吉祥果その2
今回もセラフィーナのターン!
吉祥果その2
「勿論あっしらも冒険者ギルドを通して護衛依頼を出しましたぜ?
でもねぇ、公都のギルドも村のギルド支部も人手が足りねえってんですよ」
源さんの言葉にセラフィーナの眉がぴくりと反り上がった。
「それはどういう理由があってなのかギルドから聞いてはいないか?」
セラフィーナの再びの問に源さんは少し困った様な、それでいて愚痴でもこぼしたかったかのような微妙な表情を浮かべ、
「それなんでさぁ」
と語り出した。
きっかけは先日行われた神託が直接の原因だったと言う。
今までは噂の域を出なかった新マップ、第八大陸が近々開放される事がほぼ確定したようだと話題になり、転移者や冒険者の多くがダンジョンや森や山奥に遺跡などへレベルアップや装備及び素材の調達、別大陸への移動資金作り等の為に大陸中に散らばってしまい、気の早い一部の者は第六第七大陸へと向かってしまっているという。
街に残った転移者や冒険者達も既にそれぞれ依頼を受けている者も多く、冒険者ギルドも緊急性の高い討伐依頼などを優先している為、近々で護衛可能な者が居なかったのだった。
元々転移者の数は異世界から素質がある者の召喚と言う大前提がある為多い訳でもなく、冒険者の数もたかが知れている。
必然的に単価の安い近隣への護衛仕事を受ける者など極僅かとなってしまったのだ。
「生活の為、生きる為、か。
それは分かる。
分かってはいるが、転移者はともかくとして冒険者は元々この国の住民たちのはずだ。
なぜ彼等まで大挙して他大陸へと旅立ってしまうのだろうか?」
やや困惑気味なセラフィーナに、
「連中も生活が掛かってやすからねぇ」
と源さんは、苦笑いを浮かべていた。
「セラフィーナ、冒険者の大半は農家や商いの跡継ぎではない人たち。それと家族や村、町を襲われて失った人が多いんだよ?」
それまで空気の様だった風使い、ミルラがコトンと首を傾げてセラフィーナに語り掛けた。
「町や村が壊滅していたら転移者と同じ状況だよ?
ううん、もっと大変かも知れないね。
浄化も出来ないしスタート時点で霊格やレベルの差もあるもの。
神殿や冒険者ギルドからの支度金もないし」
ミルラの言葉にしかしとセラフィーナは反論した。
「故郷や家族を魔物に奪われたのなら、他の人々が同じ目に合わないよう力を尽くそうと、そう考える者も多いのではないのか?」
その言葉にミルラは静かに首をふり、
「気持ちと現実は違うよ?
気持ちじゃ宿にも泊まれない。
ご飯も食べれない。
冒険者として生きるなら、浄化が出来る人たちと一緒じゃなきゃ中々レベルも霊格も上がらないよ。
武器も鎧もなくて霊格1、レベル10ちょっとで護衛の仕事なんて無理だよ?」
やや言葉足らずではあるものの、ミルラが言いたい事をセラフィーナはやっと理解できた。
一般住民の跡継ぎとそれ以外。
家族を、そして時に町や村を失った者たちの生活。
転移者優位の環境。
転移者と共に冒険可能かどうかの差。
それらの境遇は、転移者同様かそれ以上に厳しい面が存在する。
それなりの経験を経て恵那を得なければ、レベルも霊格も上がらない。
成功すれば一攫千金を狙えはするが、逆に冒険者として生計を立てて生き残るには、転移者のサポーターとしてパーティーに加入し冒険出来るかどうかが大きい。
これは純然たる事実であった。
「すまない。
私が浅はかだった」
セラフィーナは源さんとミルラに素直に頭を下げる。
無知であり無力でもある自分が情けなくなった。
セラフィーナはその特殊な血筋故か生まれた時点で既に霊格が2であり、幼い頃から護衛の騎士などに槍や剣、盾術を始め様々な技術を教えてもらい、後に当時騎士団長の一人だったグレイルに師事する事となった。
また亜神の血筋の影響か魔法や異能の才能もあった為、家庭教師や曾祖母に習いもしたし、血による特殊能力、血結晶化の応用技すら身に着けていた。
