やろうとしている事
やろうとしている事
今からやろうとしている事は多分きっと、他の神々のしてきた事と変わらない事なのだろう。
それでもちょっとした綻びがきっかけで崩壊してしまう世界よりはマシなのだと信じたい。
そう、思いたい。
八柱界は作られた当初から既に沈み始めていた泥の舟だ。
あらゆる意味で神々の力に頼りすぎた張りぼては、極僅かな力の拒絶で連鎖的に崩壊が起こり終わりの時を早めることとなった。
人の感覚で言えば明日にでも消えてなくなる訳ではない。
修正や補強を重ねて張りぼてを継ぎ接ぎだらけの世界として、数十年、長ければ数百年単位でなら存続させる事は八柱の神々でも可能だろう。
そもそもこの世界の神々はシステム上〈神そのもの〉であるものの、本来は地球世界を支える柱である者達の化身であり分身、劣化コピーのようなものだ。
今弘樹たちの眼下に集うのは数多の神々…その分霊たち。
そう、分霊であって本体ではないのだ。
今の弘樹たちにははっきりと分かる。
結局この世界の創造者を名乗る神々は地球より生まれ、そこに根付いた存在でしかないのだ。
神々はその分霊、分身を持ってしかこの八柱界には存在出来ない。
彼らは地球や地域、信仰、神話等に縛られており、そもそもが地球とは異なる世界でそれぞれ個別の個性を持つ神として存在する事が出来ない。
それ故の分霊や分身であって、本体は決して地球を、彼らの神界を離れることなど出来ないのだった。
今の自分たちとは在り方が違うのだと、創造神の神格を得た弘樹たちには理解出来た。
八柱界は「こんな事出来たら面白いよね」と作り出された素人ゲームの様なモノ。
人が長期的に旅する為に設計され素材を厳選して専門家たちの手で造られた船ではなく、お風呂場で遊びの間湯船に浮いていればよい程度の、適当な素材を使った素人の手作り玩具のようなものだ。
幾千幾万と時を重ねる前提ですらない、飽いたら壊れるに任せて捨て置いても問題ない、そんな扱いの小さな世界モドキ。
そこに数多の命が生まれ、そして異世界から人や眷属たちを呼び込んでおきながら、彼らはそれを遊戯を楽しんでいた。
まるでプレイヤーとNPCの違いのように、神とそうでないモノとの扱いの差は地球世界のそれすらも超えていた。
そんな人々の乗る泥の舟のすぐ近くに陸地があれば良いのだが、残念ながら存在しない。
それならばせめて泥舟よりは幾分マシな、間に合せでも基礎のしっかりとした船に避難させよう。
弘樹たち四柱が行おうとしているのは、理屈としてはその程度の事だった。
先程強制転移させた悪魔たちに関しては、ほんのついででしかない。
人々の記憶や経験、世界の有り様が全て変わってしまったなら、そこで生きていくのは困難だろう。
魔法がありスキルやタレントがあり、ステータスやレベルアップが当たり前な世界の住人たちが、そのすべてを失ったなら、単に生き残るだけなら出来たとしても、まともに生活を送れるかどうかも怪しい。
結晶化など仕込まれた物がある以上、極力負担の掛からない程度には手を加える必要があるのも事実。
しかし全員に生まれた時から今に至るまでの偽の記憶を植え付ける事は、四柱にとっては納得出来ない事だった。
それでは本当に今自分たちを見上げているモノと同じかそれ以下の存在になってしまう。
本来ならばセラフィーナという、地球に属する魂と、八柱界で生まれ育った肉体と記憶、その存在の力を借りる事が出来ればかなり楽な作業ではあったのだが、本人に同行は拒絶されてしまった。
もっ戸うまく説明出来れば違ったのかもしれないけれど…
そんな事を頭の隅で考えていると、弘樹たち四人のすぐそばに金色の髪を持つ少女が唐突に現れた。
「えっ?」
「あっ!」
そして当然、高空に現れたセラフィーナは、そのまま重力に引かれて落ちて行く。
突然のことに四柱どころかセラフィーナすら何かしらの力を行使する事を忘れ去っていた。
「ウォォォォッ!」
謎の男らしい叫び声を上げつつもその高度を落としてゆくセラフィーナだったが、その身から恵那の光が溢れ出て、体長20メートルほどの巨大な翼ある蛇となり、彼女の身に巻き付いて落花を止め、そのまま尾で位置を直してその背に乗せた。
セラフィーナ本人は呆然とした状態のままだったが、蛇竜はそんな事はお構いなしに空を駆けて4柱のもとへと向かうのだった。




