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ソウル・リファイン  作者: 弥生丸
第一大陸編
47/96

オーブチェスト

オーブチェスト


ダンジョン内をしばらくの間真っ直ぐ進むとT字路となっていた。

手前で立ち止まり能力を駆使して気配を探る。


左側に居るな。


やや小振りなドラゴンか?

感覚を研ぎ澄ませて魔物知識を発動させると、やはり成竜になってしばらくしたドラゴンのようだった。


弘樹が皆を一瞬振り返って頷くき、そのまま念動力と空間使いを併用し障壁をより強固な物を多重展開して前へと踏み出した。


10メートルほど先に今まで倒したドラゴンよりも一回り小さいが、存在感はかなり上の個体が悠々とこちらを睥睨し大きく息を吸い込んだ。

「ブレスがくる!」


ドラゴンは炎と言うより熱線に近い光を放つが、弘樹の障壁はそれを余裕で受け止めた。


ブレスの高熱で気温が一気に上昇するが、霊格の向上やその他の補正によるものか息苦しさなどはほぼ感じず、ブレスを吐き終えたドラゴンに小春が神速で突進する。


一瞬光が走ったかと思うと、ドラゴンの首がゴロンと落ちて恵那の光となり、三人と一匹に吸収されてゆく。

その後にはやはり牙や魔石、血や肉などがドロップ品として転がっており、手早く亜空間へと収納した。


壁となっている草木や床は一切熱の影響を受けておらず、触れてみても特に熱くなってもいなかった。


そんな場所なのだと深く考えるのは諦めて、皆はそのまま左側へと進んだ。


五分ほど進むと弘樹は前方から複数の気配を感じ取りタレントを組み合わせて透視する。

「複数いるみたいだ。

グリフォン5、ドラゴン2、ワイバーン1かな?」

声を潜めて皆に伝え、ゆっくりと進むと急に視界が開けた。


そこは200メートル四方ほどの大部屋になっており、天井の高さも5〜60メートルはありそうだった。


そこにはドラゴンが二体、グリフォンが五体、ワイバーンが一体おり、足を踏み入れた面々に襲い掛かってくる。


弘樹は先程同様障壁を展開しつつ、ドラゴン・スケイル改を操りグリフォンを四体瞬殺し、その様子を見た小春が駆けてドラゴン二体をこれまた瞬殺する。

残ったグリフォンとワイバーンは小六が飛んで牽制し、貴彦が真新しい剣と盾を駆使して数秒で倒していた。


「…やっぱり泉に行って正解だったな」

「あのままここに来ていたら、最初のドラゴンだけでも大変だったかも知れませんね」

弘樹と小春は辺りを警戒しつつ話し、貴彦が「これでまた薬がっ!あぁ、この爪ならあの武器がっ!」と狂喜乱舞するようにしてドロップ品の数々を亜空間へと収納する。


亜空間収納が無かったらドラゴン一匹分でも持ち帰れないよなーと思いつつ、部屋の奥へと視線を向けると、何やらフワフワと浮いている光の玉を三つ見付けた。


「これなんぞ?」

弘樹が鑑定する横で、「ここにもあるんですね!」と言いつつとっとと三つのうちの一つに触れる貴彦。


それは触れた途端に光を失い、ゴロンと何かが地面に落ちた。


「これ、私達が地球の異界で時々見付けた物と同じですね。

ほら、私達が使っていた小太刀や銅剣、あと回復薬なんかもこれで手に入れたんですよ」

小春がもう一つに触れると、再び光が何かになってゴロリと転がる。


「へー。こっちと地球の異界、やっぱり何か関係があるのかもな」


考えるまでもなく地球の神々がこちらに来ているのだから、多分そのままなのだろうなと思いつつ弘樹は鑑定結果を見た。


▽オーブチェスト

光玉に見える浮遊物。

触れると消え、中に封じられていた品物が出現する。

光玉のサイズと中身は一致せず、鑑定などでも触れるまでは中身を知る事は出来ない。


「ファンタジーのダンジョンにある宝箱みたいなものなんだな」

そう言いつつ弘樹が触れると、ドスンと音を立てて金属の塊が床に落ちた。

「あっぶねぇ!」

足の上に落ちていたら大惨事だったと思いつつ落ちた品を鑑定すると、オリハルコンの鉱石だった。


「あっ?!オリハルコン!!

