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ソウル・リファイン  作者: 弥生丸
チート炸裂編
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竜の息吹

竜の息吹


小六月の面々は魔石を始めとしたドロップ品の山を帆船の甲板に生み出していた。


幽霊船本体の魔石はタコやイカのクラーケンと同レベル、つまりは中ボスクラスの大きさはあり、それ一つだけでも一財産だ。

金銀宝石や武器防具、謎の物体も含めるとかなりの金額となるだろう。

貴彦&シンシアの二人が鑑定しまくった結果、何かの素材になりそうな品は見当たらず、弘樹たちには興味のない物の山であったのだが。


「怪我人の方はいらっしゃいますか?」

神官であるエアリスと薬師でもある貴彦は、怪我や体調を崩した乗客や船員の様子を見ては回復魔法やとんでもない金額のポーション類を惜しげもなく使い回復しまくっていた。

なんなら船酔いしている商人の妻や風邪気味の子供にまでホイホイ金貨数十枚のポーションを飲ませてしまっていた。


「ま、待って下さい!そんな高価な品、船酔いや風邪に使われてはっ?!と言いますか手持ちがっ!!」

と慌てた商人に騒がれたが、「簡単に作れる品ばかりなのでお金はいりませんよ〜」と気軽に答えて目を白黒させたりしていた。


「我々は第一大陸から第四大陸へと向う途中の旅人です。

救難信号を受けて助けに来ました」

「いやいや、本当に危ない所を助けていただいてありがとうございます。

何とお礼を申し上げてよいのやら…」


この船の船長である50過ぎの男、浪越磯兵衛なみこしいそべえは弘樹の挨拶に平身低頭で礼を述べる。


水の神々の加護を得まくった結果、感覚が強い者や海や水に強く関わる者達は何となく神々しい物を感じてしまうらしい。


元々霊格も最高で7と並々ならぬものがあり、あまり慣れていない隠蔽をしていても気を抜けば漏れ出てしまう現状だった。

その上パーティーメンバーのそれぞれがかなりの実力者である事も隠さず見せてしまったので、先方の態度がそうなるのも頷ける事だった。


その様子を少し離れた所で戦乙女の如き女騎士が静かに見守っていたが、彼女を探していたと思しき老騎士がその背に小さく声を掛けた。


「姫様!こちらにいらっしゃいましたか。実は先程の襲撃でミルラ殿が…」

「何と?!ミルラ殿は何処に?!」

二人は何やら慌ただしく弘樹たちに軽く頭を下げ、その場を後にした。


何となくそのやり取りが気になった弘樹は、「礼はいいです。この品々もいらないので皆で分けるなりして下さい。では!」と船長へあっさりと告げて返事も待たずに二人の後を追った。


二人の騎士は客室があると思われるエリアへ階段で降りてゆき、奥まった所にあるこの船の中ではそれなりに豪華そうな作りの扉を開けて中へと入ってゆく。


異様に高いステータスや隠蔽スキルなどが無駄に効力を発揮し、彼等は気付いた様子もなかった。


そっと部屋の前に行くと扉の向こうから、「ミルラ?!ミルラ殿っ!!」と言う女性の悲痛な叫び声が聞こえて来た。


その声に思わず弘樹は鍵の掛かっていない扉を開けてしまった。


広い船室のベッドの上に一人の小柄な少女が横たえられ、それを老騎士と戦乙女、そして斥候職と思しき青年が囲んでいた。

青年が咄嗟に反応し、短剣を一本弘樹の足元に投げつける。

弘樹は短剣が床に刺さる前にやすやすと軽く足でそれを蹴り上げ、音も立てずに手に取った。


その様子を見た老騎士は腰の剣に手を伸ばすが、戦乙女がそれを止めた。

「待て爺。

旅のお方、今我々は貴方を相手にしている状態にない。

それは見てお分かりだろう?

