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ソウル・リファイン  作者: 弥生丸
第一大陸編
39/96

魔女たちの女王

残酷描写あります

魔女たちの女王


弘樹はリンウッドの思考を読み取り、ハクヨの町正門から少し離れた川に架かる橋の下へと一行を転移させた。


マップを使用出来る者は皆開き、赤い光点や黄色い光点を確認する。

ラクヨ側、南門周辺は赤い光点が多く、中央から北西側には黄色い光点が多数集まっていた。


この他に赤い光点は北門周辺を中心に疎らながらあちこちを動いており、偵察隊のようなものかアンデッド辺りであろうと結論付けた。



「リンウッド、どう思う?」


弘樹はメンバー中、ハクヨの町唯一の元住民へと問いかける。


「黄色い点が多いこの辺は、神殿と冒険者ギルド支部がある辺りだから、その辺で籠城しているんだと思う。

赤い点が多いのは多分町役場や代官様の屋敷がある辺りだね。

この町も防壁で囲まれてるから、二つの門を抑えられると籠城するしかないんだよね」


「役場と屋敷は占拠されている可能性が高いんだね?ん?」


貴彦が確認するように声をかけるが途中で何かにジッと目を凝らした。

よく見れば赤い交点に囲まれて、二つほど黄色い光点も屋敷付近に点っている。


「二つ黄色い光がありますね。

捕虜の類かな」


「多分そうだろう。

代官や貴族の可能性が高いだろうな。

南門周辺にも30前後赤い光がある。

門から逃げられないようにする為の配置なのか?

で、どうしよう」


貴彦の言葉に弘樹はそう答え、作戦をどうすべきか皆に問う。

そもそも戦闘関係はよく分からない。

救助すべき対象は北西の人々と人質と思しき二人だが、実はもう一つ気になる点があり、強く意見する事が出来ずにいた。

敵の中には最低でも数名人間が混じっていると言う点だ。

霊格が高まり、生物を殺す事への忌避感は実の所あまり意識しないで済んでいる。

しかし現代日本人として人が人を殺す事に対する忌避感はかなり強い。

特に自分以外は、自称も含めて10代なのだ。

どうしても殺せとは言えず、さりとて無理に捕らえようとして犠牲者を出す訳にもいかない。

「誰が大事なのか、ちゃんと考えて。

守るべき者や信じるべき者。

命を掛けて守りたい人とそうでないもの。

そこが曖昧で中途半端だと、誰かが死ぬことになるわ」

弘樹の悩みに気付いたのか、十六那が静かに話し出す。

「人の捕縛って言うほど簡単じゃないわ。

縛って放置と言う訳にもいかないし、敵にロープを切られたらまた敵が増える事になる。

それに相手も霊格やレベルが上がっている可能性もあるしね。

スキルやタレントがあるこの世界では、地球のように武器を奪って拘束すればそれで良い訳でもない事くらい分かるわよね?