凄いですよ!

また武具を作りまくれますね!

こちらのは神銀の塊でした」

「こっちはオリハルコンのインゴットですね。

鉱石が出るってこういう事だったんですね」

貴彦がかなり興奮し、小春はそれにやや引いているのか冷静な様子でオリハルコンを亜空間に収納する。


弘樹もさっと収納すると、再び辺りを見回すが、どうやら行き止まりの様で入ってきた通路意外とは繋がっていなかった。


「逆の道に進むか」

再び弘樹を先頭にして一行は進み、先程のT字路を越えてしばし行くと今度は左右真ん中と道が三つに別れているようだった。

手前で気配を探ると左右双方に複数の存在を感じる。

透視によるとドラゴンの類のようだが、その中には人型に近い個体もあった。


竜人ってところか?


魔物知識によるとやはり竜人であり、個体差が人間同様大きいらしい。


特に強いのは右か?


弘樹は皆を連れて少し通路を戻ると、十字路の左右に複数の敵と思われる存在がいる事、右側の方が強い可能性が高いことを伝える。


「左は黒いドラゴン1と竜人4、右は白いドラゴンと竜人5、白いドラゴンの方が強い可能性が高いな」


弘樹はタレントで感知したままを話し、

「挟まれるとまずいですから、右側は私と小六が、左側は弘樹さんと貴彦で行きましょう。

どちらかがピンチの時は臨機応変に。

先に敵を倒した場合、もう片方の助力へ向かうと言う事でどうですか?」

と小春が提案する。

皆それに同意し、弘樹と貴彦は強固な障壁を貼り直し、小春は小六を頭に乗せて皆に支援魔法を各種かけた後、タレントや風雷魔法などを使用して刀に神威を纏わせた。


貴彦も薬品などを確認した後、皆でタイミングを合わせてそれぞれの通路へと突入した。


左に曲がると数十メートル先に手に剣や槍を持った四体の竜人と、その背後に黒いドラゴンが一体通路を塞いでいた。


「ドラゴン・スケイル改!」

やはり声に出すと何か気持ちいいよね、と弘樹は思いつつ20枚のクナイに夢幻魔法で感覚撹乱の魔法を乗せて操る。


霊格4の頃よりもその速度も命中率もかなり向上しており、古竜の鱗を使っただけの事はあり強度も切れ味も段違いになっていた。


竜人4体は一瞬でズタズタになり、恵那の光となる。

手に持っていた武器がカランと乾いた音を立てて落ち、いくつかのドロップ品や魔石も転がった。


黒いドラゴンはそんなことを気にも止めず、黒い炎を口から吐き出しながら二人の元へと突進してくる。


流石に盾では受け止められないと判断した貴彦は弘樹の後ろに下がり、何かしらの呪文を唱え始めた。


弘樹は障壁を複数展開して黒い炎とその巨体を受け止めると、そのまま障壁を一部動かして黒いドラゴンを押し返した。


呪文がほぼ完成した貴彦が弘樹の前に立ち、最後の言葉を放つ。


「日輪の塔槌!」

その言葉によって練られた魔力が解き放たれ、天井すれすれから直径20メートルほどの光の柱が音もなく打ち下ろさせる。


それは莫大な熱量と光量を持つ光の塔となり、黒いドラゴンを照らし焼き尽くす。


弘樹は熱波を避けるために障壁を大きく展開して被害が広がるのを防いだ。

壁などは影響を受けないとしても、ドロップ品などが破損しては困ると言う微妙な理由からだったが。

