全てを…一つに
残酷なシーンありです
全てを…一つに
黒鎧の男は中々に強かった。
単に霊格やレベルが高いと言う訳ではなく、戦い慣れているのだ。
短槍を器用に使いつつ硬貨を指で弾く指弾なども織り混ぜ、小春の刀や貴彦の剣を弾き、避け、受け流す。
弘樹のドラゴンスケイルに当初は戸惑っていた様子もあったが、すぐに対応出来る様になっていた。
戦い慣れていない弘樹の攻撃は、やや単調になりがちなのだ。
また心臓や陰部などを除くと、真ん中のラインに急所が多い程度しか知らないと言う点もあった。
貴彦が前に出、小春が遊撃、弘樹がドラゴンスケイルや異能、魔法でサポートする。
新米冒険者たちに小六と捕虜は任せていた。
実際には小六の方が彼ら全員より強いので、ある意味冒険者たちの護衛的な意味合いもあった。
人間、それも同郷の転移者相手な為か、皆それぞれ何処か攻めあぐねている感もあり、急所をややそれて攻撃してしまう様子も見受けられた。
「やる気がねーなら俺の贄になりやがれ!喰らえ、千本突き!」
男は地を蹴り前衛の貴彦へ無数の突きを繰り出した。
点が面になって襲ってくる様に貴彦は対応し切れず、体のそこかしこに刺し傷が生まれてゆく。
「くそっ!」
弘樹は向上した空間認識力を併用し手二人の間に障壁を展開するが、短槍が次々と繰り出されてあっと言う間に障壁を砕いてしまう。
合間合間に小春が斬り掛かるも、それもうまくいなされてしまう。
「お前たちあれか。
霊格は高いみたいだがド新人だろぅ?
ポイントを溜め込んでスキルやステータスを殆ど上げてねーんじゃねーの?」
バレていた。
目の前の男は経験者なのだ。
何年こちらに居るのかは分からないが、霊格やレベル補正などは用いていても、基礎能力が一般人と大差ない彼らに比べ、男のその力は正に怪力であり瞬速、人間大の生物が振るえぬはずの領域の力を当たり前に発揮している。
それは極単純な事だった。
能力値10×霊格2は顕現値20だが、能力値30×霊格2なら顕現値は60。
霊格3なら30と90。
この差は大きい。
弘樹の能力値は魔力や加護を除けば霊格4であるにも関わらず、前衛として戦う霊格2よりも遥かに劣る。
それは貴彦や小春にしても同じだった。
ギフトの底上げはあるものの、やはり初期値を多少弄った程度の事しかしていない。
スキルの取得やレベル上げ、組み合わせ方の開発や発見、そして経験から来る数字では現せないものも含めれば、それはかなりの隔たりと言える。
ステータスもスキルもあまり伸ばしていない彼らは霊格に比して弱い、そう認識されても仕方のない事だった。
短槍も特別な物なのだろうか、小春に迫る神速とその倍はある怪力に破損する様子も見えない。
弘樹は貴彦との間に障壁を複数展開しつつ、男の背後へドラゴンスケイルを広げて一斉に襲わせるが、千本突きは前方のみならず後方へも発動し、それらを全て弾かれてしまう。
「無茶苦茶なっ?!」
小春はそう呟くが、これはきっとゲームなどで有りがちな、それどーなってんの?!な攻撃の一種なのだろう。
小春のそれも既にその域に達してはいるが、魔物や格下の人間としか戦闘経験がなく、転移者同士の戦いも初めてだ。
とてもではないが正攻法で戦えるものでは無いだろう。
このままでは不味い。
弘樹はドラゴンスケイルを全て亜空間に回収すると、男の周辺の空間に向けて歪みを複数発動させた。
「うぉっ?!」
男にとっても予想外だったのか、右腕や腹、両足などに生じた歪みにその体が巻き込まれる。
バキボキグシャっと、そこかしこから嫌な音を立てて体のあちこちが鎧と共に捻じれ、血を吹き出し地面に転がった。
「へぇ、えげつねぇ力持ってんじゃねーか」
男は地に伏しつつも弘樹を見てニヤリと笑った。
使われた者より使った者の方が精神的なダメージがでかいのか?と、全く関係無いことを思う弘樹だった。
人相手には使いたく無かったが、甘さが命取りになるのは目に見えていた。
その甘さの一つがスキルやポイントの溜め込みだ。
そして力はあるのに使いたくないと、そう思ってしまう現代地球人の平和ボケと言われる感覚もそうなのだろう。
「降伏して下さい。
転移者なのでしょう?
