小六何もしてなくね?
小六何もしてなくね?
弘樹が複数の障壁を展開して前へと進み、小春、貴彦、小六がその後へと続く。
貴彦は日輪の槍を一気に数十本、頭上に生み出し、小春は最初から神威を込めた雷光煌めく刀を構える。
弘樹はドラゴンスケイル改を出さず、空間使いとテレポートを併用すべく意識を集中した。
敵はそれぞれ魔法やブレスなどで攻撃しつつ、こちらへと突撃して来るが、障壁を破ることは出来ず、貴彦がその最前列へ光の槍を射出して射殺し、小春が数百メートルにも伸びた雷光の刀で敵を横一列に切り裂いてゆく。
弘樹はその様子を見ながら出来るだけ広範囲に空間を掌握し、一気に歪ませた。
あちこちから悲鳴や骨が砕け散る音などが響き、あっという間に辺りは恵那の光で満たされ、三人と一匹へと吸収されて行く。
あれ?てか、小六何もしてなくね?
実は時々戦闘に参加する事もある小六だが、竜人やグリフォン、ワイバーン相手ならともかく、ドラゴンとなるとあまり役には立たなかった。
格の違いもあるが、体が小さすぎて牙も爪も鱗の表面しか傷つけられず、ドラゴンもどきのブレスは本場物のブレス程の効果は得られず。
本犬はあまり気にしていないようだったが、この場に居るのは危ないんじゃ?と素直に思えてしまった。
その後も次々と範囲攻撃を繰り返し、数分後には巨大な蛇にも似た9つの首を持つ魔物だった。
「ヒドラの類だな」
伝説では一本の首を切り落としても、そこから二本の首が生えてくる、途轍もない生命力を持った魔物のはずだ。
確か一本の首は不死身とも言われていたような?
血や息にも強力な毒があり、毒消しなどでも消えなかったという伝説すらあったはずだ。
傷も簡単に癒えてしまうが、焼けば問題ないらしく首を切ったらすぐに焼けば良いそうだ。
小春の刀、疾風迅雷ならばそれが可能であるため、それも含めてメンバーに伝えつつ、念動力で風を起こし、極力その息を吸わないようにする。
グォォォ
複数の口から雄叫びが上がり、それぞへの口から冷気や炎、風に水、雷など様々な属性の攻撃を放った。
うん、伝説の元ネタよりゲームやアニメのそれに近いようだなと攻撃を躱したり、障壁で防ぎつつ思い、亜空間から貴彦に貰った剣を取り出し一本の首に斬り掛かる。
ヒドラの多くは竜扱いされているので、効果が期待出来たのだ。
神銀と古竜の牙から作られた剣は、称号の効果もあってかあっさりと硬い鱗を切り裂いた。
案の定すぐに再生が始まるが、そこに念動力と夢幻魔法、ついでに魔神魔法も交えて獄炎の玉を生み出し叩き付けて焚いた。
剣で与えた以上のダメージがその身に入り、二本の首が肉片と共に吹き飛び大火傷を負っていた。
貴彦は日輪魔法を刀身に纏わせ、高熱の刃で弘樹とは別の首を切り落とす。
隠世の泉で製造系に力を入れすぎ先延ばししていた戦闘系の能力値や戦闘スキルを上げた結果、霊格の向上もあって今までとは段違いの力を手に入れていた。
頭の一つが貴彦に食らいつくべく首を伸ばすが、小六がその視線を遮り、ブレスや影を使って邪魔をする。
その隙をついて弘樹と貴彦が再び攻撃し、首の数が減ってゆく。
小春は一人風を纏い、不死身とされる首とそれを守る二本首、計三本を相手に戦っていた。
中途半端な技では再生されてしまうので、敵のブレスや牙による攻撃を躱し、時に刀でいなしつつ、神威を纏った疾風迅雷であちこちに斬り掛かる。
一旦地面に降りブンっと音を立てて五体に分身した小春は時に突きを数百回放ち、時に浅めの斬撃を一瞬で数百回繰り出し、その血肉を削ってゆく。
不死身とされる化物だったが、ある程度対応策が分かっており、今回はドラゴン特化の装備でもあり、また一般人とはすでに隔絶してしまった存在になりつつある三人にとっては、さして恐ろしい敵という訳でもなかった。