熱の影響で強風が生じるが、それらも全て障壁で遮断する。


「貴彦君、ゲームなら平気かも知れないけど、洞窟とか建物内、ダンジョン内ではもうちょっと低位の魔法じゃないと色々危ないかも知れないね」


「…はい、すみません」


自分も自重しないと不味いなと思いつつ貴彦に声をかける弘樹だった。


日輪の光は熱にも耐性があるであろう黒いドラゴンを焼き尽くし、恵那となって二人に吸い込まれた。


その一部は二人の背後へと飛んで行ったので、この距離なら小春たちにも恵那が届くのだろうなと漠然と考える。


二人は黒いドラゴンや竜人たちのドロップ品や武器などを大急ぎで拾い、応援のために急いで右側の通路へと向かった。


その頃小春と小六は白いドラゴンと対峙していた。

なお五体の竜人は小春が瞬殺している。


素の敏捷顕現値ですら240ある小春だが、泉で敏捷強化や神速剣をレベル10に上げており、支援魔法や風雷魔法でもその速度を底上げした状態で神の鍛えた疾風迅雷を振るっているのだ。


ドラゴン種の防御力をある程度だが無効化し、かつ攻撃力も底上げされた状態では、時間を掛けて敵を倒す方が遥かに大変なのだった。


なお小六は彼女の後方で転がっている魔石を弄って遊んでいた。


白いドラゴンはブレスを吐かず、代わりにタレントか魔法を使用したようだった。


巨体の周りにキラキラと輝く結晶を無数に生み出し、幾多の層を生み出してはその身を包み込む。


それは氷の結晶であり、また冷気を纏う刃でもあった。


「そう来ますか。

小六、影に入って避難」


小春の命に従い小六は小春の影に入り込む。

これで光を用いた攻撃以外、小六にダメージを与えることは出来ないはずだ。


シュッ!

と軽い音を立てて白いドラゴンを纏う結晶の一つが小春へ放たれるが、彼女はそれを難なく避ける。


シュッ!シュッ!シュッ!

連続して幾つもの結晶が小春を狙うも、やはり簡単に避けてしまう。


白いドラゴンは小春を睨みつけ、一気に数百の結晶を点や線ではなく、大きな面にして攻撃を放つ。


「無駄です!」

神威の雷を湛えた疾風迅雷を一閃させると、結晶は砕け小春の身体に触れる前に消滅する。


「今度はこちらから行きます!」

小春は己の魔力を糧に刀身へ宿った神威へとより強く意識を集中する。


未だ無数の結晶に包まれた白いドラゴンへの近接戦闘は無理だ。


例え風の守りを身にまとっても、無数の刃に飛び込む愚行は犯せない。


神速でもって攻撃や移動が出来ると言っても、本人が雷光そのものになる訳ではない。


肉の身を持つ以上、ほんの数センチの隙間に入り込もうとすればそれ相応のダメージは受けてしまう。


だからこそ!


刀身に宿っている黄色がかった光は白い輝きへと変わる。


はっきりと分かる存在感。

その手に握る刀が単なる業物ではなく、神の鍛えし神宝なのだと強く意識する。


出来るはずだ。


以前ドラゴンを倒した際、小春は黒い焔、ヘカテーの権能を借り受けていた。


あれは小太刀でありつつ小太刀では無く、既に別の何かになっていた。


それに小太刀その物が耐えられず灰となったが、これは違う。


借り物ではない本物なのだ。


出来ないはずがない。


これは刀の形をした雷だ。

本来形を持たぬ神の力。


ならばっ!


