楽しかったんだけどね
楽しかったんだけどね
「いやぁ、仲間ってやっぱり大事だよね」
武装マネキンの群れを相手に無双する黄泉醜女や鬼武士たちの姿を見つめながら、千尋は己一人で異界に挑むのは止めておこうと心に違った。
千尋の立ち位置はゲームで言う魔法使いや僧侶に近い。
それもかなり偏りのあるスキル構成だ。
7年間の経験がそのレベルを高めてくれたため、ある程度格下相手なら高ステータスによるゴリ押しや、低レベルの戦闘スキルはあるのだが、流石にこの数は無理がある。
と言うか数分も保たずに死ぬだろう。
守りに徹すれば数日は保つかもしれないが、打開策がない限りいつかはこちらが力尽きてしまう。
「仲間って言っても、簡単に裏切るような連中じゃ居る意味ないどころか敵みたいなもんだけどね?」
千尋はチラリと多数の影が入り込んだ自身の影を見下ろして、冷笑とも苦笑とも取れる笑みを浮かべた。
「まーさー、最初に裏切ったのは私だけどね?
先約があったし仕方ないよねー」
「いいえ、千尋は裏切ってなどいませんわ。
元々の計画通り働いただけですもの。
胸を貼っても良い事ですのよ?」
言い訳にもならないと分かっている、そんな自嘲的な表情で影に語りかけていると、すべての武装マネキンを倒し終えた黄泉醜女と鬼武者たちは千尋の元へと戻ってきた。
手足がもがれ、頭が陥没しても首が取れてもマネキンたちは動いてたが、流石に原形も留めないほどに怪力で破壊されてはどうしようもないらしい。
マネキンたちはゴブリン同様に光となって黄泉醜女や鬼武者、そして千尋へと吸い込まれて行く。
「おっ、いつもありがとう!」
多数の魔石や使いみちの分からないドロップ品、一部の武器も消えずに落ちていたが、鬼武者達が拾い集めてくれたので例を言って収納した。
「んー、まぁそうなんだけどね?
どんなに霊格やレベルが上がっても、人間ってやっぱり割り切れない感情とかあるものなのよ」
「肉を持って生まれるとはそういう事、という訳ですわね」
別の生物というより、存在の有り様すら違う黄泉醜女には今一つ理解出来ず、あまり興味もないようだった。
「そんな事よりもです!
雑魚とは言えこれだけの数を倒したんですもの。
レベルは上がっておりませんの?」
鬼の中の鬼とも言える恐ろしい容貌の黄泉醜女だが、7年以上の付き合いのある千尋にはワクワクしているのがすぐに分かった。
「ちょっと待ってね。
ステータスオープン!」
千尋の声に反応して、半透明な板状のスクリーンがその目の前に現れた。
名前 白鳥千尋
種族 人間
霊格5 レベル488→489
冒険者ランク −
以下普通の地球人にはあり得ない高能力値や三桁から四桁の顕現値、多数の耐性やタレント、スキルや称号などが表示されていた。
「うん、上がってる!本当にみんなありがとね!」
ステータスボードの内用を掻い摘んでみても、
タレント
霊視10 各種透視7 霊媒10
神降ろし10 守護者10
精神抵抗8
死霊使い10 屍使い10 鬼使い10
鬼神使い8 精霊使い6 etc.
スキル
死霊魔法10
召喚魔法(送還、使役)10
冥神魔法10 日輪魔法4 etc.
ギフト
転移者基本セット
冥界神の祝福(伊耶那美命)
太陽神の祝福(天照大御神)
風神の祝福(荼枳尼天)
など明らかに転移者にしか、否転移者の中でも高位の者しか持ち得ない数々の表示内容だ。
「やりましたわ!
やはり上がりましたわね!」
嗄れつつも嬉しそうな声を上げる黄泉醜女。
「契約と生活のためとは言え、七年以上コツコツと戦い続けて来たからね。
八柱界で軽くレベルと霊格上げした時はかなり早かったけどさ。
駆け足で戻ってきたし、あっち程の魔物はそうはいないしその辺は仕方ないかなー」
そう、千尋は八柱界に辿り着いていた。
そこで転移者としてのギフトを始めとした能力を手に入れ、極短期間でパワーレベリングを行った上で地球世界に戻ってきたのだ。
「知らない人も巻き込んじゃったし、彼等には悪いことしたなーとは思ってるんだよ?
でもねー、こっちも命が掛かってるからねー」
肩をすくめて自嘲的な笑みを浮かべる千尋に、黄泉醜女は首を大きく横に振る。
「何をおっしゃいますの?
我らが大神との契約、その命を遂行する事は何よりも大切な事なのですのよ?
千尋は本当に頑張っていますわ。
これは胸を張って良いことですのよ?」
感性は疎か、その生命のあり方さえ異なる者、神名すら持つその存在は、いかに親しくなろうとも千尋の心の有り様に未だ理解は及ばぬようだった。
「うん、勿論後悔もしてないし、そうなんだけど…ね?」
〈楽しかったんだよね。
嘘や隠し事だらけでも、みんなでワイワイ騒ぎながらって、あの時期くらいだったしなー〉
異界化した地、そこは非常に危険な場所ではあるのだが、多数の守り手たちに囲まれている安心感からか、千尋は過去を振り返っていた。
※ ※ ※
オカルト研究会の面々は元々心霊スポットや怪談好き、ホラー好きの趣味的要素がメインで、そこにちょっと変わった特技の持ち主が加わった程度のよくある弱小サークルでしかなかった。
武器を持って戦うことなどないし、僧侶や巫女、霊能者の類が居るわけでもなく、研究と言う名のお遊びが主体でしかない。
そんな彼らがたまたま幽霊が出ると言う噂を聞きつけて立寄った心霊スポットが異界化し、それに巻き込まれたのは本当に単なる偶然でしかなかった。
声を潜めて馬鹿話をしつつ、懐中電灯やスマホのライトを頼りに深夜の学校へと忍び込んだ。
最初は深夜に鳴り響くピアノ、階段踊り場の鏡、動く人体模型など、極々有りがちな七不思議を調べてみよう!という、全く信じていないネタで面白おかしく楽しもう、何か見れたらラッキーという、そんなノリでしかなかった。
カヴンの存在すら知らないそれっぽい本を読んだだけのなんちゃって魔女のマリ、剣術をかじっている貴彦と小春、マリに良いところを見せたいだけの誠治に、怖がりなのに怖い話や噂、ホラー映画も好きな聡。
そんな面子に超常現象が解決出来るはずもなく、大人に見つかったら怒られる、それが一番怖い程度の本当にお遊びでしかなかったのだ。




