新たなる輪
今日は本編!(吉祥果も本編ですが)
新たなる輪
ホテルのロビーで今後についての話し合いがあると聞き、やや遅れ馳せながらセラフィーナと爺、元ポムグラネイト第三騎士団団長であるグレイル・ソートンはエレベーターで一階フロアへと降り立った。
極力オーバーテクノロジーにならぬようにと弘樹としては心掛けたつもりだが、やはりどこか抜けており現地人だと王侯貴族や極一部の大商人しか手にする事の出来ない様な施設を作り上げていた。
エレベーターや給湯設備、冷蔵庫に冷凍庫など魔法やマジックアイテムでも再現可能であり、実際販売もされているが決して一般市民が使えるほど安価なものではない。
そもそもビルタイプのホテルを建てた時点でアウトな気もするのだが。
「隠世取れたぜ!」「備え付けの家具以外は今度買いに行かねーとな」等とワイワイ騒いでいる転移者たちを尻目にセラフィーナたちは弘樹の元へと向かう。
「遅くなって申し訳ない」
セラフィーナとグレイルは弘樹にきっちりと頭を下げる。
「あぁ、セラフィーナ様。
実は先程今後の事を説明し終わった所なんです」
弘樹は2〜3日中に魔物を討伐し船を航路に戻す予定であると説明した。
「…山野殿、一つお願いがあるのだが聞いてはくれまいか?
是非我等を海の魔物討伐に参加させて頂きたいのだ」
緑の瞳に真摯な光を湛えて、セラフィーナはジッと弘樹の瞳を見詰めた。
弘樹は緑の双眸に心を吸い寄せられるような感覚に陥り、一瞬是非!と答えてしまいそうになったがどうにか理性を保ち、
「それは現状だと難しいと思います」と正直に答えた。
「我らでは足手まといだとでも言うのですかなっ?!」
セラフィーナの横に立つグレイルがクワッと弘樹に顔を寄せて唾を飛ばしつつ迫る。
弘樹はそれを軽く躱しつつ、
「敵は最低でも霊格7、レベルも700前後はあると思われます。
失礼ですが皆さんの気配からするとセラフィーナ様が一番レベルが高く霊格3でレベルは250前後、グレイル殿が霊格3でレベルが200前半、他のお二人は霊格2でレベルも150前後ではありませんか?」
とグレイルとセラフィーナの顔を順に見つめ、諭すように静かに語った。
「レベルや霊格が戦闘の全てだとは言いません。
しかし俺達のパーティメンバーは一番低い霊格4の者でも今回の討伐には厳しいと考えています。
彼女は幾柱もの神々の祝福すら受けていますが、それでも心許ないと感じているのです」
その言葉を聞いて、グレイルはグッと喉の奥を鳴らした。
その横で弘樹の言葉を静かに聞いていたセラフィーナは、
「それでも、行かねばならないのです。
もし共に戦う事が無理だとおっしゃるのならば、我々だけで魔物と戦います。
仲間とともに準備を整えて来ますので、あの海域に我々だけ戻して頂きたい」
と、感情を抑えた声で弘樹へ訴えた。
「姫?!流石にそれは無謀と言うものではありませんかっ?!」
グレイルがセラフィーナを止めようとその身へ手を伸ばす。
しかしその手は見えざる壁にでも阻まれた様に先へ伸ばす事は叶わなかった。
障壁の類いか?
