ。
分裂と言ってもスライムちゃんの大きさからみれば、その半分もない程度の小さなものだ。それが、ひとりでに跳ねてテーブルの上に乗っかるとグニョングニョンと変形する。
それが、ボクが潰したタンブラーと同じような形をとり少し経つとピンク色だった体が完全にタンブラーと同じような色、形に固定される。
「……(龍希、それ触ってみて)」
「う、うん……え、金属?」
もともとはスライムちゃんの一部からできていたはずなのに触ってみると、完全にさっきのタンブラーと同じ感触なのだ。
本物のほうも手に取って見比べてみるが、違いが全く分からない。
「龍希さん、それちょっと見せてもらえませんか?」
「は、はい、どうぞ」
「……―――うん、全く見分けがつかない。スライムさんこれはいったい……」
「……(それは私の能力の一つで<分裂>を応用したものよ。分裂したときにそれに龍希が潰したコップの情報を渡して完全にそれになるようにしたのよ。解析については得意じゃないから眼鏡ちゃんからもらったデータを使っているけれどね)」
「そ、それはつまりスライムさんがいればどんなものでも作ることが可能……ということですか?」
「……(理論上はね。と言っても渡す情報が多いとそれなりの魔力を使うから複雑なものは難しいけど。それに情報があることが前提だから眼鏡ちゃんなしじゃ無理よ)」
『いえ、これはスライムちゃんの特殊な進化が大部分を占めていますから。スライムちゃん以外のスライムにこれをやれと言っても不可能でしょう』
なんかすごいタッグが誕生してしまっている気がする。
情報と魔力さえあればなんでも作れちゃうスライムちゃんと、その情報を提供できる眼鏡ちゃん。
すごいね!
「とは言っても、この能力でどうやって特訓なんてするのかしら?」
「あ、私もそれは疑問です。確かにすごい能力であるのは分かりましたがこれをどう利用するのでしょうか?」
「……(それは眼鏡ちゃんからもらった魔物の情報からちょうどいい強さの魔物を作って加減の練習をするの。実際に体を動かしてやった方が龍希の場合は覚えやすいでしょうしね。超直感のスキルもあるし)」
「……なるほど。それができるなら確かに有用ですね。というよりもスライムさん以外の魔物を見たことがないはずの眼鏡さんが他の魔物の情報を持っていることも驚きですが」
『まあ、それは私ですので』
「と言ってもそんな訓練を表でやるわけにはいかないでしょう?ちゃんと考えてあるの?」
訓練を受ける本人が完全に蚊帳の外に置かれているような気がする。
訓練の場所、魔物のコピーみたいなのを出しても問題ない場所ってことでしょ?そんな場所ある?
『問題ありませんお母様。
坂井さん、ご相談なのですがここの施設をマスターの訓練に使わせていただけないでしょうか?もちろんただでとは言いません。私からダンジョンに関する情報提供、及び現在ダンジョン内で確認されてあなた方が保管しているアイテム類の鑑定をしましょう』
「ぜひお願いします!!」
『はい、交渉成立ですね。
という訳でマスター。今後マスターの訓練にはこの施設を使わせていただくことになりました。お母様もいかがでしょうか?』
「うん、ここなら安心ね。よくやったわ、眼鏡ちゃん」
話がさくさく進んでいく。
とりあえず訓練に関してはここでやることに決まったらしい。
『ああ、忘れるところでした!マスター、もう一つ今のうちにやっておきたいことがあるのですが』
「うん?なにかあったっけ?」
『マスターの持っている変身のペンダントに初めから登録されていた<姫の鎧>というものがあったと思うのですが、あれを着ていただけないでしょうか?あれに関しては今の状態では私でも解析が不可能ですので』
「あ~そんなのもあったね。分かったよ、ちょっと待ってね」
立ち上がって、テーブルから一歩離れる。
さっきジャージから着替えたときにもそうだったんだけど、着替えるときに妙に派手なエフェクトが発生するから離れる必要がある。
「それじゃあ、『変身』!」
<姫の鎧>は見たことがないので、ペンダントに<姫の鎧>に着替えたいと思いを込めながら言う。
すると、ペンダントを中心としてボクを包み込むように光が発生し衣装が一瞬で切り替わる。
周りから見ている人からは中は、光が消えるまで見えないのだそうだ。
地味に便利な配慮である。
「……っ!?ちょっと龍希、その衣装っぷふ!」
「い、いえ、龍希さんは見事に着こなせているではないですか……ぷっ」
「そ、そうね。似合ってるわよ?……っ」
なんだかお母さん、坂井さん、日高さんの反応がおかしい。
衣装がそんなにおかしかったのだろうか?でも鎧って書いてあったからそこまで変なものは出てこないと思うんだけど?