同郷者が殺し合う必要なんてありませんよ」
貴彦が剣を亜空間にしまい、ポーションを飲みつつ男に向けて言い放つ。
「あー、そうだな。
転移者同士、仲良くってのはいいかも知れねーな?」
その言葉にホッとした様子の貴彦。
小春は刀を男に付き付けたままだが、男の言葉に多少なりとも安心した様子だった。
「すまんがこのままじゃ死んじまう。
薬を飲ませてもらうぜ?」
男はそう言って短槍を手放し、懐から薬の小瓶を取り出してあおった。
「あ、待て!」
せめて拘束してからと弘樹が止めようとするが遅かった。
この世界のポーションは回復魔法ばりの効果を発揮する。
あっと言う間に傷が癒えてゆく。
鎧の所々は歪みでいびつに破損しており、本来ならば脱ぐなり一部外すなりしなければそれらが治った体に突き刺さるのだが、男自身の素の物理防御力がそれを妨げたのか、その体に新たな傷を付ける事はなかった。
「よっと」
弘樹の予想を裏切って、男は短槍を放置したまま声を上げつつ立ち上がり、隠し持っていた武器や腰に下げていた剣などを地面に放り出した。
亜空間から換えの武器を出す素振りも見せず、破損した鎧を脱ぎ始める。
貴彦は安堵した様子だったが、小春は弘樹同様違和感を覚えたのか、男の素振りを監視している。
「そんなにジロジロ見んじゃねーよ。
俺と桔梗はギフトと神威系の魔法を全部失ってるからな。
亜空間も使えねーんだ」
男は自ら杉本勇平と名乗った。
杉本は鎧をほぼ全て脱ぎ去り、鎧下に着込んでいた厚手の服だけとなって地べたへ座った。
「そんな事もあるのか?」
思わず興味を持って尋ねる弘樹に、杉本は笑って答える。
「どっちも神々の影響がでけーものだからな。
霊格やレベルはそのままだし、普通のスキルやタレント、神依存じゃない魔法なんかも使えるぜ?
亜空間収納とステータスウィンドウが使えねーのはキツイけどな」
苦々し気に杉本は話続けた。
「俺と桔梗、二人で神々の意向とやらにちょっと逆らったらこれだよ。
勝手に呼び出して、やらせたい事はやらせといて、俺達がやりたい事はさせないとかふざけんなって話でよ。
冒険者ギルドからも追放されちまったからな、身分証明証もありゃしねぇ。
まともな生活なんて出来ねーよ。
よっと」
杉本は立ち上がり、コキコキとあちこちの関節を鳴らした。
「お前たちも気をつけな。
異能はともかく神威系魔法はポイント消費して上げても、その神に嫌われたら原則使えなくなっからな。
加護で得た物だけじゃねーぜ?
ポイントで取得した神威系魔法もだ」
逆に言えば神威系以外の魔法、例えば治癒回復系や補助系などなら平気という事か。
祝福が消えるということは、それによって得られた能力値の修正も消えるのだろう。
それでもあれだけ戦えるのかと、弘樹たちは逆に感心してしまった。
「ホント、ヤになっちまう。
この世界は地球と違ってよ、神々が絶対的過ぎるんだわ。
国も人も神々の言葉に絶対服従、誰も疑わねーし。
例えばギリシャ神話の神々なんてよ、好き放題やらかしまくってるじゃねーか?
