表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

4月ー登校初日

ちゅうい!

取り敢えず4話まで連載するけど以降は気まぐれ更新となりますので予めご了承下さい

目覚まし時計の音が鳴る。眠りを引きずりながら伸びた手が時計を掴むと呻き声を上げながら布団をはがしだす。

ゆっくりと制服に袖を通し、眠い目をこすりながら机の角に足をぶつけたところでようやく咲良の意識がはっきりする。

「お母さん、おはよう。いい突き指のいいごまかしかた知らない?」「朝飯食べたら治るでしょ。そしてあなたは引っ越し前の学校にわざわざ通うのですか?」「ああ!?」

そうして着替え直しをはじめとした身支度を済ませると咲良は家を飛び出した。

昨日に町内を案内されたばかりなので行き先までの勝手は知っている。気分もいつも通りのつもり、だった。しかし校舎が頭を覗かせると見慣れぬ制服が増えるのに比例して彼女の緊張は増していく。知らない街に行くこととは勝手が違うのだと思い知らされた。

そんな硬い表情を浮かべる少女も浮くことなく溶け込むほどに生徒の登校風景は多様である。友達と話す者、問題を出し合う者、単語帳に夢中で電柱にぶつかりかける者…

そしてとぼとぼと歩く男子生徒に近づく影が一人。


「よっ、アキャドウ君!」「…おおう、やけ八か」

やや低い位置から手を伸ばし、明るい声をかけたその男子は呆れ混じりの視線をものともせず笑顔で返す。

「ってお前にしては笑顔が堅いな。今日追及すべきはお前の方じゃないか?」

「こー見えて俺、緊張に弱いからなぁ。知ってるだろ?」

「あれだけ付きまとわれちゃあ嫌でも、な。まぁ、お陰様で上手くやらせてもらってるよ。」

そう言うと顔を上げ、手を振ると一人の女子がそれに応えた。彼らの仲を取り持ったのが今まさにやけ八と呼ばれていた男子生徒である。

「やけ八君、またトー君に絡んでるの?ホント懲りないわねー」

「そーだな、アキャドウとは地味にけしかける前からの付き合いなのよ。コイツ俺の捌き方が上手いんで安心して絡める、てわけ。それ以上に頭の上がらない先輩は居るけど」

「あ、それ初耳」

「げ!?今のナシ!お願いだから聞かなかったことに出来ないの?ねぇ?」

「「無駄 (ね)。」」

そうしてワイワイと盛り上がりながら学校へ向かう。やけ八は会話が弾むのを見てその場を離れ、誰に絡もうかと楽しげに品定めを始めながら学校へと向かっていた。

いつにもましてテンションが高いのは気のせいか?いや、理由はある。懇意の先輩から言われた一言がずっと引っ掛かっていた。楽しみ、という感情が結果として彼を支配しているのだが。

「おりゃー」という文言とは裏腹に教室の戸を丁寧に開けると、いつもより大きな喧騒で教室が満たされていた。いや、そわそわしているのか。

「やけ八、聞いたか?聞いてるだろ?」

「?」

「嘘でしょ!?転校生だよ転校生!」

「なるほど、そう考えるとしっくりくるか。男が特に騒いでるってことは女子?」

「女子ってお前、本当にこの手の話題は食いつき悪いよな」

「ただ迷惑かけるだけも失礼だろ。落ち着いて馴染まねぇと俺の馬鹿に慣れてもらえないからなー」

「あぁ、案外お前らしい理由だわ。」

そこで同級生は話を切り上げ、苦笑いしながら離れていくので少しカバンを整理する。まぁ、噂話からもわかることはあるか。詳しそうな連中はどいつあたりか。

そんなやけ八が会話に乱入し、結局いつも通りの雰囲気に戻りつつある教室はチャイムと同時に静けさが徐々に支配していく。方向性は違えど生徒たちの顔には期待と約一名の真剣な観察のまなざしを湛えて教室前方にそれは向けられる。


「・・・とまぁ、そういうわけで持ち帰るのが大変だと思うけど教科書の一式はここに入ってる。出席番号に対応するものならお前のスペースになるからそこに一旦は置いておいてもいいぞ。」

「はい、ありがとうございます。」

「緊張することはないからな、咲良」

重い紙袋を両手で支えつつ先生に返事をする。お世話になる先生は少し体育会系っぽい雰囲気。その人に苦笑いを浮かべさせるような人が私のクラスにいるらしい。教科書をロッカーにしまうと扉の開く音がする。元気な先生の挨拶が少し耳を突き刺す。一人の男子が目を見開いて、耳を押さえている私を指さしながら先生に口パクする。先生、『あ』って顔してるけどさっきまで私と話してたんじゃないのかな。もしかしてお茶目さん?と考えているうちに先生が改めて挨拶をした。

「みんな、おはよう!」

「「おはようございます」」

「で、早速だがうちのクラスに転校生が入ることになった。それなりに優秀で明るい子だ。よって罰で立たせる理由もないので彼女の紹介から始めようと思う」

「いや保護者に怒られるから罰とかやらないでしょ、ダーモノはそういうことに関して慎重なくせに」

「ジョークだよ、ジョーク。緊張したままだと伝えておくべきことも伝わらないだろう?ほら市川」

改めて教室を見回す。やっぱり注目さている。いや、緊張している場合じゃないね。

「というか誰だ、しれっと俺のことダーモノって呼んだ奴は?ったく後で覚えてろ、焼本」

「あのー…」

「あぁ、すまない。始めてくれ」

「はい。市川咲良って言います。地方ごとの郷土を調べたり歩いて感じることが好きで、是非みんなの知っているこの町ならではの話を聞いてみたいです。よろしくお願いします。」