経験不足な状態で、慢心して甘いことを言うのなら、背後から自分や仲間が刺される覚悟でやりなさい」


十六那の言葉に、弘樹以外の転移者もはっとする。

魔法や異能を手に入れ、普通に生活していた時とは桁外れの力を得てしまっている。

こちらに来てからは、幾度かの戦闘を経験するも皆運良く怪我一つしなかった。


新米たちはともかくとして、転移者の誰かが傷付く事など無いと、皆心の何処かでそう思い込んでいた。


思い返してみれば老執事のような格が違い過ぎるモノすら存在しているのだ。

魔物と共にある時点で単なる盗賊たちだけとは考えにくい。


舐めてかかって良いはずもなかった。


「…確かにそうだな。

敵に下手な同情はいらない。

魔物同様の対処を盗賊団と思われる者達にもする事。

自分自身と仲間の命を最優先、捕虜を人質にされても決して命を投げ出すな。

捕虜が殺されても俺たちは生き抜く。

それが出来ない者はここに残ってくれ」

弘樹の言葉に転移者も冒険者も誰も否とは言わなかった。


「何当たり前の事言ってるんだい。

盗賊は死罪って昔から決まっているんだよ。

それを知ってて、その覚悟で奴等は盗みや殺しをしてるのさ。

今更あたいたちがグダグダ悩んでも意味なんてないさね。

あたいたちは冒険者と転移者だ。

遊びじゃない、おまんま食うための仕事で来てるんだよ。

仲間の被害を極力出さず、依頼を全うする。

それでも無理なら逃げるんだって当たり前さね。

死んだらおまんまも食えないからねぇ!」

歴戦の冒険者のようなことを言うタニアオバサン15歳の意見に、他の冒険者も同意見の様だった。


年下の彼らの方が遥かにしっかりしていた。

「よし、ならばまずは敵の本拠地を叩こう。

今のメンバーでは分かれて行動するのは危険だからな。

その後残存勢力を殲滅しつつ、住民を開放する。

転移者チームは極力冒険者チームをサポートするのも忘れるな。

自重して死ぬくらいなら、みんな本気で行って生き残れ!

これで行くぞ!」

弘樹の言葉に皆が賛成し、正面突破で行く事となった。


罠の類を弘樹、タニア、リンウッドがざっとだが調べつつ、一行は南門へと向かう。

極力目立たぬよう行きたかったが、幻覚系の魔法はまだレベルが低く、多人数が昼日中に移動するのを誤魔化せる程強力なものは使えなかったし、斥候系のスキルを持たぬ者が大半な為、南門に辿り着くまである程度でも相手の目を誤魔化せるような道筋で向かうことになったのだが、誤算があった。

敵には空を飛ぶ魔物ハーピーがいる事を忘れていたのだ。


「弘樹さん、なんか格好付かないよね」

リンウッドがそう呟きつつ警戒の声を上げるハーピーへと風を纏わせた弓矢で射る。

小春も苦笑いを浮かべつつ、リンウッド同様に風雷魔法と風使いを合わせつつ放った。

リンウッドの矢は右の翼に刺さり、風と雷を纏った小春の矢はその胸を貫いた。


ボッン!と呆気ない音を立ててハーピーが爆散する。


隠れる気が完全に失せたメンバーは支援魔法やスキルを次々と発動させ、武器に魔法を込めてから前へと進んだ。


南門は魔法か強い力で破壊されており、閉じることは出来ないようだった。


門からは豚人間のような魔物オークや、二メートル以上の身長と小さな角を持つ筋肉の塊のような人食い巨人オーガ、身長三メートルほどある巨人トロールが、そしてコボルトとゴブリン、数名の小汚い人間の男たちや元住民と思われるゾンビなどがワラワラと出てきた。


ラキ村より確実に魔物の格が上がっている。

弘樹は皆の後ろを走りつつ、亜空間から20本のクナイを取り出し全て宙へと浮かせた。

この技で現在同時に狙えるのは10体まで。

「行け、ドラゴンスケイル!!」

弘樹は適当に付けた名前を叫びつつ、マップもスキル同様に合わせてクナイを二本ずつ遠方の敵へと走らせる。

それはまるで自分の意思を持つ生物のように魔物たちへと殺到し、流石はドラゴン素材、普通の短剣などではろくに傷も付けられないはずのトロールすらも切り裂いていく。


「うわぁ、なんかロボットアニメで見たことある気がします」


小春がその様子を的確に言葉にしつつも疾風迅雷を振るえば、鉄の棒などと一緒にオーガを両断している。


透視とマップ、そして念動力に対象拡大などを折り込み、敵の大まかな思考すらも感知して、クナイは攻撃を刺し切り裂く。

「そこっ!」

クナイが物陰から弓を射ようとしていた男の額をかち割って、次の獲物へと飛翔する。

内蔵バッテリーも必要なく、動力源も弘樹本人から供給されているので、無理にMPを使い切るような行使さえしなければ幾らでも攻撃に使用出来たし、マップと透視との連動のお陰で冒険者たちの支援も可能だった。


