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ソウル・リファイン  作者: 弥生丸
地球編
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小さな森の大きな世界

小さな森の大きな世界


本来、林道の脇道を徒歩で五分ほど進むと、急に少しだけ開けた場所に出る。


住宅街にある避難所兼公園と同じ程度、直径にして12〜3メートルほど、ほぼ円形の空間には小さな泉があり、そのほとりに木製の小さな祠があるのみで、あとは剥き出しの地面に所々苔や木の根がはっているような、そんな空間が広がっているはずだった。


濃霧や闇夜の影響で、多少なりとも目の錯覚や勘違いはあり得るものの、一本道を間違えるはずもなく、そんな場所に辿り着くはずだった。


しかし三人は十分以上走り続け、そしてやっとたどり着いたのは記憶とは明らかに異なる広大な岩場だった。

 

気付けば濃霧は薄くなり、視界を多少邪魔する程度になっている。


木々の覆いが外れたその地は、異様に明るい月光に照らされて、照明の類がなくとも動ける程度には明るい空間だった。


空を見上げれば青白い満月が見たこともない程に大きく辺りを照らしている。

 

地面には大小様々な大きさの岩が転がっており、中には高さが5〜6mほどの巨大な岩すら点在していた。

とてもではないが真っ直ぐに進む事は出来そうもなかった。


そもそも規模がおかしいかった。

明らかに保護樹林よりも大きいと思われる面積が岩場と化している。

そして異様に大きな月。


岩場には木々や草などが所々生えているのが薄っすらと見えるものの、泉も社も見当たらない。


そもそも森の中に森より広い場所があるとか、意味が分からかい。


しかし貴彦と小春は全く気にする様子もなく、岩場をスタスタと走り奥へ奥へと向かって行く。 


リュックからはみ出していた竹刀袋が各々の手に握られており、岩の高低差など気にも止めず、時に岩に飛び乗り、時に飛び降り、とてもではないが弘樹の身体能力では追いつくどころか追うことすら困難となっていた。


そもそもが普通の高校生が出来る動きとも思えなかった。


走る二人と完全に引き離され、ぜぇはぁと息があがって喘ぎつつ、ふらつく足でヨタヨタと大きく邪魔な岩は回り込み、無心で先へと進み続けた。


もう無理かも。

何が何だか分からない。

疲れで足がもつれはじめ、理解不能な出来事も相まって弘樹の心に負の感情が湧き上がってくる。


何故俺は走っているのだろう?

何が出来るわけでもないのに。

よく知りもしない奴らの為に、ホント何やってんだよ。

スーパーはどーしたよ。


脈絡もなくあれこれ考え、もう適当な所で休もうかと思った矢先、唐突に視界が開けた。


大きな岩が城壁のように囲んでいるその場所は、小さな岩こそ転がっているものの、ほぼ平らな一枚岩になっており、30m四方はあると思えるほぼ四角い空間となっていた。


そこは鉄錆や酸っぱくも苦いような臭いが混じり合って充満しており、薄まった霧の中、貴彦は日本神話に出てきそうな小振りな銅剣を、小春は小太刀を手に構え、何者かと対峙していた。

  

弘樹は咄嗟に鼻と口元を手で抑え、悪臭に耐えつつ二人の先にあるものに目を向けた。


弘樹が最初に目にしたのは高さ3メートルほどの宙に浮かぶ能面だった。


細く鋭いニ本の角。

耳まで裂けた口。

金色の目玉に黒い瞳のような穴。


般若の面に似ているが、それよりも遥かに人間離れした鬼女の形相。


そしてそれは宙に浮いているのではなく、何かが被っているのだと気付いたのはその直後だった。


鬼女の能面を着けているのは、上半身は白かったであろう今は血と土で薄汚れた着物を纏った女体、腰から下は誠治を捕らえとぐろを巻いた大蛇という化物だった。


爪は長く鋭い刃物の様であり、血がしとしとと滴って月光に照らされ輝いていた。


弘樹が林道で見た幻視が、いま、現実のものとなった。

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