終末
でもって本編〜
終末
ソフィアの話によればいままともに動けるのは、弘樹、貴彦、小春、十六那、セラフィーナのみとのことだった。
「つまりは転移者を含めかなりの人数を治す必要性が出てきた訳か」
弘樹が自信無さげに呟くと、
「そうね。
干渉して治すなら私とソフィアさんでも可能だけど完治させるなら弘樹さん、あなたしか出来ないわね。
ただねぇ…」
弘樹に答える十六那だったが、何やら気になる事があるようだった。
「干渉にしても完治にしても、下手すると八柱界では生きて行けなくなる可能性があるのよね。
巻き込まれただけとは言え、知ってしまったのだから。
その記憶を消すと言う手もあるでしょうけど、そこまでするなら本人を消す可能性の方が高そうだもの。
結晶化が人体にどんな影響を与えるのかも分からないのも問題だけど」
十六那の話を聞いている時、フッと何かのシーンが弘樹の脳裏を過ぎった。
それは海をゆく浪越船長の船が嵐に見舞われ、海や空の魔物たちに襲われてるビジョンであった。
「治癒したとしても航海中なら船ごと沈めてしまえば全滅だし、あちらからすると簡単な事かもしれないしな」
「あー、それはドンピシャ感ありすぎですね」
弘樹が思わず見えたビジョンの内容を口にすると、貴彦が嫌そうに顔をしかめる。
これまでの経緯からしても魂の修復がなされた存在に何も起きないとは思えなかった。
どちらにしても結晶化したままどうにかなるか、神々に背信者として狙われるかの違いなのだが。
皆黙り込んでしまった。
「何をするにしてもあと幾つかの情報を伝えておくわ。
貴方達の船を襲った海の魔物が正体不明な点。
これは実際に見てみないと何とも言えないけれどきな臭いわね。
それから第八大陸の創造をイシュタルとブリジットがメインで行なっているのだけれど、協力している神々にすら秘密扱いな部分が幾つかある点ね」
それは暗に陰謀派とも呼べる神々の介入を意味していた。
神々とて地球世界とは異なり、八柱界の霊格やレベルなどの影響は受けているが、神威はスキルやタレントなどとは異なる特異性を持っている。
そもそも魔法のスキルですらある程度の霊格を有すれば大規模な破壊を行えるのだから、その元となる神威の威力など考えたくもなかった。
「高位の霊格が敵になるのなら、今対抗できるのは弘樹さんと十六那さん、それにソフィアさんがメインで動くことになるんでしょうか?
神々と全面的に敵対した場合、神威も魔法も祝福も使えなくなると私は前衛としてかなり力不足になりそうですし」
小春の神威は借り物としての側面がある。
武御雷の分霊とも呼べる刀の力を引き出して使っているのだ。
勿論その力を引き出し使用出来る時点で一般的な転移者の枠を超えているのだが。
しかしどちらにしても神々と敵対した場合、それらの力は使えなくなる。
八柱の神々サイドと敵対するという事は、魔法を使う事も多い貴彦も含め、個々人の戦力としては大幅に減ってしまう事になる。
こうなると霊格10を持つソフィア、上級神であり地球の神でもある十六那、そして魔法よりもタレントに重きを持ち実は高位の霊格があるらしい弘樹の三人が主な戦力と考えるのが妥当だった。
無力さを感じている小春や貴彦、何が何だか分からないセラフィーナ、自認している自分と現実は色々違うらしいが、何をどうすれば良いのか分からない弘樹。
そんな面々を前にしてソフィアが再び口を開いた。
「よろしいでしょうか?
マスターを含め皆様方は八柱界の神々由来の力に頼る側面が大きいのは事実です。
また召喚転移により恵那で再構成された時点で何かしらの枷を嵌められている可能もあります。
現状では八柱界の神々と敵対しても勝ち目はありません。
ですが…何故皆様は〈あちら側〉の都合の良い形で対応しようとなさっているのですか?」
「「「「?」」」」
「あー、そうね」
ソフィアの話に十六那を除く皆が首を傾げた。
「今現在皆様方は八柱界仕様になっていると言う事です。
実力をセーブしつつ八柱界を旅するのが目的なのかと思っておりましたが、どうやら違うようでしたので説明致します。
〈新世界〉はマスターである弘樹様の世界。
ルールもマスター次第。
それはマスターに準じるサブマスターであり、地球世界の魂を持つ皆様方も同様です。
マスターは小春様、貴彦様、そして十六那様たちのサブマスター権限を譲渡された際、自分だけではなく皆の家であって欲しいと願われました。
ですからマスター同様、サブマスターの皆様方もまた、《新世界》へ干渉する権限をお持ちであり、私にとっては上位存在となっております。
干渉は勿論マスターの許可しうる範囲内となりますが。
つまり皆様方もマスター同様、すでに八柱界における霊格やレベルを超越した方々となっているのです」
「マジか?!」
「えぇっ?!」
「僕は鍛冶や薬など物作りの神を希望します!」
弘樹と小春は驚きの声を上げるが、貴彦はソフィアの話をすんなりと受入れていた。
✴ ✴ ✴ ✴ ✴ ✴ ✴