貴彦は光の銅剣のみでは不利と悟り、亜空間収納を使って武器を持ち換える。

それは短いドラゴンの牙一本と爪一枚、そして鉄等を使って錬成された長剣だった。


小春と似た、しかし明らかに速さは劣る反面、冷静に相手の動きを見抜き力強い斬撃で敵を屠る貴彦。


その長剣は神の鍛えた疾風迅雷には遠く及ばないが、それでも店売りの品とは明らかに隔絶された性能を誇っていた。


「僕の技量と言うよりは、素材に助けられているのが癪ですが」


鍛冶や錬金術、錬成のレベルがより高ければ、同じかそれより劣る素材でももっと強い武器が作れるのに。

貴彦はそんな思いを胸に敵を屠っていった。


冒険者の四人はゾンビやゴブリンなど比較的弱い敵と戦っていた。


強い魔物は転移者たちが優先的にターゲットを取り、極力こちらには流れて来ないようにしてくれている。


サムは大地を操り敵を穴に落したり、ちょっとした段差を作っては転ばせ、剛力による力任せのメイスで頭を潰して行く。


クリストフは槍に持ち替え、敵の手を打ち据えて武器を落とさせ、敵が慌てた隙に急所を突くなどして倒していた。


リンウッドはタニアが魔法を使いやすいよう、ナタで敵の牽制をし、タニアは風や火炎の魔法で魔物たちを屠って行く。


その頃十六那は三人の盗賊たちに囲まれていた。


髭や汚れでよく分からないが多分20〜30代の男が二人と、ボンテージスタイルの革鎧を纏った30過ぎの美女が一人、剣やレイピアで十六那に斬り掛かるが、ごく自然な仕草でそれらを難なく避けている。


「舐めた真似してんじゃないわよ!」

余りにも戦う気のないその素振りに激昂したのか、女のレイピアが十六那の右足首を突く。


やった!


女はいかにしてこの生意気な小娘を絶望の縁に立たせてやろうと暗い喜びに打ち震え、今度は十六那の肩を狙う。 


が、その瞬間十六那の姿が消えた。


女には一瞬、何が起こったのか分からなかった。

右腕に焼け付くような痛みが走る。

気付けばレイピアを握った女の右腕は根本から引き千切られ、目の前に立つ十六那の手に握られていた。


「物理防御って知ってるかしら?

霊格が高位の存在にこんな玩具は意味ないのよ?

お返しするわね」


表情一つ変えずに、十六那は女の腹部へ腕ごとレイピアを突き立て、剣先を腹の中で掻き回した。


「げふぉっごぼっ」

女は口から大量の血を吐き出し、右腕の付け根と腹部の痛みの余り倒れ込んで痙攣したが、十六那は気にする風もなく女の頭を文字通り踏み潰した。


辺りに脳漿や血液、頭蓋骨の断片が飛び散るが、何故か十六那はほんの僅かの汚れすら浴びることなく、残る二人に視線を向ける。


「ひっ!?」


二人の盗賊は踵を返して逃げようと走るが、それは既に遅かった。


その辺に落ちていた石ころが二人の胸にに投げつけられ、薬液で煮詰めて硬められた革鎧すらも貫通し、ポッカリと拳台の穴を開けられていたのだ。


二人の男はその場に倒れ、二度と立ち上がる事はなかった。


躊躇の欠片すらなく三人もの人間を殺した十六那は、そのまま魔物との戦いに突入し、オーガの頭を一蹴りで粉砕し、虫の手足を難なくもぐようにトロールの手足を素手で引き千切り、その頭に千切った腕を貫通させ絶命させていた。


メンバーは次々と魔物や盗賊を倒しつつ、南門から町の中へと侵入する。


罠らしい罠もなく、次々とやってくる敵を倒しつつ町中を進んでマップを確認すると、北門の集団を除き、役場や館があるエリアの赤い光も10体ほどに減っており、籠城エリアも同様になっていた。


