5話 星からの贈り物
『たった今、世界で初めてのダンジョン攻略がなされた』
ダンジョンの攻略。
今、全世界が注目しているもの。それがダンジョンだ。
謎の存在により、突如として地球上に現れたそれの中にはゲームや漫画の世界にしかいないようなモンスターがはびこっていた。
その場所に関する新たなる情報。
――攻略とはどういうことか
――何が始まるのか
そして、世界中が星の意思による続く言葉を待っていた。
『攻略に伴い、攻略された後のダンジョンについて話そう』
……
『攻略されたダンジョンの扱い方は二つある。
一つは、その場に残して資源として活用すること。攻略されたダンジョンにおいて、魔物からのドロップアイテ以外にも採取によるアイテムの採取が可能となる』
ドロップアイテムとは魔物を倒した時に現れる素材のことだろか?
そういえばダンジョン内でそこら辺に生えている草を資料として持ち帰ろうとしたけれど持ち帰れなかったという報告があったような?
などと、日本を含めた各国は一言一句聞き逃すまいと声に耳を立てつつも、その情報の整理に頭をフル回転させていた。
『そしてもう一方は、消滅させること。攻略の証を使えばそれも可能だろう。
しかし、この世界におけるダンジョンの数は減らない。よって消滅させたダンジョンは再び世界のどこかに現れることになる』
『もう一つ言っておくと、ダンジョンは今後もさらに出現する。しかし、これ以降に現れるダンジョンについては魔物を外に出さないと約束しよう』
扱い方は君たち、世界に住む者たちに任せよう。
そして、ここで一つ明らかにしよう。ダンジョン内にいる魔物たちはいずれ外に出るようになるだろう。危険な目に合うものも多くいるかもしれない。
絶望を、そして悲劇を起こさないためにも鍛えるのだ。自らを、そして守りたい者をを守れるように強くなるのだ。
期間は半年。
半年後にまた声を届けることになる。その時までに準備を怠るな。
行動するのだ。行動しないものに望んだ結果は訪れない』
ダンジョンの攻略による恩恵と、そのダンジョンがもたらす危機的な状況。
各国の首脳陣は頭を抱えていた。ドロップアイテムと言われているダンジョンがもたらす恩恵の一つ。すでにダンジョンに部隊を送り込んで攻略をさせていた国は、ドロップアイテムの存在を認識しており、そしてその価値も認識していた。
ゆえにダンジョンは残すべきか。それとも消滅させるべきか。
それを判断するにはあまりにも情報が少なすぎる。
であるならば、ダンジョンに関して今最も情報を持っているであろうダンジョンを攻略した者。
ダンジョンへの対策を考えるのと同時に、この人物にいかにして接触するかについても考えなければならず、頭を悩ませるのであった。
『そして、この度世界で初めてダンジョンを攻略した者を祝してちょっとした贈り物をしよう』
『ここからは君にしか聞こえない。
君は自分の状況に悲観せず、生きるために、守るために行動した。その勇気、そして行動を誇るといい。よく頑張った。
私からの贈り物だ。受け取るといい。よく考えて使いなさい』
その締めくくると、声は聞こえなくなった。
それと同時に僕の体が光だす。それとは別に目の前に球状の光が生じる。
聞こえてきた声に集中していた面々は、僕の変化に気づいて驚きの表情を浮かべる。特にうちの家族はどうしたものか、どうしたものかと慌ただしくしている。
「ちょっと龍希!?それ大丈夫なの!?どこか痛いところとか、おかしなところとかない!?」
「落ち着いてよお母さん。きっと悪いものじゃないから。大丈夫だよ」
「……あなたはまたそんな根拠のない理由で」
「お母さん、たつ姉の野生の勘は外れたことがない。テストを除いて」
「ん、たつ姉が大丈夫っていうなら大丈夫。テストでは信用できないけど」
……水月も朝陽も地味にディスってくるよね。
現状に限ってはナイスフォローだと言えるんだけど。お母さんもなんでそれで納得しちゃうかな。
え?普段の行い?
……お父さん。
そんないい笑顔で親指たてられても困るんだけど。
ほら、自衛隊のみなさんが唖然としているじゃないか。
光はすぐに収まった。
僕の体に特におかしな部分はなく、目の前の球体の下から支えるように手を添えるとゆっくり手の中に落ちてきて光もなくなっていく。
現れたのは、30㎝ぐらいの丸い金属の板。その中央には青いビー玉のようなものがはめ込まれている。金属の部分にはよくわからない装飾が施されていて、教科書の縄文時代とかに出てきた鏡に似ているかもしれない。
そっとひっくり返してみると裏側は鏡になっているわけではなく、表とは別の装飾がされている。
するとそれをものすごい勢いでひったくっていく影が。瞬間移動でもしたんじゃないかと思うほどの速さでいつの間にか金属板を奪われていた。
「うひょー、うひょー、ふぁーー!なにこれ、なにこれ!?
