恵那の泉
冒険者ギルドへ行くと加藤とエアリスがおり、早過ぎる帰還にかなり驚いていた。
任務へと向かったマイクと真咲の二名もいた為、話はスムーズに進み別室へと通された。
「つまりそこの桔梗と杉本の両名が首謀者だった訳ですね?」
「ええ。私達がやりました」
加藤の言葉に桔梗本人が素直に認め、ギルドの者達に連行されて行った。
弘樹たちはテレポートによる転移やラキ村の惨状、そしてその後の処理、ハクヨの町での出来事にファル・グリンやエリーニュスや十六那の事などを話し、遺体や遺品と思われる物を提出した。
本来ならば安価で家族が買い戻すケースが多いそうだが、小六月の面々やラキ村出身者のサム、ハクヨの町出身者のリンウッドとしても金品を請求する気にはならず、タニアとクリストフもそれに賛同する形となっていた。
そもそも新米チームは大幅なレベルアップや霊格の上昇に意識が向き過ぎて他の事を気にする余裕もない様だったが。
なおリンウッドの家族や友人たちは皆無事であり、サムの家族は避難者を調べた結果、すでに村を出た兄弟たちを除けば全滅だった。
村はほぼ壊滅と言ってよく、その後の事は生き残った村人たちとラクヨの代官始め役人たちが近々話し合うようだった。
「それではそのファル・グリンと名乗る道化師風の何者かが外法を教えたと言うことですか」
真剣な表情で問うエアリスに、一同は頷き弘樹が代表して特殊な存在である事を説明した。
「神々が禁じた存在たちの侵入…そんな恐ろしい事が?!
神殿本部にお伝えしなければっ!」
エアリスはバタバタと走り去り、加藤があとを引き継いで報酬の話となった。
「今回は本当にありがとうございました。
皆様方でなければ解決出来なかったかも知れません。
まず報酬ですがラキ村とハクヨでの魔物及び盗賊の討伐は契約書通り小六月の方々四人、一人五百万、冒険者の皆さんは百万となります。
ハクヨの町開放及び主犯格の捕縛で成功報酬も含めますと、小六月の皆様は一人一千万、冒険者の皆さんは一人三百万となります。
また魔石やドロップ品、盗賊の持ち物などは冒険者の皆さんから不要との話が出ておりますので、小六月の皆様が所有権を持つものとさせて頂きます」
魔石を含め薬品や武器製造に必要な品は売らない事にし、それ以外は全て売却してラキ村の避難者たちに分けてもらう様伝えた。
十六那の分は弘樹が預かる事となり、薬や鍛冶の材料は貴彦が受け取った。
「それと冒険者ランクなのですが、小六月の皆様はドラゴンやグリフォンの件、そして今回の件も最低でもBランクとなって頂かねばなりません。
本来でしたら最低でもAAとは思いますが、皆様方の意向を組みましてそうさせて頂く事にしました。
なおクリストフさん、タニアさん、リンウッドさん、サムさんはそれぞれDランクとさせて頂きます」
冒険者カードを渡し、一次的なパーティーを解除した後、それぞれの冒険者ランクがアップした。
なお十六那は小六月の面々の意向でAAランクとし、パーティーメンバーに残しておくことにした。
なお四人の新米冒険者たちは、
「冒険者でありつつ魔物を数体討伐したようですが、今回のケースですと致し方無いと判断しました。
ですが今後は気を付けて行動して下さいね」
と加藤に釘を刺されていた。
大体のことが片付いたので、面々冒険者ギルドで解散することにした。
講習会は今回のゴタゴタで結局流れてしまい、しばらくは行われないらしい。
「短い間だったけど、今回はありがとな!」
「こちらこそ、良い経験を積めました」
「色々とご迷惑をお掛けしました。
犯人が捕まり村の皆も少しは喜んでいると思います。
ありがとうございました」
「ほんと、かなり大変だったけど助かったよ!町を救ってくれてありがと!」
「講習会で出会った時はどうしたもんだろうと思ったけど、アンタらと知り合えて良かったよ。
今後とも仲良くしておくれな」
弘樹の声にクリストフ、サム、リンウッド、タニアはそれぞれ返し、小春や貴彦も含めて皆笑顔で解散した。
弘樹たちは今回の経験でポイント消費などは慎重過ぎても駄目だと実感していた。
道すがら大まかに目指す物があるのだから、それに向けて調整して行く事を決めて宿へと戻った。
風呂を借りて入り少しの間休んだ後、三人は同じ部屋へと集まりどうしたものかと話し合っていた。
ステータスもスキルも急激に上げることは出来ない。
使い込みつつ上昇可能となったら割り振るしかないのが現状だが、数度の戦闘でどんどんレベルが上がってしまい、なかなか使い切れない状況に陥ってしまった感がある。
マイクや真咲に聞けば良かったと思うが、彼らも事情を説明した後は休みたいだろうと思うと中々聞くに聞けなかった。
「あっ?!冒険者のステータスやスキルの上げ方聞いてなかったよ!」
ずっと気になっていた事なのだが、タイミングを逸して聞けずに終わってしまっていた。
「近々冒険者ギルドで聞けば良いんじゃないですか?」
貴彦の返事にそれもそうかと思いつつ、ヒントの無さに頭を悩ませていた。
「そうだ!