白いドラゴンが小春の手にある神宝の気配に気圧され、身にまとった大量の結晶を猛烈な勢いでぶつけてくる。


しかし小春の手にある光、神威がそれらを尽く消滅させ、彼女の身には届かない。


「参る!」

刀身が完全に雷光となり、小春自身もその光と一体化する。


通常の小春は素早い動きを活かした戦い方を好む。


しかし彼女は地に足を付けたまま、手に持つ疾風迅雷を神速を持って横に振るった。


素早さとは何も足の速さや反応速度などに限らない。

恵那の泉で筋力や体力も上げた効果もあり、刀身を振るうその速さすら神速となった。


刀身から光が迸る。

否、刀身そのものが瞬く間に伸び、とてつもなく長い雷光の刃となり結晶諸共敵を切り裂いた。


「神威刀 八尋の雷刃!」

元の刀となった刀身を鞘に収め、適当に名付けた技の名に満足したように頷くと、白いドラゴンは上半身と下半身が綺麗に二つに別れて地へ倒れた。


「小春ちゃん!」

「小春〜!」

足音を立てながら弘樹と貴彦が走ってきた。


ドラゴンは恵那の光となり三人と影に潜んだ小六へと吸い込まれてゆく。


「白いドラゴンが出ましたけど倒せました!氷を使えるみたいです」

今後も現れる可能性を考え一応伝え、弘樹たちも黒いドラゴンについて説明した。


どちらも短時間で倒してしまった為、どんな力を振るうのかは分からなかった上に竜人などは瞬殺だったので、それこそ何が何やらだったがそれでも多少は役に立つかも知れないからだ。


それぞれドロップ品を拾い亜空間へと放り込むと、「なんじゃこりゃぁ?!」と言う貴彦の雄叫びが辺りへ響き渡った。


氷の如き光沢を放つ鱗や牙なども勿論皆拾ったが、彼が叫んだ原因のそれは大きな氷にも見える金属の塊だった。


▽氷竜銀

特殊金属。

ミスリルの上位金属。

武器防具に氷の属性を付与、耐性を与える事が出来る。


頬ずりせんばかりに金属へ抱きつき、「ひゃっこい!」と喜ぶその姿に弘樹と小春は生暖かい視線を向けるのだった。


その後もマップを埋めるように三人と一匹は歩き回り、色違いのドラゴンやグリフォン、竜人にワイバーンと倒しまくり、体感的にほぼ一日が経過した。


魔物が突然ポップする事は今の所無かったが、溜まり場状態になっている広大なドームなどはあった。


また数時間進んだ先が行き止まりになっており、道を戻ると一部の魔物は湧いていた。

浄化されているはずなので別の個体なのだろう。


異能や魔法、特殊な攻撃も物理攻撃も得意な一行はそれらを難なく倒したが、物理攻撃主体や逆に特殊攻撃主体のパーティーだったなら今頃死んていただろうなと思いもする。


「そろそろ休もうか?」

さして疲労感を覚えてはいないが、油断は禁物だ。

ちょっとした気の緩みが命取りとなり得るのだから。

「隠世で休みましょう」

下手に交代するよりもその方が良いと言う事になり、三人と一匹は弘樹の隠世へ入り込む。


「とりあえずドロップ品を等分しましょう」

色々と作りたくてウズウズしている貴彦に苦笑を浮かべつつ、「それは構わんけどちゃんと休憩は取れよ?」と弘樹に突っ込み、避難者を収容した超巨大体育館でそれぞれがドロップ品を取り出して行く。


一応金属コーナー、食料品コーナー(主に肉類)、竜人が落とした武具コーナーに角や牙、爪などの素材コーナーへと大別して置くが、よくぞこれ程と言う程の量の品々が広いはずの超巨大体育館を埋め尽くして行く。


特に肉や牙、鱗や皮などは嵩張り、死ぬまで延々ドラゴンやグリフォンの肉を食べても食べ切れないような量のになっていた。


魔石も含めて大まかに三等分し、特殊金属や武器防具、薬品の素材は貴彦に多めに渡す。

貴彦が作る品は現状流通させる事なく、ほぼパーティー内で使うか亜空間に保存されているので特に問題はないのだが、全て渡してしまうと不眠不休で作りかねないので敢えて量を制限させたのだ。


それでも貴彦は目を煌めかせて亜空間に品々をしまい込み、いそいそと出ていこうとしていたが、弘樹はそれを止めた。

「その前にステータスチェックをした方がいいと思うぞ?