気付けば九本の首の内八本は弘樹や貴彦、そして小春に焼き切られ、その蛇体もボロボロになっていた。
一本だけそれでも即座に回復してしまうのだが、不死身なのは果たしてその首か、それとも本体そのものなのか。
小春は刀を光に変え、やや長い状態にして首の根本より少し下を狙い斬りつける。
分身した四体はそれを補佐するように首や体による抵抗を押さえ込み、時に放たれる魔法は弘樹が障壁で、貴彦が日輪を纏わせた盾で防ぐ。
「神威 一閃!」
鋭い斬撃が残像すら残して放たれ、胴体と首の根本よりやや下の部位が断ち切られた。
ドスン!と砂埃を上げながら地に落ちた首はビクビクと未だ生きており、胴体は力を失って地に伏した。
「まだです!神威 武御雷!!」
小春の放った雷光煌めく斬撃は胴体諸共不死身と思われた首を焼き、切り裂き、神の雷により浄化されてゆく。
ごろりと大きな魔石が転がり、ドラゴン同様革や鱗に牙、血液に肉、そして毒袋までもが複数、梅酒用にも似た大きな瓶に収められた状態で転がった。
「毒、あったんですね」
貴彦の言葉に皆苦笑し、それぞれヒドラ以外のドロップ品も含めて次々とそれらを亜空間へと収めて行く。
弘樹はここだけで昨日一日分の稼ぎを超えそうだと思いつつも、何だか釈然としない思いを抱いていた。
ダンジョンのボスはヒドラかと思ったが、まだ道の先がある。
倒しても特に変化も見られず、もしやこいつ、中ボス的なやつなのか?
と思い至ったのだ。
分身していた小春は一人に戻ると、小六を頭に乗せてヘナヘナと地べたへ座り込んだ。
「ちょっと疲れました。
神威が効果があるとは思いましたが、謎の復活でもしたらどうしようかと思ってあれこれ使い過ぎました」
飛んできた小六を抱きしめてその背を撫でつつ、フゥと溜め息をつく。
「ここで休憩と行きたいが、万が一またあいつらが湧いたらまずいからな。
少しだけ先へ進んで魔物がいなさそうな所で休憩にしないか?」
弘樹の提案に皆が賛成し、全てのドロップ品を回収後、水筒を取り出して水やお茶を各々飲みつつヒドラの背の先にあった通路へと移動した。
それは通路と言うよりは天然な洞窟に人の手が加わったような、そんな作りの空間だった。
スキル等を確認するが特に支障はなく、とりあえず視界の開けた一本道の中ほどで隠世へと入ることにした。
「小六君にも武器が必要だと思うんですよ?!」
急に何かを思いついたらしく、貴彦はそう叫ぶと小六の口の大きさや前足、後ろ足のサイズを測りだす。
あれか、獣専用装備にまで手を出す気かっ?!と思ったら本当にそうだったらしく、オリハルコンや神銀、泉でランクアップした古竜の牙などを使い、あっという間に爪と牙型の武器を作り出した。
オリハルコンや神銀の特殊効果に錬金術も加わり、ある程度収縮可能になっており成長してもしばらくは使えるそうだ。
と言うかオリハルコンって、既に神銀&古竜の牙の剣より良いものを与えるとは?!貴彦恐るべしっ?!と弘樹は思ったがそれは杞憂だったようで、オリハルコンと先日狩ったドラゴンの中でも特に質の良かった牙を泉に浸け込み、それを元にして二本剣を作り出しており手渡してくれた。
「ヒドラの牙を泉に浸けたらどうなるんでしょうね?」
毒とかあると泉が汚染されそうだよねと思いつつ、こいつの事だから絶対にやるなと確信する弘樹と小春だった。
一旦温泉宿へと移動して各自温泉でリラックスした後、軽食を作って皆で食べた。
実際の所数日飲まず食わずでも問題ないのだが、一応人間らしい習慣を残しておかないとと誰からともなく言い出し、極力食事や休憩はとる事となっていた。