自分の体を見下ろしてみる。
二の腕から手首のあたりまでを覆ている布。胴体部分とは独立しているようだ。さらに手には白いフリルのついた手袋。
胴体部分は、肩が露出しておりデザインはセーラー服に近い感じがする。
下はふりっふりのスカートと膝のあたりまであるブーツになっている。
全体的にピンクと白で統一されている。
……これ、完全にアニメとかに出てくる魔法少女とかが着ている感じの衣装だよね?日朝とかにやってるやつとか。
「なにこれ!?なにこのふりふりの衣装!?」
「大丈夫!たつ姉の体型ならむしろ似合ってるよ!」
「え、褒められてるのに嬉しくないんだけど……」
「……たつ姉、可愛いよ?」
「……うん、ありがとう」
高校生にもなってこんな衣装を着ることになるとは思わなかった……確かに見た目で小学生に間違われたことはあるが……
……ボク、そんなにちっこいかな?
「眼鏡ちゃん。もう、脱いでいいかな?」
『はい、解析は完了したので問題ありません。解析の結果も今の状態では特に効果のないものでしたので』
「……『変身』」
再びボクの体が光に包まれると、衣装が一瞬で切り替わりさっきまで来ていた服に切り替わる。
衣装の登録に関しては解除も自由にできるのてきとうな服を登録しても後で解除すれっばいいから問題ない。
「うう……ひどい目にあった……」
「まあまあ、可愛かったからいいじゃないの!また今度着て見せてよ」
「絶対にいやだ!二度と着るもんか!」
謎の衣装の件も明らかになったのでこの件に関しては終了。というか、あれが鎧ってどこの国の姫様なんだか。勘弁してほしい。
これにて話し合いも終わり、この研究所での用事は終わったことになる。
ただ、戻る前にここの研究所の人たちに顔合わせをしておく。最初に入った会議室にいた人たちとそれと同じぐらいの人数が実験場に集まってきてボクと顔合わせをすることになる。
今のところどれぐらいの頻度でここに訓練をしに来るのか分からないけれど、お世話になることになるので挨拶をしておく。
「と、いう訳で彼女、柊龍希さんがこの施設を定期的に使うことになったから迷子の子供と勘違いしないように!いい!」
「「「ひゃっほー!!可愛い女の子だぁ!!!」」」
「ま、こんな奴らけれど悪いらつらじゃないからよろしくお願いします。これでいつでも来てくださっていいですからね?」
「あ、はい。よろしくお願いします」
すごい集団だった。
その後、病院の方に戻って機能の検査結果についての話があったが特に問題なし。
いたって健康で、どこにも異常はなし。であったので、明日には退院できることになった。
「龍希、ちゃんと荷物はまとめておくのよ?明日、朝には迎えにくるから」
「分かってるよ。荷物って言っても着替えぐらいだし、すぐに終わるって」
「しっかりね?それじゃあ、私たちは帰るからね」
「うん、みんなまた明日」
いったん病室に戻って一息ついたところでお母さんたちは帰っていった。
病室に残ったのはボクと日高さんだけ。
「じゃあ私も今日の報告をまとめなくちゃいけないから、何かあったらちゃんと呼ぶのよ?」
「ありがとうございます……あの、日高さん」
「なあに?」
「……もうダンジョンに行くことってできないんでしょうか?」
「それは、どうして?」
ダンジョンはとても怖い場所だった。それこそ命を失いそうになるぐらいには。
普通だったらそんな怖い場所にまた行きたいなんて思ってしまうことなんておかしいのかもしれない。
だけど、怖いことばかりではなかった。ワクワクもしたし、ドキドキも。そして大事な友達もできた。
「女のボクがこんなこと言うのもあれですけど、ダンジョンでの冒険が凄く楽しかったんです」
―――瞼を閉じれば、宝箱を開ける瞬間だったりビックスライム、エンペラースライムっていうんだっけ?との戦いも鮮明に思い出せる。
「怖いこともたくさんあったし、痛いこともあったけど」
―――その光景を思い出すたびに胸が躍る
「楽しかったんです」
―――また行きたい
「それに魔物が外に出るようになった時のために家族を守れるぐらい強くなりたいんです!」
「……そうね。おそらく国はダンジョンを民間へと解放すると思うわ。それも遠くない話。だからまた行ける機会はきっとくるわよ」
「……!」