新月の夜、闇に包まれた海上に四つの人影が現れた。
彼らは空にあるのが当たり前であるようにそこに立ち、眼下に広がる満天の星々を反射する海を見下ろしていた。
「あぁ、やっぱり。
魔術的にジャミングやら偽装はされているけれど、ここに居るのはカリュブディスではないわね」
十六那がいつも通りの口調で海を見下ろしそう呟いた。
以前ここを霊視した際には邪魔された力が未だ色濃く漂っていたが、今の十六那にとってそれは何の意味もないものだった。
「もしやとは思っていたけれど、ここには居るはずのないモノ。
それがこの下に居るわ。
そう、リバイアタンね。
前に見たときはそれ以外の気配も混じっているみたいだけど、どうやら複数の魔力が絡み付いていたのね」
ギリシャ神話に由来する神である十六那が遥かに深い海の底を見つめて事も無げに評する。
リバイアタン、キリスト教における海の怪物であり悪魔でもあった。
最強の異名を持つそれは、世界の終末においてベヒモス共々食料となる、そんな定めを持った魔物であり本来八柱界には居ないはずの存在だった。
「ある意味終末みたいなものですし、奴らもそれを意識して送り込んだって言うのは考えすぎでしょうかね?」
「多分そうなんだと思います」
貴彦が僅かな恐れすら抱いた様子もなく肩をすくめ、それを見た小春が小さく頷いて応えた。
「丁度良いんじゃないかな。
奴らも含めてやった方が効率的だ。
はじめようか」
二十代半ばの外見となって久しい弘樹の言葉に呼ばれたかのように、眼下の闇がうずまき、海蛇とも竜とも思える巨大な存在が姿を現した。
何事もなかったかの様にその様を見下ろしつつ、四人はそれぞれの手を取り合い輪となった。
リバイアタンは小さな島なら飲み込んでしまいそうな程の大きな口を開き、赤黒い炎を吐き出すがそれは見えない壁に阻まれるようにして拡散してしまった。
「魔力の紐付解析と捕捉は終わったわ。いつでもどうぞ?」
十六那の言葉に弘樹は「ありがとう」と小さく礼を述べ、眼下に蠢く巨大な魔物とそれに連なる数多の見えざる魔力を糸や紐として認識した十六那の導きを共有する事により、それら全てを一瞬で拘束した。
弘樹は明らかに高位の霊格、神格を持つ霊的存在たちを難なく複数捕縛したのだ。
リバイアタンを八柱界に送り込んだ者たちは、今頃弘樹の目に捕らえられ、眼下の巨大な怪物同様見動き一つ取れなくなっているだろう。
「行け」
ぽつりと弘樹が命じると、リバイアタンの巨体は眼下に広がる海原から消え去った。
「無事他の連中も送れたみたいですね」
「あとはソフィアさんがどうとでもしてくれる事になってるから、私達はすぐに次の段階へうつりましょう」
貴彦の言葉に小春が頷き、弘樹と十六那へ視線を送った。
大海蛇と霊的に繋がりを持っていた者達をすら弘樹の言葉は一瞬で強制力を発揮し〈新世界〉へと送り込んだのをマスターやサブマスターである彼等は感じ取っていた。
視覚や聴覚、第六感なども含めた感覚を超えた知覚力と、それを当然の事として認識し得る容量を得た彼等にとって、会話すら本来必要とはしない。
単なる人の身であったなら、例え八柱界における霊格が最高位の十であったとしても個として存在する事は出来なかったであろう。
最高位の仙人が自然に溶け込んでしまう様に、世界そのものを認識する事など高位の霊格があっても人間である限り無理があるのだ。
それは信仰や思想などによる違いもあったのだろう。
しかし彼等はすでに人の身を捨て去っていた。
ギリギリ人格と呼べる個を保持しつつ持てる最高位の神格、それを得たためた。
一つの広大過ぎる世界、それを生み出した者やそれらを支える真の意味での神々であり創造主たち。
彼等は八柱界での霊格で表現する事が不可能な規格外の存在であり、その場に居るだけで世界が悲鳴をあげているのを四人は知覚していた。
神気をコントロールすれば話は別だが、素に極力近い状態では八柱界の一つ所に長居は出来ないのだとここに戻る前から知ってはいた。
そもそも〈新世界〉における本来の姿で四人のうちの誰か一柱が八柱界に入り込めば、もしくは今その姿に戻れば、世界は許容量を遥かに超える神威によって、まるで空気を入れすぎた風船のように破裂し消滅するのだから。
それ程までに仮初の世界である八柱界と〈新世界〉の容量は異なっていた。
創造神抜きで創り出した世界は所詮夢幻に近いのだと今の四人、否四柱には理解出来た。
元々女神の化身であった十六那ですらが、既に元の破天荒な女神を遥かに超えたモノとなっており、人間であった者達よりは多少その差異に早く慣れたものの、こうも違うものなのかと驚きを禁じ得なかった。
多少脆く拙くそして嘘臭くは感じたものの、八柱界は間違いなく一つの世界なのだと新月の女神は認識していたが、今となってはそれもある種の認識阻害や転移時の変換、そして神としての神格によるものなのだと理解できたのだった。
しばらくは不定期の投稿になります