霊格高くても人格は低いってあーいうのを言うと思うんだわ?
親殺し子殺し当たり前、浮気し放題で相手の人間や格下のやつらだけ酷い目に合うとかどーなってんだよと思わね?
そんなあちこちの神々がここでは幅を効かせてやがる」
話しつつもストレッチをしている杉本。
かなり自由な性格らしい。
しかし彼の話す内容は同じ転移者として興味深い事だった。
神殿に逆らったのか、それとも神々と何かあったのか。
そこは分からないが、神々に関与する何らかの禁忌に触れれば、いくつかの力は制限され、時に普通に生きることすら難しくなると言う。
確かに身分証明書である冒険者カードも失効し、町へも入れず、金銭や装備なども亜空間収納に収めていれば取出せなくなるのは死活問題だ。
霊格が高まっても全く飲まず食わずと言う訳にはいかない。
睡眠時間とて数日徹夜出来たとしても、いつしか疲れが出て眠ってしまうだろう。
彼らは交互に寝る、食料品をどこかしらで盗むなどして生き延びて来たらしい。
決して褒められた事ではないが、多数を失なった理由が神々による理不尽なものであったとしたら?
神を敵に回せば神殿もまた敵となるだろう。
神殿の外郭団体である冒険者ギルドも同様であり、魔物を唯一浄化して倒せる、そんな存在を唯一統括派遣している団体に守られる形となっている町や村、国とてその意向に逆らう事など出来ないだろう。
地球とはまた異なった歪なシステムということか?
地球においても宗教が権力を持ち過ぎて、戦争などへ繋がるケースや支配者となるケースを知識としては知っていた。
ましてやここは実際に多数の神々が存在し、未だ創造を続けつつ管理もしていると言う。
「ここは何処までも神々の作った神々のための世界なのさ。
俺達転移者や人間の事なんざ全く考えちゃいねー。
変な力があってもよ、自由に使えねーとか意味ねーじゃんな?」
彼は、彼らは一体何をしたのだろう?
そんな興味が湧いて来た反面、当初から感じている嫌なもの。
なんだ?
なんでこの男のペースにみんな乗せられているんだ?
弘樹には魅力の類は効果がない。
しかし魅力とは異なる何か、例えばカリスマは効果が無いとしても、言いくるめや詐術の類であるとしたらどうなのだろう?
多分普通に騙されるのだろうなと思える。
彼は嘘を言ってはいないが、本当の事は隠している、そんな予感がした。
「でも人の首をはねて串に刺すとか、村や町を襲うのは違うんじゃないですか?」
小春が杉本に刀を向けたまま訪ねた。
「確かにここは神々優位な世界なんだと思います。
人々も敬虔な信者ばかりです。
あなた達と同じく私達も突然こちらに連れて来られました。
でも、だからって殺していいんですか?奪っていいんですか?
人間を魔物の餌にしたり、ゾンビみたいにしたり、それが貴方の、貴方達のしたかった事なんですか?」
小春は真っ直ぐな目で杉本を見つめ、特に感情を揺らがせる訳でもなく、素直な気持ちを形にして問う。
「お前さ、ゲームのNPCにも人権とか言い出しちゃうタイプなんじゃねーの?
先に奪ったのはアイツ等だぜ?
力を与えといて、こんなシステムまで作り上げといて、それを使ってちょっと楽しんだら取り上げやがる。
つまんねーんだよ。
ワクワクしねーんだよ。
俺はさぁ、もっとこう強くなりてーんだよ!」
杉本の姿がブレた。
それは小春の高速移動に近い動きであり、現在小春以外の面子では対応出来ない素早さだった。
ドスっ!と言う鈍い音と共に弘樹のみぞおちに、そしてほぼ同時に首の裏から重い痛みが走る。
その動きは早過ぎて障壁を張る事すらできなかった。
「ごふっ?!うっ」
弘樹は堪らず込み上げて来る物を吐き出し、そのまま意識を失った。
突然の攻撃に小春は刀で刺突を放ち、貴彦は亜空間から自作の剣を取り出した。
「こいつの力が一番やっかいだったからなぁ?