その上神殿や交流のある亜神たちを驚かせた、とある祝福すらも持ち合わせていた。
公爵家令嬢であり対魔物向けの能力に秀でた存在、そして本人は全く自覚がないものの容姿端麗ですらあり、複数の意味で恵まれた環境に生まれ育っている。
町や村を周り、平時は冒険者として平民と関わる事も多く、遠出をすれば宿に泊まる事もあるし、野宿とてする。
そんな環境にあっても、子供の頃からあった〈当たり前〉は中々抜け切らない。
現在では霊格3、レベルも230を超えているセラフィーナだが、それでも彼女は政治的な意味で無力だった。
冒険者として日々を過ごすセラフィーナは、大きな祭事や血結晶に関わる事を除き政に関わってはいない。
それは父と跡継ぎである兄の仕事であるからだ。
出来たとしてサポート程度なのだが、貴族にありがちな処世術が苦手であり、戦い以外においてはいろんな意味で不器用でもある彼女では逆に足を引っ張りかねず、父の許可は下りなかった。
政に関われぬ身の上としては、今の話に出た冒険者の境遇に思う所はあっても何一つ口出し出来ない。
父や兄は普段優しいものの、娘が政治に関わる内容を口出す事を強く嫌う。
己の立場を持って冒険者ギルドや神殿へ訴え出ることは可能であるかも知れないが、それは家の威光を振りかざすだけであり、そもそもが半ば公的機関であるそれらへの関与自体が政と密接に関わる事になるのでそれも出来なかった。
一信者として、冒険者として関わる以上の事は許されていない、それが今のセラフィーナであり、歯痒くも悔しくもあった故の無力感だった。
そんな事を考え落ち込むセラフィーナに、ミルラはそっと語りかける。
「セラフィーナが無力を嘆く必要はないと思うよ?
何処の国も大陸もきっと同じだし、自分が出来る事をすればいいと思う。
貴女は町や村を守る血結晶とその結界、それを作り維持出来る。
悲惨な経験を、凄惨な状況を生み出さない為の力がセラフィーナにはある。
そんな貴女は貴女が思う以上に素敵で素晴らしいんだよ?」
「…ミルラ」
セラフィーナは感極まり目を潤ませて華奢な少女に抱きつこうとするが、彼女はさっと避けてしまった。
「セラフィーナは真っ直ぐ過ぎるよ。
金属鎧を着たまま抱き締められたら痛いんだからね?
真っ直ぐで正直なのは良い事だけど、時にはもう少し考えて行動したほうがいいと思うよ」
ミルラの突っ込みに、「すまない」とまた凹むセラフィーナだった。
そんな様子を見ていた源さんや馬車の乗客や御者たち、そして騎士の面々は苦笑いを浮かべていると、ムギルとハルーラの乗る馬車が到着した。
源さんは拾い集めた魔石を始めとしたドロップアイテムを布袋に入れて、セラフィーナの所属するパーティー、〈紅い風壁〉の財政を担当するミルラへ「ありがとな」と渡すと、セラフィーナや騎士たち、ムギルやハルーラにも馬車の面々を代表して礼をする。
冒険者としてではなく公務中の事であり、領民を守り助けるのは貴族の当然の役目であるのだとセラフィーナは伝え、公都まで一緒に戻ることすら提案する。
結局三台の馬車を騎士たちが囲むようにして公都に向かう事となったのだった。
「マップの反応は私達を知っても黄色のままだったな」
セラフィーナは馬車に乗り込むとハルーラへ語り掛けた。
「姫をお守りする為に索敵するのは私の仕事です」と強く訴えるハルーラに折れて彼女と共にある時は極力マップをしないようにしているが、実のところセラフィーナには亜空間収納の他、マップ、ステータスウィンドウ、そして浄化すらもが祝福によって与えられていた。
〈転生者への祝福〉。
それは八柱界で神々が唯一人確認している、浄化すらも可能な現地人の持つ異例の祝福であり、セラフィーナ・ポムグラネイトこそがそのただ一人の人間であった。