どうやら殆どの魔物や盗賊はこちらに集中していたらしい。

その敵の姿も全く見えなくなり、魔物は恵那として八人に吸い込まれていった。


魔石やドロップ品は皆で拾い上げ、盗賊たちの遺体は後ほど処理するために亜空間へ収納する。


なお盗賊たちも遺体こそ消えないが、アンデッドの時同様恵那は得られた。


「このまま敵の罠を警戒しつつ敵の本拠地へ向かうぞ!」


「こっちだよ」


弘樹の号令のもとリンウッドの先導で皆が走る。

そこは中央通りから少し外れた所にあった。

敵が占拠しているのはやはり代官の屋敷らしく、壁に囲まれた館が見てえてきた。


門から館までは広めの庭のようになっており、玄関前には馬車止が、館の奥には厩舎なども見える。


馬車止付近には複数本の槍か杭のようなものが突き立てられ、その先端に頭が刺さっていた。

その数18。


「趣味が悪いな」


「そうね、悪趣味な事に外法を使っている痕跡を感じるわ。

あれは外法と言うより場を汚したいのでしょうけれど。

その方が外法の効果も上がるタイプの呪なのかも知れないわね」


弘樹の呟きに十六那が答えた。


「外法?魔法の一瞬ですか?」


貴彦の問に十六那は

「そうね、広義ではそうなるわ。 

正統な魔法や魔術から忌まわしき行為として閉め出されたような物全般だと思えばいいかしら?

今回のコレは儀式的な呪いと言うより、別の何かね」

と館の中の何かを探るようにしつつ答えた。


「罠は無いみたいだ」

リンウッドとタニアが門周辺を確認を終え、弘樹、貴彦、小春の三人が先頭で突入する。


素手で敵を倒しまくっていた十六那は、何故か汚れ一つないまま最後尾になり、その間に四人の冒険者たちが挟まれる形での移動となった。


彼等が敷地内に入ると館の門が開き、20代と思われる男女二人と、それを取り囲むようにして八体の魔物が現れた。


マップを見れば赤い光点も黄色い光点もここに集結している。


男は兜がないタイプの黒い金属鎧を身に纏い、女はスカートもシャツもマントも杖も黒と言う格好だった。


弘樹たちは何となく真ん中の男女が日本人の転移者なのではないかとそう感じた。

流界者の子孫たちのように見た目は日本人そのものな人々もいるのだが、立ち居振る舞いや服装、髪型などもそうだが、根本的に雰囲気が何となく違うのだ。


そもそも見た目がアレだったので、余計にそう思えた。


その二人の手には縄が握られておりそれをグイッと強く引っ張ると、奥から黒人男性と黄色人種の女性がさるぐつわを噛まされ、縛られた状態で引き釣り出された。


あの二人も転移者だと、何となくだが分かった。


「あれだけの数を倒してここまで来たってことは、お前らそれなりに強いんだよなぁ?

いいぜぇ、イイぜぇ」

イッちゃった目で男がウヒヒと笑いながら語り、

「よく来たわね!

魔物たちの女王、この私、魔女桔梗が貴方達をあれの仲間にしてあげるわ。

おやり!」

女が黒い瞳を金色に光らせ、串刺しになった頭をチラッと見ながらそう宣言すると、魔物たちが襲い掛かってきた。


魔女や女王の言葉に十六那の眉がピクッと動く。


ボスっぽい二人、色々と深く考えたりするのが苦手そうだなと思いつつ、弘樹はドラゴンスケイルを展開する。


「あの魔眼持ちと魔物たちは私がやるわ。

貴方達はあの男をお願いね」


今日の十六那はヤル気満々なようだ。



「おもしれーじゃねーか。テメー等こっちだ!」

黒鎧の男は黒人男性を縛ったロープを手放すと、重厚そうな鎧を纏ったまま軽々と跳躍して桔梗や魔物たちと距離を取った。

どうやら十六那を除く面子を誘っているらしい。


どうでもいいけど、人質放置しちゃってるよ?