ホント、初心者で助かったぜ」
杉本はニタリと笑い、鎧を着ていた時とは比べ物にならない素早さで小春の刺突を躱す。
「ほーんのちょっとさ、遊んだだけなんだぜ?
仲間になりたがってた冒険者をちょっと腕試しで殺してみたり、あれこれうるせー神官の女をヒーヒー言わせてやったりな。
あー、あと魔物呼び寄せる為に村の子供を連れ出して森の木に吊るしておいたり?
あいつら殴られても喰われながらでもビービー泣くからよ?
ありゃいい魔物寄せだーな。
役に立たねー村人AだかBの癖に何人も子供生むからよ。
何度も有効利用してやったぜ?
お前らもさ、俺に有効利用されろよ?
無駄に霊格だけたけーからな。
いい贄になるってもんでさー」
杉本は小春と貴彦の攻撃を躱し、時に剣や刀の面を拳で弾くなど器用な事をしつつ、楽しそうにお遊びの内容を話している。
それは彼等を煽る為なのか、はたまた単に子供じみた質の悪い自慢話なのか二人は理解に苦しむが、そんな事をしていれば神々からギフトや魔法を奪われても当然だと思えた。
「お前らが贄になってくれるとよ、コレもより強くなるし、なっと!」
杉本の身体が青黒く光を纏い、身体が一回り大きくなったように思えた。
存在感も増したように思える。
「タレントかっ?!」
貴彦は剣に光を纏わせ斬り掛かる。
色合いからして日輪の光が効果がありそうだと判断したのだ。
「おー、こえーこえー」
光の斬撃を躱し、小春の攻撃を左腕で弾く。
「くそっ、そりゃかなりの業物だな?」
小春の攻撃を受けた左腕には薄っすらと血が滲んでいた。
神の鍛えた刃すら、通常攻撃では通らないのか。
小春の心が波立つのが自分でも分かった。
小春は通常攻撃を繰り返し、敵の拳をいなし、躱しつつも思考する。
いけないとそう思う。
相手が人間である事、地球人である事、外道ではあるが会話が可能である事、それらが刃を鈍らせている。
そして相手の言葉にいちいち動揺したり怒ったりしている。
これは駄目だ、これでは無理だ。
刃に小さな迷いが乗ってしまう。
これでは〈切れる物すら切れなくなる〉。
切り替えよう。
アレは敵だ。
あの声は、言葉は攻撃だ。
アレは倒すべき存在。
ただそれだけだ。
皮膚を硬化させたのか、覆った魔力が鎧状の障壁を展開しているのか。
それは分からない。
でもドラゴンほどの硬度はなかった。
今、神の炎は刃にない。
しかし神の鍛えし刀がある。
戦と剣の神が鍛えた、神威持つ刀が。
だから、やれる。
やれなければおかしいのだと、自分自身の内側から溢れる思いがあった。
と、手にした刀から暖かな何かを感じた気がした。
お前に刀を託したのは誰だ?
脳裏に過る声がする。
それは無骨でありながら、優しく温かい響きだった。
小春の刀が振るわれ、杉本はかすり傷覚悟で右腕で受ける。
皮膚が少し傷付く程度、霊格と体力、そしてタレントによる補正もあってあっと言う間に治ってしまうだろう。
「くっ?!」
しかし杉本の予想は外れ、小春の刃は皮膚のみならず骨に達する手前ながら肉を断った。
「まだ浅い」
小春は誰にともなく呟き、スッと静かに呼吸を調える。
その刀の名は何という?
