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ソウル・リファイン  作者: 弥生丸
第二部
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慢心

慢心


「訳が分からん」

ボソッと誠治が呟き斧を構える。

6人が校舎に近付くと、木造校舎の校庭側に設置されている石造りの泉から、数体の何かが飛び出し先頭を歩く誠治に襲い掛かって来たのだ。  

それはどう見ても鯉だった。

体長30センチほどの丸々太った鯉たちは、黒いものから赤と白の鮮やかな鱗を持つものまで様々だった。


ゆったりと空を舞う様にして近付いて来たと思えば突然速度を上げて体当たりをしてくる。


予想以上にぶつかった際の衝撃は強く、その身を纏う鱗もかなり硬い。


マリと聡は千尋を囲んで守るように移動して来て、入れ替わりで貴彦と小春が前に出る。


誠治の振るう斧は中々鯉に当たらないが、武術と言う形で戦い方を学んでいる二人の攻撃は確実に鯉たちを切り裂き叩き落としてゆく。


「木刀や竹刀とは違うけど、モップよりはいいな」

「うん、刃と重さがあるから。攻撃力的にもだいぶ違うかも」


貴彦が余裕を持って黒い鯉を切り倒すと、小春も赤い鯉の頭を鉈でかち割った。


結局鯉は7尾襲って来たが、小春と貴彦が3尾ずつ、誠治が1尾倒す事が出来た。


「やっぱお前らすげーな」

「子供の頃から色々習ってれば普通だよ」

「そう言えば対人戦以外も何故か教え込まれたんだよな」

誠治の素直な称賛の声に二人は苦笑いを浮かべつつ、師匠である小春の父親を頭に思い浮かべていた。


スポーツとしての要素を取り入れながらも、何故か変な設定で戦う術も修行の一環として習わされたのだ。


「終わったみたいね。

誠治、あんた一人で前に行き過ぎじゃない?危ないわよ」


「僕もフォーメーション、大事だと思うんだけど?」


「わーってるよ。

俺よりこいつ等の方が強いしな」


距離を取って戦闘の邪魔にならないようにしていたマリたち3人も加わり、そんなことを話しながらもそれぞれ辺りに気を配りつつ一行は校舎へと足を踏み入れた。


やや広めの廊下から階段へと進んでゆく。 


とりあえず進む際は前衛として貴彦と誠治の二人が前に立ち、真ん中にマリ、千尋、聡、そして殿を小春と言う形になった。

なお千尋の左にマリ、右に聡が並んでおり、完全に守られる形になっていた。


何も情報がなく特殊な能力も持たない面々の中、唯一霊能とも呼べる力で外へ出る手段を見つける事が出来るかも知れないのだ。


オカルト研究会とは言え、いや逆にある程度興味があるからこそ、詐欺などの話も聞くので霊能力や超能力など何処か嘘くさいと思う部分はあったのだが、異界化に巻き込まれた事により千尋の能力を疑う気持ちは完全に捨て去っていた。


迷う事なく幅広い階段を見つけた一行は、素人なりに前後や上下からの襲撃や罠に気を配りつつ隊列はそのままに階段を登り始めた。


木造校舎は本来あった物とは広さも構造も位置も変わっていたが、それでも階段の位置などは一般的な物が多かったので助かった。


3階へと向かう階段を上ろうとすると、一行の耳にピアノの音が聞こえて来た。

よく聞けばそれは適当に鍵盤をたたいているような音ばかりで、演奏とはお世話にも呼べるものではなかった。


不快感すら感じる音を聞きながら、黙々と上へ上へと向かうと3階に到着した。


階段に一番近い教室からピアノの音は聞こえてきており、しっかりと閉じられた引き戸の上には音楽室と書かれている。


千尋の目にはその扉の向こう側に例の渦が見えていた。

「この教室。この中にあると思う」


全員同じ隊列のまま指差しつつ小さな声で言う千尋の言葉に頷くと、誠治が扉を開けて貴彦が教室に踏み込み、皆が後に続いた。


ある程度防音処置が施されていたのか、戸を開けた途端に鍵盤をかき鳴らす音が大きく響く。


そこにあるのはグランドピアノと、その上に鎮座する石膏製の像だった。

肩から上しかない石膏像は目を動かして一同を睨みつける。


通常海外の高名な作曲家などの像が置かれているはずが、その顔はどう見ても60前後の日本人男性の物で、誰これ?と6人ともが思ったのだが、それ以上に奇妙な物が目に入ってきた為、そちらに視線が集中した。