多分レベルが上がっているはずだからな」

確かに!とそれぞれがステータスウィンドウを開いて確認する。


「やっぱり…」

「凄いです…」

「うほっ?!格がっ!」

全員ステータスウィンドウを見て驚愕する。

確かに世間一般で言えば個々が災害クラスに近い魔物たちも混じってはいた。

しかしここまで上がるとは。


霊格5レベル60だった弘樹は129レベルになり、称号の竜殺しが低から高へとランクアップしていた。


小春は霊格4レベル125に、貴彦も気付けば霊格4レベルは122へと上がり、弘樹同様竜殺しの称号もランクアップしている。


「また泉に入らないと無理な上がりっぷりですね…」

そう言いつつも上げられるだけ上げておこうと話し合い、能力値や各スキル、タレントのレベル上昇、新規獲得などを行う事にした。


「微妙に恵那の入り具合が違うんだな?ダメージを多く与えたボーナスとかなかな?」

ゲームでもあり得る事なので、それに影響を受けまくった神々の事だし、多分そうだよねと言う結論に至った。


「あっ!そうだ!…やっぱりあった!ありましたよ!」

貴彦が何かを思いつき、スキルやタレントを精査しつつ興奮している。


「ん?何があったの?鉱物創造とか?」

出会った当初とはかなり方向性が変わってしまった貴彦に軽い気持ちで声を掛けると、「残念ながら創造はありませんでしたが、ドロップ率を上げるスキルは見つけましたよ。

でも今はもっと凄いのを発見したんですよ!」

恵那吸収率向上と言うタレントだった。

「ゲームとかラノベで時々経験値を多く得られるスキルとか出てくるので、もしやと思ったらあったんですよ!」

「マジかっ?!」

弘樹と小春もタレントへ意識を向けて検索してみると、確かに取得可能な物に恵那吸収率向上があった。

思わず皆取得するが、やはりレベル2までしか上げられなかった。


なお、鉱物のドロップ率が高まるスキルは鉱物との親和性と言う物で、ドロップ率の向上だけではなく、鉱山を探す際や鉱石、金属を扱う際にも上方修正される優れものだった。


弘樹は創造のタレントや薬、錬金、錬成、罠発見や長らく放置していた水魔法も含めてレベルを上げ、小春や貴彦もあれこれ弄ったようだった。


弘樹の屋敷へと転移し、扉を通じて貴彦は自分の隠世へと移動し、小春は弘樹の屋敷の女湯に小六と入った後、リビングで軽食をつまみつつお茶を啜っていた。


弘樹は亜空間に入っている弁当を取り出して食べ、男湯に浸かって疲れを癒やした。

「恵那の泉とかここにもあると楽でいいのに」

何となくそう思ったが、何だか危険な予感がするので深く考えるのは辞めた。

が、既に遅かったようでゴゴゴと音を立てて屋敷の隣に神殿が誕生した。


「なんでもありかよ」

そう呟きつつ慌てて服を着込み玄関へ向かうと、音に驚いて飛び出してきた小春と顔を合わせた。

「何かまた生えたらしいんだ」

ほぼ他人事な気分で話しつつ外へと出ると、王都の神殿真っ青な巨大神殿が建っていた。

基本的にはギリシャの神殿を思わせる形だったが、所々和風であったり、東南アジア風な装飾も見て取れる。


人一人居ない神殿内には数多の神々の像が立ち並び、そのど真ん中に50メートル四方はある巨大なプールにも似た泉があった。


「うん、知ってた」

弘樹は何となく諦めた気分で泉を鑑定すると、案の定恵那の泉そのものだった。

「弘樹さん、本当に何でもありになってきてますよね」

小春はそう言いつつも靴を脱ぎ、いそいそと泉に足を浸ける。


「小六、貴彦を呼んできて」

見た目は殆ど子犬な小六に命じると、「わん!」と敬礼に似たポーズをとって走り去っていった。

ドアノブ回せるのだろうか?

