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ソウル・リファイン  作者: 弥生丸
チート炸裂編
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自重って大事だよね

自重って大事だよね


弘樹は超感覚で人々の取りこぼしの有無や怪我などの安否を確認後、沈みかかった帆船を創造で元の状態に戻した所で、「そ、そのぉ、すまないがそろそろ離しては貰えないだろうか…」と顔を真っ赤にしたセラフィーナに声を掛けられ、片腕で抱き締めていた事に気がついた。


「あ!すみません!ごめんなさい!」

ぱっと腕を伸ばし、慌ててセラフィーナを開放した。


「あ、いや、えっと、私達含め危ない所を再び救って頂いたようで、その、感謝します」

赤らんだ顔を隠すように深々と頭を下げると、そのまま背後を向き「ミルラの様子を見て来ないと」と歩き出したが、数歩進んだ所で何かに気付いたらしく、弘樹を振り返った。


「弘樹殿。

弘樹殿たちは何者なのですか?

魔物たちを難なく倒し、瀕死のルミラ殿を助け、先客や船員を転移させた上に二つの船ごと遠方へ瞬時に移動。

これだけの事をただの人間に出来るとは思えません」

真剣な緑の眼差しを向けられて、弘樹の心臓が再び高なった。

「あぁ、えっと俺は、転移者であり亜神でもあります。先日亜神になったばかりですが」


「?!あっ、それはもしや…先日神託のあった第一大陸のダンジョン開放者、神々の席に認められたと言うあの?」

「えぇ、その山野弘樹です」

少し照れつつ弘樹が答え、セラフィーナは驚いた表情から一転、引き締まった表情になりスッと腰を下げ片膝を床についた。


「神席にあらせられるお方とは思い至らず、大変失礼いたしました。

これまでの狼藉、平にご容赦下さいますよう。

このセラフィーナ・ポムグラネイト、この御恩は決して忘れません」


線を引かれた、そう弘樹には感じられた。


人生において人と人との繋がりの中、何度も経験して来てた事ではある。


それは仕事関係であったり、個人的な関わりであったり、親子兄弟の間であったり。


職場では親しく話す友人のような関係でありつつ、そこを離れれば同僚であり知人ではあるが、逆にそれ以上ではないのだと知る。


旅行のお土産は貰っても、共に行く事は無い、そんな相手。


仕事上では時間も忘れて働き、お互い助け合い、時に飲み、疲れを労りあったり愚痴をこぼしても、それはあくまで「同僚」の枠の中でしかない。

そんな線引き。


勿論中には友人となったり、時に家族とすらなり得る出会いの形ではあったが、地球世界にあって自ら線を引きまくっていた弘樹だからこそセラフィーナのその表情は、その態度は、あちら側とこちら側をはっきりと表明する為の儀式にも似たものだと感じ取ったのだ。