「それに、私も冒険は大好きなのよ?別に変なことではないわ」
「日高さん……!」
「それで龍希ちゃん、残りは?」
「えっ?」
「今のも確かに本音なんでしょうけど、まだ理由の半分くらいよね?」
「な、何のことでしょうっ!?」
「私、そういうの見抜くの結構得意なのよ?」
「……そ、その美味しいものがいっぱいあるかなって。眼鏡ちゃんが言ってたんですけど、魔物のドロップアイテムって食用可のものは大抵美味しいらしいんですよ!そんな場所また行ってみたいじゃないですか!」
「……さ、さすが龍希ちゃんね……いいわ。私から龍希ちゃんがダンジョンに潜れるように相談しておいてあげる。ダンジョン攻略者が言ってるんだからきっと通ると思うわよ」
「ありがとうございます!」
「ただし!ご両親の許可はちゃんととること!これが条件よ」
「分かりました!ちゃんと説得して見せます!」
それを聞き届けると日高さんは手を振りながら病室を出ていった。
これでお母さんたちを説得できればまたダンジョンに行ける。
ちょっと楽しみになってきたかも。
〇・・・・・・・・・・・・〇
翌日
退院の手続きはすでに住んでおり、両親の迎えも来ていたので病室で両親の説得中だ。
「お願い!ボク、またダンジョンに行きたの!」
「いいわよ?」
あっさりと許可がでた。
「え、いいの?」
「まあ、龍希は昔から冒険とか好きだし言い出すんじゃないかとは思っていたのよ。それにものすごく強くなっちゃったしいいかな?って。それにこんな世界になっちゃったから強くなるのに越したことはないでしょ?」
「まあ、それはそれはそうだけど」
「あ、でも危険だとおもったらすぐに逃げるのよ!あなた野生の勘だけはいいからそういうのは得意でしょ?だから少しでも危ないって感じたらすぐ逃げる事。それから行くときは絶対に眼鏡ちゃんとスライムちゃんも連れてい行くこと。これが守れるなら許可するわ」
「……ありがとう!うん、約束する!」
というわけですんなりと家族会議は終わった。
病院の玄関には日高さんと、坂井さんが待っていた。
日高さんにさっきの報告をすると、こっちも許可が下りたから緑光ダンジョンはしばらくダンジョン操作書の実験で使うから近くにあるもう一つのダンジョンでならということになった。
「私もなるべくそっちに行けるようにしたから、何かあったらちゃんと言ってね?」
「分かりました!」
「私の方にも顔を出してくださいね?いつでも歓迎するので」
「はい!」
「二人ともありがとうございます。娘の本当にお世話になってしまって」
話も終わり、ちょっと別れがたいながらも車に乗り込む。
ちなみにスライムちゃんは背負っているリュックに入っている。家の中なら出してもいいそうだが、それ以外ではちゃんとリュックに入れておくように言われた。
「それじゃあ、また今度きますね!」
「ええ、またね?」
「待ってますね?」
車の窓から手を振りながら二人と分かれる。
家はここから遠くはないので、20分ぐらいでついた。
車を降りて、家の前に立つ。
ここまで来るとすっごく帰ってきたって感じがする。見るのも久しぶりだ。
玄関の前に立ちドアノブに手をかける。
ゆっくりとドアを開けると、今日は病院に来ていなかった妹たちが玄関に立っていた。
「「おかえり、たつ姉」」
「「おかえり、龍希」」
妹たちと、後ろから両親も言ってくれた。
だから返す。
「ただいま!」
〇・・・・・・・・・・・・〇
その日の夜はごちそうだった。
ボクの好きな料理が食卓に所狭しと並んでいて、お代わりまであるそうだ。
「なにこれ、ナニコレ!?」
「退院祝いと無事に帰って来てくれたことのお祝いよ。いっぱいあるからね?」
その日、ボクは家族といっぱいお話しながらたくさんの料理を食べた。おかわりも全部食べた。
結果、家にあった体重計が壊れる事になってしまったが。
読んでくださりありがとうございます!
今回は主人公の戦闘装束を出すことができて大変満足でございます。
この話を書き始めた目的の一つに魔法少女っぽい衣装の主人公を書きたいというものがあったりましたので。
という訳でそんな感じの9話でした。いかがでしたでしょうか?
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