神殿へ行ってみるのはどうでしょう?
ほら、恵那とか神殿の方が詳しいみたいだし、ラクヨは新人転移者向けじゃないみたいですもん。
また何か説明するのを忘れているかもしれないですし」
小春の思いつきに有り得ると気付いた一行は、いても立ってもいられず神殿へ向かう事にした。
ラクヨ神殿の受付に声を掛けると、すぐに応接室へと通されエアリスがやってきた。
「皆様、今回は本当にありがとうございました。
エリーニュス様たちから神殿の方にも連絡は入っておりまして、色々と事情はお伺いしました。
それで今回はどうかなさいましたか?」
と問い掛けるエアリスに、弘樹たちはスキルやステータスの上昇率の話をした。
「それでしたら首都や第一都市と一部第二都市の神殿で可能なのですが、ラクヨではまだ実装されていないのです」
またかよ?!と皆は心の中で思ったが説明をちゃんと聞くことにした。
「万物の全ては恵那である事は以前話しましたが、レベルアップやポイント消費は簡単に言うと体内の恵那をいじる事になります。
その為本人に無理のない範囲でしか取得や上昇は出来ないのが基本なのです。
霊格が高まるとかなりの無茶も出来ると聞きますが、それは既に恵那を操るのが当たり前の存在、つまり神々の領域であるとも言われています」
エアリスはそこまで説明するとコホンと軽く咳払いをして、続きを話し始めた。
「本来この世界の人間は高レベルになる事は滅多にありません。
ですから今のままでも問題はないのですが、転移者の方や流界者の方はすでに経験を積んでポイントを大量に持った状態でこちらに来る場合が多いのです。
これは大きなストレスになると気付いた神々は救済措置として、転移者が初期の頃に訪れる町の神殿に特殊な施設を実装したのです」
先程から実装、未実装とゲームかよ?!な発言が混ざっていたがそこはあえて突っ込まず、「で、それはどうやったら利用可能なんだ?」と弘樹が代表して訪ねた。
「転移者の方でしたら誰でも利用可能ですよ?そちらの神殿や冒険者ギルドで登録する方が殆どですから、何でしたら最初から施設を使用する方も多いです」
さらりと告げられた事実に驚きを隠せない一同だった。
「でも加藤さんとかスキルの話をした時何も言ってなかったし」
「あぁ、神殿の者と転移者や流界者の方以外原則知らないことですから…」
何だか色々駄目な気がしたが、やはり行かねばなるまいと三人は心に誓った。
「よし!俺たち明日から王都目指して旅立つから!今までありがとな!」
それだけ告げると弘樹たちは急いで神殿を後にしようとした。
「待って下さい!」
転移者を引き止めたい気持ちが大きいのか、エアリスが素早く周り込んでドアの前に立つ。
やはりただでさえこの町には少ない転移者が居なくなるのが困るのか?