助けていただいた事には礼をしたいが、今は静かに引き返していただけないだろうか?」

スッと背筋を伸ばして頭を下げる戦乙女に、弘樹は慌てて両手を触った。


「あ、すまない!

盗み聞きやらなにやらするつもりはなかったんだ!

ただ大変そうな雰囲気だったから、何か手助け出来ないかと後を着けてしまったんだが。

不躾で申し訳ないが、何か力になれるかも知れない。どうだろう?

俺に話してみてくれないか?」


弘樹は慌てて弁明しつつ、一歩前に出る。

不快感を顕にする斥候職と、ほんのり眉を寄せる老騎士が口を開く前に、戦乙女はハッとした表情で弘樹をマジマジと見つめ、静かに小さく頷いた。


「第四大陸からの戦友ミルラ殿が先程の襲撃で大怪我を負ったのだ。

手持ちのポーションや現在我々が使える回復魔法では全く効果がなく…」


ミルラと呼ばれた少女の顔は完全に蒼白になっており、すでに呼吸すらしていない様だった。


運悪く急所を突かれてしまったのか、生半可な方法では回復不能な状態になっていたようだった。


「なるほど。息が止まったのは先程ですか?

だとしたら助かるかも知れない」


弘樹はスキルにより数多の薬物知識を脳裏で検索し、必要な材料を亜空間から取り出した。

八岐大蛇の血や竜の魔石、ヒドラの肉を始めとして、様々な薬草なども惜しげもなく取り出すと、錬成と錬金術:薬品、夢幻魔法まで組み合わせて、新たな薬を作り出した。


「錬成!」


それは美しいガラスの小瓶に入った、深紅の液体だった。


とてつもない生命力を持つ八岐大蛇やヒドラの血肉と竜の魔石、そして数多の薬草類から生まれたそれは、未知なる神秘を感じさせる至高の薬品。

それが20本ほど弘樹の前にズラリと並べられていた。


「竜の息吹と名目しよう」

サラリとそんな事を呟きつつ、弘樹はそのうちの一本を手に取り、呆然とする彼等が止める間もなくミルラと言うベッドへ横たわる少女に振り掛けた。


「あぁっ?!」

「なんとっ?!」

「おまっ?!」


基本的にこの手の薬品は魔法薬に分類され、飲まずともその効果は発揮される。


慌てた三人を綺麗に無視して弘樹は少女の寝顔を見つめた。

頭から足元まで振り掛けられた竜の息吹は、キラキラと赤く強い輝きを放ち、ミルラの身を包み込んでその身に取り込まれて行った。


「ひゅー、ごほっ!けほっ」

三人が再び呆然とする中、ミルラと呼ばれた少女は息を吹き返し、空気を吸ってむせこんだ。

口からは喉や胸に溜まっていたのか大量の血液が吐き出されたが、ある程度吐き出すと静かな寝息が聞こえて来た。

その顔色は口の周りこそ血に染まっていたが、青白いそれから生気が戻り、ただ眠っているだけのように見える。


「あっ、貴方は、貴方様は一体何を?!」


一番最初に正気に戻った戦乙女がミルラの口元を布で拭き取りつつも弘樹に問い掛ける。


「いや、いくつかの竜種の血肉や霊草などを使って新しい薬を作ってみたんだ。

竜の息吹っていうんだけど。

魂が抜け出てしまった状態なら効果はないけど、まだ息を止めたばかりの瀕死状態なら回復可能だと思ってね」


弘樹は無茶苦茶な事を口にしている自覚はあったが、何となく出来ると思った事をしたまでだった。

正直な所、売り出したら下手な王族でも購入不可能な値段になりそうだったが、亜空間は在庫過多過ぎて気にもならない程度の出費でしかなかった。


床に置かれた19本の竜の息吹を亜空間へとしまい込み、「多分もう平気なはずだけど」

と言いつつも気になるのか、竜の息吹の元ネタとなった霊薬である竜胆を取り出して戦乙女に手渡した。

「鑑定してもらって良いけど、瀕死で復活出来るかも知れないって言われている竜胆りゅうたんだ。竜の息吹ほどではないけれどかなりの効果があるはずだから、何かあったらそれを飲ませてあげてくれ」