再び問う声が聞こえる。
「腕も確かってことかよ、おじょーちゃんよぉ?!」
杉本は大声で語り掛けるが、小春は一切答えない。
それを隙と見て貴彦が斬り掛かるが杉本は余裕でそれを躱しながら貴彦に手刀を放つ。
「よっと!」
貴彦はそれを読んでいたのか、大地が隆起して杉本の手刀に当たり、傷こそ与えなかったものの起動を逸らす事に成功した。
「あぁ、そうか、そうなんだね?
全てを…一つに」
少女のそんな呟きが聞こえたかと思った瞬間、神速を発揮した小春が迫る。
一瞬その身がブレたかと思うと五体に分裂し、異なる軌道で杉本へと襲いかかった。
「幻術かっ?!千手刀!」
杉本を起点に四方八方へ千へと迫る手刀が放たれ、半円状のドームが生まれる。
小春たちはそれに構うことなく風と雷を纏った刀を無数に振るった。
ある刀は弾かれ、ある刀は無数の手刀のうち数本を切り落とす。
全ての小春が風に消え、最後に残った一人が杉本の背後に立つ。
「一閃!」
魔力と闘気を混ぜたそれは、一条の光となって杉本の背を切り裂いた。
「馬鹿なっ?!」
千手刀が消滅し、腕の無数の傷と背中から大量の血を流しつつ、ヨロヨロと振り向くが、小春の攻撃はそこで止まる事などなかった。
タンッ!と軽やかに地を蹴り下から上へ、眩いばかりの雷光を纏わせた刀を斜めに斬り上げる。
「神威一刀・武御雷神!!」
軍神にして剣神であるタケミカヅチの神は、その名の通り雷の神でもあった。
その神威すら借り受けての斬撃は杉本の硬化した皮膚はおろか肉も骨も断ち切り、その雷光はプラズマを生じ男の身体を焼き尽くす。
「ごふぁっ?!」
切り捨てられ、燃え上がった杉本はバタリと地べたへ倒れたまま、ピクリとも動くことはなかった。
そしてその身が光の粒子を放ち小春と貴彦、そして弘樹へと吸い込まれてゆく。
光の粒子が失われると、その身から今度は黒い靄のような物が浮かび上がり、一つに纏まると黒い小石となって地面に転がった。
「疾風迅雷、その名前の通り、私の風とタケミカヅチ様の雷を一体させるのが本当の使い方なのだと、この子が教えてくれた気がするの」
人を斬り殺した直後ながら、小春は鞘に収めた獲物を愛おしそうに頬ずりする。
「お、おう?」
貴彦はその様は何やら淫美な物にも見えてしまい、照れたように返事を返して弘樹へと向かった。
ぐったりとした弘樹に貴彦が竜緑薬を振り掛けると、柔らかな緑の光を放ちその身へと吸収されてゆく。
さして間を置かず、弘樹は目を覚ました。
「わりぃ、迷惑かけた。
みっともない所を見せたな」
既に痛みは竜緑薬のお陰で消え去っているようで、すぐに立ち上がり体のあちこちを動かして確認する。
「そちらも終わったようね」
ズルズルとマントを持って桔梗を引きずり、魔物たちと新米たち、そして捕虜の二名も連れて十六那がやって来た。
「ちょっ?!その魔物たち何ですか?!連れ歩いてて大丈夫なんですかっ?!」
貴彦が剣を手に慌てて突っ込むが、
「いいのよ。
私の新規ワイルドハントチームに加える予定だから。
もうじき迎えも来るはずだし」
と平然とした顔で十六那が返す。
新米冒険者たちは諦めたかのような表情をしており、ひと悶着あったのだろうなーと弘樹はぼんやり考えていた。
残る二人、捕虜となっていた冒険者たちは完全にドン引きしていたが、特に十六那と桔梗のやり取りを見ていた女転移者の引きっぷりは凄かった。
なお18人分の首は亜空間に回収したらしい。
家で待っている人もいるだろうからと話す十六那は、いつもよりも慈愛に満ちているかのように思えた。
「助けて頂いてありがとうございます。私は冒険者ギルド所属の転移者でCランクの藤井真咲と申します」
と女性が名乗り、男性も流暢な日本語で、
「ワタシはマイクと言います!同じくC級です!ありがとうございます!」
と礼を言う。
「いや、俺達は依頼を果たしただけだよ。俺なんか最後はぶっ倒れてたしな」
と弘樹が若干落ち込んでいた。
「何を言いますか?!
