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ソウル・リファイン  作者: 弥生丸
チート炸裂編
72/96

〈鉄壁〉

本日二度目のアップです。

なお昨日、一昨日も更新しています。

〈鉄壁〉


このままではっ!


途轍もない違和感を感じてそれに抵抗を続けたセラフィーナ、小春、貴彦の三人は、いつしかそれぞれの手を握り合い輪となって無意識の内に魔術的、霊的な防御の姿勢をとっていた。 


魔術において輪、つまり円は最も基本的かつ強力な守護の力を持つとされている。


三者共にテレパシーなどの能力は持ってはいなかったが、ただ一つの事に強く強く意識を向けた結果、触れ合った手から思いと力が伝わり仮染ながらも強い一体感が生まれていた。


小六月中一番低位であるシンシアよりも霊格で劣るセラフィーナだったが、彼女の特異性と特性が抵抗を可能にしていた。


彼女に流れる血、それは守りと意思の伝達などを主な働きとする血結晶の源そのものだ。


そして何よりも彼女の力、魂の本質すらもが守りに徹している。


そして霊格6へと至り亜神としての特性すら得た小春と貴彦は、肉を持つ人間の身から、より精神生命体に近い側面を強く持ち始めていた。


そこにセラフィーナの亜神の血と能力が加わり、一つの方向性、つまりは「何か」に抵抗する強い思いによってそれらは偶発的に方向性を与えられ、力となって発揮されていた。


しかし不可視の「何か」は途轍もなく強力であり、必死の抵抗もこのままでは破られてしまう、そんな危機感が3人の中に生まれていた。


空気が空気であるように…


太陽が太陽で、月が月であるように…


性別すら分からぬ、誰かの声が聞こえた気がした。


知識として「空気」は数多の成分で構成されている事を地球人の多くは知っている。


しかし一呼吸する度にわざわざそれを考える者はそうは居まい。


太陽や月を何気なく見上げた時、その光を浴びた時、天体として強く意識する者や光の三原色がと考える者は少ないだろう。


つまりはそう言う物だと、有るのが当たり前なのだと「思わせようとする何か」が、ジワジワと3人の内に侵食しようとしているのが分かる。


相手が言葉にして伝えているのか、それとも「何か」の有り様を3人がそう認識した故なのかは分からない。


しかしそれは精神誘導や精神支配と言った類の、その上にある物だと彼らの感覚が告げていた。


既に何度か受けているのかも知れないそれは、今回に限っては一度染まってしまえば終わりであるとそれぞれの直感が告げている。


弘樹とソフィアの創造は未だ終わらず、3人の時間に対する感覚すらもが狂っていた。


果たして一分経ったのか?

それとも一時間なのか、半日以上こうしているのか?


それすらも3人の認識が曖昧になり始めた頃、セラフィーナの内に小春の、そして貴彦の記憶の断片が流れ込んで来た。



見ず知らずの世界、地球の日本。


道場とその隣に建つ一軒家。

学園風景や家族との団欒。

何気ない日常や人々の交流。

平成から令和となった日本の何気ない風景。


それは高層ビルであったり、桜並木であったり、彼らにとっては当たり前の、セラフィーナにとっては初めてであるのに何故か懐かしい、そんな光景の数々。


今日は富士山が見えるよ!

母に手を引かれて歩いていると、雪をかぶった山が遠くに見える、そんな光景。


時には泣き、時には笑い、時に悩み、怒り、時に喜ぶ。


若さ故の無知や過ち、至らぬ視点や時に生じる謎の自信。


これから沢山の経験を経て変わるもの、変わらないもの。


夢や漠然とした不安。


そんな若者たちの日々の暮らし。


仲間たちと駆け抜けた小規模な異界。


それらはいつしか遠ざかり、魔物と戦い、手を血で汚しながら同郷の人間すらも手に掛ける事になる、そんな記憶の数々。


神々は…奴等は〈わたし〉や私達だけではなく、彼らの生活すらも奪ったのかっ?!