弘樹はそれだけ告げると、色んな意味で呆然としている一行を放置して部屋を出るのだった。


「余計なお世話だったかも知れないな」

またやらかしてしまったかも知れないと思いつつ、他のメンバーと合流すべく甲板へと向った。


今回は夢幻魔法こそ併用したものの、創造を使っていない分マシかも知れない。

五十歩百歩という言葉が脳裏を過るがあえて無視をし、星空の下へ出ると大きく深呼吸をした。


「お待ち下さい!」

と凛とした女性の声が弘樹の耳を打った。

背後から聞こえたその声に振り返れば、そこには未だに鎧を脱いでいない金髪、緑の瞳の美女が立っていた。

「お待ち下さい、旅のお方!

これだけの恩義を受けて名も聞かず、名乗りもせずにいる事など出来ましょうかっ?!」

慌てて後を追ったのだろう、やや上気した肌が白磁の如き美しい肌を彩る。


「私は第四大陸はヴェーダ国ポムグラネイト公爵が三女、セラフィーナと申します!

どうか、どうか貴方様のお名前をお聞かせ下さい!」

躊躇いもなくズザッと音を立てて右膝と右腕を床に下ろし、深々と頭を下げるその姿は、一国の姫であるシンシアよりも遥かに高貴なものを感じさせた。


「頭を上げてください。

俺の、いや、私の名前は山野弘樹です。山野が名字で弘樹が名前になります。

セラフィーナ様とお呼びすればよろしいのでしょうか?

いかんせん高貴な方々との付き合いが少な過ぎてどう対応すれば良いのか分かりませんが、単なる善意の押し売りですから、何も気になさらないで下さい」


シンシアが聞いたら怒り出しそうな、何なら今まで出会った神々すらも怒り狂いかねない事を口にして、しまったと思いつつも、何故だかそうさせるものが目の前で頭を下げる女性、セラフィーナ・ポムグラネイトにはあったのだ。


容姿の美しさだけでなはく、内から滲み出る誠実さ、高潔さ等と呼ばれる、騎士の姿、もしくは戦乙女の姿に相応しいそれは、シンシアの猫被りモードには存在しないものだったのだ。


なお神々は既に何だか別次元過ぎてあれこれ言うのもおこがましいと言う事であり、別段馬鹿にしたつもりもなかった。

あくまでも「人間の世界」においての話でしかないのだから。


反面ギリシャ神話などではちょっとした発言が元となり、悲惨な目に合う人や下級神、精霊などの話は尽きることがないので、気をつけねばとも思えたのだが。


もっとこの女性を見つめていたい。

その手に触れてみたい。


十六那とも小春とも、勿論エアリスやシンシアにも、ついでにマブにも感じた事のない強い想いに、弘樹は息をする事すら忘れてしまいそうだった。


42年間生きてきた中で、ここまで心惹かれる存在は初めてだったのだ。


彼には祝福の影響で魅了の類は効果が無く、まやかしの類ではないと断言出来た。


セラフィーナはそっと顔を上げ、静かな深い湖畔を思わせる緑の瞳を弘樹に向け、「かたじけない。この恩は必ずお返しします!」と告げ、懐から一本のナイフを取り出すと左手の人差し指にぷすりとその刃先を突き立てた。


