表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソウル・リファイン  作者: 弥生丸
第一大陸編
59/96

水乙女

水乙女


一行は気付くと呼吸可能な水の中にいた。

特に水圧がかかる事もなく、地上と同じように動けるのだが、何となく水の抵抗を感じる、そんな場所に立っていた。


足元は石畳が敷かれており、あちこちに木や石で出来た柱が立ってるが屋根は見当たらない。


少し離れた所には東屋のようなものがあり、そこに目鼻立ちのはっきりしたタイプの美女が座り、一行に手招きをしていた。

その身には天女と呼ぶにはやや派手な色合いの衣をまとっており、黒い髪を結い、金銀珊瑚などで華美になりすぎない程度に飾っていた。


顔つきこそ目鼻立ちのはっきりしたインド風の美女だったが、格好は仏教における弁財天に近いものだったのだ。


一行は手招きに応じて東屋へと向かい、弁財天の如き女神へ深々と頭を下げる。

エアリスに至ってはいつも通り祈りのポーズをとり、祈りの言葉を捧げていた。


「ようこそ、若き神々とその仲間たちよ。

よくぞ水の祠へいらして下さいました。

私はこの世界の水を司る最上神、サラスヴァティです。

さぁ、お好きな席に座ってくださいな」

すっと音もなく女神は立ち上がり、柔らかな笑みを浮かべて一行を東屋へと迎え入れた。


東屋はやや広く12畳ほどあり、石で出来たベンチやテーブルが置かれていた。


女神に促され一行は石のベンチに腰をかける。


ふっとあたりを見回すと、そこかしこに多種多様な魚を始めとした水中に生きる生物たちが泳いでいた。

よくよく見れば淡水海水関係ないようで、鯛と共に鯉が泳ぐ、そんな光景を見ることが出来た。

中には明らかに普通の生物とは異なる、半魚人や人魚、水竜に東洋の龍と言った者達までが泳いでいる。


「ここは水の神界の一部です。

あなた方の隠世にも似た世界と思って下さって構いません」


特殊な空間だからこそ可能な組み合わせなのだと、暗に女神は語っていた。


「山野弘樹殿、あなたには泉の神がお世話になりました。

水神の一柱として感謝致しております」


それは地球世界において鬼女と化した女神の事だと、何故か弘樹は理解できた。


「ただ必死に戦い倒しただけです。

事情も何も知りませんでしたから、助ける事も出来ませんでした。

申し訳ありません」


「狂った神や精霊は、そのまま放置すれば祟り神や悪しきものとなってしまします。

すでに彼女は瘴気に満ちた存在となっていました。

あのままでは泉そのものが根本的に穢れきってしまう所だったのです。

しかし倒して頂く事で泉は再び清き水を生み出せます。

いつしかまた、新たに精や小さき神が生まれる事でしょう。

あなた方は泉を救って下さったのです。何も気にする事はございません。

神殺しは確かに大罪となる事もありますが、あれはすでに神から堕ちた鬼であり蛇でした。

救っていただき、感謝致しております」


深々と頭を下げた弘樹にサラスヴァティも感謝を込めて礼を述べた。


その後白い衣を纏った天女アプサラスたちがお茶や菓子などをテーブルに並べ、「どうぞ」と勧められた。


水中であるにも関わらず、お茶は地上同様茶碗におさまったままであり、手に取り飲んでみると辺りの水に薄まる事もなく、しっかりとした茶葉の味と香りを堪能出来た。


多少の雑談をした後、弘樹たちは本題に入ることにした。


「実はこちらに伺ったのは他の大陸へ渡る為に船旅を考えています。

こちらの港にある商船などに乗せてもらうか、自分たちで船を手に入れるか考え中ではあるのですが、道中魔物との戦闘やこちらの常識外の事をしてしまうかも知れないので、禁止事項などを伺う事が出来たらと思うのですが」


「船は自分たち専用で、客船や戦艦などにするので無ければ創造や【新世界】で生み出した物を使っていただいて構いません。

地球世界のように海を汚すような仕組みは困りますが、魔石などの代用品はございますでしょう?