人影はテント内にいた研究者風の白衣を着た女性で、顔にくっつくんじゃいないかというぐらいの距離で金属板を見ている。
ていうか、くっつけてる?
あ、舌出し始めた!?
舐める気!?
さすがに止めようとすると、その頭が勢いよくスパコーンっとはたかれた。
ひっぱたいたのは最初にこのテントにいた自衛隊のおじさんだった。見上げるほどの大男で、厳つい顔をしている。
……まあ僕からみたら大抵の大人は大きいんだけど。
「何をやっとるか!?どんな危険物かも分からないものを、その上柊さんからひったくるとは……少しは自重しないか!?」
「……いだい」
そんなコント見たいなやり取りを見せられると、厳ついおじさんが白衣の女性の首根っこをつかんで僕の前まで連れてくる。
「私はこの基地の指揮を任されている斎藤武彦と申します。この度の部下の不始末、大変申し訳ありません……ほら坂井、お前も謝罪しないか!」
「……私はここのダンジョンの観測、研究の責任者をしています、坂井薫です。すみません、研究し甲斐がありそうなものが現れたので思わず我を忘れてしまいました。本当にすみませんでした」
「い、いえいえ!?そんなご丁寧に謝っていただかなくても、ちょっと驚いただけですし。そ、そうだ坂井さん!それ、どんなものかわかりますか?」
おそらくはこの金属板は状況的にも声の主からの贈り物なのだろう。しかし、送られた本人であるボクにもこれがなんなのか分からない。
「ん~……ぱっと見ではただの金属板にしか見えないけれど、ごめんなさい。私たちもダンジョンについて研究を始めたばかりでまだ分かっていることはほとんどないんです。ましてやこれは星の意思から直接送られたものですから」
「そうですか……それにしても星の意思ってなんですか?」
「それはあの声のことです。まあ文脈などからこの星自身の言葉なのではなかという推論が出てきたので仮称として使っているんです。荒唐無稽な話ですが、いつまでも声、だけ言っているわけにもいきませんし。それに、その方がロマンがありますからね」
なるほど。
確かに何となく一人称にこの星、地球をあてはめたらしっくりくる気がする。
それにしても、この金属板は何なんだろう?
星の意思さんもどうせなら使い方も説明してくれればよかったのに。いや、もしかしたら本当にただの置物の可能性もあるけど。記念品みたいな感じで?
『ちょっといいですか、マスター。
私に備わっている鑑定機能を使えば、その品の詳細を調べることが可能です。先程、初期設定が終わりましたので今ある機能をフルで使えるようになりました。どうしますか?』
「え、それ本当!?」
「ん?柊さん、どうかしましたか?」
「え、ええと、あ~その~…………実はこの眼鏡を使えばそれの詳細が分かるかもしれないんですけど」
「なんと!?それはほんとうですか!?」
うう、食いつきがすごい。
坂井さんがまた暴走しかけてる気がする……
なんかボクを見る目が、というかボクの眼鏡を見る目が怪しいんだけど……
「ええ、はい。でも絶対ではないので、あまり期待しない方が……」
『失敬です。
マスター、私ができるといった以上失敗なんてありえません!100%です!ばっちり期待してください!』
ちょっと君は黙っててくれるかな!?君が凄いのは十分知ってるから!だけど今は、坂井さんの研究者の目が怖いの!
「……そもそもたつ姉、ふだん眼鏡なんてしないよね?ずっと気になってたんだけど」
「うん、そうなんだけどね。これ、ダンジョンの宝箱の中から出てきて万能眼鏡っていうんだけど。色々便利な機能がついてるらしいんだ」
この眼鏡。
体の状態をリアルタイムで見ることができるヘルス機能や、時計、さらには相手の名前や健康状態などもついさっき表示されるようになったのだ。初期設定が終わったからなのだろう。
地味に便利なのである。これでネットにつなげる事とかもできたらスマホとかいらなくなるよね~
『……――』
「らしいって……誰に聞いたの?」
「これ」
「どれ?」
「だから、この眼鏡ちゃんから」
再びテント内を沈黙が支配する。
別に不思議ちゃんじゃないよ!?
眼鏡ちゃんがしゃべることも本当のことだからね!?