「えっ?!」


何が何だか分からない弘樹は咄嗟の出来事に慌てるが、セラフィーナは気にする素振りもなくナイフをしまい、左手人差し指をグッと握りしめた。


圧迫されて通常よりも多くの血が雫となって床へ溢れ落ちると、コロッと硬質な音が聞こえて来る。


マジマジと音の原因へ目を向けると、そこには明らかにセラフィーナの人差し指から流れ出た血が、小粒の赤黒い宝石となって床に転がっていた。


「私は石榴石の血統を持つ者です。

第三第四大陸のみに存在するタレントですのでご存知ないかも知れませんが、これは血結晶の柘榴石と呼ばれる物です」


いつしか指先の傷は消え去っていたようで、セラフィーナは左手で床に落ちた柘榴石ガーネットを拾い上げると、弘樹の手に押し付けるようにした。


「それは私の誓の証として受け取って下さい。

鑑定して下されば使い方などは分かると思います。

村一つを一年間守れる程度の量でしかありませんが、連絡を取る分には十分なはずです。

どうか、どうかお受け取り頂きますよう」

言っている意味は今ひとつ理解できなかったが、多分この宝石は守護や何らかの通信手段の力を持つ特殊な物なのだろう。


深々と頭を下げて押し付けてくる柘榴石を弘樹は受け取り、「ありがとうございます、ありがたく頂戴しますね」と答えると、セラフィーナはホッとしたのか、やや緊張気味だった顔を緩ませほんのりと微笑んだ。


美しい。


それは美の女神たちを目の前にしても抱くことのなかった、否、抱きはしたが別の次元、別の方向性の、弘樹の心の内から湧き出る歓喜の如き思いだった。


「ミルラ殿の様子が気になるでしょう?さぁ、早く戻ってあげて下さい」

弘樹が息も詰まりそうな程の思いを堪え、セラフィーナにそう声を掛けると、再び彼女は小さく微笑み、「ありがとうございます」と答えつつ頭を下げた。


と、突然弘樹の脳裏に何かが過った。

それはサイレンにも似た警告音だった。


「何か来る?!」

マップに目を向けると範囲の外からかなりの高速で巨大な赤い光点がこちらに向かって直進して来ていた。


セラフィーナは弘樹の声に即座に反応し、腰に下げた長剣を抜く。


弘樹はその移動速度から警告の声が間に合わない事を察し、咄嗟に帆船の下を衷心にして多重の障壁を展開した。


ドン!!!

何か大きなモノが幾重にも張った障壁を突き破る。


不味い!

弘樹はかなり動揺していた。

本気で複数展開した障壁が全て一度の攻撃で破られたのだ。

弘樹と同等もしくは格上の存在である可能性すら考え、


激しく付き上げる衝撃が船を大きく揺らし、弘樹はふらついたセラフィーナを片手で抱きとめ念動力で僅かに浮いた。


「小春ちゃん!貴彦!エアリス!シンシア!海中に巨大な敵がいる!」


弘樹は仲間たちにテレパシーすら込めた大声を放ち警告する。


船のあちこちから

「不味いぞ!船底が一部破られた!」

「浸水しているぞ?!」

と船員たちの声が慌ただしく聞こえてくる。


間もなくこの船は沈む。

そう、彼の直感が告げ、再び大きな衝撃が帆船を襲った。


「しっかり捕まって!」 

セラフィーナにそう声を掛けつつ、通常の人間の数百から数千倍に及ぶ顕現値と最高レベルにまで高められた超感覚に類する複数のタレント、そしてマップすらもフル動員させ、弘樹は船内に居る多数の乗客や船員たちを感知すると一気に三界丸の甲板へと全ての者を転移さ、沈みかけた帆船のみ【新世界】の海へと送り込む。


突然の転移に慌てる人々を確認する間も惜しんで弘樹は無意識のうちに三界丸の精神を己の制御下に置き、結界や障壁を無効化させて丸ごと【新世界】へと転移させた。


僅かな時間で海中の何かは方向転換し、三界丸へと向かって来ているのを弘樹は感じ取っていたが、ギリギリ間に合ったようだった。


甲板から見える空は青く、太陽の柔らかな日差しが人々を、そして三界丸を照らしている。


その近くにはかなり傾いた帆船が浮かび、小さな波にゆらゆらと揺れていた。

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