「あぁ!ここにいらしたか!」

弘樹の背後から帆船の船長浪越の声が聞こえた。

嫌な所を見られてしまった。

そう感じて薄っすら苦笑いすら浮かべつつ、弘樹は船長に向き直る。


「何が起きたのかと慌てましたが、小六月の方々から弘樹殿のお力だと伺いました。船客船員共々本当に助かりました」


浪越は深々と頭を下げ、礼を述べた。


「船は修復しましたが、まだあの海域は危険ではないかと思われます。

海中に居る何かの移動速度は並ではなかった。

あれが何であるかは分かりませんが、場所をズラして戻るか、時間をかけて偵察した後戻るか、何かしら手を考えなければいけないでしょうね。

当面は近くの島に避難所を設置しますから、そこで過ごしていただけたらと思います」

弘樹には襲撃してきた魔物が自分たちに倒せる存在なのかどうか、はっきりと判断しかねた。


水の加護で海面に押し出し、数や大技で押す方法くらいしか思いつかない。

マップにあった光点は赤であり、敵対するものである事だけは確実であったのだが。


「海には数多の危険がありますが、アレはその中でも最も恐れられるモノの一つ。

生きた大渦と呼ばれ、全てを飲み込むと言われる魔物ではないかと思われます」


船長の言葉が聞こえたのか、背後で同じポーズを取ったままのセラフィーナが身を硬くするのが感じられた。


「海の災厄そのもの…」

セラフィーナの呟きには、怯えよりも敵意に似た何かを感じ取る事が出来た。


「噂通りの魔物であるならば、一旦獲物と狙ったものを食らうまで、あの周辺海域を縄張りにして他の船が襲われる可能性もあります。

あのルートは今まで安全とされた航路として有名ですから、今も向かっている船があるやもしれません。

何処かの大陸へ知らせる事が出来るなら、被害は最小限に留める事が出来ますが」

渋い顔で話す船長に、「それは可能ですよ」と弘樹は答えた。


「俺の転移ならば可能です。

第一大陸なら確実に行けますし、他の大陸も強くイメージして貰えれば、俺がそこへ連れて行く事も出来ます」


二人の話す姿を見て、セラフィーナは「失礼します」と声をかけて席を外し仲間の元へと戻った。


海の魔物の件を伝えるのは第一大陸でも問題ないと言うことで、弘樹は船長とエアリスを連れて港町のニチボへと転移することにした。


他のメンバーは残ってもらい、船から一番近い島への誘導などをお願いした。


ソフィアにも協力するよう命じておいたので、魔改造された島へ乗客や船員を導いている事だろう。


弘樹は二人を連れてニチボの町門前近くへ転移した。

転移には二度目、それも一度目は強制的な物だった船長はかなり動揺していたが、二人は「さぁ、急ぎましょう!」と町へ連れ立った。


時刻は【新世界】の船が転移したエリアと異なり明け方近くだったが、大きな門は閉じられているものの、人の出入り出来る通用門は兵士が数名で警護しており、冒険者カードを表示すると簡単に入ることが出来た。


浪越船長も他大陸所属の冒険者カードを持っており、同行者に高位の転移者と神官がいた影響もあって何も咎められることはなかった。


柔らかな潮風に吹かれつつ、エアリスの先導で神殿へと向う。


ニチボの神殿と冒険者ギルドは町の中心から見るとやや外周に近い坂の上にあり、その周辺には宿屋や薬品、武具などを扱う店が見て取れた。


「港町と言っても、こう言う所は他の町と変わらないんだな」

「漁船はともかく商船や客船の類は冒険者や転移者を雇う事が多いですからね」

弘樹とエアリスはほぼ通常モードで会話をしつつ船長を連れて神殿の受付へ辿り着いた。


神殿は他の町の神殿と大差ない作りをしており、見習いの青年神官が受付をしていた。


「私はヒズルク本神殿所属のエアリスと申します。

海に出没する魔物について急ぎ伝えたい事があります。担当の方をお願いします」


エアリスは元々本神殿所属であったが、その後ラクヨへ移り、弘樹たちのパーティヘ入った際に再び本神殿所属となっていた。


霊格が向上し大陸の内外を動き回るエアリスの為、神殿側が下した措置だった。


青年は亜神の率いるパーティに参加する高位霊格の神官、エアリスの名を知っていたのか、近くにいた他の神官へ慌てて声を掛けると、そのまま奥へと走って行き、すぐに戻ると応接室の一つへ通されお茶出しを始めた。


応接室は質素ながらも清掃の行き届いており、青年がお茶を配り終えて退出した直後には、神官服を着た中年男性と手にファイルを持った30代前半と思しきスーツ姿の女性が訪れた。


「私はこの神殿の副神官長、モーゼルと申します」

「はじめまして。

私、冒険者ギルドのターニャ・石動と申します。

よろしくお願いいたします」

それぞれが挨拶を交わし、早速本題に入った。

「他の大陸にも伝えて頂きたいのです。

今まで大型の魔物が現れなかった航路に、災の渦と思われる大型の魔物が現れた事を」

浪越船長がやや焦りを見せつつ話すと、「なんと?!」「渦、カリュブディス、ですか?」とモーゼル、ターニャ共に驚きの声を上げ、「カリュブディス?」と弘樹は小首を傾げて魔物知識を検索してチラチラっと概容を意識しつつ「大きさ、霊格を考えても確かにカリュブディスの可能性が高いな」と呟いた。


船越船長は幽霊船に襲われた所を弘樹たち小六月に助けられ、その後突然の襲撃を受けた事を説明する。


「ですがそれだけですと、大型の魔物が居る事は分かりますが、カリュブディスと決まった訳ではないようですね」

ターニャが心なしか胸を撫で下ろしたように思えた。

カリュブディスとはそれだけ危険な魔物なのだろうと魔物知識から得た情報で弘樹は納得出来た。


カリュブディスはギリシャ神話において元々海の神ポセイドンと大地母神ガイアの間に生まれた女神であった。

しかし暴食の限りを尽し、他者の飼う牛を盗み食いまでした為、ゼウスの怒りを買って貪欲なる魔物にされたと言う。

ポセイドンとガイアと言えば高位な存在であり、その娘ならば高い霊格を持っていても不思議ではなかった。

そんな魔物とクラーケンなどでは、どちらも危険な存在ではあるものの、脅威度が違うのだろう。


「少しよろしいでしょうか?