弘樹はやっぱりアホなんだなと思いつつも、十六那を残してそちらに向かった。


「ミノタウロスにケンタウロス、ハッグ、ドリアードにレッドキャップ、ラミアにバグベア、サテュロスまでいるとは!」


クリストフが桔梗を守るように立ちはだかる魔物たちに驚きの声を上げた。


それらは全て霊格2で高レベルか、レベルは低くても霊格3である可能性の高い魔物たちだった。


それにプラスして桔梗も相手取るのは流石に無理があるのではないか?

クリストフは心配そうに十六那をチラチラと見つつ、仲間たちと共に鎧男の元へと向った。



十六那は魔物たちの前に平然と立ち、一言「平伏せ」と命じた。


血に染まったかのような赤い帽子をかぶった老人にも見えるゴブリンがその手に持つ斧を構え、老婆姿のハッグが両手に大振りな包丁をどこらから取り出す。

毛に覆われた鬼、バグベアが体中の毛を立てて身体を一回り大きくさせ、乱杭歯に混じる牙を剥き出しにした。


しかし他の魔物たちは十六那の闇夜の如き瞳を見た瞬間、夢から覚めたような顔になり慌ててその場に平伏する。

上半身が美女、下半身が大蛇のラミアに至っては「我らが母よ…」と涙を流し出す始末だった。


「な、何?何をしたの?!

お前たち!やりなさい!?

アイツを殺すのよ!」

桔梗が慌てて魔物たちに命じるも、平伏したものたちは微動だにしなかった。


桔梗の目が金色の光を放ち魔物たちを睨みつけるも、魔眼の副産物である霊視の力が魔眼の異能で縛っているはずのモノ、見えざる鎖が絶たれ、幾ら魔力を込めても空回りし続けている事を知るだけだった。


しかし残りの三体、西洋の鬼婆ハッグ、数多いるゴブリンの亜種である毛むくじゃらの大鬼バグベア、血に飢えた老ゴブリンであるレッドキャップは桔梗の言葉に応え、十六那へと一斉に襲い掛かる。


鋭い鉤爪が、大きな斧が、二本の包丁が迫る中、十六那は聖典を手に呟いた。


「限定開放 冥獄牢」

迫り来る魔物たちの攻撃を難なく躱しつつ十六那が呟くと、三体の足元から黒く冷たい炎が吹き上がる。


それは縦に横に広がって行き、十六那に牙を向けた魔物たちを包み込んだ。


炎は黒い金属製の檻となり、ズズズっと音を立てて地の底へと沈んで行く。


魔物たちは恐れ慄き必死に檻を破壊しようとするが、傷一つつける事は出来ずにどんどん沈んでゆき、あっという間に地の底へと吸い込まれて行った。


平伏した者達は一言も声を発さず、その身を揺るがす事なく十六那へ敬意と服従の意を表し続ける。


「お前は何なんだぁっ!!」

桔梗は人質を捉えたロープと杖手放し足元に落とすと、棘のついた鞭を背中から取り出して未だ距離のある十六那へ向かって狂ったように打ち振るった。


それが大地を叩くと地面が割れ、木の根や草木や蔓が飛び出し十六那へと迫る。


「散れ」

十六那は命じ、それは成された。

緑や茶色い光の粒子となって瞬時に拡散する植物たち。


十六那は何割かの気配の抑制を放棄したのか、いつしかとてつもない存在感を放ちながらゆっくりと桔梗の元へと歩み寄り魔女へと語りかける。


「死者を冒涜し、魔物の女王を騙る魔女よ。

妾は汝を好かぬ。

故に告げる。

我が権能により汝全ての魔女宗より、全ての女魔術師の世界そのものより破門する。

汝は一切の神秘に触れる事能わず。

汝の祈りは神へも精霊へも届かず、その魔力は枯れ果てる」


桔梗は十六那の気配に気圧されていたが、その言葉にハッとし、己の手や身体を何かを確認するかの様に見下ろす。


地球ですら感じていた己の魔力を全く感じず、その身に着けた幾多の護符などが効果の一切を失っている。


その瞳に宿る異能すら、桔梗を構成する〈魔女〉が消えたコトにより効力を失った。


「こんな事って…こんなのウソっ!嘘よっ!」

再び鞭を振るおうとするが、鞭もまた魔力を持ち神秘に関わるものだったのか、いつしか枯れた蔦のように萎び、振るうとバラバラに砕けてしまった。

 

「言ったであろう?