「……えっと、龍希ちゃん。その眼鏡でこの金属板の機能を調べることができるんだよね?早速だけど、やってもらってもいいかな?」
やはりこの沈黙を打ち破ってくれるのは日高さんだった。
最初にも思ったけど、日高さんは優しいな~
すっごく綺麗だし女神様みたいだよ。
「分かりました。眼鏡ちゃん、おねがいね」
『諾です。
対象の鑑定を開始します……解析完了。
解析結果を表示します』
すると、ボクの視界に金属板の画像とそれに付随するように文章での説明が書かれていた。
でもこれじゃあ、ボクにしか見えなくないか?
眼鏡ちゃん、どうにかなる?
『諾です。
投影機能により解析結果を表示します。ついでに音声での説明のために念話の対象を拡大し、テント内にいる人間に設定します。
先ほどご紹介にあずかりました魔道具、万能眼鏡と申します』
ボクの視界に表示されていたのと同じものがちょうどテントの中央あたりに出現する。これ、もしかして目からビーム状態なのではないかと思い手で遮ってみるが揺るぎもしない。
どうなってるんだろうこれ?
「うわ、本当に眼鏡がしゃべった!?」
「トニース〇ーク、ト〇ースタークなのか?」
「……分解したい(ぼそ)」
おお、眼鏡ちゃんの声が皆にも聞こえるようになったらしい。
よかった。これで不思議ちゃん扱いされなくなるね。
斎藤さん、確かにボクもアイ〇ンマンっぽいなとは思っていました。
坂井さん、小声で言っても聞こえてますからね?させませんからね?
『はい、みなさん静かにしてください。これからこの品についての簡単な説明を行います。そちらの資料を見ながらお聞きください』
眼鏡ちゃんに促されて静かになると、中央に映し出された解析結果に注目が集まる。正直ボクには何が書いてあるのかさっぱり分からないけど。みんなには分かるのかな?
ボクをを含めた柊家の面々はぼーっと資料を見ている。きっと一割も理解できていないんだろうな。
それから自衛官と、研究者の人たち。こちらは対照的で自衛官のみなさんは理解することを諦めたのか目をつむって完全に聞く姿勢に移行している。逆に研究者のみなさんはじっと資料を見ており、特に坂井さんは上から下まで穴が開くほど見ている。
『まず簡潔に申しますと、これは魔石によって稼働する魔石道具の一種です。その機能は地球上のすべての動きをリアルタイムで観察できるという機能ですね。他にも検索機能やピンを打ったりなどこまごまとした機能はありますがそれが主な機能ですね。ちなみに最小ですと地面に落ちている1㎝ない小石が鮮明に映るぐらいですね。使うかはともかくとして』
「「「……!?」」」
ボクも含めて、その場の全員がひっくりかえるほどの衝撃を受ける。
魔石道具とかなんとかはよくわからないけど、これってようするに超高性能の人工衛星みたいなものでしょ?なんとなくグーグ〇マップっぽさはあるけど。
しかもリアルタイムでものすごい詳細に見ることができるらしい。まさにオーバーテクノロジーだね。
最初に衝撃から立ち直ったのは坂井さんだった。
「……ふむ、眼鏡ちゃんでいいですか?話を聞く限りこれを使うのには魔石とやらが必要みたいですが、今使用することは出来ないんですか?」
『そうですね、起動そして稼働には魔石から得ることができるエネルギーを使用する必要があります。さらに起動時には通常よりも多くのエネルギーが必要になりますので少なくともダンジョン下層のボスクラスの魔石が必要になります。魔物からのドロップアイテムに魔石があるのはご存知でしょう?』
「……魔石かどうかは分かりませんが、それらしき石のようなものがあったのは確かです。しかし、そういうことなら起動は無理でしょうか。眼鏡ちゃんの言う下層がどの程度かは分かりませんが我々が攻略に成功している1~2層が含まれないのは確かでしょう」
『そうでもないかもしれませんよ?
確かに私が下層と定義したのはダンジョン30階層以下の階層のことです。皆さんの現状ですと確かにこの魔石道具を起動させることは不可能でしょう。
しかし、お忘れではありませんか?
マスターが何故この魔石道具を得ることになったのか?
ちなみに言っておきますと、ここのダンジョンの最下層は35階層です』
坂井さんの視線がばっとボクに向く。
ひぃぃ、坂井さんその視線やめて!その獲物を狩るような視線はやめて!