第一大陸から件の航路に入るまでに、パーティを組んだかのようなスキュラ数体とクラーケン数体にも遭遇しました。

なかり巨大なカニのクラーケンも出没しましたが、サイズ、そして感じられた霊格共に襲撃してきた魔物は明らかにそれらより格上の存在でした」

とエアリスも説明し、弘樹もそれを認めた。

「カリュブディスとは限りませんが、どちらにしてもその辺のクラーケンやドラゴンとは比べ物にならないでしょうね」

弘樹はそう言いつつクラーケンたちやスキュラの魔石を亜空間から取り出した。


ゴロゴロとテーブルの上に転がる巨大な魔石たち。


特に大きな二つのクラーケンの魔石は、その大きさと放たれる魔力から明らかに一般的な成竜よりも遥かに大きく、それがどれだけ恐ろしい存在であったのか想像に固くなかった。


ゴクリと唾を飲むモーゼルとターニャに、弘樹は追い打ちを掛けるように告げる。

「この手の魔物は執着心も強いと聞きます。

つまり海域に留まり、獲物を喰らうまで留まり続ける可能性も高いと言う事です」

弘樹はすっと霊格7、幽霊船との戦闘でレベル700を超えた数値が表示されている自身の冒険者カードを取り出してモーゼルとターニャに見せ、

「姿はマップでのみしか確認していませんが、最低でも俺と同格であったと断言出来ます」

と話すと二人はビクッとその身を震わせた。


八柱界の人間は一般的に霊格1から2の者がほとんどであり、極一部の者が3となる。


エアリスを始め神々に認められた者は霊格4以上となることもあるが、それはまさに例外的な存在でしかない。


すでに人の身を脱し始めたエアリスは霊格5だが、逆に言えば単なる人の身では4以上の霊格になる事はまずあり得ない事だった。


それが霊格7レベル700の下級神、弘樹は気付いていないが単に格だけで言えば神々においても実は既に中の下クラスに至っていた、と同列の存在と言われれば、並大抵の危機ではない。


そもそもがクラーケン一体でも災害クラスの存在とされているのだから。


いつぞやのラクヨの件など問題にならないレベルの一大事だった。


「カリュブディス、もしくはそれに近しい存在ならばそれは既に魔物というより天災、災害になります。

急ぎ各大陸の神殿、冒険者ギルド及び港へと通達いたします!」

モーゼルは航路の説明の為にもと船長を連れ、慌てて応接室の扉から飛び出して行った。


その姿を見つめていたターニャは、スッと静かに息を吸って気持ちを落ち着けさせ、弘樹とエアリスを見据えた。


「先程のお話ですとスキュラ、そしてクラーケンの群れを討伐されたとの事ですが、通常、クラーケンが徒党を組んで襲撃すると言う話は聞きません。

一体でも災害クラスなのですから、それが当然ではあるのですが」


ジッと二人を見つめ、ターニャは再び口を開く。


「稀にクラーケンが番でと言うケースは報告されておりますが、今回は相当に特殊なケースとなっています。

強い魔力などに反応する可能性はあるのですが、亜空間にしまった魔石などには反応しないと思われます。

強い魔力や恵那を持った何かを大量に運んでいた等、何かしら思い当たる点はございませんか?」


「「あっ」」


弘樹とエアリス、二人の声がハモった。

深く考える必要もなく、あった。

三界丸その物が、まさにそうだった。


動力としてドラゴンなどの魔石を使い、いくつもの結界や防御術式などを埋め込みまくり、魔力や特殊な特性を持つ希少金属を余すところなく使用した、この世界ではあり得ないサイズの豪華客船三界丸。


魔力や恵那を感知する魔物からすれば、巨大なご馳走が海の上を泳いでいるように見えた事だろう。


「ああっ、私とした事が全く気付けませんでした」

「本当にごめんなさい」

エアリスが嘆きの声をあげ、弘樹が素直に頭を下げる。


水神たちの多大な祝福や個人的な使用ならという許可に舞い上がっていたが、これは盲点だった。

もしかしたら神々は、否、サラスヴァティはこうなる事を予見していたのかも知れない。


そもそもが地球世界から転移者を召喚し、魔物の浄化をさせる事がこの世界創造の大きな理由だったのだから、神々からすれば渡りに船だったのかも知れない。


無闇に売り出されたり量産される訳でもない、希少金属と魔石、魔力と恵那の豊富な船。


彼ら、特に弘樹や貴彦の行動パターンを知っていれば、高確率でこうなる事は予想出来たはずで。


結局は自業自得なのだが、うまいことは乗せられた気分と言えなくもなかった。


「自重って大事だよね」

「えぇ、本当に」

それが弘樹とエアリスの心からの呟きであることは、二人の表情を見つめるターニャにも痛いほどに伝わったのだった。


なお、幽霊船やスキュラ、クラーケンは常時討伐依頼となっており、カード確認後にそれぞれ討伐代が支給される事になった。


普通の冒険者や転移者であったなら大喜びしそうな金額だったが、既に金銭感覚のおかしくなった弘樹と、それに影響を受け始めたエアリスは「あぁそうですか、ありがとうございます」程度のものでしかなかった。


なお魔石やドロップ品は、あれこれ使い道があるのでギルドに売ることはしなかった。


迷惑代として少し譲っても良いかと思ったが、逆にドロップ品のそれぞれが高価過ぎて申し訳ない気分になってしまったと部分もあったのだった。

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