一切の神秘に触れさせぬと。

しかし変よの?

その身に一つだけ、妾の意に添わぬ呪がある。

それか。

それが外法か」

十六那は汚物でも見るような目で桔梗の中の何かを見て吐き捨てる。


「志半ばに命絶たれ、その死を弄ばれた者達よ 我が命により変生せよ」


うぁぁぅ

ふぁぁ

ああぁぁぅぁっ 

槍に刺さった18の首がそれぞれ声ならぬ声を上げる。


「ひっ?!」

どのような原理でかその首達は、ググッと首を巡らせる者、凝った肩を解すかのようにクキクキと動かす者、深呼吸を試そうとするものまで居た。


そして皆一斉にグルリと頭を動かして、36の瞳が桔梗を睨みつける。


それらは生者のものとも意思なき動く屍とも異なる、ある種の意思をその目に宿していた。

「意思あるアンデッド?吸血鬼の類なの?」

桔梗は気丈にもそれらの目を睨み返す。

杭の上から動けないらしい事は今の動きで分かっていた。


桔梗はその身に着けた数少ない魔力を帯びぬ物、一本の短剣を取り出して十六那を睨み構える。


それぞれの口がもごもごと何かを呟きいたが、どうせ殺され晒された恨みでもつぶやいているに違いない。


桔梗はかつて転移者として依頼を受けていた頃、僅かながら魔法以外のスキルにも手を出していたし、能力値も問題ない程度には魔力や加護以外にも振り分けていた。


転移して数日後に出会ったパートナー、杉本勇平や冒険者たちを仲間として生きた日々の中、魔法を、というより一部属性を無効化する魔物とも戦った事があったからだ。


その為に彼女はタレントを活かし魔物を操る異能を上げ、自身もある程度戦える程度にはポイントを消費していた。


霊格のお陰で戦闘系スキルに数ポイントも入れれば、一端の冒険者や兵士たちより遥かに強くなれるのだ。


能力値が顕現値を用いて使われるように、スキルやタレントも霊格に強く影響を受ける。

霊格1の人間のスキル短剣術が1レベルならばそのまま1だが、霊格2の人間が1レベルの短剣術を取得すれば、それはほぼ2レベルに等しい。

レベルによって使用可能となる様々な技などは別ではあるのだが、所謂物理攻撃力や回避は向上する。


これは生産系スキルにも言えることで、霊格1薬品作成スキル1レベルの薬師と、霊格2薬品作成スキル1レベルの薬師が作る回復ポーションでは品質が異なったり回復力が異なるようになる。


前衛の冒険者たちはそんな桔梗に不満を持つ者たちも居たが、彼女は気にしなかった。


実際何度も役立つ事があったのだから。


例えば彼女に不満を持つ冒険者に裏切られた時、桔梗はこの短剣でその息の根を止めている。


ダンジョンで魔物の群れと遭遇したとき、前衛を餌に皆で退避を命じると、仲間を見捨てるのかと騒ぐ女冒険者の手足を短剣で斬り付け、前衛の代わりに餌として魔物たちに放り込んだ事もあった。