「分かりました!?出しますから、出しますから落ち着いてください!?眼鏡ちゃん、ボクそんなの持ってたっけ!?」
『肯定です。
回収した戦利品の中に35階層のボスの魔石があります。マスター、手を受け皿のように出してください』
眼鏡ちゃんに言われた通り、水をすくうように手で受け皿を作る。
すると、空中にぽんっと黒い石が現れてボクの手の中に落ちてくる。大きさは片手で収まるぐらいの大きさでちょっと青みがかっているような気がする。
『これが魔石です。
この魔石道具を起動するためには金属板の中央にある宝石の上に魔石をかざせば後は起動まで自動でやってくれます』
ボクが魔石を出したことで、坂井さん視線の圧力が増す。
かざせ~、はやくかざせ~と聞こえてくるかのようだ。もしかしたら実際に言っているのかも……
するとそこで斎藤さんが間に入ってくる。
先ほどと同じように坂井さんの頭をすぱこんっと叩いて正気に戻す。
「……坂井、勝手に話を進めすぎだ。柊さん、その魔石はあなたのものです。もちろん、この魔石道具も星の意思からあなたが受け取った以上あなたのものだ。使うかどうかもあなたが決めることであって私たちが強制するものではない」
「……っ、すみません。また先走ってしまいました」
……どうしたものか。
ここで起動させてしまうのは簡単だ。
ただ持っている魔石をかざせばいいだけなのだから。
だけど星の意思さんは言っていた。
『よく考えて使いなさい』、と。
これの使い道はいまいちわからない。確かにすごいものだということは分かるけれど何かに役に立つんだろうか?坂井さんや眼鏡ちゃんはその有用性が分かるんだろうか?
星の意思さんが言った言葉がこの魔石道具なのか、それともボクがもらった贈り物に対してなのかも分からない。
だけど何となく無駄なことをするような人?ではないんじゃないかな、とは思う。
じゃあ、これを受け取ったものとしてボクがするべきことは何か?
これは自分で答えを出した方がいいと、そういう感じがする。
よく考える
じっくり考える……
しばらくして、ゆっくりと口を開く。
その間、みんなは黙って待っていてくれた。
「えっと、じゃあこれは今は使いません。これの使い道とか管理方法とかそういうのがしっかり決まってからにしたいと思います。きっとこれはボクが持っていても持て余すだけだと思います。それに、これは個人で管理するよりもみんなで役に立てた方がいいと思うので。ですので、管理や運用の方針が決まったらそちらに譲り渡したいと思います」
「……そうですか。柊さん、そこまで考えていただきありがとうございます。ここから先は私たちがしっかりと考えますので安心してください」
斎藤さんが代表して答えてくれる
よかった。受け入れてもらえたみたいだ。
結局はボクが納得できる案を持ってこないと使いませんって言ってるようなもんだしね。別に方針が立ったならすぐに渡すつもりだったけど、わがままみたいな感じになっちゃったから。
坂井さんも納得というか、縮こまって申し訳なさそうにしている。まあ、さっきっから暴走しっぱなしだったもんね。研究者はみんなあんな感じなんだろうかと他の白衣の人に視線を向けると視線をそらされた。
あれと一緒にしないでほしいと言っているのか、それとも心当たりがありすぎて目をそらしたのか謎だ。
お母さんが頭をなでなでしてくれる。
んふふ。
『スライムさん、今です!』
「……(本当にやるの?この空気で?……分かったわよ。よいっと)」
今まで沈黙を保っていた眼鏡ちゃんが、スライムちゃんに何事かの指示を出す。
スライムちゃんは渋々ながらも、眼鏡ちゃんの指示にしたっがって行動する。
膝の上にいたスライムちゃんはぴょんっと飛び上がると、ちょうど真上にあったボクの腕にぶつかる。
その衝撃で手に持っていた魔石を落としてしまう。
そこからはあっという間。
落ちた魔石をさらにスライムちゃんがはじき、テーブルの上にのっていた魔石道具の上に落ちる。
「あ」
「「「あ」」」
すると、魔石道具の中央にあった青い宝石が光りだす。
そして魔石が光の粒子に分解されたかと思ったら宝石に吸い込まれていくではないか。光と化した魔石を完全に吸収してしまった宝石がひときわ強く輝く。
「ちょ、ちょ!スライムちゃん、何してんの!?」
「……(私だってこの空気でやりたかなかったわよ!?でも眼鏡が龍希のためっていうから!?)」
「どういうこと!?」
こっちのことなんかお構いなしで光は強くなっていき、もう目を開けていられないってくらいに明るくなった時。光がはじけた。
周囲をはじけた光が舞う中、その中心だったものに視線を向ける。
そこにあったのは、先程の鈍色の金属から鏡のようにきれいになった金属板と、いまだにうっすらと輝きを放っている宝石だった。
本編に戻りまして4話でした!いかがでしたでしょうか?
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