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ソウル・リファイン  作者: 弥生丸
チート炸裂編
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吉祥果その4

吉祥果その4


世界とは別の所にある〈世界〉。


そんな良く分からない場所でセラフィーナ・ポムグラネイトは自分にとっての世界そのものである八柱界が、こちら側から訪れた高位の神霊に震撼している様をソフィアと名乗る女神に見せてもらっていた。


八柱界の真相について説明は聞いたし、仲間や船の客たちが結晶化し、自身も軽度の結晶化を経験したものの、それでも心の何処かでそれを否定している自分が居た。


生まれてから今の今までが幻のようなものだったと言われて、はいそうですかと言える人間などそうはいないだろう。

頭で理解できたとしても、そうそう納得出来るものではない。


それはセラフィーナも同様だ。


生来生真面目であり、謎の夢や浄化など特殊な環境にもある彼女は、仲間たちと共に故郷を離れた最大の理由〈神託〉の事もあって様々な事に思いを巡らせる。


〈何が鉄壁だ。

私は弱い。

どんなに体を鍛え、鋼の如き守りを得ても心が脆すぎる〉


自嘲気味にそんな事を思いつつ、故郷の森の奥で託された〈神託〉が、事実であると知った今でさえ踏み出せないでいた。


あの時私は誓ったじゃないか。

あの御方がその命を掛けて伝えてくれた事を確かめようと。

それが事実ならば、この身に換えてもあの御方の願いを成し遂げようと。


セラフィーナは目の前に展開される映像へと視線を向けながらも、その心は過去へと向かっていった。


※ ※ ※


朝靄煙る早朝から魔物討伐の仕度を済ませ、セラフィーナは森の中を走っていた。


彼女の能力は前衛、中でも騎士系統と異能を生かした構成となっているが、高位のレベルと霊格、そしてマップの恩恵もあって下手な斥候職を必要としない。

そんなセラフィーナの感覚から言えば、昨日多数の魔物を屠った事実を差し引いても、噂やギルドで得た情報以上におかしいと思える速度で魔物が増えている。


「どこかの地で浄化なしの大規模討伐が行われている可能性もあるな」


そう、この世界では単に魔物の生命活動を終わらせるだけでは真の意味で魔物を倒したことにはならない。


いかなる法則なのか浄化なしで討伐された魔物たちが距離の概念を無視して別の地へ出没する事になる。


それはとても近場であるかも知れず、逆に遥か遠方の大陸かも知れないが、これ故に魔物を倒すだけで浄化可能な転移者は特別な扱いを受けることになるのだ。


とは言え転移者は決して数多い訳ではない。


その上ギルドや神殿、国などが依頼を出す形で各地に留まることもあるが、自身の霊格やレベル帯に合わせた地域へ移動してしまう事も多々ある。


そしてダンジョンから魔物が溢れ出すスタンピードや、何らかの要因で発生する魔物の大量発生は転移者の有無は関係なく起きてしまう。

そんな非常時のみの特別措置として、冒険者や騎士、兵士たちが魔物を大量に討伐する事がある。


大抵は倒された魔物たちは各地に分散されて再生されるが、稀にまとまって同じ地域へと送り込まれる事もあった。

神々ならぬ人の身では何が原因なのかはわからない。


「此処で考えた所で答えが出る訳でもないか」


そもそもが他所での討伐が原因ではない可能性も十分にあるのだから、とセラフィーナ自ら動くしかないと心に決めてそう呟くと、再び森の中で多数の魔物たちを討伐して行くのだった。


移動しては狩り、狩っては移動を繰り返している内に昼間近となった。

昨日よりもかなり森の奥へと入り行くども戦い続け、ろくな休憩も取っていないが霊格とレベルで強化された心身はこの程度の負荷では何ら問題にならない。


息を切らせることもなくチラリとマップを確認すると、索敵可能な範囲ギリギリの所に大きな赤い光点が表示されていた。


「森の奥にこの規模の光点、もしや元凶か?」


大きな存在に惹かれて、もしくは縄張りや住処を奪われて、森の奥から外周部へとやってくる事はそれなりにある事ではある。

今回もそれが原因であろうと心当たりをつけたセラフィーナは、マップで光点の位置を確認しつつ枝葉を避けながら森の奥へと走り出した。


十分程森の中を駆け抜けると、急に足元がぬかるみはじめ、木々の間にうっすらと霧が広がり始めた。


やや歩き難い程度だったぬかるみは足を進めるごとに酷くなり、5分と進まぬうちに足首まで覆うほどの泥と水になっていた。


「こんな所に沼地だと?」


その泥は朽ちた落ち葉などと混じり、血肉の腐った臭いすらさせている。


「近いようだが…」

チラチラとマップを確認しながらも悪臭と足場の悪さに気を取られ過ぎないよう、霊格の向上によって思考力すら上がっているセラフィーナは突き進んだ。


と、唐突に視界は開け、あり得るはずのない、湖とも呼べない臭気を放つ沼が目前に広がっていた。


泥水よりも汚泥と読んだ方が正しいのだろうその沼は、セラフィーナの記憶が正しければギルドの発行する簡易的な地図にも、そして領主であるボムグラネイト公爵家の地図にも、記載されてはいない。


実際の所、神々の意志により地形が変わることは多々あったが、それは〈天の声〉〈神託〉として告知され、その都度地図は書き換えられてはいる。


〈天の声〉は全ての人々に届く祝福でもあり、それを聞き逃す事など通常あり得ない。


「ならばこれは一体どういうことなのだ?」 


この世界の人間は、神々の定めたルールを逸脱する現象には強く反応してしまう。

数年とは言え幾度もの戦いに身を置いてきたセラフィーナであっても、その軛からは逃れられなかった。


セラフィーナは仕組みによる混乱から自らを制しようと意識を凝らすが、それは仕組みの一つであるマップからも意識を外してしまう行いでもあった。


ザバーーっ!!


大量の汚泥が弾け飛び、薄汚く濁った水面から巨大な、全長数十mはあるであろう大きな蛇とも竜とも呼べる魔物がその姿を現した。


亜竜である足のないドラゴンもどきワームに似ているが、明らかに存在感が、格が違った。


ほぼ三角形の頭に赤く輝く双眸、チロチロと動く赤い舌。

その背には一対の大きく白い翼を持ち、黒や深い緑の鱗一枚一枚が太陽の光をキラキラと反射して、巨体そのものが神秘的とも言える荘厳さを放っている。


跳ね上げられた泥水が辺りに散り、今までの比ではない悪臭が辺りに立ち込め、池の周りにある木々が急速に枯れ落ち腐って崩れて行く。


〈毒か?!〉


セラフィーナは咄嗟に赤黒い壁で全身を覆いつつ左腕で鼻を庇い、数歩後ずさりつつもその異様を見つめるのだった。

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