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第一話

目の前の綺麗な女性が言った。

「あなたは死んだのよ。」


知ってるよ。自殺したんだからな。

あれは人生で二度目の恋のせいだった。


ただの失恋じゃない。

惚れた女に騙されていて詐欺にあった。

一生をかけて払わないといけないほどの借金を背負った。


家族に迷惑をかけたくないため保険金がもらえるような死に方を選んだ。迷惑がかかっていないと良いが。


きっと彼女も生きるのに必死だったのだろう。

騙された女を憎もうにも憎めない。

こんなことだから俺はきっと騙されるのだろうな。

次があればそうだな。

女性とは距離をもって接するのが一番かもしれない。


せめて童貞は捨てたかったな。

こんなことなら生きてる間に風俗にでも行けばよかった。

風俗の女性なら支払ったお金分の時間だけは裏切らないからな。


「次ならありますよ。」


え、そうなの?

そういやこの人はなんだ。

女神とかなのかな、えらい美人だ。


次があるというのは転生するということか。

魂の流転説が正しく、地獄や天国の概念は間違いだったのか。


また地球で生活するのか。

そもそも人として転生するものなのか。

転生するなら剣と魔法の世界がいい。


「そうよ。まぁ、いろいろ事情があるのよ。ちなみに剣と魔法の世界よ。良かったわね。」


まじで?


「こちらも色々事情があるのよ。とりあえず前世を引き継いで転生してもらいたいの。3歳ぐらいから徐々に前世を思い出していくと思うわ。」


仕様は分かったけど、こういうのってなんか凄いスキルとか持たせて転生してくれるんじゃないだろうか。


「こういうのって言うのはよく分からないけど、残念だけど私にはそこまでの力はないの。神様じゃないしね。もうあなたの持つ能力は決まっているの。あまりずば抜けてすばらしい力じゃないわ。でも、どうかその力を信じてちょうだい。それじゃあこっちであえるのを楽しみにしてるわ。」


チートはもらえないにしても剣と魔法の世界にいけるなら問題ないな。


「それじゃあね。」


◇◆◇◆


転生してから9歳になった。


親には捨てられたらしく、教会で身寄りがない子として俺はほかの子供たちと暮らしていた。


生活は悲惨なものだった。

コンビニで弁当を買って食べられることが、どれだけ上等で幸せな暮らしだったかを実感した。

この世界ではコンビニ弁当よりもおいしくない飯のために必死で生きている人たちばかりだ。


あの綺麗な女性が言っていた言葉を信じて立派な冒険者となるべく魔法の修行を行っていた。

筋力的な修行は第二次成長期以降のが成長を阻害しないという話を前世で耳にしていたので魔法ばかりを修行した。

才能らしい才能は発揮できなかった。

冒険者として初級魔法を人並みにできるようになるのがやっとだった。

もっとも魔力量だけは修行の成果もあがっており他の人の数倍はあるみたいだ。


現状を評価するならば、幸い幼いころから修行していたのもあって冒険者になれば他の新人よりはいくらかリードがあるが、優秀な人材には劣ると思っている。中の上~上の下といったところか。