それは4本の腕だった。

ピアノその物は極普通の黒いグランドピアノだったが、その側面から4本の腕のような物を生やし、それが鍵盤を適当に叩いてるのだ。


その腕は人間のそれよりもビニールやゴムなどの作り物めいた光沢を放ち、関節があるのか無いのかよく分からない動きをしていた。


「ボスを倒さないと出られない。

ゲームでよくあるパターンだね」


少し嬉しそうに聡が呟き、それぞれが武器を手に構える。


「像とピアノ、両方から同じ気配を感じる。

多分両方倒さないと駄目みたい」


千尋が言うや、

「了解した!任せろ!」

と声を上げつつ誠治がピアノに斧を振り下ろす。


他の面々は気付かない様だったが、千尋の目には攻撃の瞬間、誠治の全身と斧を赤いオーラのようなものが纏うのがみえていた。


腕のうちの一本が慌てた様子でピアノを庇おうとするが、誠治の斧はその腕ごとピアノへ刃を振り下ろす。

大きな音を立てて腕が千切れ、ピアノに大きな裂傷が生まれた。


ぶん!と残る三本の腕もうごめき出し、そのうちの一本が誠治の体に直撃したが、赤いオーラが一瞬早く大きく濃く広がり、わずかな時間のみだが分厚い鎧が彼の体を守った様に見えた。

「いってぇ!」

誠治が声を上げつつ後退し、残りの腕が誠治へと追い打ちを掛けようとするが、貴彦が間に入り鉈を駆使してそれを防いだ。


「私も前に出る!」

殿を守っていた小春がタンッ!と軽い足音を立て、3メートルほどをその一蹴りで移動して、一本の腕に鉈を振り下ろした。


誠治同様、小春の全身と鉈を黄緑色のオーラの様なものが纏い、安々と腕を切り落とすのが千尋の目には見えた。


「オーラ…?違う、風かな?」


色合いもそうだが、誠治と小春、二人のまとった光はその雰囲気などが異なって見えたのだ。

誠治の場合は本人の内から湧いて出ているような、小春のそれはまさに風が光となって纏わりついている様な、そんな違いを感じ取っていた。


貴彦も小春同様腕に鉈で斬りつけたが、彼は光を纏っておらず小さな傷をつけてその軌道を逸らす程度だった。


「うわっ?!」


一本はうまく軌道をそらして躱したが、残りの一本の腕が貴彦の左上腕に叩きつけられ、彼は1メートルほど吹き飛ばされて木製の床をゴロゴロと転がった。

貴彦はすぐに起き上がろうとしたが、左腕が上腕部の半ばから折れ曲がっており、痛みでうまく立ち上がる事が出来ずにいた。


「えぇっ?!あの腕大した事なかったぜ?」

貴彦の様子を見て誠治は驚きの声を上げた。


「当たり方が悪かったのか、腕ごとに力の強さや強度が違うのかも?」

小春の意見になるほどと納得する誠治だったが、貴彦は悔しそうに奥歯を噛み締めて耐え、自身の慢心に憤りを覚えていた。


誠治が腕の打撃を受けた際に大した被害がなかったのを見て、貴彦はほんの僅かに油断していたのだ。


当たっても少し痛い程度、それならば武術で鍛えた自分には問題にならないだろう、と頭の何処かで考えていた事に気付いたのだ。


「すまん…」

貴彦は鉈を床に起き、痛む左腕をそっと右手で押さて小春や誠治たちに謝りつつ、ゆっくりと足を動かして床を滑り、戦場から距離を取る。


「待ってろ!今行く!」


聡が貴彦に向かおうとしたが、


「ダメよ。あんたは千尋を守ってて」


とマリがそれを止めて、自らが代わりに貴彦へと駆け寄った。


「次があるかは分からないけど、気付けただけマシだと思う」


小春は少し冷たい声音を貴彦に向けると、残る二本の腕を相手取り鉈を振るう。


幼馴染であり同門でもある貴彦の慢心を見て取ったのだろう。


武術の腕は同等かやや小春が上程度の差しかないが、道場の娘として生きてきた年月が彼女の精神を貴彦より一段も二段も高みへと育んでいた。


「本当に…すまない」

貴彦はマリの手を借りて立ち上がり鉈を拾おうとするが、マリが先に動いて拾ってくれた。


「その腕じゃどっちにしても戦えないでしょ?

ほら、邪魔にならないようにこっちに来なさいよ」


小春と貴彦の間に流れる雰囲気を感じ取ったのが、少しわざとらしく命じるようにしてマリが彼を促した。


「こんな怪我をしなけりゃ…」


不甲斐なさからボソリと貴彦が呟いた時、左腕を押さえている彼の右手が白く温かく柔らかな光を放つのを、千尋の瞳だけが捉えていた。

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