弘樹が意識をセラフィーナの周辺へ向けると、彼女の身は先日貰った柘榴石の如き輝きを薄っすらと放つ壁が囲っていた。
「爺、私は行かねばならない。
それが神々より下された神託なのだから」
静かな声音とは裏腹に、セラフィーナの瞳に宿る光は強い意志の輝きを放っていた。
「分かりました。
神託がどのようなものかはわかりませんが、どうしても行かねばならない理由があるという事ですね。
実はこれから俺達パーティは特殊なエリアで短期集中修行をする予定です。
2〜3日と期限を区切ったのもそれが理由です。
ですからまずは俺達と共に修行をしましょう。
そこで力を着け、皆であの魔物を討伐しませんか?」
弘樹の提案に「かたじけない。是非にも」とセラフィーナは笑顔で答え、パーティーメンバーの準備が整ったら弘樹と共に旅立つ事となった。
セラフィーナの冒険者パーティー〈紅い風壁〉の面々は装備を身にまとい、荷物の大半をセラフィーナの亜空間収納へ納めると、四人揃って弘樹との待ち合わせ場所であるホテル横に設置された公園へと向かった。
公園には弘樹の他に小六月の面々と、神々しいばかりの光をまとった女性の姿があった。
ソフィアである。
紅い風壁の面々は初めて会うが、抑えてはいても霊格10と言う高位の存在感を感じ取り、咄嗟に片膝を着いてしまった。
「〈紅い風壁〉の皆様方、そのような礼は不要に願います。
私はマスターこと創造主・山野弘樹様にこの【新世界】の統括管理者として生み出され任を与えて頂いたソフィアと申します。
どうぞよろしくお願い致します」
弘樹さんに創造され任を与えられた事がそんなに嬉しいの?と小春が突っ込みたいのを必至に我慢する程、ソフィアは満面の笑みを浮かべて名乗っていた。
「なんとっ?!」
ソフィアの言葉にセラフィーナは驚いて顔を上げ、弘樹の顔をマジマジと見つめてしまった。
「セラフィーナ、そんなに見詰めてたら失礼だよ」
セラフィーナの後ろで同じく片膝を着いていたミルラがまったりと声をかけ、ハッとして目を逸らした。
只者ではないと思ってはいた。
神席にある転移者であり、亜神でもある事も知ってはいた。
この世界は彼の隠世のような物だと聞いてはいたが、最高位の女神を管理者として生み出す程の存在だとは思いもしなかったのだ。
世界を作る人間?
最高神を生み出し役割を与える亜神?
そんなモノが居る訳がないではないかっ?!
そうは思うがドヤ顔すら披露しているソフィアが嘘を言っているとは思えない。
それはグレイルや斥候職の青年、ムギルにしても同様だったが、取りあえずは立ち上がりそれぞれ名乗る事となった。
「私は〈紅い風壁〉のリーダー、セラフィーナ・ポムグラネイトです。
盾役兼アタッカーですが、魔法の類も使います。
よろしく頼みます」
「私はグレイル・ソートン。
同じく盾兼アタッカーです。
よしなに願います」
「私はミルラ。
異能と魔法メインで後衛です。
よろしくお願いします」
「オレは斥候のムギルです。よろしくお願いします」
〈紅い風壁〉の面々が自己紹介を済ませると、小六月のメンバーも各々紹介を済ませ、全員が弘樹へと視線を向けた。
「今からは話し方をいつも通りにさせてもらいます」
と弘樹はセラフィーナたちに断りを入れてから、説明を始めた。
「この世界は生まれたばかりだ。
精霊や自然由来の龍種や妖精種、昆虫や動物の類も生まれ始めた所だそうだ。
そんな状況だからこそ出来る事があると今日ソフィアから提案を受け、今後の戦いの為に実行する事にした。
簡単に言うとまだまともに生命体が生まれていないがら空きの大陸を結界に閉じ込めた上で時間の流れを調整、外と異なる流れにする。
そして創造を使い大陸その物をダンジョン化させる。
この世界に満ちている恵那を仮初の魔物、モンスターに変換して討伐する事で現在の俺達でも無理なくレベルアップや霊格の向上させ、戦闘訓練等を含めて行うと言うものだ。
内部のモンスターは地域毎に強さや属性を調整する。
普通の生物ならダンジョン大陸の中と外の差異に耐えられないらしいが、その辺は全てソフィアが調整する事になっている」
弘樹の説明に小六月の面々はすんなりと納得し、逆に紅い風壁の面々は言ってる意味が理解に及ばずポカンとしていた。