「ねえ、ラティ。なにしてるの?」


俺と同い年の少女のシフォンが上目遣いで尋ねた。

髪の色は亜麻色で、少しウェーブがかかっており、綺麗なまんまるとした二重がこちらを見上げている。

最近少しだが女性らしさがでてきた。


思わずドキッとするが、女性に対する興奮ではない。


恐怖だ。


前世の記憶が女性の上目遣いや流し目に恐怖を覚えるようになってしまったのだ。


シフォンの事は嫌いじゃない。

むしろ慕ってくれているし好きなほうだ。

もし俺がEDでなければ将来は嫁に貰ってもいいだろう。


俺は残念ながら勃たない。


記憶している限りだが、前世で7歳のころにはアソコが勃つようになっていた。

おそらくEDで間違いがないだろう。転生しても女性へのトラウマが尾を引いてしまっている。


そりゃそうだよな。

1度目の恋も2度目の恋も女性には騙されていたんだから。

ちなみに1回目の恋はアッシー兼、昼飯係君だった。


2度目の人生も恋はできないようだけど、もう騙されることはないと思えばいいのかもしれない。

俺には冒険という人生が待っているさ。


「いやちょっと考え事だよ。そんなことよりシフォン! 俺は今日9歳になったんだ。」


「そっか、これでまた同い年だね。じゃあマザーに聞きに行こう。私も行っていい?」


「もちろん。」


9歳はこの世界では特別な意味を持つ。神からの祝福がもらえる日だ。

祝福とは特殊能力のことだ。


厳密にいえばもう貰っているのだが能力が分かる人に尋ねないと使い方が分からないことも多い。


教会のマザーが、祝福を鑑定できるので二人で伺いに行くわけだ。



◇◆◇◆


「あなたの祝福はいわゆるトレジャーハントよ。正式名では魔法回路検知と呼ばれているわ。魔道具を遠い場所から、どの辺にあるかが分かる祝福なの。意識を傾ければ分かるはずだわ。」


転生の直前に、綺麗な人に言われてた通り強い能力じゃない。

サポート的な能力だな。

シフォンの【光属性】よりしょぼくて少しショックだ。

ちなみに【光属性】は【聖属性】とも呼ばれ、その祝福を持っていないと使用できない光属性魔術を使用可能とする能力である。勇者しか使えないライ〇イン的なやつだ。


とりあえず試しに意識を傾けるとマザーから魔道具反応が出た。

もっと意識を傾けたらマザーが嵌めている指輪だということが分かった。


「気づいたみたいね。これは昔、大切な人からもらった指輪なの。」


「トレジャーハントってすごいの?」


シフォンが訪ねた。


「うーん。確かに比較的に珍しいスキルね。正直、不遇な祝福なのよ。冒険者に向いているスキルと思うかもしれないけれど、他の人と一緒に冒険にいきづらくなるわ。」


そうかお宝をめぐって奪い合いになるし、山分けしようとすると成果量に応じての配分になるからサポートスキルとして祝福を使用している分、パーティのメンバより成果を出しにくいから儲けが減るのか。

さらに言えば【トレジャーハント】を持っているとばれれば、一生悪人に利用される可能性もある。


ひとまずマザーとシフォンとは祝福について秘密にすることを交わした。


◇◆◇◆


「くっそ、本当全然金稼げねえな。でもまぁコツコツ貯めたしなんとかなったか。」


14歳頃から俺は冒険者登録を行い冒険にでるようになった。

初心者ダンジョンと呼ばれるダンジョンで小銭を稼いでいるが、トレジャーハントは役立たずだ。

何回か使用する機会はあったが役にたったとは言えない。


下層までいかないと魔道具なんて手に入る機会なんほとんどない。

でもソロでは到底いけるようなものではない。

下手したら死ぬ。


この頃には俺は冒険に対して絶望していた。

冒険者ランクは1つ上がりはしたが、Fランクのままだ。


16歳になった俺は、なんとかDランクになったが、小さい頃かろの修行貯金はソロプレイというハンデによって帳消しになっていた。


強くなろうにも教会のために小銭は入れたい。

実戦だけでは効率的に強くはなれない。

新しい魔法の修行に時間を割くこともできない。


っくそ!


トレジャーハントを使って盗賊にでもなったほうがよっぽど効率的だ。

でも、それは良心がとがめる。


「今日も疲れているね。またダンジョンに行ってたんだよね。」


もうみんな夕食を食べたおわっただろうに、シフォンが迎えを待ってていてくれた。

女性に苦手意識のある俺をわざわざ待っててくれていたようだ。

本当にいい奴だ。


◇◆◇◆


シフォンは俺のために夕食を温めなおしてくれている。

本当に良い嫁になるよな。かわいいし。

シフォンを嫁にするやつがマジで羨ましい。


温め終わったシフォンが夕食を持ってきてくれた。

「ありがと。」


「どういたしまして。ねえ! それより今日は何の日か知っている?」

知っているとも、この日のために半年かけてダンジョンに潜る時間を増やしていたからな。


今日はシフォンの誕生日だ。

また3か月の間だけシフォンが年上になる。


「覚えているよ。」


俺はそう言われて、椅子の下のカバンからプレゼントを取り出しシフォンに投る。

女性の手に触るのもちょっと苦手なのだ。


シフォンがあわてて手に取る。そしてに手にしたものを見る。

葉のデザインの首飾りで、葉の部分が金属であとは皮の紐だ。

ちなみに魔道具である。

魔道具としては破格の値段だったため予約してなんとか購入にこぎつけた。

魔力効率、魔力回復効率を高める効果がある。効果の程度は低い。


「可愛い。これって……高いんじゃないの?」


「少しはオシャレとか気にするようになってきてたろ。それに最近は光属性の魔法の修行をよくしてたみたいだからな。それ、少しだけ魔力効率と魔力の回復が早くなるんだぜ。お守り程度にはなると思うから大事に使ってくれよ。ほんのちょっと奮発したぞ。値段は秘密だ。」