俺たちの方が困るわっ!と言う気分で立ち止まると、
「待って下さい。
私は王都も第一都市も、他の町だって神殿の関係でだいたい行った事があります。
今回の件で使った移動方法、使えるのではありませんか?!」
とエアリスから素敵な提案が提供された。
「テレポートに空間使いも今回で上がってるから、もしかしたら行けちゃうかもしれないな」
弘樹は試しにエアリスへ王都をイメージしてもらい、感覚的に行けそうかを確かめた。
余裕で可能だった。
「よし!今からは流石に無理だろうから明日の朝一で向かおう。
それでどうだ?」
弘樹の問にエアリスは了承し、何故かその流れで四人揃って夕飯を食べる事となった。
素材の多い町や貴重な金属の採れる町など、貴彦がアレコレとエアリスに訪ね、なんならその辺も巡ろうと言う話になっていた。
「でも神殿の神官様が自由に出歩いて問題ないんですか?」
小春の単純な疑問にエアリスはニッコリ笑い、「その為の転移者担当神官なのですよ。何でしたらパーティーに加わっても問題ない決まりになっていますから」と爆弾発言をした。
「え、最初からそうしてくれてれば、あれこれ違った気がするんだけど?」
弘樹の問いにエアリスは困ったような顔でボソボソと答えた。
「女神様がいらしたから恐れ多くて。本来なら喜んでお使えするのですけど、アルテミス様縁のお方とは言え、こちらの神ではないのも問題がありまして。
それに皆さん回復や補助も出来ますし」
なるほど納得だった。
翌朝小春と弘樹はいつも通り特訓し、貴彦は物作りに精を出していた。
宿には5日分の前金を払っていたが今日発つ事を伝え、返金制度はないので一応戻る可能性も考えて残り2日も部屋はキープしてもらう事となった。
朝食を終え神殿に向かうとエアリスが旅支度を整えて神殿の入り口付近で待っていた。
ラクヨの冒険者ギルドに王都に向かうと連絡をしてくれたそうで、引き止められたがどうにか説得してきたそうだ。
なおエアリスの眼鏡は冒険者として流石に危険だと言うことで、謎の視力矯正ブローチを身に着けていた。
何でも服につけるだけで眼鏡と同等の効果を得られるのだとか。
それなりに高価な品なので普段は眼鏡を使い、冒険者としての依頼などの為にこれを用意していたそうだ。
「鑑定!」
思わず貴彦が鑑定を行い、その効果を調べていた。
「いや、せめて一言断ろうよ」
「そうですよ。女の子のアクセサリーに突然鑑定とかドン引きですよ」
弘樹に続き小春が謎の敬語で貴彦をたしなめ、エアリスにペコペコと頭を下げる貴彦だった。
エアリスに王都付近を強くイメージしてもらい、それを読み取って皆で転移する。
そこは王都の東門近くの街道から少し外れた所だった。
一瞬で数百キロを移動し、霊格4の弘樹ですらそれなりに力を使い疲労したようだ。
「さぁ、まずは門を通って神殿へ直行で良かったよな?」
弘樹はメンバーに確認した後、門へと向かい冒険者カードを見せて町の中へと入る。
王都なだけあって町並みは美しく、規模もかなりの大きさようだった。
木造に漆喰を塗り込んだ家やレンガ作りの家、食料品や香辛料、衣類に武器防具、宝石などなど様々な品を扱う商店が立ち並び活気付いている。
一行は多少脇目を振りつつ大通りをしばらく進み、町の西奥にある神殿へ辿り着いた。
高さが10メートル以上ありそうな鳥居があり、その奥に広大な境内、そしてそのさらに奥にはギリシャ風の巨大な神殿と言う様にエアリスを除いた三人は「うわぁ…」と感嘆よりも落胆に近い声を上げて足を踏み入れる。
境内には神殿の施設が幾つかあったが、エアリスが先導して奥へ奥へと向かって行った。
一番大きな建物を通り過ぎ、裏手に回るとラクヨ神殿より一回り小さな建物が目に入った。
「この中に昨日お話した特殊施設、恵那の泉があります」
エアリスは建物の受付に冒険者カードを見せ、転移者を案内してきた事を告げた。
どうやら受付はエアリスの知り合いらしく、カードの確認もろくにせぬまま建物の中へと案内された。
受付の横を通り巨大な扉の前に立つと、ここから先は転移者のみが入れる聖域である事を告げられ、泉の使い方や諸々の注意事項を受けると三人だけで扉の奥へと向かう事になった。
エアリスは「ごゆっくり〜」と手を振りながら見送ってくれた。
元々王都神殿でも過ごしていた時期があったそうで、知り合いたちに挨拶にでも行くのだろう。
扉の奥は水晶に似た石で作られており、淡い光に包まれている。
少し先へと進むと柔らかながらも様々な色の光を帯びた水を湛えたプールのようなものに付き合った。
毒々しいトンネルを一瞬思い出したが、それとは全く異なる調和のとれた光に少しだけ胸を撫で下ろす。
受付で注意された通り靴や武具などは亜空間に収納し、三人は裸足になってそっと水に足を浸けた。
ひんやりとした感覚が心地よい。
「「「ステータスオープン!」」」
三人はほぼ同時に声に出し、それぞれのステータスウィンドウを広げたのだった。




