悪い。家で寝てて起きたら夜だったから
教室は戻ると酒盛りになっていた。例の留年アル中どもがビールでも買ってこさせたんだろうけど、これで作業の能率がどれくらい下がるか考えると頭イタイ話だった。一年がせっせと暗幕張ってんのに、邪魔したくてしょーがないらしい。後で聞いた話だと仕事してた一年にも、「そんなことヤメて一緒に飲め」とか誘ったらしい。おまけに菊池が来て、ちゃっかり酒飲んでいた。こいつは俺より1年上の同級生だ。説明すると、菊池は俺より1年先に大学に入ったけど1年留年したから現在俺と同じ三年生。アル中2人は2年だか3年だかとにかくしこたま留年して、いま何年なのかよくわからない。今日の集合時間は朝の9時だったが、菊池はいま来たトコらしかった。上目づかいの卑屈ないつもの態度でこっちに寄ってきた。
「悪い。家で寝てて起きたら夜だったから。」
「そうですか」みたいな感じで流して、一年に、
「おい、ヤメヤメ。別の教室に移動だってよ。」
「ええー?」みたいな感じになったからしょうがなく事情を説明すると、アル中が真っ赤な顔してイカリだした。
「それで黙って引き下がってきたんか?」
「カンベンして下さいよ。中実相手にケンカしても勝てやしませんよ。」
「だってこっちが悪いんじゃなかったら、向こうがこっちの言うこときくのがスジだろうが。」
「きくったって、映研が現に入るのは決まってるそうですから。」
「だったら映研とウチは平等なんだから、なんでウチだけが割食わなくちゃなんないんだ?」
「いやわかりませんけどね、強気に出て逆に中実に逆恨みでもされたら面倒ですよ。あそこが学祭のコトなんでも決めてんですから。」
「そういう腰抜けな態度だからナメられるんだよ。」
「わかりませんけど、これからは部長相手じゃないと話ししないらしいですよ。」
「その部長はドコに行ったんだ?」
「いま捜してますから。」
「いったい今の文芸部はどうなってるんだ? 上のモンがしっかりしないから、下のモンもフラフラするんだよ。」
「すいません。」
ってあやまってから下級生の方に向いて、
「とにかく次の教室が決まるまですることないんだから酒でも飲んで休んでてくれ。あーそれから、進められる仕事があったらそっちの方やっといてくれ。」
いったん休憩の号令出すと、チーズが溶けるみたいにグデンとなった。こいつら相当疲れてるな。
いつもはアル中の先輩を毛虫のように嫌って悪口言ってる菊池が、遅れてきたのをゴマかすためだかなんだかお酌したり冗談言ったりしてアル中どもとたわむれてる。もっともこいつは下級生にはハッキリいって嫌われてるから、下に話しかけてってもシカトされるのがわかってるんだろう。俺は下級生と喋ってたけど、アル中がさっきの議論の再戦を挑みにこっちへ来た。それが嫌だから離れてたのにしつこい野郎だ。