一応ステータスを確認するとまたレベルが上がっていた。
恵那吸収率向上を三人とも10にしていた為か、それぞれ弘樹が151、貴彦が145、小春が148となり、ポイントもどんどん増えていた。
流石に連日泉に入るのはまずいか?と言うことになり、素の状態で上げたいものを上げようと話し合う。
「他の神威魔法を覚えるには、神様の祝福が無いと無理なのでしょうか?」
タレントは基本的に本人の性格や資質などの影響が大きく、スキルは後天的な技術や知識を示している。
現在皆加護によって神威魔法、八柱魔法が生えたため、まともに習った記憶がなかった。
スキル選択で覚えようにも表記されず、以前ある程度習えば生えてくる事もあると聞いたことがあるが、どんな仕組みなのか現状の彼らにとっては全く未知の領域だった。
「神殿にでも行ければ教えて貰えるんだろうけどなー」
残念ながら弘樹の隠世にある神殿や建物には、誰一人としていないのだ。
ダンジョンの入り口を真似て今度双方に創造してみよう、そうしよう。
弘樹がまた懲りずにそんなことを考えた影響で、神殿の隣に謎の大きな建物が生まれていた。
ゲートそのものはまだ開いていなかったが、複数人が通れる大きなゲート用の門に、受付やらお土産物屋、トイレに職員や警備員の控室まで完備されており、それを見た一同は本人含め危険だなと思うのだった。
三時間ほどの休憩を終えた一行は再びダンジョン内へと戻り先へと進む。
広場同様やや薄暗いものの光の魔法を使う程でもなく、弘樹が先頭で探索や罠発見、透視などを駆使しつつ奥へと向かうと緩やかな坂道になっており、足元に注意を払いつつやや速度を落とした。
途中、黒や茶色いドラゴンやワーム、そして鶏にも似たドラゴンであるコカトリスや頭に王冠にも似た器官を持つ大蛇バジリスクにも数度遭遇した。
猛毒や石化攻撃に苦労するかと思われたが、加護の影響で弘樹と小春には石化攻撃や魔眼は効かず、猛毒も小春には効果がない為、かなりあっさりと倒すことが出来た。
「無効とか耐性が無かったらまずかったんだろうなー」とつぶやく弘樹に、「いえ、そーでもないですよ」と貴彦が腕に嵌めた二本のブレスレットを見せて言った。
石化防止や魅了防止などバッドステータスを阻止するアイテムを神銀を使って作り出したらしい。
流石錬金術アクセサリー10レベルな事はあった。
よく見れば小六の首輪も改造されており、似た効果を付与されていた。
「弘樹さんにはそもそも魔法が殆ど効かないですし、小春もバッドステータス無効が多いので渡しませんでしたが、弘樹さんも毒避けは居るかも知れませんね。あぁ、小春も精神系はあまり無効がないのかな?」
と亜空間から似たデザインの腕輪をいくつか取り出した。
小春が精神系の、弘樹は毒や麻痺などの阻止し、体制を上げるブレスレットを身につける事になった。
その後も洞窟状のダンジョンを歩き続け広間に出てワームやバジリスク、コカトリスと戦ったり、行き止まりを戻ったり、オーブチェストをいくつか見つけたりして時間が過ぎてゆく。
マップによると森エリアと同じか少し余分に歩いたようで、ゆるやかとは言えかなり深くまで地下に下りているように思えた。
「マグマとかガスなんかも怖いんだけど、どうしたもんかね?」
流石に幾つものスキルやタレントを長時間併用しての移動がそれなりに堪えて来た弘樹が立ち止まり、その辺の対策もそろそろ必要かもしれないと言う話し合いになった。
「毒などならともかく蒸気とか風耐性なのか火耐性なのか水耐性なのか微妙なところですよね」
「霊格的に多分ゲームで出てくるようなマグマの横を歩くとか、あの辺は余裕な気がしてるけど、流石に直にかかったらまずいしな。
