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ソウル・リファイン  作者: 弥生丸
地球編
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騒がしい霊

騒がしい霊



パキン

ピキッ

バキバキッ!


何もない空間のそこかしこで、何かが折れ曲がり、弾けるような音が響く。


カタカタと、地面に転がる石が揺れる。


そうだ。


俺は知っている。


漠然とそんな事を思いつつ、弘樹は一歩、前へ進む。


何故忘れていた?


誤魔化しても何も変わらないのに。


内なる声がささやく。


弘樹の脳裏に蘇る、それは今から30年近く前の数年間の出来事の数々だった。


思春期と呼ばれる時期、両親と兄、姉と暮らした古い家。


毎晩のように部屋で響くラップ音。


彼のいる部屋だけが軽度の地震が起きたかのように揺れ動く事があった。


誰も動かしていないはずなのに、家具の位置が変わっていることも多々あった。


時には誰も居ない部屋で物が燃え、ボヤ騒ぎすら起きていた。


机の上に置いたはずの本が消え、風呂場に落ちていたこともあった。 


ポルターガイスト、騒がしい霊と訳されるその現象は、全て弘樹を中心に起きていた。


兄と姉、二人と疎遠になった最大の理由、それは毎回異常な現象の中心となる弘樹を気味悪がり、そして恐れていたからではなかったか?


スプーンを曲げる程度なら良かったのだ。

単なる一発芸程度の代物ならば。


しかしカードの裏を読み、まるで心を見透かしたかのような態度を取る事も多々ある弟、その彼を中心に騒霊現象が起こる。


さして年も離れていない兄と姉はさぞ怖かった事だろう。


それに比べて両親は肝が座っていたのか、ボヤ騒ぎの時すら落ち着いていたように思うのだが。


成長と共に騒霊現象の頻度は減って行き、極たまにラップ音がする程度になっていた。

古い家だ。

単に湿気や乾燥の影響で、木材が音を立てていただけなのかもしれないし、建付けの問題もあるかもしれない。


一人暮しのアパートも、稀に天井付近などがパキッと鳴る事もあるが、それとて普通に起こる程度でしかなく。


あれは一時的な、それこそ幽霊の仕業だと思いこんでいた。


怖がりになったのも、他人との交流が苦手になったのも、元はと言えばその数年間が大いに影響していたのだと、今は思える。


スプーン曲げすらまだ出来るかどうか確かめるため、思い出した時に曲げてみる程度で、忘年会の席で一度でも披露すればもう同じ面子の前では使えない程度の、そんな特技程度の認識に落ち着いていた。


でも…違う。


そう、違う。


明らかに、ここにある。


俺の中に、それはある。


はっきりと感じ、膨れ上がる熱量に導かれるように、弘樹はまた一歩前へと進み鬼女の面を睨みつけた。


怖くないと言えば嘘になる。

化け物相手にどれだけ役立つかすら分からない。

そもそも自分が化け物だと、そう思いたくなくて封じていたのだと、化け物を目の前にしてやっと思い出せたそんな記憶。


兄の、姉の自分を見る目が、他の人々からも向けられるのが怖かった。


孤独になるのが怖かった。

でも結局、忘れて逃げて、どちらにしても孤独になっていた現実。


もう、いいだろう。


忘れても結局変わらないなら。


今ここでほんの少しでも役立つと言うのなら。


何かがカチリとはまった気がした。

視野が急に開けた様な、頭の靄が晴れたような、そんな感覚が弘樹を後押しする。


「俺は…逃げない。二人共離れろ!俺がやる!」


その声と気迫に応えるように弘樹を中心として数多の小石や小振りな岩、そして砂や木の葉などまでが重力を無視して浮き上がる。

バキバキと激しくなるラップ音と共に、そこかしこに小さな稲光にも似た放電現象すら起こっていた。


鬼女は弘樹から放たれる気配に、力に気圧されジリジリと後退る。


戸惑いながらも貴彦と小春は傷付いた体を動かし、壁際へと後退した。


「うぉぉぉーーっ!!」

弘樹は渾身の力を込めて鬼女へ叫ぶと、空気が、電気が、石や砂が、叫びに乗った力ある意志に従い鬼女へと襲い掛かった。


それは小規模な嵐だった。


強風が竜巻となり鬼女の動きを封じ、巻き上がった小石や砂が肌や鱗を切り裂き、岩があちこちに打撲傷を作る。


蛇体のあちこちに拳大の炎が生まれてはその身を焼き、いくつもの小規模な稲妻が走り鬼女を撃ちつけ、氷の断片が強い冷気を帯びてキラキラと月光を反射しつつ風に舞い、鱗や皮膚を引き裂き凍傷を作ってゆく。


「オォォォォォ…」


鬼女は声ならぬ声を上げ、両手で顔を庇いつつ竜巻の中でもがくが風はその身を捉えて離さない。


弘樹は両手を突き出し、手のひらを広げてから何かを握りしめるように閉じると、ゆっくり腕を頭上へと上げてゆく。


その動きに合わせたように取り巻く風がより強まり、身に襲い掛かる嵐はそのままに鬼女の体は浮き上がり、高さを徐々に上げて行った。


10m20m30m…


弘樹はなにかに耐えるように奥歯を食いしばり、その手を天へと向けたとき、鬼女は100m以上の高さへと持ち上げられていた。

「避けろ」

弘樹は頭上を見上げ奥歯を噛み締め絞り出すようにして、その光景を呆然と見上げていた貴彦と小春に声掛ける。


二人は静かに頷くと、怪我人とは思えぬ素早さで弘樹の背後へ避難した。


弘樹は気配でそれを感じ取ると、「潰れろっ!」と叫びつつ、勢いよく両手を振り下ろした。


念動により加速され、嵐を纏いつつ高度から岩盤に叩きつけられた鬼女は悲鳴を上げることも出来ず一枚岩に激突した。


どごーーーっ!!!


岩が砕け埃が舞い上がり、血肉が飛び散った。

炎が踊り、雷光が走り、風が逆巻き、氷片がきらめく。


衝撃波は強風を伴い、弘樹とその背後に立つ少年少女をも吹き飛ばし地面を転がる羽目になった。


岩盤の上をゴロゴロと転がりつつ、なにこれやべぇ、格好わりぃ…そんな事を思いつつ、弘樹は意識を失った。

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