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ソウル・リファイン  作者: 弥生丸
第二部
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裏門

裏門


熊の剥製を倒して数分後、千尋たち三人は無事出口を見つけ出し校舎の外を散策していた。


千尋は三度目の臨死体験以来ずっと近くに居ると感じていた老婆の気配が遠く離れ、別の何者達かが近くに居ると感じていたが、多分守護者たちとあの御方が言っていた者たちだろうし、今は確かめる余裕はないとぼんやりと頭の片隅で考えながら二人の後に続いた。


老婆が消え去った訳ではなく、その距離感が遠のいただけだと、何となく分かる。


いわゆる守護霊交代と言うやつだろうと昔読んだ本やネットで調べた事柄を思い出していた。

説により様々だが、守護霊の類はその人の状況などで変化するというものも多く、また複数の霊が守護やそのサポートをしていると言うものまであった。


ときには所謂ほぼ呪いとしか思えない〈憑き物〉の血筋や、逆に〈憑き神〉と呼ばれる高位が力を与えるという話も昔からあちこちにあるようだ。


黄泉の主と名乗る女神が使わした守護者たちなのだから、〈憑き神〉、所謂守護神の類なのだろうかと漠然と考えていた。



学校を覆う雲は赤黒い光をわずかながら放っており、かなり薄暗いものの足元に気を付ければどうにか歩けなくもない程度で、懐中電灯等を消して動き回れる程ではなかった。


校舎を取り囲むように幅2〜3メートルの道があり、その外側に草花や木々が植えられた植え込み部分、そしてその先に高さ2メートルほどの金属製の格子状に組まれたフェンスがあり、その向こう側は校舎内から見たのと同様、謎の雲のような物が視界と音を遮っているのか、貴彦が懐中電灯を向けて外の様子は伺いようもなかった。


「フェンス、この高さなら乗り越えられると思うんだけど」


「試してみる?」


「あれ?でも何か変な感じがしますけど…?」


貴彦の意見に小春が乗るが、千尋が何かに気付いて懐中電灯を植え込みに向ける。


「本当だ…動いてるね」


「うん、これは無理かも」


「ね…」


薄暗い中、何となく違和感を感じる程度ではあったが、照明を向けると明らかに草木がゆっくりと、蠢くように動いている様を見て、三人はフェンスを登ることを諦めて、思わず植え込みから校舎すれすれに距離を取り、それぞれが手にした照明で周辺の植え込みを照らした。


風に揺れている様子はなく、葉が、花が、枝が規則性もなくゆらりゆらりと上下左右、好き勝手に動いている。


模型や剥製が動いて襲って来たのだ。


「ちょっと試してみるね」


どう考えてもこれは危ないだろうと思いつつ、小春が足元に落ちていた小石を投げ入れると、投げ込まれた周辺の草や枝がそれまでとは比べ物にならない程の速さで、侵入者を捕らえるように小石へと伸びる。 


それはまるで緩慢に動いていた蛇や蛙が、獲物を捕食する瞬間に見せる様に似ていた。


「うわー」


「やっぱり駄目か。

どうやら移動はしないみたいだし、このまま裏門を探した方が良いみたいだな」


それぞれが落胆や気持ち悪そうな表情を浮かべつつ、校舎の壁に沿って歩き出した。


植物や襲撃に気を配りつつの移動は思ったよりも素早くは動けず、多少なりとも焦燥感と苛立ちを感じていた。


物陰があれば武器を構えつつゆっくり忍び足で近付いてその向こう側を確認し、校舎の窓が空いていれば這うようにしてその下を通り、声や足音を潜めながら極力何かに遭遇しないように探索は、2度の戦闘経験による疲労や特殊過ぎる状況による緊張などで心身共にストレスが溜まってゆく。


元々敵を呼び寄せない為に声音を小さく、言葉数も減らしてはいたものの、より口数も少なくなりその動きも硬い。


そんな中、千尋だけは戦闘に参加していなかったからか、契約の関係なのか、思ったほど疲れてはおらず精神的にも余裕があったからか、木陰に紛れた向こう側にフェンスよりいくらか高い物陰を発見した。


「あれ、裏門じゃないかな?」


その言葉に貴彦と小春はハッとした顔になり、懐中電灯を向けた。


千尋の言う通り、やや大振りな木の横に、コンクリート製の校舎の頃と変わらないように見える裏門が門を開いた状態で鎮座していた。


「行こう!」

貴彦が喜色を込めた声で皆に呼び掛け、裏門へとやや足早に向かう。


千尋は門番とか居たら嫌だよね?と思い裏門周辺をざっと懐中電灯で照らしたが、特にそれらしい姿は見当たらなかった。  


「横の木には気を付けて」 

裏門の両脇に控える様にそそりたつ木の枝が、植え込みのもの同様ゆらゆらと動いているのを視認した千尋は先を行く二人に声をかけると、やや慌てた様子で、

「あぁ!」

「うん!ありがと!」

と貴彦、小春共に短く返事を返しつつ、木や枝にも注意しつつ近づいて行った。


門は開いていたが、その向こうは相変わらず謎の雲しか見えない。


正常な状態の向こう側が見えるのでは?と少し期待していた三人は気落ちしながらも、近くに落ちた小石を拾って門の向こう側へと軽く投げてみた。


石はそのまま雲の中に入っていったが、ほぼ間を置かず勢いはそのままにこちら側へコロッと落ちてきた。


「あっ」

その様に思わず小春が声を上げた。


雲に跳ね返された様子はなく、誰かが拾って投げ返したようでもない。


やっぱり。


千尋は何となくだがこうなるような予感がしていたし、それは二人も薄々感じていた様だった。


今度は貴彦がやや大きめの石を手に取り、「みんな気を付けて」と注意を促しつつ投げ込むが結果は同じだった。


「試しに突っ込むのは危険…だよね?」


「多分同じ様に戻ってくるだけだとは思うけど、あの雲に毒とか混ざっていたら危ないかも知れない」


〈ち……核ですわ…〉


小春と貴彦が悔しそうに話し合う中、チューニングの合っていないラジオから聞こえてくる放送の様な不安定さで、それは聞こえてきた。

それは老葉からの声にも似て、耳で聞いているようで実はそうではないような、直接意識に語り掛けてくる声だった。


〈そこ…ら出た……でした…、核…壊しな…い。貴女なら視え……はず〉


途切れ途切れながらも、先程よりはっきりとした意思が、声が伝わってきた。

千尋はその声の主に尋ねようと口を開いたが、ブツッと回線が切れるような感覚があったのでそれは控えることにした。


存在そのものは近くに居るのが分かる。

ならばまだ接続が上手く行っていない状態なのだろうと、そう思ったのだ。


「もしかしたら、核のような物があるのかも知れない。それを壊さないと駄目なのかも?」


何かに問いかけようとした代わりに貴彦と小春へそう声をかけ、取り敢えず得た情報をどう説明しようかと頭を悩ませる千尋だった。

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