普段沈着冷静なミルラすらもが口を開いて、弘樹の話を聞く間、「えっ?えっ?えぇっ?!」と謎の声を小さく上げていた。
「こちらをご覧下さい」
ソフィアがすっと手のひらを上にした左手を胸元まで持ち上げると、半透明な球体が浮かび上がった。
それは地球儀にも似た物であり、【新世界】の現状を示していた。
それが40センチ四方の四角い一枚の地図状に変化すると、多数ある大陸や島のうち三つの大陸がチラチラと光を放っていた。
「まだ創造途中ではありますが、この光っている三つの大陸が今回の候補地です。
未だ植物類や菌類、昆虫や動物が僅かしか生まれていないものになります。
いずれも第一大陸の3倍から4倍程度の規模であり、精霊や妖精などは多少生まれ始めていますが、そちらはエリア管理者や住民として働いていてもらう予定になっています。
外の世界とは異なりますから、魔物…恵那モンスターとでも命名しましょうか、それらの侵入禁止エリアなども設置し、そこに町や村を生み出します。
マスターの物もそうですが、この三つの大陸の特性を表す為にも貴彦様と小春様の地球世界の知識もお借りしてそれぞれ異なる物にしようかと思っております」
ソフィアの説明に弘樹と貴彦、小春は了承し、早速三つの大陸を土台とした創造を行う事になった。
「既にマスター、貴彦様、小春様の知識へリンクは完了しております。
マスター、こちらへ」
ソフィアは地図を自身の目前に浮かると、両手を差し出して弘樹を招き、その両手を握った。
本来霊体であるソフィアには触れる事など出来ないはずなのだが、多分そう調整したのだろうと弘樹たちは考えた。
弘樹とソフィア、二人の握りあった真ん中に地図は浮かび、再びその姿を地球儀の様な形に戻してゆっくりと自転を始める。
「細かな作業や修正、サブマスターであるお二人のイメージ抽出と時間結界作製などは私が行いますから、マスターは基本的な創造をお願い致します」
創造と言うよりは大改造、もしくは魔改造だなと弘樹は思いつつ、静かに目を閉じて意識を集中させた。
弘樹はいつだったか恵那の泉でマブと行ったスキルやタレントのレベルアップ作業を思い出し、自然と月光魔法や夢幻魔法、そして魔神魔法にその他のタレントやスキルまで発動させ、集中して行く事で周囲の気配も遠のき、時間の感覚すら消えて行くのを感じていた。
「?!!」
セラフィーナはソフィアと手を握り合い力を行使する弘樹の放つ存在感に目を見張っていた。
それは不思議な事に他の上位存在が放つ威圧感のような他者を押しやり気圧するようなものでは無く、どちらかと言えば包み込む様な柔らかさすら感じはしたが、しかしそれでも二人は、否、二柱は圧倒的過ぎる存在、光の柱となっていた。
彼が霊格7であるなどあり得ない。
霊格と言う形で表現する事その物が間違っているのだと、ソフィアすらをも遥かに超越した途轍もない存在であるのだと、セラフィーナだけでは無く、小六月や紅い風壁の面々は感じていた。
神格の違い。
世界を管理する者と、世界を、そして数多の命…管理者たる神々すらをも創り出す者の格の違い、それを彼らは知った気がした。
彼は、山野弘樹は…
あれ?おかしい。
何かが、変?
これは…何だ?
唐突に貴彦が、小春が、セラフィーナがそれぞれの内に大きな違和感が生じた。
湧き出るはずの疑問。
そして至るべきその答え。
しかしそれらはまるで何かにぼやかされ、有耶無耶な物に変わってゆく。
まるで「だって弘樹さんですし」で済ませてしまうエアリスやシンシアが良く見せるようになった、感覚の麻痺にも似て。
神々の祝福による精神的な影響の無効化や、幸運による絶対的成功すらもが無効化されてしまう何か。
それに三人は必死で抵抗する。
もしその三人に多少なりとも余裕があったなら、エアリスやミルラを始め他の人々が思考停止でもしているのか、何の疑問も感じずにまるでそれが「当たり前の事」として受け入れてしまっているような印象を抱いていただろう。
しかし「何か」に抗う事に意識を集中し、いつ移動したのかそれぞれが認識すら出来ないままに、セラフィーナ、貴彦、小春はそれぞれの手を繋ぎ、新たなる輪となった彼らにはそれを知るすべは無かったのである。