あれって地なの?それとも火なの?」
貴彦と弘樹がゲームやラノベなどを思い出しつつあれこれ話していると、「ここで話すなら隠世に一旦戻った方がいいと思います」と小春に言われ、そろそろ休憩しようという話になった。
隠世の温泉ホテル前に扉を開いて皆が入ると、玄関ホールの椅子に座って再びステータスウィンドウを確認する。
八柱界の硬貨が使える自販機なども知らぬ間に設置されていたり、下手をするとベッドや布団、タオル類など次々と施設や町の中が充実し始めているような気がするが、今はステータスだ。
弘樹が188貴彦が183、小春が186となりポイントも盛り沢山となっていた。
称号や加護なども含め何も新しいものは増えておらず、温泉に浸かって休む事となった。
お風呂から上がった一行は屋敷へ戻り、大根の味噌汁や亜空間に保存しておいた熱々のご飯、白菜の浅漬に鮭に似た魚の切り身を焼くなどして食べ、それぞれの部屋で休む。
貴彦も今日はこちらで休むようで用意された部屋へと入っていった。
弘樹は自分のベッドでうとうとしつつも、日々増殖する建物や備品の数々、元々は生えなかったはずの家具やタオル、自販機まで気付けば出来ている現状に何か打開策はないかと考えていた。
よくSFドラマに出てくるような会話可能なコンピュータや、アニメなどに出てくる人造人間など、暴走されると困るがある程度以上こちらの意図を汲んでくれる知性を持った、隠世の管理を任せる管理人のような存在。
こちらだとゴーレムとかになっちゃうのかな?それはやだなー。
人工精霊とか居そうだけど、命をどうこうするのも嫌だしなー。
そんな事を考えつつ眠りにつくのだった。
目が覚めると時計を確認する。
やはり疲れていたのか八時間ほど眠っていたようだった。
そろそろ洗濯もしないと亜空間内がまずいことになっちゃうな。
そんな事を考えつつ風呂場へと行くと、そこには白くて四角い物がデン!と置かれているのを見て、嬉しいけれど悲しいような、そんな気分に襲われた。
いわゆる全自動洗濯乾燥機だったのだ。
それもファミリーサイズなのでかなりの量を洗える。
服に良い匂いをつける訳にも行かず、とりあえずお湯でゆすぐつもりだったのだが、ふと見れば液体タイプの洗濯用洗剤も置かれていた。
洗浄成分を無くさない程度に匂い成分を極力減らす事が出来れば!と錬成を試してみると、あっさりと出来たので量を測り投入口へ注ぎスイッチを入れた。
そのまま風呂に入りしばしゆっくりした後、新しい服を着てキッチンへ向かう。
コーヒーを入れて少しゆったりとした時間を過ごし、ふと仕組みの分からない物でも生えるなら、と魔法に関する本などが神殿にあればいいのにと想像する。
果たして生えているだろうか?と隣の神殿へ向かうと、人がいないはずの神殿に何かの気配を感じた。
中へ入るとあちこちに魔法の照明が灯り、神殿内を照らしている。
小春か貴彦が来ているのだろうか?
そんな事を思いつつ奥へと向かうと、神々の像の前で祈る少女の姿があった。
何だか嫌な予感がしたが、その少女は背中まで流れる銀色の髪をしており、明らかに小春ではない。
もしや避難者が誤って残ってしまったのだろうか?
そう思い声を掛ける事にした。
「君は誰だい?何故ここに居るのかな?」
弘樹の声が聞こえたのか、少女はゆっくりと頭を上げて振り返った。
水色にも見える青い瞳、やや小さめの唇、頬は血色が良く少女期にありがちなふくよかさが残っていた。
「はじめまして、弘樹様。
いえ、マスター。
私はマスターの世界が生んだ、この世界の管理者となる精霊です」
またやっちゃったよ…
皆がどんな顔をするのか想像してしまい、落ち込む弘樹だった。