まぁ気にすまい。

何か気にするとこの世界は過敏なまでに反応し、それに応えてしまうのだから。


なんかそのうち鉱山どころかオリハルコンとかミスリルで出来た山脈やら、怪我や病気がすぐ治る温泉やら、とんでもない物が出来そうだよねー。


弘樹も小春同様にして足を浸けようと靴を脱ぎつつそんな事を考えてしまった。

「あっ」と声を上げるが時既に遅し。


大地が大きく揺れ、轟きを響かせて館や神殿から少し離れた所に温泉宿と見たことのある特殊金属のみだったが、巨大な山々が幾つものそそり立っていた。

 

泉から上がって見に行くと、手前に温泉宿やホテルが数軒立ち並び、それを背にするようにしてミスリル、神銀、恵那鉄、オリハルコンに氷竜銀、他にもダンジョン内でドロップしたりオーブチェストから手に入れた様々な金属の塊が天高くそそり立っている。


剣何本分とかそういう世界じゃないよね。


そう思いつつ山をぼんやりと見上げていると、貴彦が小六を抱いて屋敷の玄関から飛び出してきた。


「一体どうしたんですか?

ってウホッ!神ですか?!

弘樹さん貴方特殊金属の神なんですかっ?!」

貴彦が興奮も顕に山へと突進しようとしていたので念動力で止め、フワフワと浮かばせつつ恵那の泉へと向かう。


すでにステータスを弄り終えた小春は亜空間からダンジョンやラクヨの町で得た品々を泉に浸け込む作業をしていた。


「王都の恵那の泉と同じか、それより凄い泉ですね。

見てください!

白ドラゴンの牙や皮が氷竜の牙や皮に進化しました!」


小春の報告を聞いて弘樹は深く考えるのは辞め、泉に浸かるとステータスウィンドウを開いて能力値などを弄り始め、その後小春同様ドロップ品などを泉に浸ける。


貴彦もステータスを弄った後に同様の作業を行った。


ドラゴンの牙や皮に角などの部位や、竜人たちの武器防具や金属なども次々に浸け込む。


鉱石や金属は純度が上がり、竜人たちの武器防具は品質が向上した。


試しにとドラゴンの血が入った瓶も一本だけ試しに浸け込むと、中身が普通にランクアップした。


素材として必要かも知れないのであえて一部はそのまま残し、残りの瓶を次々と泉に浸け込んで行く。


生肉を泉に浸けたくはなかったのでやめておいたが、魔石も試しにとゴブリンの物を浸け込んでみると、魔石はランクアップする事なくそのまま泉に溶け込んでしまった。

「ドラゴンのとか試さなくて良かった」

全員一致で以後魔石は入れない事にし、12時間後にダンジョン内へ戻る事を決めて解散する。


貴彦は特殊金属の山へと走って行ったが、止めても無駄だと思い放置する事にした。


弘樹は部屋に戻って横になり、小春は小六と軽く運動がてら森や山の中を走り回る。


何時間眠ったのだろう?

