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ソウル・リファイン  作者: 弥生丸
第二部
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空を見上げた

空を見上げた


「クソがっ!」

誠司が赤いオーラを纏いながら斧を振りピアノの右側面の板を破壊し刃を食い込ませ、


「はっ!」

貴彦が鉈で腕の気をそらし、


「これでっ!!」

緑の風を纏った小春がピアノの左側面の板を鉈で叩き割る。


「小さき者達よ。

お願い!」

マリは赤鉄鉱ヘマタイトの小石を掲げて攻撃を願い、色とりどりの光が舞い礫となって鍵盤や像に撃ち掛かる。


敵の手の内が判明し、その対処手段も手に入れた今、彼らは難なくピアノと石膏像を追い込んでいった。


「我が守護者たちよ、我に宿れ。

汝の刃を我が敵に振るえ!」


千尋も以前守護霊を名乗る老婆に習ったやり方で何か出来そうだと思い、黄泉で憑いた者達を意識して試してみると、近くにいる無数の存在たちの一部が蠕き千尋へと宿る。


ごっそり気力や体力を奪われる感覚があった後、霞みつつも白くもあり時に影のように黒くもある半透明の太刀や矢、槍などが一斉にピアノと像へ襲い掛かった。


太刀の斬撃に鍵盤が弾け飛び、槍の一突きで壁面に大きな穴が空く。


矢は像に数本突き刺さり穴と無数の罅を遺して消えた。


「いまだ!」

貴彦の声に小春が反応し、軽く床を蹴って跳躍する。

ヒュン!と幾本かのピアノ線が襲いかかるがその全てをどうやったのか空中で器用に躱しつつ、石膏像の頭へと鉈を振り下ろした。


ガコッ!


鉈による小春の攻撃が予想以上に強力だったのか、はたまたそれまでの攻撃によるダメージの蓄積によるものなのか、石膏像は砕け散り二本の腕は力を失ってだらんと垂れ下がる。


軽やかに小春が床へと降り立つと、ピアノがガタッと大きな音を立てて崩れ去った。


「終わった!」

誰ともなく歓喜の声が上がり、6人は集まってそれぞれに喜びの声を上げた。


すると崩れ去ったピアノと石膏像が光の粒となり、そのまま空中に集まりバレーボールほどのエメラルドのような緑の輝きを放つ光の玉となった。


「これは…敵じゃなさそうだ」


聡が眉間にシワを寄せてジッと観察してから安心した様子でそう告げると、

「出口とかテレポーターみたいなものかな?」

と何気にゲームを色々とやっている小春が千尋に声を掛けてきた。


「出口は…違うみたい。

あそこに歪みみたいなものが見えるから」

と音楽室の隣、倉庫兼教員用の小部屋へと繋がる引き戸を千尋は指差した。


「何かわかんねーけどドロップ品とかじゃねーの?」


同じくゲーム感覚で誠司が光の玉へと手を伸ばし躊躇なく触れると、それは光を失いいくつかの品となり、6人それぞれの足元の床へとフワフワと舞い降りた。


「これは…そうだね、ドロップ品だね」

聡が再びジッと足元にある床にある品を見てその内の一つを手に取った。


ドロップ品は大きく別けると6種類あった。

マリの足元には水晶など貴石や半貴石などが入った革袋。


貴彦の足元にはいくつかの小瓶が入った革製の小さな肩掛け鞄。


聡の足元には斬り付けるよりも投げるのに適した様に見える両刃のナイフ5本。


小春の足元には小振りな西洋風の剣。


聡の足元には殴る際にも使えるような金属製の籠手。


そして千尋の足元には銅製の小さな鏡が置かれていた。


「ドロップ品をクラスによって決めてる感じなのか?」


今ひとつ納得していない様子の聡だったが、皆取り敢えず出られるだけでもいいやと言う気持ちが強く、それぞれが品を拾うと出口と思われる引き戸の前に集まった。


「よっしゃ!開けるぜ?」


誠司は戸に手をかけて皆を振り返り、「任せた」「よろしく」等適当に返事を返す。


ガラッと気持ち良いほど簡単に引き戸が開くと、その向こう側には夜の校庭の隅に繋がっていた。

校庭の向こうには、見慣れたコンクリート制の校舎が月明かりに照らされている。


「帰ろう!」

嬉しそうなマリの声に皆で頷き、皆が校庭へ出ると扉は音もなく消え去り、何の痕跡も残さなかった。


フェンスの向こうから聞こえてくる自動車の走る音や道を照らす街路灯の光。

誰かが生活している気配を感じる近隣の家々に灯る明り。


そのいつもなら気にもならない事がどれだけの安心感を与えてくれるのかを実感した6人は、それぞれ空を見上げていた。


頭上の空は月が輝き星々が煌めいて、静寂が支配していた異界からの帰還を祝っているかのように千尋は感じたのだった。


※ ※ ※


頭が痛い。

ズキズキと脈打つ痛みに千尋は奥歯を噛み締める。


霊格がある程度上がってからは、高い耐久性などの影響で病気知らずになっており、戦闘などの特殊な状況を除けばこの数年はほぼ経験していない。


物理的な耐久力のみならず精神的な、いわゆる根性の様なものも強化されており、恐怖心も傷みも緩慢になり、睡眠欲や食欲も以前ほどにはわかず、さほど必要ともしなくなっていた。


何か懐かしい夢でも見ていたような?

それにこんな頭痛は久々かも。


ぼんやりと拡散していた千尋の意識が急速に焦点を絞り、記憶や思考に形を与えてゆくが全身を襲う倦怠感が瞼を開ける事を拒絶した。


鼻を突く焼け焦げた臭いが目も刺激して、薄っすらと涙が頬を流れてゆくが、それを拭う事すら億劫だった。


このまま寝ていたい。

そうは思うが、それは叶わない。

このまま眠り続けている事は、すなわち死を意味する可能性が高いからだ。


まずは現状を確認しなくては。


高位の雷神を自らに降ろし、暴走暴発させてしまった事は覚えている。

すでに火雷神は千尋の肉体から去っている事も感覚的に理解できた。


仲間たちの安否確認…はこれも感覚的に理解出来るのだが、その数が減じた様子は感じられない。


しかしキメラや異界の状況など、確認しない訳にはいかないと、千尋は久々に強く迫る睡眠欲求を抑え込み、感触的に土の上に倒れていたんだなと思いながら上体を起こしつつ瞼をゆっくりと開いて辺りを見渡した。


あちこちにあがる黒煙と、それをどうにか消そうとしている鬼武者や黄泉醜女たちの姿が視界に入り、思わず頭痛や疲れも無視してクスッと笑ってしまった。


ドームの中は完全に焼け野原になっており、そこに仲間たちの無事な姿。


そして中心地点には焼け焦げた木の様な何かが炭になって黒煙を上げていた。

千尋がゆっくり立ち上がるのとほぼ同時に、カラッと乾いた音を立ててキメラだった物は崩れ去り、光の粒子となって皆へと吸い込まれてゆく。


そしてコロリとドロップ品が転がり、核の殲滅、つまりは戦闘が終わった事を告げたのだった。

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