セラフィーナは八柱界で生まれ生きる者の常として、神々に対して信仰心を持っている。

しかしその反面、いくつかの経験を経て疑う感情が生まれ、胸神々に対して胸の内がモヤモヤとする事が多くなっていた。


そんなセラフィーナの認識の中で、いつしか分裂が起こっていた。

それは他者との精神的な同化に近い現象故に起こった事なのか?


セラフィーナの中から、今まで漠然として燻っていたモノが、生まれて初めて形を持って熱く強く燃え上がる。


それは何度も夢で見た美しい女性だった。

その身に赤黒い炎と風を纒うその姿は、夢に見るそれよりも生気に満ちて遥かに美しかった。


赤黒い、それでいて毒々しさのない神々しさすら感じさせる苛烈なる炎がセラフィーナの中で踊り狂う。


それに感化されたのか、小春の中では舞い散る紅葉が荒れ狂い、秋の季語である数多の稲妻が天を迸る中、黒い髪、黒い瞳の儚げな女性が着物の袖で顔の下半分を隠しつつ、そっと「彼ら」へ目を向けた。 


〈許すまじ〉


怒りを滲ませた声に貴彦の内なる者もまた応える。


それは髪を角髪みずらに結った白い衣と袴を着た、小さき貴人。


物憂げな視線をそっと上げ、腰に履いた針の如き小さな銅剣を振り上げる。


〈あれ等はしてはならぬ事をした。あるべき物を歪め、仮初の世を創世とは片腹痛い〉


3人の繋ぐ輪の中で、3つの異なる存在が一つとなり小春、貴彦を通してセラフィーナへと至る。


セラフィーナは内なる熱と流れ来る力を重ね合わせる。

その力は意思でもあるのか足すのではなく倍へ倍へと増幅されて行く。


分かるよね?


貴彦が問いかける。


やらなきゃ!


小春が背中を押し、


あぁ、出来るとも!!


セラフィーナは二人へそう答えた。


3人の思いを、そして内なる存在たちの力と意思を束ね、セラフィーナはただ一言宣言する。


「鉄壁っ!」

セラフィーナの宣言するかのような凛とした声に応え、彼女固有のタレントが発動した。


それは彼女の能力であると同時に、第四大陸における冒険者としての二つ名でもあった。


通常は薄っすらと赤黒い光の障壁が己と仲間を壁となって囲か包み込むのだが、今回の発動は全く異なっていた。


幾つもの色が混じり合い、金色にも白金にも似た光へと転じてゆく。 


それはまるでソフィアや弘樹のそれに対抗するかの様に強い光の柱となり、3人の身を包むのだった。


※ ※ ※


此処ではない何処かの豪奢な寝室で、一人の女神が舌打ちした。

「チッ。

破られたか」

それは単に起こった事象を表現しただけであり、悔しさなどの感情はこめられていなかった。


「まぁ、仕方がないの。

夢幻ゆめまぼろしはいつか覚めるもの故」

女神は少し安堵したのかの様な表情で、まるで誰かに言い訳でもするかのような台詞を声にすると、ボスっと音を立ててベッドへと横たわる。


「…睨まれてしもうたのぉ。おぉ怖い怖い」

目を閉じたままぼそっとそう呟くと、静かな寝息をたてるのだった。


※ ※ ※


弘樹とソフィアの共同作業は数分で終了し、極度の精神集中を解除した。


と、余りにも強烈な波動を身近に感じ、一人と一柱は咄嗟に障壁を張りつつそちらへと目を向けた。


そこには強烈な波動を放つ光に包まれ、それぞれの手を繋ぎ輪となった小春、貴彦、そしてセラフィーナの姿があった。


彼らの纏った光はセラフィーナの胸元へ吸い込まれるようにして収まり、疲れ切った様子で三者三様に地面へ座り込む。


「出来たね…」

「凄かったですっ」

「お疲れ様でした…」

何故か妙に親しげに話す三人を見て、弘樹とソフィアは首を傾げるのだった。

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