そう語る咲良の表情は少し緊張を残しながらも情熱を感じさせられ、その勢いに思わずクラスの皆の目が釘付けになる。それ以外の理由を持つものも何人かは居るようだが。

「ありがとう。じゃあ、質問ある奴は居るか?ある奴は自己紹介も兼ねて名前も言うように!」

「はい、本田元伸です…」

「嘘つけ、お前の名前は焼本輝八だろうが。第一それは俺の名前だ!」

「…焼本輝八といいます。一番の趣味ってなんですか?」

「はい、散歩ですね。気になった町を歩くのが楽しいんです。それをみんなに共有したくてブログも始めたから、強いて言えばそれも趣味といえるかな。」

「そのURLって教えられますか?」

「ちょっと待ってね。…えーと、http‥」

「待て、ブログ名だけでいいだろ!市川も言うならせめて黒板使え!というか市川、お前ブログやってんのか。」

「はい。『わたしの花道』ってタイトルでやらせてもらってます。」

「なるほどな。だそうだ、気になったらみんなも見てみてはどうだ。が、くれぐれも授業中には見るなよ。次、質問あるやつはいるか」

その焼本輝八という人の質問で緊張も解れたのか、それまでの雰囲気から一転して賑やかに質問は続いた。一通り終わると席を案内される。やや窓際の真ん中辺り、かな。隣の子はちょっと真面目そう。だけどさっきの感じからクラスの中では結構顔広いのかな。

「これからもよろしくお願いします。」

「うん、よろしく。私、柿沢環っていうの、分からないことは何でも聞いて。…あーでも人間関係なら大分性格が面倒くさいけどやけ八のほうが確実かも。」

「やけ八!?」

「うん、最初に質問したアイツ。特に恋バナでも持っていけば仲良くなれると思うから。まぁでもさっき言った通り面倒くさいところもあるからあんまり普段から関わるのはお勧めしないけど。」

「そうなんだ…ありがとう」

彼女は困惑していた。あのやけ八が一緒のクラスだったなんて。そしてブログのコメントと何ら変わりもなく、自由奔放に振舞っていたとは。

(えー、やけ八君って結構悩みとか抱えてるんだって勝手に思っていたのに、むしろ聞けるくらいの器だったなんて。でもそうでないと彼女もそう言わないよね。ちょっとショック、…って言っていいのかわからないけど)

でも、そういう体験もいつかは経験するよね。そう納得するしかない。咲良はそう考え直すことにした。クラスのみんなともこれから知って行く仲だもの―

そして、時は昼休み。 

「市川、さん?一緒にお弁当良いかな。」

「全っ然、大丈夫よ。…といっても大体散歩話しか話すことないけど」

「えー、他にないの?例えば‥ほら、火曜ドラマとか。例えば木澤くん主演の‥」

「『ウォーカーボーイズ』?それなら毎週見てるよ」

「あぁ、それ!市川さんも見てたんだ」

「あーでも理由は想像できるよね~、だってあの自己紹介じゃん?それにウォーカーボーイズって確か、」

「…え、私って単純?」

そうして咲良を輪に入れて談笑する女子達。それを横目に、或いは聞きながら話をするグループもいる。彼らだって例外ではない。

「なぁ、やけ八。あの子、やっぱ可愛いよな。」

「見た目の第一印象は確かにそうだよな。まぁ、中身で補える例が目の前にあるからそれだけでは何とも言えなかったけど。」

「あー、確かに顔が印象に残らなくても、という例がここに居たな。性格の良いシケッ面は案外盤石か?」

「…何、お前らもしかして俺に喧嘩売ってるか?というかちげぇだろ、市川ちゃんの話だろ。」

「まぁ、そうだな。俺もいい感じだとは思うわ。話が合えば文句ないだろ。ところで自称馬鹿見習い君の見解はどうよ」

「いや、まだわかんねぇ。が、知らないってわけじゃないんだよな。言っちゃうと時々コメントしてるブログが彼女のブログだったからさ。…これなんだが。」

「うぇ!マジかよ。…いや、マジだ」

「…あー‥まぁ、いつものお前って感じだよな、コメントが。てかやけ八今日調子おかしいなと思ったらこれのことか」

「まぁ、どうせ数日後にはいつものやけ八だろうけど。」

「ハハ、まぁでも孤立はしなくて済むんじゃねぇかな。カッキー組と打ち解けてるっぽいし。‥まぁ、あの様子なら一人だったとしても、だとは思うが。…というか話が合うってあれに限ったことじゃねぇだろ」

「今更かよ」

そう楽しく話しながらもふと考える。

(でもそのカッキー組ともまだいまいちって感じではあるよな‥‥そこで距離を感じられたら危ないのかも。心配ないだろうが思い切ってみるに越したことはねーだろ、どうせ今日あそこ遊びに行くしな…よし!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