魔法など無くてもやれる。


それは十六那が前衛スキルもなく、素手で、顕現値のみで魔物や盗賊たちを次々と屠り、戦士の刺突すら弾く素の防御力を持つ事を知らぬがゆえに抱けた幻想だった。


「去ねや!」

桔梗が短剣で十六那に襲い掛かろうと走り出したその瞬間、彼女の背中に火の矢が突き刺さる。

風の塊が足元をさらい転倒させ、仰向けになった腹に雷の玉が炸裂する。

「なっ?!ぐっ、くぁっ?!」

右から左から様々な属性の魔法が降り注ぎ、桔梗は傷付きながらゴロゴロと地面を転がった。

影が鞭となってその身を打ち付け、水の塊が口元を覆う。

地面から数多の石礫がその身を打ち、氷の杭が右足に打ち込まれ非ぬ方向にねじ曲がる。


「あがっ、ゴボゴボ…」

桔梗は高まった霊格故に意識を失えず、多数の攻撃を受けてもすぐに致命傷とはならなかった。

あちこちから飛来する数々の魔法や異能に翻弄され、地べたに這い蹲り、酸欠による激しい頭痛と窒息感に苛まれつつも、決して死ぬことは出来なかった。


桔梗を打つ魔法や異能は頭だけとなった亡者たちのものだった。

彼らは冒険者や衛兵として、ラキ村へと派遣され、その首を落とされ体は魔物たちに貪り食われた。


紡がれる18の言葉は呪となり、桔梗へ休むことなく放たれる。


魔法か異能の効果が切れたのか口元を覆う水が消え、その背に手足に攻撃を受けつつも桔梗は四つん這いになって必死に空気を吸い込む。


桔梗は込み上げる吐き気や全身の痛みと戦いながら、曲がった足を引き摺りつつ立ち上がる。


「こ、この位の傷なんて…上級ポーションですぐ治せるっ」

奥歯を噛み締めつつあちこちに炸裂する魔法や異能の痛みに耐え、懐から一本の小瓶を取り出し中身を一気にあおる。


げほっ!ごほっ!


嚥下したと思った瞬間、桔梗は吐き気に耐え切れず、ポーションと胃の中身をゴボゴボと嘔吐する。


「な、んで?」

空になった瓶を取り落とし、ズルズルと座り込む桔梗へ感情の籠もらぬ闇夜の如き瞳の少女が答えた。


「上級ポーションは魔法薬。

忘れたの?

神秘に触れられない貴女が飲んでも、それは単なる薬草を煎じたものでしかないわ。

そんなもので傷が治る訳ないわよね?」


一方的な神秘の剥奪。

未だ止まぬ魔法や異能による攻撃。

他者による魔法や異能の攻撃は受けるのに、自身は攻撃魔法はおろか回復魔法も使えず、ポーションの効果すら打ち消されてしまう呪い。


魔眼で魅力していた魔物たちの大半が離反し、残るものたちもあっという間に地の底へと奪われた。


それらを一人で儀式すら行わずに起こすとは、力技と呼ぶには余りにも苛烈過ぎた。


いくつもの呪詛避けや魔法防御の護符を身に着けて居たが、何の意味も無かったようだ。


これは一体なんなの?


ぼんやりとする視界と意識の中、何故?どうして?そんな疑問だけが脳裏を支配した。


そしてふっと、下僕であったはずのラミアの「我らが母よ」と言う言葉が過る。

実際に生んだ訳では無くとも、自らの上位者、指導者や導き手などをそう表現する事はよくある事だ。


彼らの共通点は何だ?

種族ではない。

性別でもない。

ラミア、サテュロス、ミノタウロスにケンタウロス、そしてドリアード。

魔女として学んだ知識が答えを示す。

そう、彼らはギリシャ神話において登場する魔物であり、妖精であり、精霊だった。

そのギリシャ神話においてラミアが母と呼ぶ存在、そして魔女宗の長でもないのに効力を発揮した強制的な破門。

魔術であり魔女であり、魔物たちの母とまで呼ばれる存在。


「あぁ、私はなんてお方に啖呵をきってしまったんだ…」


桔梗はその存在を知っていた。

地球に居た頃から祈りを捧げていた神々の一柱。

魔女たちの女王、女魔術師の保護者とまで呼ばれる存在。

それならば魔力を奪い破門する事など容易い事だったろう。


闇を統べる神の一柱。


魔物たちがその命に、言葉に従わぬはずもなかったのだった。

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