弘樹さんのテレポートがなかったら、絶対に間に合わなかったんですよ?!
そこは忘れちゃ駄目です!」
と小春が戻ってきた小六を抱きしめつつ慰める。
「うー、そうだな。
適材適所だったと思うしかないか。
貴彦、すまんな。
まだまだ前衛の交代は難しそうだ」
弘樹は多少気分が上がったのかそう貴彦へと語りかけ、「まだ暫くは構いませんよ。作った武器を試せますしね」とにこやかに笑った。
なんかその笑顔が怖いと皆が思った。
「兄さんたち、話の途中で悪いけど、南門と神殿付近にも敵はまだ居るんじゃないのかい?」
タニアが遠慮がちに声をかけ、
「そう言えば南門に30体、神殿付近にも10体くらい光点があったな」
とマップ確認可能な者たちが一斉にマップを開いた。
光点はあまり動いておらず、未だ南門の占拠と神殿付近の監視を行っているらしい。
「桔梗、あれはお前が命じたのでしょう?
一時的に魔眼を返してあげたら、アレ等をこの広場に集める事は出来るのかしら?」
と引きずってきた白く燃え尽きたような女、桔梗へと十六那が問う。
桔梗はガクガクと首を縦に振り、「呼びますか?」と十六那の瞳をジッと見つめる。
「そうなさい」
十六那の一声で桔梗はボロボロながらもシャンと姿勢を正し、「仰せのままに!」と深々と礼をすると瞳を金色に輝かせ、
「誰も傷付けずに、速やかに私の元へ戻ってきな!」
と命じた。
と、さして間を置かずにドドドドドッ!と地鳴りの如き音を響かせ、計40体の魔物たちが広場へとやって来た。
「どうぞ」
桔梗はまるで全てを差し出すように十六那へと両手の平を上にして跪き、十六那はそれを見てこくりと頷くと、
「平伏せ!」
と今回は強大な存在感を放ちつつ40の魔物たちに命じた。
ゴブリンやホブゴブリン、オークやトロール、オーガなどが殆どだったが、中には黒犬やヒポグリフ、犬妖精にドワーフ、ダークエルフなども混じっていた。
十六那の声に込められた存在感が全ての魔物を平伏せさせ、何なら連れてきた6体の魔物を始め、桔梗やクリストフ、リンウッドにサム、タニア、救出したはずのマイクと真咲までもが「ははーっ!」と土下座をしていた。
「お前たちを私の新たなるワイルドハントのチームに加えようと思う!
光栄に思えっ!
辞退したい者は前に出るが良い。
我が冥界の底で再教育してやろう」
フッと微笑む十六那に、チームメイトたちは白けた視線を送り、40+6体の魔物と残りの人々は身を震わせ深々と頭を下げた。
「いや、この子達とかチームに入れちゃ駄目だから」
弘樹が十六那にサラッと突っ込む。
「チッ」と舌打ちしつつも存在感による圧力を人間たちへは弱め、十六那は宣言した。
「よし、そろそろ迎えが来るようだ。この世界でも慈しみの女神たち、エリーニュスを知るものは多かろう?
あ奴らを迎えに呼んでやったぞ。
喜べ!」
シーン。
全ての魔物と神話や魔術を知るもの達は皆口を噤んでしまった。
気の弱い魔物数名は泡を吹いて倒れている。
「いやー、この世界でも上級神とされる方々を呼びつけるとは、流石ですねぇ〜」
彼らの背後、杉本の死体のすぐ側からのんびりとした男の声が聞こえたのはその時だった。