弘樹は目を覚ますと町中で購入した時計に目をやった。

六時間近く寝ていたらしい。

弘樹はゆっくりとベッドから身を起こし、近くに生えた温泉宿へと向かう。

ガランとした人一人いない空間が不気味ではあったが、ソーラーパネルから電気が供給されているのか廊下などは灯りがちゃんと灯されていた。


湯の暖簾が下がった引き戸をあけ、籠に脱いだ服を入れてから洗い場へ行、軽く体を洗って温泉にゆっくりと浸かる。


「あぁ〜、極楽極楽」

独り言を呟きつつ湯船から洗い場をぐるりと見回した。

ふっと何かが気になり、何だろう?と湯船から立ち上がり、その違和感の正体に気付いた。

鏡だ。

大きな鏡が洗い場には設置されており、そこに映る人物、つまりは弘樹自身の姿が記憶と微妙に異なるのだった。

ザバっと音を立てて湯船から上がり、鏡の中の自分をマジマジと見詰める。

ややたるみ始めていた体は筋力や体力を上げた事もあってか締まって見えるが、それだけではなかった。

少ない方ではあったが多少あった白髪が無くなり、髪の量も増えているように見える。

髭は少しだけ薄くなり、肌の艶も明らかに滑らかになっており、少しだけ出始めていたシミも消えている。


「これって…10年ちょい前の俺?」

温泉の効果と言うよりは、霊格とレベルの向上によるものなのだろう。

明らかに40代と分かる顔だった弘樹のそれは、完全に若返り30前後の青年に見えていた。


洗い場でもマジマジと鏡を見ることは髭を剃る時くらいしかなく、ひげ剃りは蒸気で軽く蒸れてからの方が剃りやすいのでまだ鏡をちゃんと見ていなかったのだが。


そう言えば十六那が以前何か言っていた気がする。

多分霊格の向上が体を構成する恵那に影響し、一番身体能力的に充実していた状態へ近付こうとしているのではないか?とそう感じた。


とりあえずチビチビ生えてきた髭を剃り、全身を流してから脱衣所へ向かい、タオルで体を拭いた後、亜空間に籠の中服や濡れたタオルを突っ込み、新しく取り出した服を着て外へと出た。


屋敷で休んでいたらしい小春が小六を頭に乗せて扉から出て来たので、弘樹は声を掛けた。

「おはよう!所で一つ変な事を聞きたいんだけど、俺若返ってない?」


弘樹の言葉に小春は今更ですか?と言わんばかりの顔をした。


「前も言ったじゃないですか。

それにダンジョンであれこれ倒している内にも少しずつですけど若返っていましたよ?

その前、霊格が上がり始めた頃も少しずつ若返っていくように見えましたけど、今回のダンジョンではそれがとってもわかりやすかったですねー」


「え、マジ?

確かに何となく違うなーと思うことはあったけど、そうか、そうだったのか」


基本的にあれこれ無頓着な男である弘樹は、髪も邪魔にならない程度に切っとけばいいや、ヨレヨレ穴だらけじゃなければ服も何でもいいやというタイプなので、あまり気にしていなかったのも気付けなかった原因なのだろう。


その後二人は小六も交えて軽く訓練を行い、貴彦が来ると食事を取ってからダンジョン内へと戻ることにした。


ダンジョン内に障壁を張りつつ移動するが特に敵の姿はなかった。

マップを確認してみるとかなり広範囲を移動したのが分かるが、未だ全体像が分からない。


万が一複数の階層が存在するのだとしたら、どれだけの時間が必要なのだろうか。


隠世のお掛けで一般的な冒険者はおろか転移者たちよりもかなり安心して休む事が出来、ステータスを弄る事も可能となった彼らですら、ダンジョン慣れしていない事もあって先が途方もなく長く、そして辛いと感じてしまうのだ。

普通の転移者や冒険者たちは凄いなーと感心しつつ、まだ足を踏み入れて居ない道へと足を進める一行だった。


途中緑や青、白に黒い鱗のドラゴン達や、妙に黒くて力強いグリフォン、毒の息を吐くワイバーンなどを蹴散らしつつ先へ進むと、今までにない広い空間へと出た。

入り口からこっそり覗き込むと、一キロ四方はある広大なその空間は、高さも2〜300メートルはあるようで、無数のドラゴンや竜人、グリフォンにワイバーンがひしめいている。


壁や天井は樹木だったそれから岩へと変わり、それまでの通路や広場よりもやや薄暗く見えた。


マップを見るとその奥には大きな赤い光点があり、その先に通路が存在しているようだった。


「殺る気満々過ぎるだろ?」

「数で勝負な感じが丸わかりですね」

「でも色が違うドラゴンは属性も異なるようですし、それぞれ違う素材も手に入りますからある意味ラッキーですよ!」

それぞれ呆れたり喜んだりしながら、三人と一匹はその広場へと足を踏み出したのだった。

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