ちょっと気恥ずかしくて早口になってしまった。

目の前の少女は俺の実年齢の半分もいってないのに、なに緊張してるんだろ俺。なさけない。


シフォンがちょっと申し訳なさそうな顔をする。


「こういうの初めてもらったよ。ありがとうラティ。」


「二人の仲だろ。気にするなよ。」


俺は少しだけ恥ずかしい気持ちだったため、夕食を食べるためを装って顔を伏せた。



シフォンは俺の夕食を無我夢中で食べるのを微笑みながら待ってくれている。

特に会話とかはない。

会話はなくてもいい。それくらいの仲ではある。


「ねえ。私ね、ラティ。」


夕食を夢中で食べているとシフォンが話をし始めた。

食べながら聞くこととする。


「私ね。……ラティのこと……好きよ」


は?

顔を上げると、恥ずかしそうにしながら微笑むシフォンがいた。

少しだけ前世の記憶を思い出す。

また騙されるんじゃないだろうか。

そんな疑念がよぎる。


でも、たぶんシフォンは違う。本気だ。

小さいころから一緒だったんだ。本気かそうじゃないかなんて分かる。


本当だったら、そうだな。俺も好きだといいたい。

だが残念なことに俺はEDである。種なしなのだ。

こんな美少女を見ても興奮を覚えない。

長年しみついたトラウマはそう簡単には消せない。


だから彼女にはありがとうの返事しか言えなかった。




いろいろあって昨日は二人とも同じベットで寝てしまった。

彼女を抱いたわけじゃない。

色々話したのだ。

EDであることを告白したし、その流れで前世の記憶があるという話をした。

前世の記憶の話は俺のふるまいに身に覚えがあったのか納得してくれたし、EDの話を聞いてなお「せめてあなたの腕で寝たい」といった。

俺はトラウマの恐怖を覚えつつも真摯にシフォンの気持ちに応えるべく一夜を二人で過ごした。

お陰であまり寝ることはあまりできなかった。


最初は恐怖すら覚えていたが、自然と恐怖や緊張は消えたものの勃起することはなかった。


結局、一夜を過ごして彼女に好きだという気持ちは伝えられなかった。


その日、いつものようにダンジョンから帰ってきた後で夕食を食べ終わるとマザーに呼び止められた。

今は暖炉の前でマザーと俺の二人である。


「実はね、シフォンを引き取ってくれる人がいてね。明日の15時にここを出ていくわ。」



は? なんだよ、それ……


「あなたとシフォンは仲が良かったから、シフォンがまだ伝えられていないんじゃないかと思ってね。」


マザーから話を伺うと、シフォンを引き取る人が教会に支払う額は金貨30枚らしい。

そんな大金でシフォンを買う人がいるのか。


ちなみに、この世界の貨幣と円の関係はだいたいこんくらいだ。


金貨 :10万円

銀貨 :1万円

大銅貨:1000円

銅貨 :100円


金貨30枚と言ったらだいたい300万円である。

ちなみに今の俺は、どんだけ頑張っても1日に銀貨1枚を稼ぐことはない。


何でもある奴隷商人が目を付けたとのこと。

教会が資金繰りで困っていることは把握していたが、まさかの奴隷商人だ。

このままでは彼女は奴隷落ちしてしまう。


金貨30枚は破格だけど、それにしたって奴隷商人はないだろう。

マザーの話では彼女の祝福に商人は目を付けたそうだが購入する側の用途は分かったものではない。

娼館送りなんてよくある話だ。

だが、これまで育ててくれたマザーや教会を責められるものでもない。

教会だってほかの子供たちのことを考えてのことだ。


クソ!

彼女を取り返すにしても、1日もない。


シフォンを取り戻す手はもう……いや、一つだけ可能性が残っている。


高難易度ダンジョンでトレジャーハントをする。これ以外の手はない。


それも金貨30枚相当のとびっきりの奴を一発あてるしかない。

それもソロプレイで、だ。


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