それに他の大陸に行けば大陸間の転移も可能でしょうし、ある程度は転移者や流界者から造船技術などは入っていますし。

魔物は浄化して頂きたい対象ですから倒して頂いて構いません。

ただ龍や一部の人魚、水霊など魔物に似た神使や眷族もおりますから、その点はご注意下さい。

また島など無闇に創造したり改造する事は禁止とさせて頂きます」


サラリと釘を刺されつつも、ある程度の事は許可を得ることが出来た。

神使や眷族ならば敵対しなければ、原則マップでも黄色表示になるのでそれで確認すれば良いそうだ。


盲点だったかも知れない。


また創造に関してはあくまでも個人的な範疇のみで使えと言うことだと理解した。


「分かりました。

創造などの特殊な力は原則個人の範疇でのみ行使する事にします」


ラクヨの時とは状況も異なっており、今なら自分の【新世界】に避難民を住まわせても何ら問題はない。

弘樹が万が一死んでも【新世界】は残るし、ソフィアがうまいこと対応してくれるだろうと言う甘えもあった。


「なおこの世界は小規模ならば毎日のように、大規模な物なら数カ月から数年ごとに地形や位置が変わる事があるため、地図らしい地図は作られておりません。

勿論神々の間に流通しているものはありますが、現世に持ち出すべき物ではありません。

そこで、これを差し上げます」


それは青い座布団の上に乗っかった拳大の水晶玉だった。

中には水色の炎がゆらゆらと揺らめき、仄かに辺りを照らしている。


「ありがとうございます。

それでこれは?」

貴彦が咄嗟に鑑定しようとするのを小春が押し留め、弘樹が焦りつつもサラスヴァティに訪ねた。

クスッと笑みを浮かべつつ、サラスヴァティはそっと玉を弘樹に渡す。


「これは道標の水晶球です。

例えばそうですね、第三大陸へ向かいたいと魔力を込めつつ念じれば、中の炎がその方向を示してくれます。

距離は遠ければ現状の水色のまま、近付けば近付く程に中の炎の色が濃くなって行きます。

人の主観的な物を感知して色が変化するので、徒歩3日と船で3日、どちらも似たような色になるのが難点ですが、単純な作りの品だからこそ、方角を間違える事はないでしょう」


弘樹はこれを使えば失せ物探しも出来んじゃね?と思ったが、サラスヴァティは「あくまでも場所限定ですので、人物や物を指定しても反応はしませんの。生き別れた友人のいる地へとイメージしても起動することはありません。そもそも山野殿なら霊的感覚でそれらを見付ける事は可能なのではずですし」と微笑みながら話してくれた。


「あ、ありがとうございます。これで他の大陸へ渡ることが出来ます」

弘樹たちは皆で席を立ち、深々と頭を下げた。

「気になさらないで下さいな。

これからもこの世界の事をよろしくお願いします。

それと山野殿以外の方々にも祝福を授けましょう。

勿論山野殿の祝福も強化させて頂きますわね」


サラスヴァティも立ち上がり皆に優しく手を差し伸べると、突然辺りの空気が一変した。


数十数百以上の数の強大な存在感が唐突に水の世界へと現れたのだ。


エアリスとシンシアは余りに強力なそれらの圧に負けてフラフラになっていた。


それはサラスヴァティの世界へ他者が侵入する事を意味していたが、彼女は気にした素振り一つ見せなかった。


「さぁ、我等海、川や泉、井戸や池や沼、雨など数多の水神たちの加護をお受け取り下さいな」


どうやら最初から決めていた事のようで、八柱界に直接関わる数多の神のうち水に属する神々が集い、個別ではなく、それぞれの加護を一つにした、大いなる加護を小六月の面々に与える事にしたようだった。


それは女神であり男神であった。

和洋折衷どころではなく、龍神であり巨人であり、魚であり、蛇であり、タコや甲殻類など数多の姿が弘樹の脳裏を過る。


数多の存在たちからの祝福は怒濤のように弘樹、小春、貴彦、エアリス、シンシアへと降り注ぎ、体内に恵那が満ち溢れ変質してゆく。


「お行きなさい、新たな地へと。

この世界のすべての水は貴方たちを愛し祝福します。

いつでも見守っておりますよ」

サラスヴァティの笑顔が見えた気がしたが、いつしか彼等は意識を失っていた。


気が付くと一同は祠の前に倒れていた。

転移者の三人はそれぞれステータスを確認すると水神たちの加護がそれぞれ加えられており、また霊格もそれぞれ7と6に上がっていた。

もう感覚が麻痺して来たのか、それとも霊格故なのか驚く気にもなれなかった。


なお冒険者カードでは加護を確認出来ないエアリスとシンシアはエアリスのスキルで確認する事となった。

「神聖スキル、人物鑑定!」

「うぇっ?!」

「なんですとっ?!」

「うそーん?!」

エアリスの声に転移者三人は目を見開いた。


鑑定ではなく人物鑑定というスキル。

そもそも鑑定は物品にしかかける事が出来ない。


しかしそのものズバリな人物鑑定は大まかな人となりやステータスまで確認出来るのだそうで、神殿で行われる加護の確認もこれによるものらしい。


聖職者のみが使用可能なスキルであるため、以前弘樹たちがあれこれ欲しいと思えるスキルやタレントを探した際も発見出来なかったようだった。


「神の域に達した今の皆様方なら取得可能だと思いますよ?

てっきり知ってるものだとばかり思ってました」


さらりと説明するエアリスの声に、三人はステータスを確認すると確かに取得可能となっていた。

何なら魔物鑑定などのスキルすら新たに取得可能となっていた。


「霊格やあれこれが変化した後は毎回確認した方が良いみたいですね」

貴彦が目を煌めかせてあれこれ取得可能となったタレントやスキルを見つつ呟いた。


三人とも勢いでレベル10まで取得し、その他細々としたタレントやスキルを調べてゆく。


天雲、昔から日本でよく描かれている神仏が雲に乗ってやってくるアレを再現するタレントや、単に浮いたり飛んだり出来る飛行、空間転移も普通に取得可能となっており、なんだかなーと思う三人だった。


なお看破やステータス隠蔽などのスキルも多数存在しており、皆それぞれに取得した。


「あのー、もしもし?

お取り込み中申し訳ありませんが、私達何やらとんでもない事になっているのですが…」

エアリスが自分自身とシンシアを鑑定し、プルプルと震えながら三人へとジト目を向けてくる。


「ん?また霊格が上がったとか?」

サラリと言う弘樹にエアリスとシンシアは微妙な表情になった。


お互い冒険者カードを取り出し、そっと三人に見せる。


エアリスとシンシア、共に霊格も向上していたが、恐ろしい事に種族すらも変化していたのだった。


「うそ?!」

小春が驚愕の声を上げ、

「うわー」

と貴彦が天を仰ぐ。


「流石に加護が強烈過ぎたんだろうな…」

弘樹の言葉にエアリスとシンシアは涙目だった。


種族:人間・水乙女


アプサラスや湖の貴婦人、その他諸々妖精や天上人など、神には至らぬ神霊的存在は各地の伝承に存在する。


地球世界の多種多様な神話体系に属する神々の加護は、いわゆる神族や種族、日本で言えば天津神国津神、ギリシャ神話ならオリンポスの神々や巨人族など、インドならディーヴァやヤクシャ、アスラやラクサーシャなどの個別の霊脈に固定する事なく「水乙女」と言いう新ジャンルを生み出したのだろう。


四大元素の一つ、ウンディーネが一番近いのかも知れないと弘樹は思った。

美しい女性の姿を持った水の精霊であり、パラケルススによれば人との間に子をなす事も出来るとされる存在だ。


「まぁこの世界の人間だと霊格の上限があるようだし、与えられた加護もとんでもないものだった。

この位の変化はあっても仕方ないかな?と何となく思ってはいたよ。

転移者である俺達ですら亜神になっちゃった位だしね」


「この位って…あ、でも人から神使に近付いたと思えば神官的には良いことな気もして来ました!」

なんやかんやで環境に慣らされてしまったエアリスがキャッキャと喜び始める。


そんなもんなのか?!と思いつつ少し呆れた様子で見ていた三人だったが、信心深い世界の住人であるシンシアも、八柱の一柱含め数多の神々の祝福による変化は良いことなんじゃないか?と思えてきたようだった。


変に落ち込んだりしなくて良かった。


他の大陸へ移動する際に起きそうな問題あれこれを考えて祠に訪れた訳だが、それ以前に問題が起こるとは思いもしなかった一行だった。


「あ、実はもう一つありまして、加護が強烈過ぎた影響でしょうか?

ステータスウィンドウや浄化、亜空間収納にマップなどの転移者用の加護が眷族加護として付与されているのですが…」

エアリスの言葉に転移者三人は軽く驚きつつも、

「あー、悪い事したなーと思って授けてくれたのかもしれないね?

条件として地球世界の人間であることって言うのがあったけど、神々も浄化は可能って言っていたし。

他にもやる事が多すぎるから後回しになりがちなので、浄化に適したある程度能力のある人を選んで召喚しているんだっけか?

それに流れる水や清らかな水には浄化の力があるって古来からあちこちで言われてるから、その辺も影響しているのかも知れないね」


「ちょっと怖いですけど、もう一度祠に祈ってみるのも手かも知れないですね」


弘樹が意見を述べ、貴彦がかなり適当な事を言い出したが、小春が遠慮なく貴彦の頭を叩き、水乙女となった二人は当たり前の事ながら、祠に祈ろうとはしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